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魔道具エンジニアによる異世界革命〜魔改造済みにつき魔王はご主人様に逆らえません〜  作者: マシナマナブ
第五章 黄昏編

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世界を蝕むもの

 そして、メリーは硬い表情で続ける。


「ご存知かもしれませんが、ニブルヘイムは日に日に寒さが厳しくなっています。極限(フィンブル)の冬と呼ばれる現象です。このまま気温が下がり続ければ、寒さに強い未人とはいえ、いずれ暮らせなくなるでしょう。生活圏を徐々に南下させていくしかありません。ですが、南東にはヘルヘイム。寅人の縄張りに踏み込むことはできません」


 その言葉には、彼女がこれまで何度も思案を重ねてきた跡がにじんでいた。


「もしヘルヘイムを越えてアースガルドへ移れるのであれば……確かに理想的ですわ。ですが、未人の大移動は本当に現実的でしょうか。段階的に進めるとしても、最終的には何十万という数になります」


 慎重な問いだった。未人という種族の未来の話だ。俺はそれを正面から受け止める。


「俺たちは、作物が育たず、誰も住めないと言われた広大な荒地を、魔道具で改良して暮らしている。人手さえあれば、まだ拡張の余地も十分にある。受け入れは可能だ」


 そして、その計画を進めるためには無視できない問題もある。


「だが――その話を進められるのは、プラティナスの件を片付けてからだ」


 その瞬間、メリーの表情が陰る。


「だとすれば……やはり難しいと言わざるを得ませんわね」


 そして、静かに告げた。


「お気づきでしょう。皇帝プラティナスさんこそ、大魔王ニーズその人です。あなた方では、ニーズさんには勝てません」


 声は穏やかだが、強い意志が込められていた。


「大魔王という存在は、それだけの重みを持つのです。アースガルドへの移住の件、私はニーズさんに直接願い出ることもできます。承諾される保証はありませんが、可能性はあります。今あなたに賭けるか、ニーズさんに賭けるかと問われれば――私はニーズさんを選びます。未人全体の運命がかかっているのですから」


「なるほど」


 悔しいが、筋は通っている。

 結局は、俺の力不足だ。


「大魔王ニーズとは、一体何者なんだ?」


 俺の質問に、メリーは言葉を詰まらせる。


「本来であれば、敵対する方に明かすべきことではございませんわ。ですが……情けをかけていただいたせめてもの誠意は、こちらも示すべきでしょう。ただし……」


 そこで、少し意地悪そうな視線になった。


「後日、万が一、情報漏洩の責を問われた場合は、魔道具で恥ずかしい拷問を受け、やむなく口を割ったと主張せざるを得ないでしょう。それでもよろしければお話ししましょう」


「ああ。それでいい」


 軽口の奥にある覚悟と、俺は受け取った。

 メリーは息を整え、語り始めた。


「大魔王ニーズ。正式名称、ニーズヘッグ。彼は遥か古代の辰人です」


 竜の鱗と翼を持つ種族、辰人。

 ムスペルヘイムの魔王ファフニルも、同じ血筋だったはずだ。


「ニーズヘッグじゃと?」


 エルマの声が割って入る。

 彼女の声には緊張と好奇心の両方が宿っていた。


「かつて『世界を蝕むもの』と恐れられ、アールヴヘイムの神々によって封じられた魔王……あのニーズヘッグか?」


「はい。そのようです」


 メリーは静かにうなずく。


「だとすれば……ノルンにも匹敵する存在じゃな」


 空気が、重く沈む。


「そいつは昔、何をしたんだ?」


 俺の問いに、エルマは厳かに答えた。


「世界を支える骨格――別名ユグドラシル。ニーズヘッグは、上位の世界と下位の世界を繋ぐその骨格を蝕み、そこから力を奪おうとしたのじゃ。その結果、上位世界のアールヴヘイムは崩落寸前にまで追い込まれたという。慌てたアールヴヘイムの神々が総力を挙げて封じた……それが伝説じゃ」


 世界を蝕む存在……話の規模が一段と跳ね上がった。

 メリーが補足する。


「ニーズさんは、アールヴヘイムの件を今も忘れていないようですわ。だからこそ、その復讐のため、魔王から大魔王となり、アースガルドの魔道具に目をつけた……ということのようです」


 上位の世界の神々に抗うために、アースガルドを乗っ取ったというのか。

 大魔王ニーズ、予想の遥か上にいる。

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