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雪の精霊~命のきらめき~【PV45000突破☆感謝!完結保証】  作者: あるて
第3章 拝啓、未来のわたし

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第156曲 昭和四年創業の老舗串カツ店

 スイーツ巡りを堪能した後、腹ごなしも兼ねてあちこちを散策して回った。

 普段はあまり行かないゲーセンでリズムゲーをしたり、ボーリングやビリヤードで体を動かして消化を促す。


 三時間もする頃にはお腹が空いてきた。


「もう腹減ったのかよ。どんだけ胃腸が丈夫なんだ」


「健康優良児と言ってくれるかな」


「まぁいいけどよ。それで、何を食べたいか決めてあるのか?」


 今日出かける前に、それぞれ何を食べたいかを決めておくようにと言われている。

 わたしもいろいろ探してたんだけど、さすが大阪。食べたいものがいろいろありすぎて困っちゃう。


「わたしはまだ決めきれてない……」


「なんだ、いつも率先して決めるゆきにしては珍しいな」


 だってどれも美味しそうなんだもの。


「わたしはお好み焼きが食べたいです」


「またかよ! 楓乃子は昼にも食べてただろうが。どんだけ粉もんが好きなんだ」


 わたしも一口もらったし、お好み焼きはどっちかというとお昼ごはんにでも食べたいかな。


「もつ鍋」


「相変わらず選択が渋いな、茜。たしかに美味そうだな」


 もつ鍋は候補に入ってなかったけど、確かに美味しそう! 悩みが増えてしまった。


「わたしはね! 串カツが食べたいなー!」


 それそれ! 大阪といえば串カツだよねー。でもてっちりとか、居酒屋で土手焼きなんかも美味しそうなんだよね。


「ひよりはあたしと同じだな。それで、ゆきはどうする? 今のところ串カツに二票だが」


「うーん、うーん」


「どんだけ悩んでるんだ。ちなみに候補はいくつあるんだ?」


「居酒屋てっちりもつ鍋串カツかすうどんイカ焼き中華肉吸いたこ焼き……」


「待て待て待て。いくつ出てくんだよ。呪文みたいになってるじゃねーか」


 体がいくつも欲しい。


「ゆきの候補にもあったし、二票入ってるし、串カツにするか。ゆきも別に文句はねーだろ?」


 あの呪文をちゃんと聞きとってたのか。より姉もやるな。


「もちろん! ソースは二度漬け禁止だからね」


「それくらい知ってるっての。全体をひたひたに漬けて食べるんだろ」


 より姉のことだから何度もじゃぶじゃぶ漬けるんじゃないかと心配だったけど、それくらいは知っているようだ。


「それじゃ、さっそく向かおうか! お店はあたしが探してあるからよ」


 おぉ、より姉がリーダーシップを発揮している。

 さすが長女、頼もしい。

 わたし達はカルガモの群れのごとく、頼りになるより姉の後をついていくことにした。



「ここどこだ?」


 そうなるよね、うん、知ってた。


「より姉を信用したわたし達がバカだったよねー」


 なんでより姉にそんなに容赦ないのかな、ひよりは。

 わたしもやっぱりか、とは思ったけどさ。


 ただでさえ方向音痴なのに、見知らぬ街に来て案内するなんてハードルが高すぎたか。


「ちゃんと地図見てる?」


「見てるっての。こっちが上だから、右はこっちだろ……」


 スマホをくるくる回してる時点で不安しかない。スマホの地図なら勝手に回転してくれるだろ。

 かれこれ三十分は彷徨ってるけど、たどり着いたのは大丸百貨店。阪急が見えてるからほとんど移動してないのが分かる。


「ちょっと地図見せて。せめて方角だけでも合ってるか確かめないと」


 お目当ての串カツ屋さんはルクア大阪というところに入ってるらしいんだけど……。


「より姉、ここ大阪駅を挟んで正反対の位置にいるんだけど」


「そんなバカな」


 バカなのはおめーだよ!

 今までウロウロしててかすりもしてないのはどういうことだ。


「待て待て。わたしの勘ではあのビルじゃねーかと思うんだけど」


 目の前に見えているビルを指さして自信満々に言い放つより姉。マジか。


「あれは阪神百貨店! 昼間も行ったでしょうが!」


「そうだったっけ?」


 ダメだ。とてもじゃないが任せてはおけない。


「依子さんの栄光は短かったですねぇ」


「そんないい方しなくてもいいじゃねーか~」


 意気消沈してしまったけど、こればっかりは仕方ない。梅田はただでさえ地元の人から『梅田ダンジョン』なんて言われるくらい複雑怪奇だから、より姉には荷が重いというものだろう。

 わたしも方向に敏感というほどではないけど、地図くらいは読めるから後は看板を頼りにすればたどり着けるだろう。


 そして十分後。


「ここだね。みんな着いたよ~」


「さすがゆきちゃんですね」


「最初からゆきちゃんに案内してもらってればよかったね」


「無駄な時間」


 より姉が半べそかいてるからそれ以上はやめてあげて。


「まぁまぁ。女性は全体的に地図を読むのが苦手なもんだからさ。みんなも大なり小なり方向音痴なところあるじゃん」


 話を聞かない男に地図を読めない女、だっけ。

 わたしはちゃんと人の話は聞くようにしてるけどね。


「それを言ったらゆきが一番地図を読むのが苦手なんじゃないのか」


 何だとコラ。それはどういう意味だ。


「そうですねぇ。この中で一番乙女なのはゆきちゃんですから」


 んなわけあるかぁ! ……ないよね?


