第150曲 姫を守る騎士団
「なんでここにいるんだ」
顔をしかめるより姉。第一声がそれ?
「ゆきちゃん、昨日はありがとう!」
無視か。
ホテルのフロントに鍵を預けようとしたら、彼女がいた。
日本の歌姫。トップアイドルの岸川琴音。こんなとこで何やってんの。
「あれ? イベントは昨日だけって言ってなかった?」
「ナイトショーはね。でも急遽新しいイベントが出来ちゃったから、帰りを伸ばしてもらったの!」
「へーそうなんだ。がんばってね」
なぜここで待ち伏せしたのかの回答にはなってないけど、なんだか聞きたくないような気がする。
「おい、無視すんな」
わたしをかばうかのようにより姉が前に出てきた。あか姉がわたしの右腕を掴む。
正妻の余裕とか言ってたのに、警戒心がMaxだな。
「ゆきちゃんは家族水入らずで過ごすんですよ」
ブロックが二枚に増えた。
より姉とかの姉に立ちふさがれては、さすがの琴音ちゃんでも無視はできない。ひよりが左腕に絡みついてきた。
「ゆきちゃんを隔離しないでください~。別に取ったりしませんから」
そんなこと言っても昨日のことがあるからなぁ。
わたしがやりたそうにしてたからみんな快く送り出してくれたけど、本当なら家族の時間を邪魔されたことになるんだもんね。
「で、今日は何の用なんだ? ゆきはこれ以上イベントには出ねーぞ」
イベントという言葉を聞いたからみんなでわたしを守ってくれてるのね。やだナイト様。
「あー、イベントと言ってもお仕事じゃなくてですね。みなさんに園内を案内するという個人的なイベントが出来ただけですよ」
警戒されている理由が分かったのか、目的を説明する琴音ちゃん。やっぱりか。
急遽新しいイベントが出来たって言ってたから、そんなところじゃないだろうかとは思っていた。
「パンフレットもあるし、下調べはしてあるから案内はいらねーぞ」
不機嫌そうに言い放つより姉。断固拒否だな。
そんなに昨日のことが嫌だったんだろうか。
「ちっちっちっ。甘いですね。アトラクションを全部乗るためには時間が必要でしょう? わたしがいれば顔パスで乗れるので、待ち時間を節約できますよ!」
うーん、微妙だ。
二日連続で来園する人がどれくらいいるのか知らないけど、昨日のナイトショーでわたしのことは話題になったはずだ。SNSにも投稿してしまったし、これ以上目立つようなことは控えたい。
「何言ってんだ。待ち時間も大切な要素のひとつだぞ。みんなでワクワクしながら徐々に順番が近づいてくるのがいいんじゃねーか」
うん、これはより姉が正しい。
園内が空いてるならまだしも、これだけ人が多い中で順番を飛ばしていくのは気おくれしそうだし。
「そ、それだけじゃないですよ! 乗り物は二人か四人乗りがほとんどですから! 五人だとあぶれてしまうでしょう!」
必死だな。何がなんでもついてきたいんだね。
仕方ないな。
「ついてくるのはいいけど、毎回わたしと一緒にいれるわけじゃないよ? より姉と二人で乗ることになってもいいのなら」
ちょっと不憫になってきたので、助け舟を出してあげた。
目を輝かせる琴音ちゃん。より姉は露骨に嫌そうな顔をしてるけど。
「そんな顔しないの。今日はジェットコースターに乗らないし、みんなで回ろうと思ったら一人ぼっちになることもあるからちょうどいいじゃない」
「ちっ。しゃーねーな」
本当に渋々といった様子で了承するより姉。
「さすがゆきちゃん! やっぱり優しい!」
余程嬉しかったのか、ホテルのロビーで抱き着いてきた。
当然のごとく、首根っこを掴まれて引きはがされる。にゃー。
「自分の立場を考えろ。スキャンダルに巻き込まれるのはごめんだから、ゆきに触れるのは禁止だ」
「そんなぁ~」
がっくりとうなだれるけど、こればっかりは仕方ない。ただでさえ目立つ組み合わせなのに、これ以上騒ぎを起こすわけにもいかない。
他の姉妹も同じ意見なのか、再度わたしの周囲を固めてくれる。
騎士団に守られるお姫様みたい。
護送船団方式のまま、入場ゲートをくぐり園内へなだれ込む。
「昨日食べきれなかったチュリトス、制覇するよ!」
「いきなりかよ!」
だって小腹が空いてきたんだもの。
昨日は割と定番メニューばかり食べたので、今日は期間限定に挑戦。
園内をぐるっと一周してお目当ての味を購入し、ベンチに座って腹ごしらえ。
「ストロベリー&ラズベリー味、美味しいよぉ」
ご満悦でチュリトスを頬張るわたし。
「ゆきちゃん、一口頂戴!」
大口を開けて催促するひより。またか。
「……全部食べたらイヤだよ?」
「ヤダなー。そんなに口は大きくないってば。いただきまーす」
ばっくりいきやがった。
「あたしもくれ」
「わたしも食べたいです」
「食べる」
おぉ、デジャヴュ。
いや、昨日よりひどい。全部なくなってるやんけ! ひんっ。
「あら、ゆきちゃん泣いちゃった。ほらほら、泣かないで。ここにもう一本あるから」
そう言って袋から取り出すストロベリー&ラズベリー味。
計画的犯行!
