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雪の精霊 ~命のきらめき~【PV61000突破☆感謝!】  作者: あるて
第3章 拝啓、未来のわたし

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第191曲 水の精霊~命のきらめき~

 リスナーさんの前で復帰祝いの唄を披露し、失敗してしまったあの日から一年以上の月日が過ぎて、わたしは二十二歳になった。

 そして今、わたしはある一室にいる。

 

「わたしはもっとみんなの近くで唄いたい!」


 そう宣言してから半年以上、わたしはリハビリとボイトレに励み、そして自分の声を完全に取り戻した。いや超えた。

 かつての音域からさらに半オクターブ、広げることができたのだ。


 そしてわたしはボイトレに励みながら、ある計画を実現させるためにかつての自分の考えを覆す決断をしていた。


「それではその時は全面的にプロデュースをお願いするということで。利益の取り分は書面通りで構いません。よろしくお願いします」


 かつて大阪で琴音ちゃんを通じて知り合った女性プロデューサー、五代さんに向かって頭を下げる。


「こちらとしてはどんな条件であれ、ゆきさんに来てもらえるなら大歓迎です。でも一体どういった理由で心変わりを?」


 芸能界という世界を毛嫌いし、関連するようなところとは極力距離をおいてきたわたしが突然こんなことを言いだしたのだから、疑問に思うのも当然だろう。


「確固たる目的のためです。わたしが以前、脳の障害で一年以上昏睡状態にあったのはご存知ですよね?」


 黙って頷く五代さん。

 ネットどころかオールドメディアでもニュースになったような出来事だから知っているのは当然だろう。いや、その仕事からしてたとえニュースにはなっていなくとも、彼女ならそのネットワークで情報を得ていただろうと思う。


「元々わたしは幼いころから脳の障害を抱え、余命も宣告されていたことから生きることに対して諦めの気持ちがありました。だけどそれを変えてくれた人たちがいた」

「お姉さん達ですね」


 意外な人から突然核心をつかれてしまったことに驚き、わたしは目を見開いた。どうしてこの人がそのことを?

 わたしの疑問が顔に出ていたのか、五代さんはふっと笑うと以前は見せることのなかった柔和な表情を浮かべた。


「ゆきさん、わたしは何も企業利益だけを考えてあなたに声をかけたわけじゃありませんよ。わたしもプロデューサーであると共に一人の人間です。自分が大ファンになってしまった歌手のことを贔屓したいと思うのは人間心理というものでしょう」


 そう言ってウィンクをする五代さん。まったく、この人には敵わないや。

 わたしの周囲には強い女性が多いような気がするなぁ。


「ゆきさんの配信は欠かさず見てますし、わたしのスマホにはゆきさんの曲が全曲入ってますよ」


 そう言って見せてきたスマホには、わたしが音楽サイト経由で発売した200近くの楽曲が全て入っていた。


「もちろん動画も見てますし、ダンスも数曲は完コピしています。後でいいですから、サインをいただけます?」


 そう言って身を乗り出す姿は敏腕プロデューサーのそれではなく、ただの一ファンになっていた。


「ふふ、いいですよ」


 お堅い、冷たいという印象を持っていた人の意外な反面を見た時に、親近感を覚えてしまうのは誰もが共感できることだろう。

 クールな殺し屋が小さな子に優しかったり、プライドの高い悪役キャラが認めたライバルに涙を見せたりなど。

 五代さんの人懐こい笑顔を見せられたわたしも例にもれず、好印象を与えられて肩の力が抜けてしまったのかもしれない。


「わたしにとって、世界の誰よりも大切な四人の姉妹が教えてくれたんです。諦めたら奇跡は絶対に起きないと。生きることも、何かを為すことも。そして人は希望を持って生きている限り、必ず支えてくれる人が現れることも」


 穏やかに語るわたしを見て五代さんは苦笑する。


「そのことは琴音には聞かせられませんね」


 さすが。琴音ちゃんのわたしに対する想いもしっかりと見抜いているということか。

 わたしも苦笑いで返すしかない。


「まぁ、このことはオフレコで」


 二人で顔を見合せ笑い合う。琴音ちゃんには悪いけど、もっと五代さんに親近感を持っちゃったよ。


「そしてわたしはその後で昏睡状態に陥りました。でも、生きる意志を取り戻したからこそ、今こうしてわたしは立っている。もう一度唄うことが出来る。それを支えてくれたのは家族であり友人であり、リスナーさん達だったんです」


