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雪の精霊~命のきらめき~【PV45000突破☆感謝!完結保証】  作者: あるて
第3章 拝啓、未来のわたし

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第144曲 思い出は手の中に

 チュリトスとターキーレッグでけっこうお腹いっぱいになったので、腹ごなしも兼ねてショップを見て回ることにした。

 文房具なんかを見ていると、かの姉が嬉しそうな顔で何やら持ってくる。


「ゆきちゃんにはこれが似合うと思いますよ」


 手に持ったものを見ると、りんご2個分しか体重がない猫のボアパーカー。


「さすがにそれは可愛すぎるんじゃない? もういい歳なんだからもっと大人な印象のものでもいいんじゃないかな」


 いくらなんでもと思って物申したけど、首をひねる姉妹たち。おい。


「ゆきちゃんが大人?」


「うーん。少女のように可憐なゆきちゃんにはこれくらいの方が似合うと思うんですけどね」


 しょ、少女って。


「さすがに少女は言い過ぎでしょ。わたしだってこの間のより姉みたいにスーツを着ればそれなりになると思うんだけど」


「……」


 ちょっと。なんか言ってください。


「可愛いとか綺麗とか。可憐だとか清楚だとか。そんな表現がぴったりなゆきちゃんには可愛い服がぴったりですよ」


 ひどい。それじゃまるでわたしが成長してないみたいだよ。背は伸びてないけど……。


「より姉~」


 髪飾りを見ていたより姉に助けを求めた。


「ん? おぉ、可愛いパーカーだな。ゆきに似合いそうだ」


 裏切ったぁ。


「いやいや、わたしも17歳だよ? いい加減大人に近づいてると思うんだけど」


「あぁ~。ま~な~」


 なんで言い淀むかなぁ。


「もうちょっと成長したら色気が出て来ると思うけどな。それこそ傾国の美女ってやつだな」


 そっちに行っちゃうのね。誰が妲己(だっき)だ。


「もういいです。でもさすがにそのパーカーは恥ずかしいから、わたしはこっちでいいかな」


 わたしが選んだのは同じキャラクターのヘアクリップ。これくらいならまぁ。


「なんでもつけてみないと分かんないってば。試しにこれ!」


 ひよりが頭につけてきたのは猫耳カチューシャ。これもさすがに恥ずかしいなぁ。

 だけど、わたしのそんな思いを無視して周囲がにわかにざわついた。


「なにあの子。めっちゃ可愛い」「くっそ似合ってる」「え、芸能人?」


 他の買い物客に注目されている。えぇぇ。


「ほーら。ゆきちゃんにはやっぱり可愛いのが似合うんだよ」


 ドヤ顔してるのはいいけどさ。目立ちまくってるんだけど。


「あれ? YUKIちゃんやん」「知ってるん?」「おぉ。めっちゃ歌うまい配信者。通勤中とかによー聴いてるわ」「そーなんや。他の子もめっちゃ可愛いな」


 近くのカップルの会話が聞こえてきた。ヤベ、バレたか。

 同じように注目されているはずの姉妹たちは我関せずと言った表情。肝が据わってるというかなんというか。


「声かけたら迷惑かな」「やめときって。プライベートっぽいやん」


 さすがにそれは勘弁してほしい。


「あか姉、写真撮って」


 スマホを手渡し、カチューシャを装着したまま写真を撮ってもらう。それをそのままSNSにアップ。


『今日はオフで大阪のテーマパークに来ています。家族水入らずでめっちゃ楽しい!』


 あくまでプライベートだという点を強調して投稿。あっという間にいいねが増えていく。


「あ、SNSにもオフって投稿してるわ」「ほら、プライベートなんやから可哀想やん」


 なんでもいいけどめっちゃ会話聞こえてますよ。ネイティブ関西弁が新鮮だけど。


「すご、登録者めっちゃ多いんやけど」「歌とダンスかぁ。わたしも登録しよ」「うちも後で聞いてみよ」


 こんなとこでリスナーさんが増えちゃった。何が原因になるか分からないもんだ。


「ゆきちゃん、こっちもー!」


 周囲の視線など気にすることもなく、新しいカチューシャを被せてくるひより。大物だな。

