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クラス転移でハズレ職《共鳴士》になった俺、仲間の隠れた才能を覚醒させていたら最強パーティーができていた  作者: あーる


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1/3

始まり

 如月玲奈に呼び止められたのは、放課後の教室だった。


「高瀬君、ちょっといい?」


 自分の名前だと気づくまで、返事が遅れた。


 帰り支度をしていた手を止める。


 窓際に、如月が立っていた。


 肩まで伸びた黒髪。整った顔立ち。成績はいつも上位で、体育祭では実行委員、文化祭では揉めていたクラスをいつの間にかまとめていた。


 たぶん、学年で彼女を知らない奴の方が珍しい。


 そして俺は、同じクラスになって四か月。


 二人きりでまともに話した覚えがない。


「俺?」


「うん」


 如月はそこで黙った。


 何かの頼み事だと思った。


 プリントを運んでほしいとか、欠席者に連絡してほしいとか。俺に回ってくる話なんて大体そんなものだ。


 けれど。


「明日、学校休めない?」


「……何?」


「明日。学校」


「そこは聞こえた」


「そっか」


「理由の方」


 如月は答えなかった。


 窓の向こうでは野球部が声を上げている。


 教室の後ろでは橘たちがまだ騒いでいて、水瀬は友達とスマホを見ていた。


 いつもの放課後だった。


 その中で、如月だけが妙に居心地悪そうに見えた。


「体調悪そう?」


「そうじゃない」


「じゃあ明日なんかある?」


「……ある、と思う」


「何が?」


「分からない」


「分からないのに休めって言ってる?」


「うん」


 頷かれると困る。


 冗談なら笑うところだろう。


 でも如月は笑わなかった。


「無理だろ。親になんて説明するんだよ」


「風邪」


「今めちゃくちゃ元気だけど」


「お腹痛いとか」


「如月が仮病勧めてくるとは思わなかった」


「……私も」


「自分で言うのかよ」


 ようやく口元がわずかに動いた。


 笑ったというより、言いすぎたことをごまかしたように見えた。


「やっぱり無理だよね」


「まあ」


「そっか」


 これで終わりかと思った。


 如月は鞄を持ち上げる。


 けれど、教室を出る前に止まった。


「高瀬君」


「まだある?」


「もし」


 開いた窓から風が入った。


 白いカーテンが膨らみ、俺たちの間を横切る。


「もし明日、知らない場所で目を覚ましても」


 カーテンの向こうから声がした。


「自分のことを、全部すぐに話さないで」


 カーテンが落ちる。


「……何それ」


 如月は何も言わない。


「異世界にでも行くの?」


 冗談のつもりだった。


 如月の表情が固まった。


 ほんの一瞬だけ。


「そういうことを言ってるんじゃない」


「じゃあどういうこと?」


「私も分からない」


「さっきからそればっかりだな」


「ごめん」


 また謝られた。


「謝ってほしいわけじゃないけど」


「分かってる」


 それ以上は続かなかった。


「高瀬ー」


 後ろから橘の声。


「帰らねえの?」


「ああ、今行く」


「如月と何話してたんだ?」


「仮病の相談」


「は?」


 橘の顔を見て、如月が先に教室を出た。


 俺はその背中を追わなかった。


     *


 翌朝。


 俺は普通に学校へ来た。


 熱はない。


 腹も痛くない。


 如月を信用しなかったわけじゃない。


 何を信用すればいいのか分からなかっただけだ。


 教室はいつも通りだった。


 橘が前の席に腰掛けて喋っている。


 水瀬は英単語帳を開いている。


 担任の吉岡先生は教卓で出席簿をめくっていた。


 如月もいた。


 友達と話している。


 昨日の会話だけが、取り残されているみたいだった。


「高瀬」


 橘がこっちを見る。


「一限の小テスト」


「忘れてた」


「俺も」


「仲間みたいな顔すんな」


「二人なら怒られても半分だろ」


「ならない」


 チャイムが鳴る。


「ほら席つけー」


 吉岡先生に追われ、みんなが自分の席へ戻っていく。


 俺も座った。


 黒板。


 机。


 窓。


 誰かの欠伸。


 椅子を引く音。


「相川」


「はい」


「石田」


「はい」


 出席が取られていく。


 その途中。


 如月が顔を上げた。


 時計ではない。


 窓でもない。


 足元を見ている。


「如月?」


 近くの女子が声をかけた。


 返事はなかった。


「高瀬」


「はい」


 俺が答えた直後。


 床に一本の光が走った。


「え?」


 白い線が机の下を横切る。


 曲がる。


 枝分かれする。


 数秒で、教室いっぱいに大きな円が描かれた。


「何これ!」


「先生!」


 椅子が倒れる。


 誰かが立った。


 それにつられて何人も動く。


「走るな! 落ち着け!」


 吉岡先生の声も届かない。


 俺も席を立った。


 昨日の如月の言葉が戻ってくる。


 知らない場所。


「如月」


 彼女を見る。


 如月は床の光を見つめていた。


 顔色が悪い。


「これ、知ってたのか」


「……」


「如月」


「全部は知らない」


 それだけだった。


「何を知ってる?」


 答えはない。


「ドア開かない!」


 後ろで声が上がった。


 男子が扉へ体重を掛けている。


 開かない。


「窓!」


 佐々木が走る。


「待て!」


 橘が追う。


 佐々木が窓枠へ触れた瞬間、身体が後ろへ弾かれた。


「痛っ!」


「だから突っ込むなって!」


「そんなの分かるかよ!」


 橘が制服を掴んで起こす。


 俺もスマホを出す。


 圏外。


 それだけ見てポケットへ戻した。


 誰かが泣いている。


 電話を掛け続けている奴がいる。


 机の上へ立って窓を確認する奴までいた。


「机から降りろ!」


 吉岡先生が叫ぶ。


「全員、なるべく中央に集まれ!」


 今度は何人かが従った。


 俺も動こうとする。


「高瀬君」


 如月に呼ばれた。


「何」


 彼女は何かを言おうとした。


 でも。


「……ごめん」


「またそれかよ」


 光が消えた。


 突然だった。


 教室に静寂が落ちる。


「終わった……?」


 誰かが呟いた。


 直後。


 身体が落ちた。


 床はある。


 なのに胃だけが浮き上がる。


「――っ!」


 教室が光に裂かれた。


 青。


 赤。


 紫。


 黒板の輪郭が歪み、机の形が崩れる。


「高瀬!」


 橘。


「悠斗君!」


 水瀬の声もした。


 振り向こうとしても見えない。


「如月!」


 返事はなかった。


 光の向こうに、人影だけが見えた。


 如月だった。


 彼女の唇が動く。


 音は届かない。


 もう一度。


 ――ごめん。


 そう見えた。


「何にだよ」


 返事などない。


 如月が消える。


 黒板も。


 机も。


 窓も。


 最後まで残ったチャイムの音まで、途中で途切れた。

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