「なるほど。ずっと支え続けてくれた人たちに画面越しではなく、面と向かって想いを届けたいということですか」


 やっぱりこの人は聡い。一を聞いて十を知る人とは会話のテンポも速くて心地いい。

 琴音ちゃんがこの人を信頼するのもよく分かる。五代さんとなら、芸能界の汚さにも立ち向かえるかもしれないと思った。


「それで時期としてはいつ頃を?」


「一年で仕上げて見せます。ですから来年の冬には」


「でしたら確実に取れるよう再来年のゆきさんの誕生日から三日間、押さえておきましょう。不死鳥と言われたあなたの生誕祭。世界に知らしめるにはちょうどいいでしょう」


 ――


 そして今、わたしはじっと待っている。


 屋根に大きな玉ねぎのような擬宝珠を乗せ、かつてビートルズが日本で最初に講演をした、全てのミュージシャンが憧れる聖地。

 その楽屋で精神を統一しているが、これからのことを考えると高揚感は抑えようがない。


 今日、わたしの二十二歳の誕生日。わたしはコンサートデビューを果たす。

 座席数は約10000席。発売と同時に完売したという話を聞いた。それだけ期待されているという事実に心は踊る。


 わたしの愛する家族はステージ正面、貴賓席とも呼ばれる関係者席でわたしの出番を今か今かと待っているだろう。

 完全満席の会場からは、待ちきれない観客たちの手拍子がすり鉢状の構造に反響し、地鳴りのように響いてきている。今やわたしのテンションは最高潮だ。


「時間が来た」


 開演数分前。わたしは一人ごちると、楽屋を出てステージ裏へと移動した。


 そこはスタッフとの最終打合せや、バンドメンバーとの円陣を組むなどの儀式が行われる場所。だけど今はわたしだけ。

 マネージャーである五代さんはどうしても特等席で見たいという個人的なわがままを全開にして、家族や琴音ちゃんと共に関係者席にいる。どういうこった。


 だけどちょうど良かった。ひとりきりなら好きなだけ集中力を高めることが出来る。

 そうして精神を統一させていると、アーティストの背中を押すという「登場SEサウンドエフェクト」が流れてきた。


 いよいよだ。

 今にも叫びだしそうな胸の高鳴りを弾けさせるかのように、ステージに向かって走り出した。


『みんなー! 今日は来てくれてありがとー!』


 最初はわたしらしく感謝の言葉。

 会場全体が爆発したかのような歓声に包まれた。

 一万人の歓喜の声は否応なくわたしの心を震わせ、熱いものが込み上げてくる。でも今は泣いてる場合じゃない!


『今日はー! わたしの生まれた日! そしてミュージシャンとしてももう一度生まれる日だー! みんな、上がってるかー!』


 わたしのマイクパフォーマンスに対し、心の底からの声を出し、会場全体を震わせる観衆たち。

 中には涙を流している人もたくさんいる。

 喉も裂けよとばかりに大きな口を開け、鳴り出したイントロに合わせて体を揺らし、あふれる熱意をわたしに届けてくれる。


 大歓声に支えられ、わたしは軽快なステップを踏みながら第一声を腹の底から、心の底から、魂の奥深くから迸らせた。

 会場全体に激震が走る。それは決して比喩ではなく、わたしと会場が一体になっての共鳴(レゾナンス)の嵐。

 雪の精霊の氷は溶け、水の精霊となったわたしの命のきらめき。

 照らせ、輝け、命を燃やせ!

  挿絵(By みてみん)

 

 * * *


「やっぱりあいつはすげーよな」


 ゆきの歌声を聴き、あいつを支え続けてくれたファンたちの熱狂を見てあたしらの目からは涙が止まらない。

 今まではリスナーだったけど、これからはファンだ。あたし達もファンとひとつになってリズムを刻んでいる。


「だってゆきちゃんだもん!」


 歌声と大歓声に負けないようにひよりが大きな声でそう言った。


「ゆきなら当然!」


 いつも無表情な茜も今日ばかりは陶酔したような顔をしている。


「わたしは言いましたよ! ゆきちゃんなら世界も目じゃないと!」


 楓乃子はちゃんと前が見えているのかと思うくらいに涙でぐしゃぐしゃだ。


「さすがわたし達のゆきちゃんですね!」


 琴音は入ってこなくていい。マネージャーを紹介してくれたことには感謝してるけどな。仕方ないからたまにはうちへ遊びに来てもいいぞ。


「ゆきちゃんの周りは誰をとっても熱狂的なファンばかりですね!」


「「「「「当然!」」」」」


 五代マネージャーがなぜここにいるのかは知らないが、言うことは間違ってはいない。


 あたしには見える。

 ここを足掛かりに、日本中を熱狂の渦に巻き込むゆきの姿が。

 そしてそれはやがて海を飛び越え、世界中の人々の目に、耳に、心へと伝わっていくだろう。

「世界の人々を幸せにする」あいつの掲げる使命、いや、ゆきの理想そのものへと向かって。


  ―― 完 ――

ここまで長い間、ご愛読くださりありがとうございました!

ゆきが背負った十字架との戦いはこれにておしまいです。


だけど、ハッピーエンドで終わったからといって、人生はそこでは終わりません。

これから先、ゆきは歌とダンスを武器に戦い続けていくでしょう。

そしていつかはその寿命の尽きる日もやってくる。


ここから先の物語、あなたの中でもっと素晴らしい結末を描くのもいいでしょう。


どうしても先が気になる人には続編「水の精霊 ~もっと光り輝いて~」をご用意しています。

雪解けを迎えたゆきのその後の人生を一生懸命綴っていますので、もっとこの世界観に浸っていたい方は是非、ブックマークをお願いします。



『水の精霊 ~もっと光り輝いて~』完結済み

https://ncode.syosetu.com/n5660ma/



作者の健康上の理由から投稿頻度は不定期としていましたが、読者様の支えを糧に、毎日ほぼ同時刻に手動投稿をするという生活を半年間続けてくることが出来ました。

予約投稿をしなかったのは直接お届けしたいという作者のこだわりであり、そのせいで多少時間が前後したこともありましたが、なんとかやり切ることが出来ました。

たくさんの方に読んでいただき、評価やリアクション、感想やレビューを寄せていただき、その都度感激に打ち震えていました。

読者様の没入感を妨げないよう、極力後書きはしてきませんでしたが、最後にお礼を言わせていただきます。

長い間、本当にありがとうございました!


作品の完結にあたって、大きな感謝の気持ちと共に後書きとさせていただきます。

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