 次につけられたのは垂れ耳白黒犬のカチューシャ。ザ・落花生。


「うわ、可愛い」「飼いたい」「犬でもネコでもいけるわ」


 周囲の方にも概ね好評。なんでやねん。


 どうせわたしは幼いですよー。開き直ったわたしはそっちも写真を撮ってもらいSNSにアップ。さっきの写真はすでに1000いいねを超えている。はやっ。

 でもアップした効果はあったのか、注目されながらも話しかけてくる人はいなかった。さすが日本人、そのへんのマナーは心得ている。


 結局わたしはシャーペンとヘアクリップを購入。ひよりとあか姉はカチューシャ、かの姉はパーカー、より姉はリボンを購入していた。全部わたしのものらしい。

 いや、自分のお土産買いなよ。



 腹ごなしもできたので、アトラクション巡りを再開。


 近いこともあって、最初に向かうは遊園地ならコレ、ジェットコースター。

 43mの高さから進路不明、予測不能な後ろ向きでの急転直下。スリル満点。


 ただ、ここで問題がひとつ。


「ムリムリムリムリかたつむり」


 高所恐怖症なひよりが断固拒否。両手を前に出してプルプルしてる姿が可愛らしい。


「スカイツリーの10分の1もねーじゃねーか。あそこに上ったこともあるし、これくらいなら平気だろ」


 スリル大好きなより姉が能天気なセリフをのたまっている。いくらなんでもそれは暴論でしょ。


「いやいや、無理だってば。B級だから平気だろってゆきちゃんにホラー映画を見せるようなもんだよ」


 なんだその例えは。


「なるほど。それは無理だな」


 納得しちゃった。なんだか腑に落ちないのはなぜだろう。


「一列に四人しか座れないし、ちょうどいいか。それじゃ、ちゃんと待ってるんだぞ。ウロウロして迷子にならないようにな」


「もう、子供じゃないんだから。下から写真撮ってるからね」


 ひよりと別行動をして行列に並んだ。待ち時間は一時間といったところかな。ひよりが退屈しないといいけど。


「ジェットコースターなんて何年ぶりだろうな。楽しみだ」


「だね。小さい時以来だよ」


「わたし達が家族になったころ行ったきりですね」


 お父さんとお母さんが再婚したばっかりの頃に近隣の遊園地に行ったことがある。わたしにとっては鮮明な記憶だけど、他の姉妹にとってはおぼろげな思い出だろう。10年近くの歳月は近いようで遠い。


 懐かしそうに思い出を語り合う姉妹たちを見ていたら、あっという間に順番が回ってきた。少し羨ましい。

 搭乗口に向かう時、あか姉が腕を組んできた。


「色褪せない思い出も十分に素敵」


 あか姉……。


「うん、そうだね」


 自分の事を知ってもらえているというのはこんなに嬉しいものなんだな。ありがとう。

 せっかくみんな楽しんでるんだから、暗い顔をしてちゃいけないよね。


 座席に座り、安全バーを下ろして待機。この時間がワクワクして楽しくなってくる。


「出発前が一番ワクワクするよな」


 楽しそうな顔を向けてくるより姉。みんな考えることは同じでちょっと面白い。


「何も特別なことなんてない。みんな同じ人間だろ」


 驚いて目を瞠ってしまった。ほんと、敵わないなぁ。


「思い出が頭の片隅にあるか、手の中にあるか。両手にたくさんの思い出を握りしめているのも素敵なことだろ」


 この手の中に……。じっと手のひらを見つめた。


 カンカンカンカン。

 コースターを運ぶ歯車の音が甲高く鳴り響いている。

 ひとつひとつの音を積み重ねて、頂上へと導いていく。


 わたしも思い出という名の旋律を積み重ねて、人生という叙事詩を紡ぎ上げていくのだろう。

 わたしはそのラプソディを鮮明な音階で奏でることができる。


「うん、悪くないね」


 晴れやかな笑顔を向けることが出来た。


「最高じゃねーか」


 にかっと歯を見せて笑うより姉。またか。


「かっこいいね」


「今更何言ってんだ」


「より姉だけじゃないよ」


 あか姉も、かの姉も、ひよりも。みんな揃ってわたしの暗雲を晴らす天才だ。

 後ろ向きに登ってるのがちょっとシュールな絵面だけど。

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