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47 戻って来た指輪と自由な未来

落ちついたかと思う日々だったけれども、状況が一変したのは数日前だった。

突然飛び込んできたのは両親達の訃報。私はそれをただ呆然と聞いているしかできず、手配などはベリル様が執り行ってくれ、今しがた葬儀を終え弔問客達を見送った所だ。


「……本当にあの人達は逝ってしまったのかしら?」

教会前に立っている私が顔を上げて天を見上げれば、澄み渡る青空に広がるように鎮魂の鐘の音が周辺に響き渡っていく。

漆黒のヴェールに覆われた世界は、いつもと変わらないままだ。


「お嬢様。そろそろ」

レダの声に弾かれたように顔を上げればすぐ傍に彼女が立っていたのだが、私と同じように喪服に身を包み相変わらずの無表情でこちらを見ている。


「馬車が待っていますので、屋敷に戻りましょう。色々と片付けなければならないことが山ほどありますから」

「……そうね」

現実味が全く無い葬儀だった。

それもそうだろう。だって、私は遺体を見てはいないのだから――


旅行中の不慮の事故死らしく遺体の損傷が激しかった上に、遠い異国であったことから腐敗により見るのを拒まれたのだ。

屋敷を処分する費用を充て葬儀をと考えたが、費用もベリル様が支払ってくれ国葬級の盛大なものに。

ひっそりとしたものを……と考えていたのだが、最後くらいはとベリル様やレインにより大きなものとなり王都内外から弔問客が訪れてくれたので、祖父母の友人もいて懐かしい面々との再会もあった。


「セラフィ」

馬車の元へと向かうとベリル様が立っていたのだが、彼の隣に見覚えのない青年が佇んでいた。最初は葬儀に駆けつけてくれた両親の父人だろうか? と過ぎったけど彼がとある人に似ていたため、失礼にも声を上げてしまう。

彼の姿が肖像画で見た父の若かりし頃の姿と似ていたせい……


「セラフィ、落ち着いて聞いてくれ。彼はテルネ国のリフィス伯爵子息・レゾ様だ。君の異母兄にあたる」

「……そうですか」

だから似ていたのかとすとんと理解できたせいか、兄がいたことに驚きもしない自分がいた。

両親ともに愛人は沢山いたし、弟ができるまで両親の中は不仲だったので不思議ではないからだ。


「一度だけ子供の頃に会っているんだけど、覚えている?」

「申し訳ありません……」

「いや、いいんだ」

父と違って優しそうな雰囲気を纏っている彼は、眉を下げたまま首を左右に振る。


「母と共に君に会いに行ったのはかなり昔の話だし。君の父上は母と恋人同士だったんだけれども、突然君の母上と結婚をしてしまって……けれども、その時にお腹に僕がいたんだ。なんか急にごめん、戸惑うよね。この度はなんと言っていいかお悔やみ申し上げます……その……ごめんね」

どうして謝罪の言葉を彼が口にしたのかわからなかった。


もしかして、駆けつけるのが遅れたという意味なのだろうか?

テルネ国からでは距離もあるため、こうしてわざわざ早く駆けつけてくれただけでも十分だと思うのだけれども。


「わざわざ遠いところをお越し下さりありがとうございます」

私は深く腰を折り、感謝の言葉を述べる。


「セラフィ。彼が侯爵の血を引いているのは、レイン様達が確認済みだ。勿論、貴族院も許可を得ている。だから、彼にも侯爵家の相続を受ける権利があるんだ」

「えぇ、それは当然ですわ。ですが、相続と言ってもうちには何もないかもしれません。あるとすれば借金ならと言える状況です。何か欲しいものがあるのでしたら、どうぞお好きなものを屋敷から形見分けとして受け取って下さい」

「欲しい物は持って帰れないんだ。その引き継ぐというか……」

「どういう事でしょうか?」

小首を傾げて彼を見れば、レゾ様はベリル様へと視線を向けた。


「カストゥール家は彼が引き継ぎたいそうだ」

その発言に対して私は大きく目を見開くと再びレゾ様に顔を向ければ、彼は瞳を揺らしながら「だめだろうか?」と尋ねてきた。

駄目だなどと拒否をすることは頭に浮かんで来ないけれども、ただ純粋になぜ? という言葉が頭に過ぎって仕方がない。だって、彼にはメリットがないのだから。


「うちは外側だけは見てくれが良いですが、中身はボロボロです。とてもプラスになるようなものなんてありません」

「それでも構わないんだ。ただ、君が継ぎたいと思っているのかが気がかりで……」

「私は領地管理については全くの素人ですし、カストゥール家を存続させたいなどとも思っておりません。陛下に貴族の称号を返上するべきかと考えていたくらいです」

「なら、構わないか?」

「えぇ」

ベリル様の言葉に私は深く頷いた。


「……良かった。身辺整理が終わったらこちらに引っ越しをして、屋敷の方に住まわせて貰いたいんだけれどもいい? 勿論、君はいつでも屋敷の出入りは自由だよ。戻ってきてくれてもいいし!」

