革新魔法
「革新魔法は、何ができるんだ?」
俺はエルマに問う。
「革新魔法は、常識を裏返す魔法じゃ。何かを呼び出したり、力を放つものではない」
エルマが手をかざすと、俺も先ほど頭に刻み込んだ、革新魔法の魔法陣が浮かび上がった。
「ほれ、儂に向かって石を投げてみるがいい」
「いいのか?」
躊躇いながらも、俺は足元の石を拾い、エルマへ放る。
『空間⭐︎反転』
エルマが力を込めた次の瞬間、石がその魔法陣に弾かれたように見えた。
俺の手を離れた石が、投げた軌道をなぞるように、逆向きで戻ってくる。
「いてっ」
そして俺の額に直撃した。
「進行方向を反転させれば、この通りじゃ。他にも訓練次第で様々なものが反転できる」
エルマは淡々と説明し、他にも幾つか簡単な例を見せてくれた。
一見地味な魔法にも見えるが、その応用範囲は計り知れない。
常識と思い込んでいる法則が、反転できる。
これは、使い方次第で、世界さえ変わる。
確かに――革新だ。
◇ ◇ ◇
長く刃を交えてきた亥人と丑人は、魔王モレクの撃退により、ようやく手を取り合うことができた。
丑人に奪われていた亥人の縄張りはすべて返され、必要な土地は共有するという形で、双方は合意した。
丑人たちはモレクに従わされていただけで、元来、好戦的な種族ではなかったようだ。
和解を祝う宴は三日三晩続いた。昨日まで睨み合っていた者同士が、酒を酌み交わし、今やすっかり意気投合している。
宴の最後、皆の前にグリンが進み出た。
「魔科学術師よ。オレぁあんたに借りが多すぎる。鋼の作り方を教わり、モレクを倒してもらい、命まで救われ、鉱山まで取り戻してもらった。何も返さねえままじゃ、筋が通らねえ」
拳を握りしめ、まっすぐ俺を見る。
「聞けば、あんたにはまだ大きな仕事があるらしいな。なら決めた。オレはあんたの下につき、手助けをする。それくらいして、ようやく釣り合う」
他の亥人たちも、それを聞き頷いていた。
「俺は目的だった古代魔法を手に入れた。それで十分だ。そこまで恩を背負わなくてもいい」
俺はそう返したが、グリンは首を振る。
「それじゃあオレの気が済まねえ。それにな、あんたについていけば、まだ知らねえ世界が見られるんじゃねえか、そんな打算もある。だがな、それ以上に――あんたを助けたい。それが本音だ」
顎で周囲を示す。
「見てみな。他の亥人も、丑人どもも、同じ顔してやがる」
振り向けば、大勢の巨人たちがこちらを見ていた。
俺に救われたと信じている者たちの目――。
いや……その視線は、俺ではなく、別の人物へと吸い寄せられているようだ。
火の明かりに照らされた、巳人の少女。
ミーアだ。
どうやら慕われているのは、俺というより――あいつらしい。
「最近のミーアは、本当にしっかりしてきたよな。人望もある」
「ご主人様、もしかして気づいてないのかにゃん?」
隣で、リリィが肉を頬張りながら聞いてくる。
「解析で見れば一目瞭然にゃん。ミーアはもう、あの能力に目覚めてるにゃん」
「あの能力?」
「巳人の女が得意とする――『魅了』にゃん。他者の心を引き寄せ、自然と従わせる力にゃん」
「……は?」
思わず間の抜けた声が漏れた。
あの純粋無垢なミーアが、他者を魅了する?
だが確かに、皆の視線は彼女へ集まり、彼女の言葉で動いている。
おそらく本人は無自覚でやっているのだろう。
悪気はないとはいえ……兄としては、少しばかり複雑だ。
「このままいけば、ご主人様より配下が増えそうにゃんね」
リリィが意地悪く笑った。
「理由が何であれ、味方が増えるのは悪くない。儂らの相手は大魔王であり、皇帝じゃ。一筋縄でいく相手ではないからのう」
エルマの言葉に、反論の余地はない。
巨人たちの協力には、確かな重みがある。
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