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黒の執行者‐BLACK EXECUTER‐  作者: 黒陽 光
Chapter-03『オペレーション・スノーブレード‐Operation Snow Blade‐』
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第四章:禁じられた遊び

 第四章:禁じられた遊び



「まず、サイバーギアについてのおさらいだ」

 デスクの傍まで近寄ってきた戒斗や香華を背にしながら、菫はデスクの上にあるモニタに色々な画像データを表示させつつ、そう言って話の口火を切った。

「従来では不可能とされていた全身の義体化、つまりは脳以外のほとんどを機械のインプラントに置き換えたサイボーグ兵士……それがサイバーギアというものだ。君にもらったデータをじっくり見てみたが、やはり私や恭介くんが関わっていた頃からそこまで変化はしていないらしいね」

「で、奴を倒す方法は?」

「そう話を急くものじゃないよ、戦部くん――で、このサイバーギアにはいくつかの欠点がある。今からそれについて話そう」

 と言って、菫は手元のマウスをカチカチッと操作しながら……モニタに次の画像を表示させつつ、話を続けていく。

「まずひとつ、奴の耐弾性能には限界がある。色々とテストしたが5.56ミリの徹甲弾までが限界だったね。7.62ミリ以上の大口径ライフル弾でなら貫くことができる。この辺りはあくまで人間がベースだから、サイズ的な制約があってのことだね。これが大きなパワードスーツだったら、話はまた別なのだが」

「でも、それって当たればの話ですよね? そんなサイボーグ相手に……実際、当たるものなんですか?」

 香華が口にした疑問に、菫は「ま、難しいね」と即答する。

「無理とは言わないが、正面切っての戦闘ではまず無理だろう。どうにか不意を突く必要がある」

 続けてそう答えると、菫はコーヒーカップを手に取る。ほんの少しカップに口をつけた後、一呼吸を置いてから続きを話し始めた。

「……で、二つ目の欠点。これも装甲の話に関連することだけれど、関節部分はどうしても造りが脆くなっている。この辺りも人間ベースが故の、どうしようもないデメリットだね」

「ま、どっちみち防がれちまうだろうがな」

 肩を竦めて言う戒斗に「まあね」と菫も同じようなジェスチャーで返しつつ、手元のカップをコトンとソーサーに置くと……。

「で、三つ目が本題だ」

 また改まった口調で、そう二人に切り出した。

「サイバーギアの、最大の弱点――それは光だ」

「光? ……まさか直射日光を浴びると灰になっちまう、なんて言わねえよな?」

「はぁ……ねえ戒斗、それはないわよ。吸血鬼じゃあるまいし」

 皮肉交じりの冗談で返す戒斗と、それに呆れた顔で言う香華。

 しかし菫は「吸血鬼、か……言い得て妙だね」と、何故かフフッと笑う。

「おい、まさかマジで灰になるって言わねえよな?」

「違うよ、そうじゃない。サイバーギアはね……急な光の刺激に弱いんだよ」

 そう言って、また菫はカップに口をつける。

「これは私がワザと残しておいた、サイバーギアの致命的な欠点なんだ。例えば閃光弾なんかを至近距離で喰らうと、義眼が焼き付く関係でシステムにエラーが発生し……一時的にだが、動きを止めることが出来るんだ」

「……マジかよ」

「とはいえ、止められて数秒が限界だ。その数秒をどう生かすかは、実際に対峙する君ら次第といったところだがね」

 言った後で、菫は「……しかし」と顎に手を当て、思案するように呟き。

「この欠陥のことは、後任の誰かが発見していてもおかしくない……例の女の子ぐらい優秀なら、気付いてもおかしくないはずだが」

「葵瑠梨のことか? 俺たちの救出目標の」

「そうそう、その()だ。これは私の憶測でしかないが……その瑠梨ちゃんもワザと見逃してくれているのかも知れないね。まあ何にせよ、これが通じるのは一度きりだと思っていてくれ」

