第12曲 成長期?
記念配信を無事終えてお風呂もすませたわたしは今、とてつもなく悩んでいる。
今日は記念ということもあって激しめのダンスを披露したのだが、その時から少し違和感を感じていたことがお風呂で確信に変わってしまったのだ。
さすがにこれは自分の素顔のように隠したままにはできない。なにしろ日常生活に支障が出てきてしまうくらいになっているのだから。
「こういうのを相談できるのって……。やっぱりまずはより姉だよなぁ……」
今日は配信が終わってリビングに上がってきた時点で全員部屋に戻ってしまっていたので、他の姉妹にはバレずに相談できる。
どのみち近いうちにみんなも知ることにはなるんだけど、いきなり全員に知られるのは羞恥心が勝ってしまうんだよね。
いつまでもグダグダ悩んでいてもより姉が眠ってしまうだけなので意を決して立ち上がり、二階に上がって部屋の前に立つ。
スッと深呼吸をしてからノック。
* * *
「より姉、まだ起きてる?」
「んー? 起きてるよ、どした?」
ちょうどゆきの配信も終わって他に何かいいものがないか漁っていた最中だったので、見てたのがバレたのかと思い焦ったが、何食わぬ顔で返事する。
「うん、ちょっとね、相談したいことがあって……部屋に入っても大丈夫?」
配信を見てたのがバレないように少しだけ待てと言い、一応アプリを別のものに替えて偽装工作だけはしておいた。
「どうぞ」と声をかけるといつも笑顔で入ってくるゆきがどこか恥ずかしそうに小さくなって入ってきた。
本当に何か悩んでいるみたいだ。それにしても珍しい。
基本的に完璧人間と言っていいゆきは何か困りごとがあっても人に相談することなど滅多にない。
その天才ぶりと持ち前の努力と根性で大抵の事は一人でどうにか解決してしまうのがいつものことだ。一流の人間は問題解決能力も一流なのかと思ったりする。
そのゆきがこんなに小さくなって相談してくるのだから、よっぽどの事なのかもしれないと少し身構えて続きを促した。
「うん、ちょっとね……見てほしいことがあるんだ……」
常に快活に話すゆきがすごく話しづらそうにしている。長女としてこういう時くらいは頼りになるお姉さんとしてズバッと問題解決してやりだいもんだ。
そう思って横になっていた体を起こして聞く姿勢になるとおもむろに服を脱ぎだした。
「な……なにしてんだ!? 相談には乗ってやりたいがまだお前の歳ではそういうのは早いと、お、思うぞ!」
「何言ってんの? ちょっと上半身を見てほしいんだけど……」
「じょ、上半身……? なんだ……びっくりした……」
「びっくり? 早いって何が?」
本当に分かっていないゆきの反応を見て自分が汚れた人間になってしまったような気がした。
純粋な心で悩みを告白しようとしているゆきを前に、少しの自己嫌悪に陥っているとやがて上半身裸になったゆきがこちらを向いた。
相変わらず見とれてしまうくらい美しい。
でもそれがどうしたんだろう? わからないからそのまま聞いた。
「どうしたんだじゃなくて、より姉の目から見てわたしの体に違和感ない?」
違和感どころかキレイすぎてうらやましいくらいだ。
透き通るような白さ、きめ細かい肌質に、モデルでも十分通用するだろう抜群のスタイル。
まさに芸術的とも言えるその彫刻のような体には思わず見入ってしまうほどだ。
「違和感っつってもなぁ。いつも通り肌はきれいだしウェストも細いし、胸だってうらやましいくらいの美乳じゃないか」
「……」
いつものようにニコニコしているゆきの笑顔なんだけど、心なしかこめかみがぴくぴくしているような気が……。
ちょっと怖いですよ、ゆきさん。
違和感とやらが何なのかわからないでいるとゆきの声のトーンが少し下がった。
「本当に違和感ない?」
ゆきってこんなに威圧感あったっけ?
やばい、これ以上怒らせると本当にやばい。
違和感の正体を見抜くんだわたし!
