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憧れの世界は牙を剥く  作者: ならくも


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錬金術師

「助けはいるかい?」


 声のした方に顔を向けると1人の男が立っていた。銀髪で眼鏡をかけ、何匹ものグレイウルフがいるこの状況でも余裕かのように微笑を浮かべ、俺に話しかけてきた。


「誰だっ、って人間?」


「キャイン!?」


「おっと、傷付けるつもりはないよ。味方だ。僕なら制圧できるけど手を貸そうか?」

  

「あ、あぁ頼む!」


 咄嗟に声のする方に『マジックショット』を打ち込もうとするが、見えたのは人間の男であり『マジックショット』の軌道を変えグレイウルフに1発ぶち当てる。

 どう考えても絶望的な状況で救いの手が現れた。男の提案に俺は即座に頷くと、俺の前に出た男は自身の着ていたローブの内側に手を突っ込み、小さな小瓶を取り出す。中には黄色の液体が入っていて男はすぐ横にある木に向かってそれを投げつけた。


「ほらオオカミ達よ、こっちだ。」

 

 するとパリンと小瓶が砕ける音が響き、液体が木に付着する。俺の近くにいたグレイトウルフとグレイウルフ、さらに未だ男の存在に気づかずにリーネに襲いかかっていたグレイウルフまでもが鼻をすんすんと鳴らし、男に向かって走っていく。


「危ない!〈小さな火種――〉」


「大丈夫だよ。それっ!」


 男の援護をしようと『ファイア』の詠唱を唱えるが、俺の心配を他所に男はローブに手を入れ、拳大のグレー色の玉を取り出した。そしてそれを上空へと投げた。


「針?」


 玉は何か特別な機能があるのか、中から10本ほどだろうか……細くて鋭い針が出現し、まるで意志を持つかのように動いてグレイウルフを追尾し、1体に1本ずつ突き刺さっていく。


「ガッ……ルゥ……」


 グレイウルフだけでなく、グレイトウルフも針に刺さると急に脱力し、舌を伸ばしてそこでパタリと倒れてしまった。


「こんな簡単に……」


「死んではいないけどね、針の先端には触れるだけで仕込んでいる麻痺毒が出るようになっている。」


「仕留めないのk……仕留めないんですか?」


 いつものタメ口が出てしまいそうになり、口を押さえて俺は敬語で言い直した。命の恩人で見るからに歳上だしそういう所はしっかりとした方がいいだろう。

 

「はは、別に敬語が苦手なら無理しなくてもいいよ。それよりも、あそこにいる2人は君の連れかな?見たところ2人とも……特に獣人の子はかなり傷付いているけど僕の拠点で手当てをしてあげようか?」


「っ、そうだリーフ、リーネ大丈夫か?」

 

「えぇ……私は何とか」


 声をかけるとリーフは木にもたれかかりながら疲れた表情で返事をしてきた。俺は駆け寄ってリーフに肩を貸し、立ち上がらせる。


「リーネは大丈夫か?」


「っ……」


「リーネちゃん!」

 

 木に激突して倒れていたリーネはよろよろとしながらも立ち上がろうとするが打ちどころが悪かったのか崩れ落ち意識を失った。


「おや……意識を失ったようだ。ちょっとした応急処置ならできるがどうする?」


 こういった場面に慣れているのか意識を失ったリーネの顔や露出している肌を見ながら落ち着いた口調で俺に聞いてくる。


「た、頼む。リーネは大丈夫なのか!」


「落ち着きなさい、これを打てば少しは良くなるはずだ。」


 俺とリーフに落ち着くよう促し、懐から赤いポーションと注射器を取り出した。注射器でポーションを吸い上げそれをリーネの腕に刺してポーションを注入した。

 

