第124曲 王子様ムーブ
卒業シーズンがやってきた。まずはより姉の番だ。
さすが服飾デザインの専門学校だけあって、卒業式には自分でデザインした衣装を着て参加するらしい。
「より姉キレイ……」
試着するというのでより姉の部屋まで行って見せてもらったんだけど、思わずため息が漏れた。
赤一色で彩られたドレスは情熱的なより姉によく似合う。裾に広がるフリルも上品で、大人びた雰囲気を出している。ただ胸元はばっくり開いてるし、背中は丸出し。背中見せるの好きだなぁ。
まさかこれをわたしに着せようとか思わないよね?
「いいだろ。きっとゆきにも似合うだろうと思って作ったんだぞ」
思ってた。
「いやいや、露出が激しすぎるでしょ。恥ずかしいってば」
「なんだ、あたしが恥ずかしい恰好してるっていうのか」
そういう意味じゃない。
「わたしの性別覚えてるよね? 男がそんな露出してたらただの変態でしょうが」
「そんな可愛い顔して何言ってんだ。可愛いは正義なんだよ! ゆきがこのドレスを着たら世の男どもの視線は釘付けだぞ!」
そんな熱弁されても。男どもの視線なんていらないから。
「女でも十分に見惚れる!」
そういう問題でもない。
「なんだよー。お姉ちゃんの卒業記念の逸品だぞ。着てくれよー」
駄々こねだしたよ。もう、仕方ないなぁ。
「一度だけだよ? 何度も着るには恥ずかしすぎる」
「さすがゆきー! なんだかんだでお願いは聞いてくれるもんな! そんなとこも愛してるぞ!」
また……。最近愛情表現がストレートすぎるよ。
そのたびに顔を赤くしてるわたしもどうなんだって話だけど。
「すーぐ赤くなっちゃって。色恋は頑固に否定するくせして、そゆとこ初心だよな」
うっさい。ニヤニヤすんな。
「わたしだってそこまで朴念仁じゃないよ。想いをぶつけられれば心が揺らぐことだってあるっての」
「もっと揺らがせてやるさ」
ちょいちょい男前になるのやめてくんないかな。ときめいちゃうでしょ。
「だから恋人は作らないって言ってるでしょ。何を言われてもこの考えは変わらないんだから」
冷たいかもしれないけど、受け入れることが出来ない以上は優しくするべきじゃない。たとえ恨まれたとしても、心を鬼にして……。
「別に恋人にしてくれなんて言ったことねーだろ。気持ちを受け取ってくれたらそれでいいんだよ」
意外な返答に少し面食らってしまった。どういうことだろう。
「気持ちを受け取るって? それは恋人になるってことじゃないの?」
「ちげーよ。ただゆきの素直な気持ちをぶつけて欲しいだけだ」
それってほぼ変わんないよ。わたしだって本当はみんなのことが……。
言葉に詰まり、うつむいてしまったわたしを見てより姉が慌てて言葉を続けた。
「急かしてるわけじゃねーぞ! ちゃんとゆきが言ってた期限まで待ってるから!」
うん、わかってるよ。そんな理由で言葉に詰まったわけじゃないから。
「みんな優しすぎるよ……。わたしにはそんな価値も無いっていうのに……」
選ぶことも、決めることもできない。優柔不断で嘘つきな人間なんだから。
「自分のことをそんな風に言うもんじゃねーよ。ゆきのいいところは近くで見てきたあたしらが一番よく知ってる。だからそんな顔するな」
そう言ってわたしの頬にそっと手を添えてくれる。いちいち男前なことしないでほしい。
胸がきゅんとしてしまうわたしは、女体化だけじゃなく乙女化まで進行してしまってるんだろうか。
「なんだモジモジして。きゅんときたか?」
「きてない」
ぷいっと横を向いてしまう。こういうところも素直じゃないって言われるのかな。
「その拗ねた感じも可愛すぎるんだが。もうたまらん!」
言うや否や、頭ごと抱えて抱きしめられてしまった。あ、より姉から香水の匂いがする……。
「もう、そんなことしてもわたしの気持ちは変わらないんだからね」
「ツンデレか。いいんだよ。あたしがしたくてしてることなんだから、嫌だったら突き放せばいい」
そんなこと言われて突き放せるようなわたしじゃないって知ってるくせに。
ずるいよ。
それにイヤだなんて思うはずもないじゃんか。
黙って力を抜き、より姉に体を預けた。
「ゆき……」
わたしの背中へ回った腕に、さらに力が込められた。わたしの手がより姉の背中に回る。
「誰かと2人きりになると絶対に抱き合ってるよね~」
飛び上がるほどに驚いた。ドアの方に目をやるとそこに立っていたのはひより。
「ひ、ひより!? いつからそこに?」
「みんな優しすぎるよ……。のあたりから。何? より姉の王子様ムーブにメス堕ちしちゃったの?」
メス……! なんて言葉を使ってるの!
