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雪の精霊~命のきらめき~【PV45000突破☆感謝!完結保証】  作者: あるて
第3章 拝啓、未来のわたし

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第157曲 最後の夜

「ふわぁ~気持ちいい~」


 フラフラのより姉。


「あははは! よろこさん酔いすぎです~」


 かの姉、あんたもだよ。誰だよろこって。呂律が回ってねー。

 わたしがより姉に肩を貸し、かの姉にはあか姉が肩を貸している。ひよりにはお水と万が一に備えてのエチケット袋を用意させてある。


「真っすぐ歩け酔っ払いども!」


「あたしは真っすぐ歩いてるぞ~。道が曲がりくねってるのが悪いんだぁ」


「そうですよねぇ。S字クランクが連続してます~。教習所ですかぁ?」


 一般道だよ。道もこれ以上ないくらい真っすぐだよ。

 酔っ払いどもをどうにか電車に押し込み、ホッと一息。Suicaくらい自分で出せっての。

 電車内は人でごった返している。地元の球団のユニホームやメガホンを持った人が多いのは試合でもあったのかな?


 そういえば今年は成績が良くて、優勝も視野に入ってるんだっけ。野球はあんまり詳しくないから分かんないけど。


「ちょっとより姉。ちゃんと立って。電車内で座り込んだらダメだって」


 足に力が入っていないのか、放っておくとずりずりと沈み込んでいってしまう。


「ゆき~だっこ~」


 人がいっぱいの車内で何言ってんだ。


「あれ、YUKIちゃんやん」「ほんまや。生で見たらめっちゃ可愛い」「やっぱり姉ちゃん達と仲ええんやなぁ」「YUKIちゃんって男の娘やろ? ハーレムやん」


 ハ、ハーレム!? そ、そんな風に見えるのか? アラブの石油王じゃあるまいし……。


「そうかな。どう見ても百合にしか見えやんよ」「確かに! 百合の園やわ」


 ですよねぇ。知ってました。


「そういやユニバのナイトショーに出てたんやろ? うちも見に行きたかったわぁ」「ほんまに? それは行きたかったな。またやってくれへんのかな」「急遽決まったみたいやし、無理ちゃうかな」


 漏れ聞こえてくる情報からすると、先日のナイトショーは結構な評判になっているようだ。

 またやって欲しいという声はありがたいけど……。


「ゆきちゃんよかったね。好評だったみたいじゃん」


「……そうだね。みんなが楽しんでくれたならよかったよ」


「また、やりたいんじゃないの?」


「ううん、そんなことないよ。あの日一日で十分だよ」


 わたしは本当に嘘つきだ。本当はステージに立ってみんなに歌声を届けたい。

 だけど、わたしにはその機会は永遠に訪れることはないんだ。


「ゆきちゃんさえその気になったらいくらでもコンサートを開けると思うんだけどなぁ」


 ひよりの無邪気な一言がわたしの心に突き刺さる。

 もちろん本人は何の悪気もないし、罪のない一言なんだけど。心の奥底にある願望を言い当てられたようで、身が引き締まってしまう。


「ごめん、ゆきちゃん。やりたいんじゃないかなと思っただけで、無理にやってほしいとかじゃないんだよ?」


 わたしの変化に目ざとく気づいたのか、慌てて訂正を入れてくるひより。

 そんなに気を遣われたら悲しくなっちゃうよ。


「大丈夫だよ。嫌だって言うよりも、あまり興味がないだけ」


「……そうなの?」


 人前で唄うことが何よりも好きなわたしが言っても矛盾しているかもしれない。だけど、今のわたしにはそっちに意識を向けるわけにはいかないから。

 余計なことで気を取られてしまうより、目の前にある物事を解決していく方が先決だ。


「うん、今はいろいろやらなくちゃいけないことがあるからね。先のことなんて考えている余裕はないよ」


「今は、だよね。いつもわたしに言ってるんだから、ゆきちゃんも将来の事を考えないとダメだよ」


 思わぬひよりの反撃に面食らってしまう。


 そうか、わたしは将来の事を何も考えていないように見えるのかもしれない。ありもしないものを考えるというのは……。

 だけど今はそういうわけにも行かない。


「ちゃんと考えてるよ。いずれは世界に打って出るつもりだからね。アメリカでの借りをしっかり返しておかないと」


 にっこり笑いかける。

 だけどひよりはどこか不満げな表情。


「そりゃゆきちゃんなら世界でも間違いなく通用するだろうけどさ。でもそれって近々の話じゃなくってまだ先の話でしょ? 来年とか再来年あたりは何をしている予定なのかな」