「これでよし、次は君だ。」


 男はリーフに声をかける。


「君はおそらくケイブスパイダーの麻痺毒に侵されているね。となると、これを飲むといい。」


「あ、ありがとうございます。」


 男は水色のポーションを取り出し、リーフに渡そうとする。だが満足に動けないようで俺が変わりに受け取り、リーフの口にポーションを近付けた。


「凄い、痺れが一瞬で……」


 ポーションを口にして10秒ほどで痺れが取れたのか俺が肩を貸さずともリーフは一人で立てるようになった。リーフは驚きで目を見開き自分の体の状態を確認する。


「ふむ、効果はちゃんとあったようだね。」


「色々とすまない。ユウキ•ツキモトだ。」


「私からもありがとうございます。リーフ•クレインです。」


「いやいや、困った時は助け合いだよ。僕はエルドア•ラッセン。ちょっとした錬金術師さ。」


 リーネを担ぎ上げながら俺達は自己紹介すると、エルドアも自己紹介を返してきた。

 エルドアが言った錬金術師、日本にいた頃の知識を思い出す。大釜に様々な素材を入れ合成しアイテムを作り出す者。それがオレの知っている錬金術師だ。 


「錬金術師ってことはグレイトウルフ達を眠らせたのもポーションもエルドアが作ったのか?」


「そうだよ。僕は錬金術で作ったアイテムで基本的に魔物の相手をしている。と言っても普段は研究ばかりやっていてあまり外を出歩かないんだけどね。偶然今日は在庫を無くしていたから出てきたんだ。運が良かったね。」


 そう言いながら無詠唱で『マジックポケット』を発動しそこからバックを取り出した。バックに触れながらグレイトウルフとグレイウルフに触れると、バックに吸い込まれていった。


「それも?」


「そうだよ、僕が作ったアイテム。バックに触れながら対象となるものに触れると勝手にバックの中に吸い込んでくれる。しかも見た目以上に容量もあるし重量も変化しない。簡易的な『マジックポケット』をアイテム化したものといえばいいかな。」


 そう言って『マジックポケット』内にバックをしまい、手招きした。


「その子の治療もしたいだろう?さっきも言ったけど僕の拠点に来るといい。」


「どうしてそんなに助けてくれるんだ?言っておくが俺達金とかはあんまりないからな?」


 あまりにもこっち側が得しすぎて少し怪しく感じ、エルドアにそう尋ねる。


「困った時はお互い様だよ。さっきも言っただろう?」


 答えはシンプルだった。そんな上手い話があるのかと視線を彷徨わせているとリーフが目に留まる。


「……どこにも優しい人間ってのはいるもんな。」


「?」

  

「俺は賛成だな、リーフはどう思う?」


「幸いにも早めにビギシティを出たおかげでまだ余裕はありますし、ここはお願いしたいですね。」


 少し余裕を持ってビギシティを出てよかった。王都に着くのは少し遅れるが、ここはエルドアの拠点に行った方がいいだろう。


「よし決まりだね。近くにブラウンホースがいたけど君達の馬だろう?」


 俺はエルドアの言葉にこくりと頷き、馬を呼び出すための指笛を吹いた。


「……ブルルッ」


 数十秒後木々の間から馬は現れる。しかし警戒しているのか耳を立て、目をキョロキョロと動かしている。


「グレイトウルフ達の襲撃があったもんな。そりゃあ警戒するか。大丈夫だ、もう安全だぞ。」


 俺がそう話すと人の言葉が分かるのか、その言葉にピクっと耳を動かし、強ばっていた身体から力を抜いた。


「また頼むぞ。」


 首筋を撫で、俺はリーネを荷車に乗せる。


「4人……乗れるでしょうか?」


 この場にいるのは計4人。流石に1人増えると馬が大変ではないかとエルドアに視線を向けながらリーフは思考しているようだ。


「あぁ、僕は大丈夫だよ。普段から体は動かしているからね。ただ少しゆっくり歩いて貰えると助かるかな。」


 リーフの視線に気づいたエルドアは笑みを浮かべそう言った。ここはエルドアの言葉に甘えた方が良さそうだ。

 感謝の言葉を言いながら俺達は馬に乗り、エルドアの拠点を目指し歩き始めた。



 

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