第14曲 超中学級
翌日、学校に着くなりわたしは職員室に向かっていた。
胸が出てきてしまった以上、体育や水泳の着替えはもちろん身体測定などでも便宜を図ってもらう必要がある。
見た目はこんなでも中身は男。こんな胸をぶらさげて堂々としてられるほど神経は太くない。
みずほちゃんに報告すると「ゆきちゃんも大変ねぇ」と理解を示してくれたので少し気が楽になった。
さすが大人、余計な事を言わない心遣いが行き届いているなと感心。
「でもこれでもうどこから見ても女の子ね」
見事なカウンター。
うぅ、これでも気にしてるのに……。
更衣についてはわたし専用の場所を用意すると言ってくれたので、とりあえずの問題は片付いたと思いホッとして教室に戻る。
教室に到着すると杏奈が声をかけてきた。
「なんか先生と難しい話をしていたみたいだけど、何かあったの?」
クラス委員なのでプリントや日誌を取りに職員室へ来て、そこでわたしとみずほちゃんが真剣な顔で話しているのを目撃したらしい。
まだわずかな期間しかたっていないけど、もうすっかり友人として気にしてくれているのを嬉しく思いながら、なんと説明したらいいものやらと考え込んでしまう。
「いや、そんなに大したことじゃない……こともないかもしれないんだけど、ちょっと先生に相談があってね」
これからクラスメートにもカミングアウトすることになるんだけど、いざ説明するとなるや恥ずかしくて日本語が怪しくなってしまう。
より姉たちに報告したときはなんだかんだいって家族だし、先生も生徒を保護する立場の大人だからそこまで気負わず相談できたけど、同年代の他人、クラスメートとなると気分的なハードルがぐんと上がる。
「どうしたの?」「ゆきちゃん何か悩み事? わたしらでよかったら聞くよ?」
文香や穂香、そのほかの子たちも次々に集まってきて心配げに話しかけてきてくれた。
バストの事だから男子よりは女子の方が相談しやすい。
きっと変な目で見られることもないだろうし、みんなも同じ過程をたどってきたんだから理解もしてくれるだろう。
わたしが男だという点を除けば。
「何かいいにくいこと? 内緒にしておいてほしいことなら、誰にも言いふらしたりしないよ」
わたしがもじもじしていると文香がそう言ってくれた。
それが嬉しかったので、どうせみんなに報告することでもあるし思い切って打ち明けることにした。
「実はね、これは男でも稀にある症例らしいんだけど、その……胸がでてきちゃって……」
顔を真っ赤にしてそう告白したわたしに対して、周りの子たちはきょとんとした目をしている。
「え? 胸?」「バストってこと?」
こくりとうなずく。
「マジか……」「いよいよ女体に近づいていくね……」
引かれることはなかったけど、さすがに驚いたようだ。
「今は何かつけているの?」
「昨日買ってきてもらったスポブラをつけてるよ」
「触っていい?」
今度はこっちが驚く番だった。
さすがに触られるのは初めてなので躊躇したけど、ある意味女同士(?)みたいなもんだろうと思い承諾。
めっちゃ恥ずかしいけど。
「初めてだから優しくしてね」
「乙女か」
恥ずかしさのあまり変なことを口走ってしまい秒で突っ込まれてしまう。
ふにふにと触られて「おぉ柔らかい」と感想を言われたけど、触られる方としては変な感触。
「ん……」
思わず変な声が出てしまった。
「ちょっと声出さないでよ! 変な気分になっちゃうじゃない……」
みんなして赤面。
「まぁでも触ってみた限りわたしらと変わらない本物だわ。おまけにそれなりのサイズもありやがる。てゆーかここまで大きくなる前に気づかなかったの?」
当然の疑問を口にしたのは穂香。
「それは姉にも言われた。最初は胸筋がついてきたのかと思って、その後は太ってきたのかなと……」
「胸だけ太るとかどんなけピンポイントなんだよ……。でもまぁ一応男なんだからまさかバストが成長してきたとはすぐに思わないわな。誰でもあるようなことじゃないし」
一応じゃなくてちゃんと男なんだけど……。
胸まで出てきたら説得力もなくなってくるよなぁ。
「どうするの? このまま他の子たちには黙っておくの?」
「さすがに体操服や水着に着替えることもあるし、先生に相談したよ」
そう答えたとき、自分の言葉に違和感を覚えた。何か大切なことをスルーしてしまっているような……。
「そりゃそうか。身体測定もあるし黙ってなんていられないよね。更衣室も別にしとかないと男子どもからエロい視線を向けられるかもだし」
男同士なのにそういう目で見られるもんなのかな? と言ったら自分の見た目を考えてから発言しろと怒られてしまった。
「そういや水着はどうするんだろ? さすがに女子用を着るわけにもいかないでしょ?」
それだ!
