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雪の精霊 ~命のきらめき~【PV50000突破☆感謝!明日完結】  作者: あるて
第3章 拝啓、未来のわたし

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第158曲 心のタガ

 ホテルの部屋でお菓子パーティー。


「それじゃ、女子会始めるぞ~」


「「「いえーい!」」」


 女子会じゃねー!

 ここに! 男の子が! いますから! 忘れんな!


「まぁまぁゆきちゃん、見た目だけの話だから」


 そうか、見た目だけならまぁ。

 とでも言うと思ったか?


「はい、ゆきちゃん」


 かの姉にチョコレートを口に放り込まれた。うん、美味しい。


「ゆき、餌付け」


 違うわ。

 まぁ甘いものを食べると大人しくはなるんだけど。これって餌付け?


 コンビニでかの姉の見つけたフルーツジュースが美味しそうだったので、いろんな味のものを買い込んできた。


 わたしが最初に飲んだのはシャインマスカット。渋味のないブドウの味が爽やかで、あっという間に飲み干してしまった。おいちい。

 ひよりもいよかんをすっかり飲んでしまっている。そんなに美味しかったのか。柑橘系好きだもんねぇ。

 あか姉はパイナップル。普通のジュースなんだけどあか姉が飲むと独特だなぁと思ってしまうのはなんでだろう。


 でも不思議なことにこのジュースを飲んでると、塩気の物がほしくなるんだよね。なんでだろ。

 梨味のジュースを飲みながらより姉の買ってきたビーフジャーキーをガジガジ。普段はこういうものをあんまり食べないんだけど、体が塩分を欲しているような気がする。


「ゆきちゃ~ん、なんだか気持ちよくなってきちゃった~」


 そう言ってひよりがしな垂れかかってきた。なんか最近こういうシチュエーションになったことがあるような気もするけど、まぁいいか。楽しいし。


 梨味のジュースもすぐに飲み終わり、次に手に取ったのは白桃。桃の味ってなんだか優しくて懐かしい気持ちになるよね。


「こんなおいしいジュース初めてかも~。地元にも売ってるのかなぁ」


 缶を眺めて商品名を確認。なるほど、日本のプレミアムということで産地の名前が記載されている。わたしが今飲んでる白桃は福島県産なのね。

 震災から復興してる街を応援するためにもどんどん飲まないと。


「わたしなんだか熱くなってきたかも。少し脱ごうっと」


 女装して出かけていたのでインナーに来ていたのはキャミソール。


「あははは。男の子なのにキャミソールって! おかしー!」


 自分の姿が妙におかしくなってしまい大爆笑。なんだか気分もいいし、下も脱いじゃおう。


「あははは! キャミにドロワーって! どこの貴族だよ!」


 自分で脱いで自分で笑う独り芝居。傍から見れば変な奴かもしれないけど、楽しいからそれもいいか。


「依子さん、みんなの様子がおかしくありません?」


「んぁ? そうか? そう言われてみると妙に陽気だな」


 かの姉が恐る恐るといった感じでわたし達が飲んだジュースの缶を調べている。かの姉も飲みたいのかな? でもとっても美味しいから分けてあげなーい。二人は焼酎でも飲んでなさーい。


「依子さんコレ……」


「あー。左下にちっちゃく『お酒』って書いてあるな。商品名には書いてないし、これじゃ見落としちまうよな」


「どうします? やめさせますか?」


「面白いしな。あたしらは何にも見てないことにしよう」


「悪ですね」


「お代官様ほどでは」


「誰が悪代官ですか」


 なんだかより姉とかの姉がコントをしてる。おかしくて笑いが止まらなくなるからやめて欲しいなぁ。

 お酒とか言う単語が聞こえてきたけど、もうなくなったのかな? でもこれはジュースだからあげないよ。


「もうお酒なくなったの~? お金出すから買ってくる?」


「まだあるからいいぞ。それよりゆきもこっち来て一緒に飲もう。ビーフジャーキーもまだあるぞ~」


「食べりゅ~」


 このジュースを飲みながら食べるジャーキーって異常に美味しいんだよねぇ。ひよりと一緒により姉の元へダーイブ!