「敷地内に別邸があるのですが、そちらを見に行ってもいいですか?」

「当然だ」

屋敷にはまったく未練がないけれども、お祖母様との思い出がある別邸には思い入れがあるので、彼が受け入れてくれてほっとした。

両親が住んでいる時は鉢合わせが怖かったので、なかなか行けなかったのだ。






「ねぇ、レダ。明日、町に行かない?」

私は紅茶を入れてくれているレダへと顔を向けると口を開いた。

私室の窓はオレンジ色に染め上げられ、鳥が黒いシルエットを浮かべて家路についている。


「町ですか? 構いませんよ。侯爵家のことも落ち着き初めていますし、気分転換も必要ですからね」

葬儀より三ヶ月ほど経過したので、レダのいうとおりに私の周りは落ち着き始め日常へと変わりつつあった。侯爵家はレゾ様により相続の手続きも済み陛下の承認も得ている。

屋敷も借金の抵当などに入っておらず綺麗な状態なので、レゾ様はそちらに居を構えて暮らす準備をしているためテルネ国から行ったり来たりの日々だ。


「気分転換じゃなくて家探さなきゃならないかなって。ほら、いつまでもお世話になるわけには……」

「あの人、まだ何も言ってないんですか?」

「なにを?」

首を傾げてレダを見れば、なぜか深く溜息を吐き出されてしまう。


「……とっくに言っていると思っていましたよ。私、この間契約更新の書類に記載したばかりだったので。言ってみたらどうですか? ベリル様に家を出るからと」

レダの言う通りだって思った。ベリル様にまだ話をしていないので、伝えておかねばならないだろう。


さっそく帰宅したベリル様と夕食を共にした後、さっそく話をすべく声をかけて私室へと招けばベリル様から「話がある」と言われてしまったので彼からの話を優先することに。


「あの……」

ソファに二人して並んで座っているんだけれども、張り詰めた空気と静寂に包まれているため、緊張感により私は手をぎゅっと握りしめた。

いつもならレダや誰かが付き添ってくれてお茶などの準備をしてくれるのだけれども、ベリル様により人払いがされているので二人っきりなのも相成っているのかもしれない。


「レダに聞いた。家を探す予定なんだって?」

「はい。いつまでもご厄介になったままではと思いまして……その……もうすでにお世話になりっぱなしですが……」

ちらりとベリル様の顔を窺えば、怒っているのか不機嫌そうな表情をしていた。


「お前の中には、このままここにいるという選択肢はないのか?」

「え?」

首を傾げればベリル様が上着のポケットに手を入れると何かを取り出す素振りを見せる。

掌は握られ彼が何を持っているのかわからない。


「セラフィ、手を」

ベリル様が私の方に手を伸ばしたので、言われるがまま私は手を差し出す。すると、そこには布に包まれた物体が。

ゆっくりと布を開ければ、室内を照らしてくれている燭台の明かりに反射しながら星々のように輝くものが窺えた。


「どうして……!?」

私が驚きのあまり悲鳴に近い声を上げてしまえば、彼は目尻を下げクスクスと笑っている。

「驚いたか?」

これが驚かないわけがない。だって、これは母に奪われるように渡した祖母の形見である指輪だったのだから――


「もっと早く渡せれば良かったんだが、色々な人の手に渡り続けて思いの外探すのに苦労してしまったんだ」

「ありがとうございます!」

「なぁ、セラフィ。ありきたりな言い方かもしれないが最初から始めないか?」

「最初からですか……?」

「そう最初から。もう結婚しているから順番がちぐはぐだが、交際から始めて欲しい」

真っ直ぐな瞳で見つめられ体温が急激に上がっていく中で、攫われた時にベリル様に助けて貰った時のことが頭に浮かんだ。

最初の出会いが出会いだったけど、一緒に過ごしていくにつれ彼の印象がどんどん変わっていった。


「私でよろしいのですか……?」

「勿論だ」

ベリル様の言葉に首を縦に動かせば、「おめでとうございます」という言葉と共に扉が開かれレダが入って来た。

ホールケーキと紅茶が乗せられたワゴンを引いた彼女の登場に、予想もしていなかった私達は飛び上がるように立ち上がってしまう。


「お祝いのケーキです。作って貰っていました」

「あまり言いたくないが、断られていたらどうしたんだよ?」

「使用人みんなで分けて食べていましたのでお気になさらずに」

レダがあっさりと口にしたので、ベリル様は頭を抱えてしまっている。


「まぁ、やっとお嬢様もこれからのことを考えられるようになったのですから、ゆっくりと生活していけばいいんじゃないですか?」

「まぁ、レダの言うとおりだな。ゆっくりすればいい。もうお前は自由なんだからな」

「自由……」

その言葉に体の力が抜けてしまい、膝から崩れ落ちるようにして床にしゃがみ込んでしまった。雁字搦めになってしまっていた心がゆっくりと解けていく。

「セラフィ!?」

「大丈夫です。ちょっと気が抜けてしまって……もう自由なんですよね」

「あぁ、自由だ」

ベリル様に肩を抱き寄せられ、私は泣きそうになった。


両親に縛られた世界はもう終焉を迎え、もう何も言われることはない。

これから自分の手で白紙の世界に未来を描いていかなければならないけど、今度は強く鮮やかに描いていきたいと思った。私や周りが幸せだと思える日々を――







ちょっと駆け足気味となってしまいましたがこれにて完結です。

時間がかかってしまいましたがお読み下さった方ありがとうございました!

あとは落ち着いたら拍手で掲載したものをこちらに転載などしたいなぁと思っています。

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