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雪の精霊 ~命のきらめき~  作者: あるて
第2章 開花・覚醒

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第125曲 茜の想い

 より姉の卒業式は圧巻だった。


 卒業生が自分で作った衣装を身にまとい、ファッションショーのように歩く姿はすごいの一言。


 その中でもより姉の姿はひときわ目立っていた。

 本物のモデルも顔負けの美貌と、わたしより少(・)し(・)だ(・)け(・)高い164cmのスレンダーな体に赤のドレスが良く映えている。そんなより姉がまっすぐに前を見て堂々と歩く姿は衆目を集めていた。


「なんだか輝いてみえるね~」


 隣に立つひよりから、感嘆のため息が漏れる。

 卒業式は休日に行われたので、家族全員が連れ立って見に来ていた。


「小学生じゃねーんだから」


 そう言って恥ずかしがっていたより姉だけど、表情はどこか嬉しそうだったのは言うまでもない。みんな家族のことが大好きだもんね。


「すっごくキレイだよ。がんばってね」


 わたしがそう声をかけたら真っ赤になってたけど。

 だけど本当にキレイだ。卒業おめでとう、より姉。


 * * *


 より姉、すごかった。

 わたしもあんな風になれるかな。


 今日はいよいよわたしの卒業式。


 ゆきと一緒に通えた学生生活もこれでおしまい。寂しいに決まってる。

 一年くらい留年すればよかった。ゆき怒るけど。


「あか姉、卒業おめでとう!」


 そう言って祝ってくれるけど、わたしにとっては何もめでたくない。もっとゆきと一緒にいたかった。


 ゆきは進学しないと決めているし、同じ学校に通えるのもこれで最後。

 嫌だ。卒業したくない。


「もう、そんなに寂しそうな顔しないの。家ではいつだって会えるでしょ」


 そういう問題じゃない。どこでもずっと一緒にいたいんだ。


 授業中だってどれだけゆきに会うのを我慢していたか。本当なら休み時間のたび会いに行きたかった。さすがに迷惑になるからそれは自粛したけど。


 一秒も離れていたくない。それくらいゆきのことが好き。


 カメラの道を選んだのも、レンズ越しでもきらめくゆきの姿をいつまでも見ていたいから。

 スマホだってゆきの写真でいっぱいだ。どこにいてもゆきのことを感じたいから。


「寂しい」


 そう言ってゆきの制服の裾を掴んだ。


「どうしたの? 今日は随分と甘えん坊さんだね」


 そう言って頭を撫でてくれる。やっぱり優しい。

 こんな人、男でも女でもどこにもいない。優しくて、強くて、綺麗で。


 何度か同級生に告白をされたことはあるけど、ゆき以外の人にどれだけ好きと言われても全く心に響かなかった。

 みんな同じ顔にしか見えない。ゆき以外の人はみんなその他大勢。


 これだけ重症化してしまったのは全部ゆきのせい。ゆきが魅力的過ぎるのが全部悪い。責任とってね。


「無言でじっと見つめられても分かんないから。何か言いたいことでもあるの?」


 ある。


「責任とって」


「なんの!?」


 テレパシー送り続けてたのに伝わってなかった。もう少し修行しないとだ。


「ほら、もうすぐ開始の時間だから一旦教室に行かないといけないでしょ。後でまた会えるから」


 渋々離れた。もう少し、あと3時間くらいは撫でていて欲しかったのに。


「それ少しじゃないよね!?」


 今度は伝わった。テレパシー成功?


「いや、口に出てるから」


 そうなのか。知らなかった。


「それじゃ、わたしもそろそろ行くね。生徒会長が遅れるわけにもいかないし」


 そうだ。ゆきはみんなから頼られる生徒会長。誰もがゆきのことを信頼し、尊敬して、誇りに思える憧れの存在。わたしにとっても自慢の弟。

 だけどあらゆる人をその美貌で魅了してしまうのは心配。誰にも渡さないけど。


 ゆきの姿が見えなくなった。仕方がないのでわたしも教室へ向かうことにしよう。


 ホームルームで先生が何か言っていたような気がするけど、ゆきの事を考えていたら全く頭に入ってこなかった。


 時間が来て、体育館へと移動する。

 少し遠いけど、ゆきの姿が見える。それだけで少し安心するから、そばに行きたい気持ちをぐっとこらえた。


 生徒会長は在校生代表だから、迷惑をかけるわけにもいかない。


 先生たちの退屈な送辞の言葉が続く。なんでスキップ機能がついてないんだ。ゆきの出番まで飛ばしてしまいたいのに。さっさと失せろ。


 ようやくゆきが送辞を読むときが来た。待ってました。


 透き通るその声はいつ聞いても癒される。いつまでも聞いていたいから、あと2時間くらいは話してて。


 そう思っていたら、ゆきが突然手に持った原稿を投げ捨てた。来たか。


「みんなの期待の視線が痛いから、退屈なセリフはここまで! ここからは台本じゃない、わたしの言葉で先輩方を見送るよ!」


 これも待ってました。即興で語るゆきの言葉は心が籠っていて、原稿を読みながら語るセリフとは全然違いこちらの心にまで響いてくる。どうしてこんなに温かい言葉を人に投げかけることができるんだろう。