「ひより~」


「よしよし。ゆきちゃんは一応男の娘だもんね。地図くらい読めるよね~」


 一応言われてるし。

 ちくしょー。串カツやけ食いしてやる。


 さんざん迷ったおかげですっかりお腹も空いていたので、お店に入って席につくなり怒涛の注文ラッシュ。


「おいおい、もうちょっと分けて注文してやれよ。店員さんが目を回しちまうぞ」


「仕方ないじゃん。迷子になったおかげで腹ペコなんだからさ」


「うぐ。それを言われると」


 より姉撃沈。


「大丈夫ですよ。わたしもプロですから。たくさん食べてくださいね」


 微笑みながらそう言ってくれる店員のお姉さん。大阪の接客ってなんだか温かいんだよね。


「みなさんご姉妹ですか? とっても仲が良さそうで羨ましいです」


「やっぱりそう見えます!?」


 生き返った。どこに反応してんだ。


「やっぱり誰から見ても姉妹に見えるんですね」


 かの姉まで嬉しそうに。


「美人五姉妹」


「ほんとみなさんお綺麗で憧れます~」


 こらこら、美人とか自分で言うんじゃありません。強要したみたいになってるでしょうが。


「よかったね、()()()()()!」


 ひよりはわたしに向かって言ってるのかな?

 この流れでわたしが男の子なんて言ったら気まずくなるんだろうなぁ。

 でもなんだか騙してるみたいでいたたまれないんだが。


「店員さん、この中で誰が長女に見えます?」


 ひよりは何てこと聞いてんだ。そんなの……わたしに決まってるじゃん。なんてね。


「長女さんですか? 間違ってたらごめんなさいね。こちらの方でしょうか?」


 店員さんが手のひらを向けたのはかの姉。

 ぶふぅ!


「あははは! 違いない!」


 思わずみんなで大爆笑。

 より姉だけはひとり打ちひしがれているけど。


「あらあら、ありがとうございます。でもわたしは元・長女なんですよ」


「元?」


「えぇ。うちの両親が再婚して姉妹になったんですよ。血のつながった妹はこの茜だけ。そちらの依子お姉さんと、ゆきちゃんとひよりちゃんという二人の妹が増えました」


「へぇ~。義理の姉妹ってやつですね。それなのにこんなに仲がいいなんて、素敵ですね!」


 心底感心したような店員さん。そんなに珍しいものなんだろうか。


「うちにも血のつながった妹がいますが、とても生意気で。一人でも持て余してるのに、五人とも仲がいいなんて羨ましいですよ」


 世間の兄弟姉妹なんてそんなものかもしれないな。いつも一緒にいるからこそ、よく見えなかったり、うとましく思ったり。

 限られた時間の中で一番近しい存在として育ってきたんだから、それはもったいないような気もするんだけどな。


「本当に困った時、頼りになるのは家族ですから。妹さんを大事にしてあげてくださいね。目の前にあるものほどその大切さには気が付きにくいものですよ」


 失くしてしまってからでは遅いんだ。今、この時間を一秒一秒大切にしていかないと。


「ってごめんなさい。人様の事に偉そうに言ってしまって」


「いえいえ。その通りですよね。今日は仕事の帰りに妹の好きなアイスでも買って帰ろうと思います」


 いつまでもお客さんと話しているわけにもいかないので、店員さんはそのまま仕事に戻ってしまった。

 素敵なお姉さんだったな。妹さんももっと心を開いてくれたらいいね。


「あたしらはいつだってゆきを大切に想ってるぞ」


 唐突にそんなことを言いだすより姉。


「わたしもですよ」


「死ぬほど大事」


「わたしもゆきちゃんのこと超大切!」


 みんなまで。


「わたしだってみんなのことが何よりも大切だよ。だからこそ……」


 わたしのことなんて忘れて幸せになって欲しい……。


「だから、なんだ?」


 やめて。そんな優しい瞳で見つめないで。全てを打ち明けてしまいたくなる。

 だけど、打ち明けてしまったら……わたし達は今のままではいられない。


「そんな顔すんなって。ゆきに何があっても、あたしらは何も変わらねーよ」


 変わらないことが心配なんだよ。傷つくことになってしまうから。みんなの悲しむ姿は見たくない。


 正直、今になってもどうすればいいのか分からない。冷たく突き放すのが一番いいのかもしれないけど、一つ屋根の下に住んでいるのにぎくしゃくした関係にするわけにもいかない。何よりもわたしがそんなことをできるはずもない。甘いと言われればそれまでなんだけど。

 あと四か月。その間に何かしらの答えを見つけておかないと。


「お待たせしましたぁ! 串カツ五種盛り十人前です!」


 店員さんの元気な掛け声とともに串カツが運ばれてきた。おかげで話題は料理の話へ。助かった。こうやって逃げてるようではわたしもダメだな。


「おぉ、山盛りじゃねーか。ホントに食べられるのか」


「ひとり十本でしょ? 三分あれば充分!」


「ウルトラマンか。とにかく温かいうちに食べようぜ! いただきます!」


「「「「いただきます」」」」


 みんなで声を合わせるとお店の中に響き渡る。他のお客さんは微笑ましい顔で見てるけど、ちょっと恥ずかしい。


「かぁ~! ビールと串カツって最高だな!」


 出たよ、オヤジより姉。唇に泡、ついてるよ。

 その後は誰も話題をさっきのことに戻すことなく、料理に舌鼓を打って初めての本場の串カツを堪能した。


 きっとみんな気を遣ってくれてるんだよね。

 ごめんなさい、ありがとう。

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