 あか姉は微動だにせずちびちびとジュースを飲んでるから放っておこう。なんだか怖いし。


「うぉ! 飛び込んでくるとは今日は随分とアグレッシブだな。そういうのも普段と違って可愛いな」


「依子さんも酔いが醒めちゃいました?」


「そりゃこんなに可愛い妹たちの姿を見せられたら酔ってる場合じゃないだろ。ゆきに至っては下着姿だしな。ここはしっかり堪能して記憶に焼き付けておかねーと」


「やっぱり悪です」


 なんで二人とも酔いが醒めちゃってるんだろう。わたしはこんなに気分がいいのになんかズルい。


「二人とも素に戻ってるばやいじゃないよ~。散々帰り道で迷惑かけたんだからもっと飲んで~」


「わかったわかった。飲むから。ゆきって酔うと幼児退行するんだな。これもまた新鮮だ」


 何を言ってるんだろうか。ジュースなんかで酔うわけないじゃん。やっぱりより姉ってどこかポンコツだよね~。


 でもなんでだろ。気持ちがふわふわして、抑え込んでいた感情が表に出てきているような気がする。みんなのことが愛しくてたまらないよ~。


「おぉ? なんだ急に甘えてきて。甘えてくれるのは嬉しいが、あたしは母親じゃねーぞ」


「わたしにはママなんていないよ~。わたしの母親は育ててくれたお母さんだけ~」


「ママ?」


「ゆきちゃんって昔はお母さんの事ママって呼んでたんですか?」


「いや、最初は明子さんって呼んでた。その後はみんなも知ってるように『お母さん』だ」


 なんかおかしなこと言ったかなぁ? わたしにはママなんていないよ。痛いことや怖いことをする人なんていないんだから。


「何の話をしてるの~。わたしにもっと構ってよ~。より姉大好き~」


「お、おぉ! 抱き着いてくれるのは嬉しいんだけど、酔ってるだけになんだか悪いことをしてるような気になってくるぞ」


「あ! ゆきちゃんズルいです! わたしのことは好きじゃないんですかぁ?」


「そういう問題か?」


 かの姉のことだってもちろん大好きだよぉ。


「ゆきちゃぁん! あぁ、可愛い! ずっとこのままでいたいくらいですぅ」


 かの姉の胸でスリスリ。おっきくてやーらかくて気持ちいい~。


「いやん。そんなところでほおずりしたらくすぐったいですよ。でも赤ちゃんみたいなゆきちゃんも可愛いからいいですぅ!」


「おい楓乃子。鼻血出すなよ」


「ちょっとやばいでず」


「だったらそこ代わる」


「のわぁ!」


 さっきまで能面のような顔で自動的にジュースを飲んでいたあか姉がいつの間にかそばにいた。より姉めっちゃ驚いてるし。おもしろーい!


「あははは! より姉びっくりちてる~! なんだか可愛いよ~」


「可愛いのはおまえだっての。どうせならビデオカメラも持ってきてたらよかったのにな」


「楓乃子、次はわたしの番」


 あか姉が痺れを切らしてわたしの頭を抱え込んできた。もう、ヤキモチ? 心配しなくてもあか姉のことも大好きだよ!


「あか姉~」


 スリスリごろにゃん。


「ゆき、いつもより百倍可愛い。このまま押し倒したい」


「抜け駆けはダメですよ」


 ん? ゆきちゃん身の危険? でも今なら何でも許せそうな気がしちゃう~。


「ゆきちゃ~ん! わたしにもハグして~」


 可愛いひよりにそんなことを言われて逆らえる兄はこの世にいない! ひよりもこっちおいで~。


「ほんとだ~! ゆきちゃんめっちゃ可愛いし!」


「膝枕してあげようか?」


「逆だよ。今のゆきちゃんは膝枕される側だって」


 そう言ってわたしを横にならせるひより。横になったらなんだか世界がゆらゆらしてるような気がするけど、気のせいだよね。

 それにしてもひよりの膝枕、柔らかくて気持ちいいなぁ。このまま眠ってしまいそう。


「わたし今、とっても幸せだなぁ。大好きな四人の天使様に囲まれて、いっぱい愛されて。いつまでもこんな時間が続けばいいのになぁ」


 横になったまま手を天に向け、そこにはない何かを掴むかのように手のひらを握りこむ。

 わたしはこの手の中にいったい何を掴むことが出来るんだろうか。


「ずっと、一緒に……いたいなぁ」


 つい漏れてしまった本音。なぜか心のタガが外れかけているような気がする。


「何言ってんだ。いつまでも一緒にいればいいじゃねーか」


「そうですよ。わたし達はみんなずっとゆきちゃんのそばにいるつもりですよ」


「離れない」


「ずっと一緒にいるって言ったじゃん」


 みんなはそう言ってくれるけど。それはすごく嬉しいことなんだけど。


「それじゃダメだよ。みんながちゃんと幸せになれるように、それぞれの人生を歩んでいってもらわないと」


「無理」


「ですね。何を言われてもゆきちゃんから離れませんから」


 あか姉、かの姉。そんなことを言ってもらえるのは本当に嬉しい。涙が出そうなほどに。でもね。


「それじゃわたしが困っちゃう。わたしではみんなを幸せにしてあげられないから。わたしは変わらず同じ場所にい続けるから、みんなにはあの家を巣立ってほしいんだ」


 わたしはどこにも行かない。行くことが出来ない。

 このままではみんなをわたしという呪いに縛り付けてしまうことになる。そんなことにはなって欲しくない。


「これはね。わたしが一人で背負わなくちゃいけない荷物なの。一度死んだわたしがこの世に存在し続けるための制約。わたしには他に何もないから。みんなを巻き込むわけにはいかないよ」


 どうか分かって欲しい。誰よりも愛してるこの四人だからこそ、そばにいることはできないんだよ。


「それはおまえの勝手な理屈だろ」


「そうだよ。ゆきちゃんがわたし達の心まで決めることはできないんだよ」


 より姉とひよりの言うとおり、これはわたしの勝手なわがままだ。だけど譲ることのできないわがまま。


「分かってるよ。だからわたしはみんなにお願いすることしかできない。誰よりも大切な四人の天使様。お願いだからわたしを解放してください」


 答えを待たず、わたしは目を瞑る。涙を流すわけにはいかないから。


「「「「……」」」」


 しばしの静寂。

 だんだん意識が遠くなってきた。


 夢か現か。最後に聞こえてきたのは四人の同じ言葉だった。


「いなくなるなんて許さない」


――この物語は、未成年の飲酒を推奨するものではありません――

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