「持ってるなら最初からそっち食べたらよかったんじゃ……」
「それじゃダメですよ。ゆきちゃんの持ってるやつを食べたいんですから」
なんだそりゃ。
ただいじられただけじゃないか。
「ゆきちゃん、わたしの分も食べる?」
琴音ちゃんが差し出してきたのはカシスショコラ味。それわたしも狙ってたんだけど、期間限定を食べたかったから断念したんだよね。
「いいの? それじゃ遠慮なく。いただきまーす」
一口サイズで齧り取る。うん、やっぱりこれも美味しい!
「ありがとう! これも美味しいね」
上機嫌で笑顔を向けると、なにやらじっとチュリトスを見つめている琴音ちゃん。なんだか鼻息が荒い?
「ゆきちゃんの食べたところ……。これは憧れの間接キス!」
そんなに改まって言われるとなんだか恥ずかしいんですが。変態チックなのでやめて欲しい。
隣であか姉がじっと見てるよ。
「……あむ」
あ、あか姉がかぶりついちゃった。
「なぁ! せっかくゆきちゃんが食べてくれた場所を……!」
「早い者勝ち」
「ひどいです~!」
琴音ちゃんが抗議するものの、素知らぬ顔のあか姉。
「ゆき、これも食べる」
あか姉が差し出してきたのはストロベリー味。こういうシンプルなのが好きだよね。
「食べるー! はむ。うんストロベリ~」
まさにこれぞイチゴ味。おいしい。
「チャンス!」
琴音ちゃんが勢いよくかぶりつきに行ったけど、あか姉にさっと避けられてしまう。
「甘い」
パクっ。もっさもっさ。ドヤ顔でチュリトスを頬張るあか姉。
何やってんだか。
なんだかんだで仲良くやってるようで安心したけどね。
お腹も満足したので、その後は入り口近くのエリアに移動。配管工のヒゲ兄弟が活躍するゲームのエリアだ。
カートで遊んだり、亀の親玉の息子に挑戦したり、緑の怪獣に乗っていたらあっという間に時間は過ぎていった。
「そろそろお昼ごはんだな。何か食べたいものはあるか?」
「もちろんサンドイッチ!」
より姉の問いかけに元気よく答えるわたし。
「みんなもそれでいいか?」
「そうだよ。わたしばっかりエンジョイしてるみたいだよ。みんなももっとやりたいこと言ってね」
テンションが上がって勝手に提案してしまってるけど、みんなはついてくるだけでいいのかな。
「十分堪能してますよ」
「楽しそうなゆきちゃん見てるだけで幸せだもんね」
「眼福」
なんだかわたしと楽しみ方が違うような気もするけど、喜んでくれているのならまぁいいのかな?
「……」
「? どうしたの?」
琴音ちゃんが黙ってわたし達を見つめている。なにかおかしなこと言ったかな?
「いえ。みなさんゆきちゃんと一緒にいられるだけで本当に嬉しそうだなと思って」
「そうかな? いつもこんな感じだよ」
「だけどみなさんも行ってみたい所とか、食べてみたいものなんかもあるんじゃないですか?」
どうなんだろ。わたしではわからないのでみんなの方を向いてみる。
もしわたしに気を遣ってくれているのなら、これを機会に好きなことをしてほしい。
「わたしはゆきちゃんが楽しそうなのを見ているだけで幸せですから」
「それにゆきちゃんに任せておいてもハズレってないしね」
かの姉とひよりは単純明快だな。もう少し自主性を持ってもいいかなと思うけど。
「……」
あか姉がじっと見つめてくる。なんだろう? 首をひねってみた。
「かわいい……。ゆきはありのままでいるのがいい。そのままのゆきを愛してる。
ゆきだってそう。いつもありのままのわたしを見てくれる。何も気を遣う必要がないし、素でいるのをよしとしてくれる。
少しの変化にも気が付いてくれるし、全てを受け止めてくれる安心感がある。だからわたしも全てを受け入れてあげたい」
珍しく饒舌なあか姉。ひよりとかの姉もうんうんと頷いている。
べた褒めされたわたしは照れくさくて、顔が熱くなってしまった。
「ゆきの観察眼と洞察力は神がかってるからな。
どれだけ強がったところで全部丸裸にされちまうみてーなんだよ。それと同じで、もしあたしらが不満を持つことがあっても、何も言わなくても気が付いて声をかけてくれる。
したいことがないんじゃなくて、何も言わなくても気を回してくれるんだよな。
ただくっついて回ってるんじゃなくて、気持ちが通じ合ってるから何も言う必要がねーだけだ。一緒にいるだけで安心感があるんだよ」
より姉まで。
もうやめてください。そんな大したもんじゃないってば。
もう両手で顔を覆ってしまうしかないじゃない。
「……そうですか」
眩しそうなものを見るかのように目を細め、わたし達を見つめる琴音ちゃん。どうしたんだろう?
なんだか寂しそうに見えるのは気のせいかな。