 じっとわたしの顔を見据えて、目を逸らさない。困ったなぁ。


「そんな顔されても。卒業してしばらくは大人しく配信に打ち込むつもりだからなぁ。ずっとあの家にいるよ」


 配信に打ち込むのもあの家にいるのも嘘ではない。

 わたしはどこにも行くつもりがないんだから。


「ほんと? いつでも家に帰ったらゆきちゃんがいてくれるんだよね?」


「うん、いつだってひよりを待ってるよ」


 わたしの手をぎゅっと握り、じっと見上げてくる姿はチワワみたい。愛らしいんだけどそんな瞳で見つめないで。切なくなっちゃうよ。


「ゆき~。あたしのことは待っていてくれないのか~」


 酔っ払いが話に参加してきた。


「はいはい、待ってますって。いいから自分の足で真っすぐ立ってくれないかなぁ」


「なんだかあたしには冷たいぞ~」


 ちゃんと足に力を入れてから言ってください。いつまで支えてなきゃいかんのだ。そろそろ腕がしんどいんだけど。


「ほら、そろそろ乗り換えだから少しシャキッとして」


「ん~」


 返事だけはしたものの、今だ全体重はわたしにかかったまま。起きてる?


「ゆき~おんぶ~」


 起きてたけど……、だめだこりゃ。


「非力なわたしがより姉をおんぶなんてできるわけないでしょ。肩を貸してあげるからなんとか歩いて」


「なんだよ~あたしはそんなに重くはねーぞ」


 そういう問題じゃないってば。わたしを筋肉痛にする気か。


「わたしも反対側を抱えてあげるから、なんとかこのお荷物を運んでしまおうよ、ゆきちゃん」


 ひよりも手伝ってくれたけど、まっすぐ歩こうとしない人間をちゃんと進ませるのは大変だ。


「依子さんはだらしないですねぇ。わたしも足に力が入りにくいですけど、ちゃんと歩いてますよ~」


 かの姉はあか姉につかまりながらではあるものの、ちゃんと自分の足で歩いている。

 まったく。弱いのにかの姉と同じペースで飲んだりするからこんなことになるんだよ。


「より姉も弱いんだからあんまり飲まないの。かの姉が強いからって同じように飲んでたらそりゃへべれけになるっての」


「あたしだってまだまだ飲めるぞ~。帰ったらゆきにお酌してもらうんだ~」


 まだ飲む気かこの人は。まぁ明日はご飯食べて帰るだけだからいいんだけど。


「チェックアウトは十一時だから、九時には起きて用意しなきゃいけないからほどほどにね」


 フロントから荷物を送ってもらう手続きをしないといけないから、荷物は今日の内にある程度まとめておく必要もある。

 この調子だと二人の分もまとめてあげる必要がありそうだ。


 下着なんかもあるし、ひよりに手伝ってもらうことにしよう。


「もう旅行も終わりかぁ。あと1か月くらいはここにいたいな~」


 どんだけ遊ぶ気だ。あんた仕事でしょうが。

 1か月あったら夏休みも終わってしまうっての。


「ゆきと四六時中一緒にいられる貴重な時間だぞ~。いつまでもこの時間が続いてほしいって思うのは当然のことだろ~」


「そんなこと言って体重をかけてくるのはやめなさーい! 潰れるぅ~」


「だからそんなに重くないっての~。スリムなお姉さんに向かって失礼だぞ~」


 スリムでも人間ひとりの体重がかかったら重いっての。自慢じゃないが10kgの米袋でも精いっぱいだぞ。


「か弱いゆきには荷が重かったかぁ。仕方ない、歩くか」


 ふらつきながらもなんとか自力で立ってくれた。コノヤロ、甘えてやがったな。


「より姉重かったからピーマンで減量させないといけないかな」


「やめてくれぇ。ピーマンの味を想像するだけで吐きそうになる……ウプッ」


 ヤメロ、本当に吐くんじゃない。


「もうより姉! 電車内で吐くとか仕事帰りのサラリーマンじゃないんだから。もう少しだからシャキッとしてよ」


 ひよりに突っ込まれてますよー。

 昼間のリーダーシップを発揮していた長女はどこ行った。


「頼りになる姉だったのにねぇ。あれは幻だったのかな」


 まぐれにされかけてますよー。


「TPOに合わせてるだけだ~」


 何のTPOなんだか。酔っ払いが必要になる場面なんてねーだろ。

 なんとか歩いてくれるようになったので、支えてあげながらもホテルの最寄り駅までたどり着くことが出来た。


「コンビニ寄って飲み物買っていきたーい」


 ひよりの提案で寄り道をすることに。酔っ払いどものために水を買っておく必要もあるだろう。ホテルに売ってるのは高いしね。


「わたしも何かおやつでも買おうっと」


「まだ甘い物食うのかよ~」


 ほっとけ。


「来年あたりはふっくらしてんじゃねーのか~」


 へらへらしながら何言ってんだ。


「ぽっちゃりゆきちゃん見てみたい?」


「それもいいかもしれねーな~」


 なんでもありか。わたしがイヤだよ。


 結局コンビニでお菓子とドリンクをしこたま買い込み、ホテルへと戻った。最終夜はみんなでお菓子パーティーだ!

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