 どれだけの深い愛情を持っていれば、たくさんの人へ同時に優しくできるんだろう。ゆき以外には興味もないわたしにはわからない。


 でも知りたい。ゆきのこと、もっと理解したい。だからゆきの言葉に耳を傾け、その心に少しでも触れようとしてみる。


 ゆきは本当に願っている。同じ学校で共に過ごした生徒たちの未来の幸せを。その目に留まり、言葉を交わした人に祝福を。


 こんな人見たことない。もしかしたら本当に雪の精霊なんじゃないかと思うほどに、その心は深く、温かい。


「それじゃ、そろそろ時間だし! みんなお待ちかね、わたしの歌で先輩方の未来に祈りを届けるよ! 今日のために作った『Promising future』、聴いてください!」


 驚いた。わたしのために新曲を披露してくれるなんて。みんなのため? そんなの知らない。きっとわたしの事を思い浮かべながら作ってくれたに決まってるんだから。


 曲が始まり、澄んだ声で歌い始めるゆき。やっぱり上手い。いや、上手いとか下手とかそんな次元の話じゃない。心の奥底にまで染み渡るような声に、感情のこもった歌い方。


 聴く人すべての心を鷲掴みにするような歌唱力は、間違いなく唯一無二のものだろう。


 本当ならわたしひとりのために唄ってほしいところだけど、聴こえてしまうものは仕方がない。

 伏して拝んで聴くがよい。ゆきの生歌を聴けるこの学校に来れたことを泣いて感謝しろ。


『Promising future』直訳で有望な未来。輝かしい未来。

 その曲名通りわたしたちの未来を願って作られた歌。希望に溢れ、巣立とうとする若者たちを見守り、優しく導いてくれるような歌詞。


 ゆきの深い愛情が感じられる。こんな気持ちの時にこんな歌を唄われたら……。ダメだ、涙が溢れてきてしまう。


 周囲を見回してみると、たくさんの生徒たちが涙を流している。

 歌でこんなにも人の心を動かすことができるなんて、本当にすごい。

 わたしの隣で、友人同士が抱き合いながら泣いている。

 わたしも抱きしめてもらいたい。もちろんゆきに。他のやつなんてお金を積まれてもイヤだ。


 歌が終わってしまった。あと20曲お願い。あ、ゆきが引っ込んで卒業生代表に代わった。ちっ。


 そこからはいつもの無表情に戻り、退屈な時間を過ごした。


 あぁ、早くゆきに会いたいな。


 * * *


 なんとか役目を終えて一安心。後は卒業式が終わるのを待つだけ。


 校長先生の話も終わり、来賓やPTAからの祝辞も済んで、卒業生が退場する段になった。


 あか姉発見。向こうもこっちを向いてるけど、なんかめっちゃ凝視してくる……。ちょっとちょっと、前向いて歩きなさいってば。なんか怖いよ。



 卒業式が終わり、片付けも済んで外に出てみると、卒業生達が大挙して押し寄せた。


「感動したよ~!」「素敵な歌をありがとうね~」「涙が止まらないよ~」


 わたしの歌はしっかりと届いてくれたようで、たくさんの人が涙を流しながら感謝の言葉を口にしてくれている。


「こちらこそ、2年間、いや最初の選挙も含めたら3年分か、ずっと変わらず支持してくださってありがとうございました。先輩方のこれからのご活躍をお祈りしていますね!」


 入れ代わり立ち代わり感謝と惜別の言葉をかけてくる先輩方の相手をしていたんだけど、肝心のあか姉の姿が見えない。


 周囲を見渡してみると……いた。少し離れたところにぽつんと立って、じっとこちらを見つめている。何してるんだろ。


「それじゃ、先輩方。そろそろ姉を迎えに行きますね」


 まだ名残惜しそうにしている人たちにそう告げて、あか姉の方へと歩き出した。


「そんなところで何してるの?」


 いつもの無表情で立っていたのに、わたしが声をかけた途端にその両目から大粒の涙がぽろぽろと流れ落ちてきた。


「あか姉……」


 いやマジで無表情だな。ちょっとは感情出そうよ。だから怖いって。


「卒業式、終わっちゃったね」


 目の前に立ち、微笑みながら声をかけるとその涙の量がさらに増えていく。滝のような涙とはこのことだろう。


「イヤ、だ。もっ、と、ゆきと……一緒に、いた、い……」


 嗚咽(おえつ)をこらえながらなんとかその言葉を紡ぎ出すと、みるみるうちにあか姉の無表情が崩れていった。


「ゆきぃ~~! ふわあぁ~~~~ん!」


 大泣き。子供みたいに泣きじゃくってしまうあか姉。こんな姿初めて見た……。


「茜ちゃんが泣いてる……」「こんなに感情を出してるの初めて見た」「ほんとにゆきちゃんのこと好きなんだね」


 周囲の人も驚いている。


 わたしも驚いた。そんなに……。

 もらい泣きしそうになるのをぐっとこらえ、あか姉の頭をそっと抱き寄せ胸に抱いた。


「よしよし、そんなに寂しがってくれてるんだね、ありがと。わたしの胸でいっぱい泣いていいよ」


 わたしにしがみつき、かきむしるようにして泣き続ける。


 今までの無表情が嘘のように感情を爆発させたあか姉は、その後しばらく泣き止むことはなかった。

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