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怪談遊戯~冥界ドライブ~  作者: 雪鳴月彦
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第三十一話:火事の夢

「火事現場に消えた友人、ですか。実話であれば、確かに奇妙な話ですね。そこで起きた火災が、怪異を生み出す原因となったのか。それとも、その火災すらもその土地などに憑く何かによってもたらされたものなのか。何にせよ、その現場はもう人が留まれる空間ではなくなってしまっているかもしれませんよ」


「……人が関わる度に死ぬ物件、みたいな感じになってるってことですか?」


 俺の語った怪談に対して、見越は考え込むような素振りを醸しだしながら、自らの推測を感想代わりに放ってきた。


 その言わんとすることにピンときた俺は、よくあるパターンだなと思いつつ言葉を返す。


「人が何人も死ぬ土地や家屋っていうのは、確かに存在はしますからね。そして大抵、そういう場所を調べると過去に何かしら不幸な出来事が起きている」


 まさに見越が今しがた話した処刑場跡地の話がそれだろうが、この火事現場もその仲間入りを果たしてしまったということか。


 であれば、あのブログ主は記念すべきその最初の怪異遭遇者だ。


 友人は消えてしまったが、その対価としてとてつもなく厄介な怪異を体験し生き延びることができたのなら、それは貴重過ぎる経験でありオカルト好きの俺からすれば若干羨ましくもある。


「そうそう、火事と言えば以前あることがきっかけで火災を免れたことがあるんですと、ちょっと面白いお話を聞かせてくださったお客さんがいましたねぇ……。あれは何なんでしょうか、怪異というよりは別のものかもしれませんが、せっかくですので、聞いていただけますか?」


 また、話の流れから何やら思いだしたようで、見越の声が俺の思考を中断させてきた。


 怪異と言えるかはわからないが、面白い話。


 後になって思い返すと、あれはどういうことだったのだろうと思えるような、そういうタイプの話だろうか。


 話の方向性にそんな見当をつけて、俺は「もちろん聞きますよ」と即座に返答した。


 すると見越はニヤリと笑うような気配を滲ませ、それから


「このお話はいつでしたか……もうかなり前に、三十代くらいの男性の方から聞かせていただいたお話なんですけれどね」


 と、曖昧なものを思いだそうとするような口調で、ゆっくりと言葉をこぼし始めた。





       ◇◆◇◆◇◆◇


 お話をしてくれた男性が、まだ高校生だった頃のことだそうです。


 高校二年の秋……十月の半ばくらいと言っていましたかねぇ。


 ある日を境にその男性、妙な夢を頻繁に見るようになったそうなんです。


 その夢の内容というのが、自分は家の中にいて、普通にテレビを観ていたり自室で本を読んでいたりしているのですが、どうしてか毎回、暫くすると自分が台所へ向かって歩きだしてしまう。


 そうして、いざ台所へ入るとまるでそれが合図にでもなっているかのように、突然台所が炎に包まれ、真っ赤に染まってしまうのだそうで。


 それは例えるなら、まるで遺体を火葬場の焼却炉へ入れた瞬間に火を点けられるのと同じような、そんなイメージがいつもあったと言っていました。


 当然、夢の中とは言え男性は焦り、すぐに台所から出ていこうとするのですが、その度に燃え上がる炎の奥から人の形をした赤い何かが両腕を伸ばしながら迫ってくるのが見え、毎回そこでハッとなって目を覚ましていたのだそうです。


 どうしてこんなおかしな夢を見るんだろう。何だか気持ち悪いな。


 テレビやホラー系の漫画でよくあるような、悪霊とかいうやつにとり憑かれでもしてるんじゃないか。


 あまりに頻繁に同じ夢を見てしまうせいで、普段は心霊的な話など一切興味も持っていなかったにも関わらず、男性は本気でそういう非科学的なことを疑い始めるくらいまで、精神が追い詰められてしまっていたそうで。


 これ以上同じ夢を見続けるようなら、もうさすがに親へ相談した方が良いかもしれないな。


 そんな覚悟まで決めかけていたある日、日曜日の夕方くらいの時間帯と言っていました。


 当然学校が休みで家にいた男性は、自室でテレビゲームをして遊んでいる最中、飲み物か何かを取りに台所へ向かったのだそうですが、ちょうどそのとき台所ではお母さんが夕飯の用意をしていたんだそうです。


 そうして、自分の息子が来たことに気づいたお母さんは、何を作っていたのかまではちょっとわかりませんが、ガスを使って調理をしていた手を止め男性の方へ振り向き、何か話しかけてきたというんですね。


 そうしたら――お母さんはその時、長袖を着ていたらしいのですが、振り向いた際に腕の位置が下がってしまったのでしょう、袖にガスコンロの火が燃え移り、その炎が瞬間的に衣服全体へ広がってしまった。


 これ、表面フラッシュ、と呼ばれる現象らしいですね。


 衣類の種類によっては一瞬で火が広がることがあるそうで、不幸にもお母さんはその条件を満たしてしまっていた。


 当然、お母さんはパニックになり大声をあげながら必死に火を消そうと自分の服を叩くも、そんなことでどうにかなるものではない。


 身体に炎を纏うような状態になったお母さんを目の当たりにした男性は、そのとき咄嗟に夢の内容を思い出したんだそうです。


 今見ている光景と、夢の光景。


 火災の規模に雲泥うんでいの差はあれど、このまま何もできずにオロオロしていたら、あの夢で見た光景と同じ状況におちいってしまうのでは。


 男性は直感的にそう思い、お母さんへすぐに服を脱ぐよう呼びかけ、水をかけることでどうにか鎮火に成功したそうなのですが、お母さんの方は両手と顔の一部に火傷を負ってしまったということで、本当にあのまま何もできずに自分までパニックになっていたら、目の前でお母さんが焼け死ぬ光景を見届ける羽目になっていたかもしれないと、苦い口調で仰っていました。


 つまり、この男性が頻繁に見るようになっていた夢は、ある意味正夢だったかもしれない、ということなんですね。


 お母さんが不慮の事故で火災に遭い、そのまま炎に包まれて焼死してしまうことを、夢が暗示していたと。


 毎回夢の中で遭遇した、炎に包まれながら近づいてくる異形の正体が自分の母親だったのかもしれないと思うと、長い時間が過ぎた今でも思いだす度に何とも嫌な気分になってしまうそうです。


 偶然、正夢を回避できただけなのか。それとも、ご先祖の霊などが男性たち家族を助けるために起こした現象だったのか。


 真相はわかりませんが、そんなお話を男性は語ってくださいました。

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