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怪談遊戯~冥界ドライブ~  作者: 雪鳴月彦
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第十七話:妹

「それはまた、ご友人のお兄さんは難儀な思いをされましたね。死んだ方の念、また溶け落ちた肉体の一部がその場に残っていたりしたのでしょうか。事故物件の中には、最低限の清掃だけをして、人型に染みついた床や畳をそのまま残してしまう大家もいると噂で聞いたことがあります。お金をケチるのか、カツカツでそこまで手が回らないのかはわかりませんが、本当の話なら借りる方は堪ったものじゃありませんよね」


 しみじみとした喋り方でそう告げてくる見越の前方に、オレンジ色の光が見えた。


 すぐにそれがトンネルだと気づき、年甲斐もなく気分が高揚しそうになった。


「俺もそういう話を聞いたことはありますけど、不思議と霊が出るか出ないかは半々なんですよ。あからさまな事故物件で、家賃も安い。恐い体験を覚悟で借りてみたら、特に何も起きずに肩透かしだったなんて人の話も聞いたことがありますし。まぁ、その人の場合は問題のない部屋を格安で借りられてラッキーだって言ってましたけどね」


 車がトンネルの入口を潜った。


 空気の流れが変わってか、耳に入る音の質が変化する。


「これまでの歴史で、人間なんてどこででも死んでいるんだから、そこら中が事故物件みたいなものだと言ってる人もいたっけなぁ」


 若干暗いオレンジ色の光が灯る天井を見つめながら俺が言うと、見越は「ははは」と笑い、バックミラー越しに細めた目をこちらへと向けてきた。


「それは言い得て妙かもしれませんね。と言いますのも、私が乗せたお客さんの中に、修学旅行を境に自分の妹が妹でなくなってしまったと嘆いておられた方がいまして。あれはきっと、出向いた土地で何かいけないモノを拾ってしまったのではないかと思っているんですけれどね」


「何ですか? それも、怪談みたいな話なんですか?」


 興味を引かれ俺が問うと、見越はコクリと頷き目線を前に戻した。


「ええ。家族が家族でありながら家族でなくなるような、言い方がおかしいかもしれませんが、そんなお話です」


「面白そうじゃないですか。聞かせてくださいよ」


 どこまで伸びるのか。すぐに抜けるだろうと思っていたトンネルは、予想していた以上に長く、まだ出口を見せぬままオレンジのライトを内部に充満させている。


「わかりました。では、お話いたしましょう」


 そのライトに照らされた見越の顔が薄く笑みを作り、その口が滔々《とうとう》と次の語りを紡ぎ始めた。






       ◇◆◇◆◇◆◇




 二十代半ばくらいの男性から聞かせていただいたお話なんですけれどね。


 その方、二つ年下の妹さんがいらっしゃいまして。


 学生時代は、まるで知らない人が見たら恋人同士かと勘違いされるくらい、仲が良かったんだそうです。


 お互いが中学生になって別々の部屋をあてがわれても、夜は毎晩妹が部屋へ入ってきては一緒にゲームをしたり話し相手になってやったりと、他の同級生たちからは羨ましがられたりもしていたくらいに、お兄ちゃんっ子だったと言うんです。


 そんな関係が突然一変したのは、その方が高校二年で妹さんが中学三年になった時でした。


 妹さん、修学旅行で京都へ行かれたんだそうです。


 出発の前夜は相変わらず兄にべったりな状態で、お土産は何が良いかとか、いつか一緒に京都旅行をしてみたいねといった会話を寝る時間までしていたらしいのですが、いざ出発し数日後に帰宅してくると、まるで別人のように性格が変わってしまっていたと言うのです。


 よそよそしいとか他人行儀といったものとは違う感じで、何と言うのか、本来あるべき一般的な兄妹の距離感を保つようになったと。


 普通に会話はする。避けられたりするわけでもない。苦手意識のようなものを持たれている感じもしない。


 だけど、それだけ。


 修学旅行前夜までの、あの自分へ懐いてくる妹の性格が消失し、同じ容姿をした別人が家に入ってきたような、そんなモヤモヤとした違和感を強く感じたと、そう仰るんです。


 最初、具合が悪いのか機嫌を損ねているのかと色々疑ったりもしたそうなんですが、話しかけてみてもどうやらそういうことはないように感じる。


 いつもと様子が違うけど、どうかしたのか?


 戸惑いながら、その方は訊いてみたそうなのですが、これに妹さんは


「別に普通だよ。ただ、いつまでもお互いベタベタしてたらおかしいでしょ」


 と、どこか突き放すような口調でそう言葉を返し、兄には特に興味はないといった風に顔を逸らしてしまったそうです。


 結局、それ以降妹さんは元の性格に戻ることはなく、今に至っているということで。


 話を聞かせてくれたその男性、最後に真面目な声でこう仰っていたんです。


「……ひょっとしたら、妹は旅行先で何かにとり憑かれてきたんじゃないのかなって、時々そんなことを考えるんです。じゃなきゃ、たった数日で人間の性格が一気にあそこまで変わるなんて説明がつかない。ですから、今いる妹は本当に自分の妹なのか、妹の身体か意識を乗っ取った別の何かなのか、そういう猜疑心さいぎしんに襲われることが今でも度々あるんですよ」


 ……と。


 真実はどうなのか、わかりませんけどね。


 そんな不思議な兄妹の変化に悩んでいるという、ちょっとモヤモヤとさせられるお話でした。

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