「どこでそんな言葉を覚えてきたの……。って誰がメスだ」
「いやー、ほっぺに手を添えられて赤くなってる様は十分に乙女だったよ?」
不覚! 兄としての尊厳がぁ!
「いいなー。わたしも王子様ムーブできるように勉強しようかな」
そんな勉強しなくていいです。
「お、それならあたしが教えてやろーか?」
教えんな。なんでより姉はそんなに平然としてるかな。
「いまさらイチャイチャしてたくらいで誰も怒ったりしねーよ。あたしら全員同じ気持ちだからな。あ、きらりと琴音はダメだぞ」
姉妹限定なのね。でもなんでそんなに達観してるの?
「そうだよ。ゆきちゃんの本音もまだわからないのに、わたし達の間で争っても仕方ないしね! みんなでゆきちゃんを愛してあげるんだ」
わたしの本音、か。
「今年中には話すよ、わたしの本音」
その言葉に驚いた表情の2人。
「いいのか? 卒業まで待つつもりでいたんだぞ?」
ありがと、より姉。でもいいんだ。
「中途半端にしたくないんだよ。兄や弟として、生徒会長として、配信者として今年中にけじめをつけておかないと。12月には生徒会長じゃなくなっちゃうし、ちょうどいいから」
じっとわたしの顔を見つめるより姉とひより。わたしの表情から真意を探ろうとしているんだろうか。
「意思は固そうだね。でもわたし達だけじゃなくって、学校やリスナーさんにもかぁ。いよいよなんのことだか分からなくなってきたよ」
「だな。何をそんなに頑なに隠してるんだか。ま、何を聞かされてもあたしらの気持ちは変わらねーけどな」
そういうわけにもいかないよ。それじゃあわたしが困っちゃう。
みんなには未来を見据えてもらわないと。
「それで、ひよりは何の用だったんだ?」
そういやそうだった。ノックもなしに部屋に入ってきたんだから、急ぎの用じゃなかったのかな。
「あ! 忘れてた。また琴音ちゃんが遊びに来てるよって呼びに来たんだった」
「ノックくらいしろよ」
「いやぁ、二人きりなの分かってたし、どんなことしてるのかな~って。案の定抱き合ってたし」
二人にとって琴音ちゃんは急ぎの用じゃないのね。
「それにしてもまだゆきに会いに来るとは。懲りねー負け犬だな」
「そんなこと言ったら可哀想だよ。届かないって分かっててもゆきちゃんに片思いしてるんだからさ」
ひどい言われようだ。不憫な琴音ちゃん。
「あたしも着替えたらすぐに行くからよ。二人で先に行っといてくれ」
「はーい」
最初はあんなに琴音ちゃんを敵視して警戒してたのになぁ。ずいぶん余裕になったもんだ。
「ゆきちゃんの正妻はわたし達だからね。部外者には負ける気がしない」
心を読むな。正妻ってなんだ。めとった覚えはないんだけど。あと部外者って。いちいちひどいな。
その後、琴音ちゃんはなんとかわたしの気を引こうとあれこれアピールしてきたけど、全部姉妹たちに笑い飛ばされて涙目になっていた。
女の人って怖い……。