「肌……スタイル……美乳…………ん? 美乳? え? 膨らんで?」
「より姉……。今本気でわたしの性別忘れてたでしょ……」
はい、完全に忘れてました。
さすがに忘れてたなんて言うと本気で拗ねてしまいそうなので、そこは長女らしく華麗にフォロー。
「忘れてたわけじゃないぞ! ゆきがあまりにも完璧すぎて、体のラインもキレイだから違和感を感じるのに時間かかっただけだよ。それだけゆきがかわいいってこった。ナハハ」
フォローになってるようななってないような。自分でも微妙なラインだと思う。
幸いゆきはへそを曲げることなく話を続けてくれた。よかった。
「べっつっに! 性別を忘れられるなんて今更だから別にいいんだけどね!」
しっかり曲がってた。ごめんってば。
「いつ気づいたんだ?」
「違和感に気づいたのは配信中。今日のダンスは動きが激しめだったんだけど、ゆるめのインナーを着て踊ってたら、その……先っぽがこすれて痛くて……」
さすがに性的な部分ではあるから恥ずかしいのか、視線を逸らして顔を赤くしている。
くっそ、我が弟ながらどちゃくそかわいい……。
「最初は胸筋が鍛えられて出てきたのかなと思ったんだけど、お風呂に入ってよく確認したら胸筋とはまた違うなって……」
「いや明らか胸筋とはちげーだろ。もっと早く気づけよ」
「男なのにまさか胸が出てくるなんて想像するはずないでしょ! どうしよう……。これなんかの病気なのかな……」
「病気ではねーよ。男性でも女性ホルモンってのは分泌されてるからな。その分泌量が多いと稀に男性でも胸が大きくなることはあるって前にテレビでやってるのを見たことあるぞ。ただ可能性がないわけじゃないから一応病院に行っとけ」
「ホルモン……。自律神経のほうだね。わたしの場合神経系ならそういう異常があってもおかしくないか……。出てきてしまった以上引っ込めることもできないし、これどうしたらいいのかな? 病院って何科?」
さすがに産婦人科はマズイだろうな。
「病院はとりあえず内科だな。見たところBカップくらいはありそうだから、薄着になったときなんかには誤魔化せるもんじゃねーだろーなー」
「サラシを巻くとか?」
「サラシは緩んだりしたら大変だろ。スポーツブラってのがあるから明日買ってきてやるよ。明日一日は絆創膏でも貼って痛くならないようにしときな。」
「体育の着替えの時とかどうしようかな……」
「それはもう先にカミングアウトしとくしかないんじゃないか? ゆきは見た目から女性ホルモン多そうな感じだし、意外とみんなすんなり納得してくれるんじゃねーか?」
「もう、他人事だと思って」
「こんなん隠し通せるもんでもねーし、開き直ってればいいんだよ。ま、着替えはトイレか空き教室でも借りるしかないだろうな」
しかし見れば見るほどキレイだ。
決して大きくはないけどその曲線は完璧で、細いウエストへと流れるラインは見ていて変な気分になりそうだ。
いつまでも見ていたいくらいだけど、さすがに弟とはいえ異性の半裸を見ているのはこっちも恥ずかしくなってきた。
「ブラを買うのにサイズだけ測っておかないと。明日は午前中しか講義がないし、ゆきによく似合うとびきり可愛いブラを選んできてやるよ」
「普通のでいいってば! 万が一誰かに見られたら変態だと思われるでしょ!」
「ゆきのことをそんなふうに思う奴いねーよ。せっかく持って生まれてきた素質なんだから、さらに努力をするのは可愛く生まれた人間の義務だぞ」
「いや、性別を考えてよ」
「性別なんて関係ない! 可愛いは正義なんだよ! 元々可愛いんだから、たとえ男でもキレイになっていいんだよ」
「可愛いものは好きだけど……限度ってない?」
「そんなもんあってたまるか。もっと磨きをかけるためにもゆきがVtuberを卒業して顔を出すようになったら、衣装はわたしが作ってやるよ。とびきり可愛いのをな」
「より姉がデザインした服を着られるのは嬉しいな。じゃ、その時は目いっぱい可愛くしてもらおうかな」
恥ずかしそうにしながらも、可愛くされること自体は拒否しない。
こういうとこも可愛いんだよなぁ。
「まかせとけ!」
ゆきを着せ替え人形にできると思ったら今からやる気がでてきた。
磨けばいくらでも光る、何を着せても似合うような逸材だから、デザイナーを目指す身からしたらこんなやりがいのあるモデルなんて滅多に出会えない。
ましてやそれが弟なんだからやりたい放題だ、ウヘヘ。
「楽しみだけどあんまり過激なのはダメだよ。チャンネル消されちゃうし、ほどほどにね」
先に釘を刺されてしまった。
ゆきは色気あるからついつい露出の多い服を選んでしまうもんで、すっかり警戒されてる。
「善処します」
「不安になる返答やめて。じゃあ明日はお任せしちゃうけど、なるべく普通のやつでお願いね」
「へいへい」
「また適当な返事を……。でも今日は相談に乗ってくれてありがとう。けっこう不安になってたから助かった。また明日ね、おやすみなさい」
「かわいい弟の相談くらいいつでも聞いてやるよ。おやすみ」
それだけ言うとゆきは安心半分不安半分みたいな表情で出ていった。
善処するとは言ったけど、約束したとは言ってないから何を選ぶかはわたしの自由だ。
間違いなく文句は言われるだろうけど、なんだかんだ言いながらもわたし達が買ってきた服は必ず着てくれる。
たださすがにエロいのは嫌だと、最近はめっきりゆきの服を選ばせてもらえなくなってた。
久しぶりにゆきのコーディネートができる、しかも下着! ということで否が応でもテンションが上がってしまう。
ちなみに最近ゆきの服を選ぶのはもっぱら茜の役割。
無口で無表情だからオシャレに無頓着と思われがちだけど、実はうちの姉妹の中で一番センスがいい。
服のデザインにもよく意見をもらったりして、ほんとうちの妹弟はよくできた子ばっかりで嬉しい限りだ。
ゆき自身はやっぱり男の子だからかそこまで服に詳しくないので、服を買う時は必ず誰かと一緒に行く。
主に茜でたまにひよりといった具合。楓乃子が選ぶとフリフリの服ばかりを選ぶから、それもまた恥ずかしいそうだ。
ちなみにわたしが選ぶのはエロイからと門前払い。
茜は長年ゆきの服選びを担当して少しづつ可愛いコーディネートに慣れさせていき、ついにはスカートを履かせることにも抵抗をなくさせてしまった功労者、ゆきの可愛さをさらに引き立たせたMVP。
わたしもデザインの専門学生として負けてはいられない、いずれはゆきのコーディネーターをわたしの役割にするつもりだ。
二年後にやってくるゆきの素顔デビューに向けて、その美貌をさらに引き立たせる衣装を作れるよう、気合入れて勉強しよう!




