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憧れの世界は牙を剥く  作者: ならくも


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曇り空

「やっぱり人の手のはいってる料理っていいと思うんだ。」


「一体急にどうしたんだい?」


 満足気にいいながら久しぶりの料理を噛み締めているとエルドアは変な笑みを浮かべながら聞いてきた。


「いや、料理って偉大だなぁって。」


「ふむ、君は人の手のはいっている料理と言ったね。干し肉や黒パンを食べたんだろう?あれこそまさに人の手がはいっているじゃないか。干し肉なんて血抜きや塩漬け等十分手間が掛かっているじゃないか。」


「揚げ足とらないでくれます?あれは人の手がはいっているとはいえ、料理じゃなくて保存食だろ。保存に適してはいるけどあれを料理とは認めたくない。」


「腹に入れば一緒だと思うけどねぇ?」


 ……ダメだ、エルドアの感性が理解できない。そういえばエルドアはパンにジャムを塗ったものしか食べていなかった。味にはそこまで関心はないから腹持ちのいいパンだけで十分と言っていたが。


「ではなぜ私達にこんなに美味しい料理を提供してくれたんですか?」


 いいぞリーフ言ったれ。


「……なるほど、確かに僕の感性からすると干し肉や黒パンを出しても違和感はない。だが、僕はこの食事を出した……。確かに一理あるね。」


 顎に手を当てながらエルドアはなるほど、と納得して席を立つ。


「ふっ……相変わらず昔に引きずられているね、僕は。」


「何か言ったか?」


 席を立ったせいでエルドアの最後の言葉が聞こえなかった。エルドアは首を振り、廊下へ足を向ける。


「リーネを見てくるよ。食事が取れそうならいいんだけどね。」


「ちょっと思っていたんですけど、エルドアさんって不思議な人ですよね。」


 エルドアが去り、聞こえないことを確認したリーフが俺に言ってくる。


「確かにな、なんか掴みどころのないというか……。物知りで優しい、頼りになる。でもちょっと変わってるというか、いちばん気になったのはあの時の俺が先生みたいだなって言った時の反応だな。」


 エルドアが部屋に戻る前に魔法を教えて貰って俺は先生みたいだなと言った時、エルドアは一瞬だけどこか遠くを見るような顔をしていた。


「2人とも大変だよ。」


 考えているとエルドアが戻って来た。しかし、眉を顰めなにかが起こったことに俺は気づく。


「リーネが部屋に居ない。窓が空いていた。僕らの前から姿を消したようだ。」


「嘘だろ……っ、俺があの時もう少し……距離を考えていれば!」


 先程までのリラックスしていた時とは一転、机の上で俺は頭を抱える。リーネが人間嫌いなのは分かっていたじゃないか。グレイウルフ達に襲われた時にリーネは危険を顧みず俺達を助けてくれた。あの時のことで距離は縮んだと、勝手に思い込んでしまっていた。


「ユウキさん落ち着いてください。」


 俺の手をリーフは上から被せるように握り、俺と視線を合わせた。


「でも、俺がっ——」


「ちょっといいかい?」


 静かな、だが取り乱している俺にもしっかりと聞こえる声でエルドアは言った。怒っていたり、慌てていたりと、そういう声ではない。感情を見せないが、限りなく冷徹なような、そんな声に俺の乱れていた心が強制的に静けさを取り戻す。


「うん……落ち着いたようだね。リーネが姿を消した理由、それは多分僕がいるからだろうね。」


「エルドアさんが……ですか?」


「ユウキと一緒に様子を見に行った時、リーネはずっと僕を警戒していた。僕のなにかが彼女の気を悪くさせてしまったのかもしれないね。憎しみや嫌悪感、様々な負の感情が彼女の目から見て取れた。」


 思ってもいなかったエルドアの告白に疑問がひとつ浮かんだ。


「なんでそうだと思うんだ?リーネのことを知っているのか?」


「いや、彼女とは面識はないよ。それは断言出来る。リーネは人間をよく思っていないと言ってただろう?目が覚めたら知らない人間である僕がいた。もしかしたらそれで僕のことをよく思わず姿を消した。そう思うんだ。結構傷も治って動けそうだったしね。」


「……その可能性はあるかもしれないな。」


 エルドアの考察に頷く……が、それだけでリーネは姿を消すだろうか?疑問はあるがとりあえずリーネの捜索をしないといけない。


「夜の森は危険だから気をつけて……いや、この数日野宿をしていたら分かるか。」


「……もちろんです。」


 エルドアの注意にリーフは返事をするが僅かに間があった。リーフを見ると少し考えているような表情をしていたが、切り替えたのかランタンを手に取る。


 俺もリーフにならい、ランタンを持ち、閃光石をランタンの内部にセットして外に出る。


「無事だといいんだが……。」


 頬を撫でた風が不気味なものに感じた。





「二手に分かれよう。僕は一人で、君達は二人で。その方が効率がいい。」


「確かに……この辺りで強い魔物とかはいるか?」


 拠点から出てエルドアの提案に頷く。だが、リーネを助ける前に自分達が倒れたら一大事だ。ビギシティで貰った魔物の冊子にはこの辺りは強い魔物はいなかったと記憶している。だがグレイトウルフの件で痛い目を見た。念の為聞いておいて損は無い。


「うーん、ブレードマンティスにアサルトラビット。この辺りにはそんな魔物もいるね。ブレードマンティスはDランク、アサルトラビットはCランクだよ。」


「……初めて聞きますね。」


「ブレードマンティスは草むらに擬態しながら鋭い鎌で襲ってくるから気をつけて。アサルトラビットも可愛い見た目だけど2つの角と脚力が危険だ。」


 聞いておいて正解だった。両方とも冊子に載っていなかった魔物だ。おまけにエルドアが気をつけるべき部分も説明してくれたためそれを頭に叩き込む。

 

「この拠点を覆っている幻影、君達にもちゃんと拠点が見えるようにしておくとしよう。少し調整した後、僕もリーネを探してみるよ。2人とも気をつけてね。」


「あぁ、エルドアもな。」


 エルドアは一旦拠点に戻っていき、俺とリーフは森の中へ足を進める。





「リーネも困ったものだね。逃げ出すなんて。」


 幻影の調整をした後、拠点の地下に向かう。薄暗いがかなりの広さがあり、幾つもの実験器具が並び、その奥には培養液で満たされたカプセルがいくつもあり、その中では魔物が眠っている。


「今のあの子達にはこの魔物達がちょうどいいだろうね。」

 

 3つのカプセルからアサルトラビットを1匹、ブレードマンティスを2匹解放する。ユウキとリーフに注意するように言った魔物達だ。

 

「冊子には書かれていない魔物……ふっ、それはそうさ、この魔物は本来この森にはいない。」


 仕込んだ粉も効果を発揮するだろう。想定外のリーネの行動だったが、このシチュエーションも利用する。


「さぁ、行っておいで。」


 魔物達は素直に言うことを聞き、走り去る。


「今夜はいい夜になるかな?まぁそれは君達次第だけどね。」


 外に出て空の月を見上げる。灰色の雲が月を覆っている。まるでこの先のユウキ達の運命を暗示するかのようだった。

 

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