さっき感じた違和感の正体が判明した。
バストがあるから上も隠す必要があるけど、単純に女子用だと今度は下半身についてるものが邪魔になる。
つくづく厄介な体に育ってきたもんだ。
そこらへんは先生に相談して決めてもらうしかないかなぁ。
校則もあるだろうから好きな水着を着るってわけにもいかないだろうし。
結局そのことに関してはとても恥ずかしい思いをすることになってしまったのだけど、それはもう少し後のお話。
そしてタイミングのよいことに、今日はさっそく体育の時間がある。
みずほちゃんが用意してくれた教室を使用して、ひとりぼっちで着替えをするわたし。
三階の隅の、普段物置になっている使われていない空き教室。
着替えが終わると、なぜかクラスメートの男子が迎えに来てくれていた。二階にある二年生の教室を使って着替えているクラスメートが本来ここにいるはずはないのだけど。
さすがに鈍いわたしでもここまで露骨に周囲をうろつかれるとなんとなく真意を察してしまう。
たかだか体操服だっていうのに男っていう生き物はまったく。
まさか覗こうとしてないよね……? いくらわたしの容姿がこんなんでもさすがにそこまで血迷わないでほしい。
気を確かに持ってくれよ、男子生徒諸君。
今日の授業内容は体育館でバレーボールらしい。
野球やバスケはアメリカでもやっていたけど、バレーボールはアメリカの授業ではやらなかったので人生初体験。
ルールも良く分かってないけど、相手がサーブしてきたボールを三手以内に相手コートへ打ち返さないといけないということだけは知っている。
「わたしバレーボールやるのはじめて! 上手くできるかわかんないけど楽しみだなぁ」
わたしがそう言うとバレー部の田村君がはりきって基礎から教えてくれた。
サーブのやり方からレシーブ、トス、アタックまで基本的なことをコーチしてくれたので、後は授業の中で覚えていけるだろう。
やけに熱心で、文字通り手取り足取り教えてくれた。
のはいいんだけど、その後他の男子から殴る蹴るの暴行を受けていたのは大丈夫なのかな? 本人はそれでも満足げな顔をしてるから平気か。
まずは基礎的な練習を少しやった後、いくつかのチームに分かれて対抗戦をやることになった。
わたしが初心者だからという理由で田村君がわたしと同じチームに入ってくれることになったけど、また他の生徒から蹴られてる。
いじめじゃないよね?
いよいよわたしたちのチームが試合をする番に。
最初は勝手がわからないので他の人たちのプレーを見て学んでいたんだけど、すぐにわたしがサーブをする番が回ってきてしまった。サーブをするのも順番なんだね。
位置についてボールを上に放り投げる。
力加減を間違えて高く上げすぎてしまったので、落ちてくるまで時間がかかってしまう。
待つのめんどくさいな。
そういえばサーブは体のバネを使って打ち込むと威力が出るって田村君が言っていたな。
どうせなら全身のバネを使った方がいいやと、思い切ってジャンプ。
体全体を大きく反らせて、落ちてくるボールに合わせて水面を叩くエビをイメージしながら体を弾けさせ、力いっぱい相手コートに向けてたたきつけた。
思ったより威力が出て、相手チームの誰も反応ができずサービスエースって言うやつで得点ゲット。やった!
わたし史上初得点!
チームに貢献できたし、得点したことを他のチームメイトももっと喜んでくれるだろうと思っていたら、なんだか相手チームの人も含めてみんなぽかんとしている。
「ジャンプサーブ……しかもあの威力……」
田村君が呆然としている。
あれ、ちょっとやりすぎちゃったかなぁ……。
同じチームの澤北君が呆れ顔で聞いてきた。
「本当にバレーやったことないの?」
「正真正銘今日が初めてだよ」
「マジかよ。俺も運動神経に自信あるけど、初プレイであんな強烈なジャンプサーブとか無理だわ」
苦笑しているので、どうも少し張り切りすぎたみたい。
自分の運動神経が規格外なのは自覚してるから、あまり目立ちすぎないようにしようと思っていたんだけど、どうもそのへんの加減が難しい。
「アハハ、わたしも運動神経には自信あるし、武道のおかげで動体視力がいいからそれでうまくいったんじゃないかな」
笑って誤魔化したけど、体育館の隣半分で授業を受けている三年生女子の方々もこっちを見て大騒ぎ。
あ、あか姉もいたんだ。
なんかいつもより険しい表情でこっちをジッと見てるから手を振っておいた。
あれはどんな感情なんだろう。さすがのわたしもわかんない。
その後も試合は続き、運動神経についてはどうせすぐバレるだろうと開き直って全力でバレーを楽しむことにした。
相手チームからのボールを次々に拾って守備にも貢献。
攻撃時にはジャンプ力を活かした高い位置からの強烈なアタック。拾える人はほぼいない。
三試合して攻守ともに大活躍で、全戦全勝へと導きMVPはわたしという結果に。
隣の三年生女子は熱烈な声援を送ってくれていたけど、先輩方、授業は?




