第161曲 これでいいのか文化祭
「それでは本年度、学園文化祭を開始します!」
今年はまともな開幕の放送。
これで最後だと思うと、否が応でも気合が入る。
校内放送を終えて校門へ向かうと、たくさんの人に声をかけられた。
「会長、遊びに来たよ!」「会長の有終の美を飾る日、見に来ないわけにはいかないね!」「ステージやるんだろ? 楽しみにしてるよ!」「これで最後なんて寂しいなぁ」
去年、一昨年の卒業生たちが大挙して押し寄せ、それぞれが例外なくわたしの元へ集まってくる。
嬉しいけどすごい塊になってるから散ってください。
「わたしはそこら中にいるからまた見かけたら声をかけてね~。ここにいたら入ってくる人の邪魔になるから、散れ~!」
とにかく通行の邪魔になっていたので強制解散。慕ってくれるのは嬉しんだけど、他にもお客さんはいるからね。
「あらあら、めんこい子が生徒会長さんだぁね」「あたしの若い頃にそっくりだぁ」「あたしも若い頃は学園のマドンナっていわれてたからねぇ」
マドンナって言葉が年代を感じさせるなぁ。
でもわたしはマドンナじゃなくて男の子なんだけどね。でもみんな可愛くて、こんな歳の取り方を出来たら素敵だなぁ。
でもおばあちゃん達も通行の邪魔になってるからどこうね。
お年寄りは優しく誘導して校内へと案内。いろいろあるから楽しんでね~。
「ゆきちゃん遅ーい! もう、何してたの?」
「老若男女に捕まってた」
「いつもの感じか。それじゃ仕方ないね。ゆきちゃんオールマイティーだし」
その言い方はなんか語弊がないか? さすがに全員恋愛対象ってわけじゃないぞ。
「まぁまぁ。そろそろ教室に向かわないとみんなに怒られるよ」
そう言って移動を促してきたのは文香。今年は風紀委員とのローテーションの都合で、開始早々クラスの手伝いに駆り出されてしまった。
何をやってるのかはまだ知らないけど。
「それじゃ、最初の見回りは風紀委員の皆さんにお任せして、生徒会の面々はクラスに向かおうか」
文香と穂香、二人を連れて教室へと向かう。今年は変な恰好じゃないといいいなぁ。
教室にたどり着き、そのままバックヤードへ入ったので中で何をやっているのか分からない。
「あ! ゆきちゃんおかえりなさ~い! 今年はコンチクショーって言わなかったね!」
それはトラウマになってるので思い出させないでください。黒歴史です。
「それじゃ三人ともこの衣装に着替えてもらえるかな。着方が分からなかったら声かけて」
そんなにややこしい衣装なんだろうか。紙袋を手渡され、男女別に分けられた更衣室へ。わたし? もちろん男子用だよバカヤロー。
でもね、渡された袋の中から出てきたのは忍び装束。しかもくのいち。普通に想像する忍者とは違って太もも丸出し。
こんな薄着で戦えるのかってんだ。胸元もシースルーだし、欲望がこれでもかってくらい詰め込まれてるじゃねーか。
どうせ忍者なんだったらこんなエロいのじゃなくてカッコいいのが着たかったなぁ。
「ゆきちゃん可愛い! そんな恰好もまたいいね!」
合流して第一声に文香から出てきた言葉は賞賛。ポニーテールにして鉢金を巻いた姿は自分でもなかなかのもんだとは思うけど、男をたらしたりはしないぞ。
「閨房術とかさせたら国のひとつやふたつ滅ぼせそうだな」
ねぇ、本当に意味が分かって言ってる? わたしがそんなことしたら速攻性別がバレて切り殺されるでしょうが。
裏でうだうだしてても仕方がないので、まずは厨房スペースへ。接客の仕方を学ばないといけない。どうせ特殊な方法だろうし。
「着替えてきたよ~」
指南役の先輩くのいちに声をかける。
「さすがゆきちゃん。何を着せても似合うよね。将軍の一人や二人、簡単に虜にできそうだ」
将軍は一人しかいないっての。わたしってば日本国を丸ごといただけるんだね。
「バカなこと言ってないで接客の仕方を教えてくださいな」
「うん、口で教えるより見てもらった方が早いかな。ちょうどお客さんも入ってきたし、お手本見せるね」
タイミングよくテーブルに置かれたベルを振って店員を呼び出すお客さん。ベルが洋風なのがシュールだ。
ベルの音を聞いた指南役は素早く歩み寄り、片膝をついて「は、お呼びでしょうか」と答える。おぉ、本格的だ。なんかかっこいいぞ。
注文を書く伝票も矢立になっていて、毛筆ペンを使っている。細部にまでこだわっているなぁ。
シュタタっと音がしそうな姿勢で戻ってきて厨房係に伝票を手渡す。紙には「任務」という文字が一番上に書いてあり、その下にも何やら記入されている。
「礼、藻、姉、土。れいもあねつち? なにこれ」
「レモネードだよ。カタカナだと忍者らしくないでしょ」
カタカナは平安時代から使われてるんだけどなぁ。なんなら忍者そのものよりも先なんだけど。
まぁ雰囲気って大事だからそんな野暮なことは言わないけど。それにしてももうひとつ不可解な文字が。
「この喝! って何? カツでも揚げるの?」
校内は火気厳禁のはずなのに、何を提供するつもりなんだろうか。レンチンか?
「それはコーラだよ」
喝にコラをかけてるのか。ってダジャレやんけ! しかも絶妙に面白くない!
よく見たら壁のメニュー表にも書かれてるけど、完全にすべってるだろ、これ。
メニューに関しては壁に貼ってあるお品書きの隣にルビを振ってくれてるからなんとか解読できそうだけど、注文の取り方に関しては実践あるのみかな。
「それじゃ、次のお客さんが来たら行ってみるね」
ほどなくして次のお客様ご来店。席についてしばらくすると、ベルが鳴った。
わたしは素早く忍者走りで近づき、片膝をついて待機。
「は、おそばに」
常に身辺を警護しているくのいちになりきって、正面を向かず横向きに注文を聞く姿勢。
「うぉ! か、会長!? そんな恰好で何やってんの?」
「いえ、わたしはただの草。さ、お下知を」
草というのは忍者全般を指す言葉。一般人に溶け込んで情報収集をする姿からそう呼ばれたとか。
「異様に似合ってるから戸惑うんだけど。まぁいいや。俺、アイスコーヒーね」「俺はオレンジジュース」
お品書きを確認して矢立に書き込む。愛素珈琲はまだ分かる。
オレンジジュースが俺痔中酢って。食欲失せるわ! しかも痔に酢ってめっちゃ沁みそうだし! 誰だこれを考えたやつは。
でもこんなことで文句を言っても仕方がない。
「任務は以上でしょうか」
気を取り直して任務続行。
「うん、よろしくね」
「御意」
少しだけ頭を下げ、そのまま厨房まで素早く移動。やばい、なんか楽しくなってきた。
忍者ごっこで喜ぶなんて子供っぽいかもしれないけど、男の子ならこういうのって好きだよね。サバゲ―みたいなもんだ。
すっかり楽しくなってしまったわたしはその後もノリノリで接客を続け、会長がエロイ格好をしてると校内中の噂になった我がクラスにはお客さんが殺到することになってしまった。そう、老若男女問わず。