「……一回こっきりって、なんでまた?」

「答えは簡単だよ、戦部くん。そんな致命的な欠陥、ミディエイターが知れば対策しないはずがない。これに関しては制御プログラムに簡単な修正パッチを当てるだけで解決する。だから通じるのは一度だけと思っていてくれたまえ」

「なるほど、最後の手段ってわけか……オーライ、肝に銘じておくぜ」

 対抗手段としては心もとないが、それでもあるだけ助かる。

 少なくとも、これでサイバーギアに対して有利に立ち回る手段がひとつ分かったわけだ。それだけでも戒斗たちにとっては大きな収穫だった。

「それにしても、ホントにとんでもない代物よね……これって」

 話にひとまずの区切りがつき、うーんと伸びをする戒斗の横で香華がそう、菫の肩越しにモニタを見つめながら呟く。

 それを聞いた戒斗が「全くだぜ」と相槌を打ち、

「にしても、完全義体のサイボーグか……元になったのはどんな奴なんだろうな」

 何気なくそう口にすると、菫はスッと目を細めて。

「サイバーギアの素材、か……それについては、あの頃から色々と噂はあったよ」

 と、いつになくシリアスな顔で呟いた。

「計画に参加した頃、何も知らなかった頃は志願者だと聞かされていた。けれどミディエイターが正体を明かした後は、チームの中でも色んな噂が飛び交っていたよ。表向きは死んだことになっている死刑囚だとか、そもそも死んでいる人間だったとか……ね」

「なんていうか、ぞっとしない話ね……」

 青い顔で言う香華に「全くだよ」と菫は肩を竦めて返し、

「ただ、実際のところは分からずじまいだったがね。ご存知の通り、私は医者でもあるから……サイバーギアの施術も担当していた。だが施術する側だった私も、敢えて気にしないようにしていたからね。どんな素性の被験体だったかは、私にも分からないよ」

「……聞けば聞くほど、あんたがマッドサイエンティストに見えてきちまうぜ」

 っと、口が過ぎたな。気を悪くしないでくれよ――――。

 直後にそう詫びた戒斗に「いや、その通りだよ」と、菫は肩を竦めて言う。

「確かに、あの頃の私たちはマッドサイエンティストそのものだった。以前に会った時は琴音ちゃんが居たからね、彼女の前ではとても言えなかったが……私も恭介くんも、あの時の私たちは本当にどうかしていたんだ」

 二人と視線を合わさず、自嘲気味にそう呟く菫。

 そんな彼女の言葉に、戒斗と香華は黙って耳を傾けていた。敢えて何も相槌を打たず、ただ黙ってその話に耳を傾けていた。

「今にして思えば、どこかおかしかったんだよ。それはまるで、禁じられた遊びに手を付けた無垢な子供のように……やっていることの恐ろしさ、愚かしさから目を背けたまま、私たちはただ理想を追い求めていた。

 だから……恭介くんが亡くなり、私たちやミディエイターが計画から手を引かざるを得なくなったことは、ある意味で救いだったのかもしれないと……今になって、時々そう思うようになったんだ。本当の意味で引き返せないところまで行ってしまう前に、ああなったことは……救いなのかもしれないとね。彼にとっても、私にとっても」

 目を細めて、どこか自虐めいたことを口にする菫。

 そんな彼女の後ろに立つ香華は、どう言っていいか分からない様子だった。

 だがその横で、戒斗はポンッと菫の肩を軽く叩くと。

「……何にしても、いずれ戦わなきゃならん相手だ。あんたの過去の過ちは、俺たちが清算しといてやる。あんたたちが生み出した悪魔は……サイバーギアは、一匹残らず俺たちが葬り去ってやる。だから安心しな、先生」

 そう言うと、振り向いた菫は一瞬だけ驚いた顔を浮かべた後――フッと小さく笑って。

「……君らなら、本当に出来てしまうかも知れないね」

 と、ゆっくり肩の力を抜きながら……背にした彼に、そう呟くのだった。





(第四章『禁じられた遊び』了)

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