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魔道具エンジニアによる異世界革命〜魔改造済みにつき魔王はご主人様に逆らえません〜  作者: マシナマナブ
第五章 黄昏編

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微笑の悪夢

 微笑の悪夢(メリーナイトメア)――メリーの白い髪がふわりと持ち上がった。

 風ではない。魔王と呼ばれるに相応しい魔力が内側から吹き上がり、髪に満ちているからだ。


「私の邪眼は派手ではありませんが……なかなか強力なんですよ」


 瞳孔が、針のように細まる。

 金と紫を溶かした虹彩が静かに揺れ、焦点が定まった瞬間、エルマの呼吸が乱れる。


「……いかん、この眠気は……」


 声が鈍る。がくんとエルマの膝が沈み、肩から力が抜けていく。

 眠りの状態異常か。

 だが、『状態異常無効(極)』の加護のある俺には、眠りの状態異常も効かない。


「至れ、我が工房。顕現せよ――魔道具七番、改!」


 俺は改造したヒトジゴク、魔王さえも捕えるマオウジゴクを呼び出した。

 強力な引力が解き放たれる。

 メリーはそれに取り込まれぬよう、ひらりと身を翻し、俺たちと距離を取った。

 邪眼がマオウジゴクに遮断され、エルマの意識がかろうじて引き戻される。


「あらあら。私の『魔夢(まむ)邪眼』は、魔王さんでも抗うのは難しいのですけれど……魔科学術師(トリックスター)さんには効かないの、残念ですわ」


 メリーは念動魔法でマオウジゴクの引力を打ち消しながら、複数の魔法陣を空中に浮かべた。

 彼女もエルマと同じ、多重魔法の得意な優等生魔法使いタイプか……


「助かった。儂としたことが、危うく眠りに沈むところじゃった。厄介な眼よの」


 エルマも呟きながら体勢を立て直す。

 メリーの邪眼の効果は『眠らせる』という、ただそれだけだとしても、戦場で眠った瞬間、勝敗は決まる。

 魔王でさえも抗えないとしたら、確かに恐ろしい邪眼だ。

 そこでふと思い出す。

 磔にされているリリィとグリン。あの二人も眠りに落ちている。

 あれもおそらく、メリーの能力によるものなのだろう。


 メリーはマオウジゴクの外縁を正確に見切り、間合いを崩さない。

 周囲の丑人たちも動き出した。

 槍と斧を一斉にこちらに構え、こちらに近づいてくる。


「裏切り者は炙り出せたが……状況は最悪じゃの」


 エルマの声は静かだが、重い。


「こちらは儂とお主のみ。あちらは魔王二人に丑人の群れ。しかもモレクの底は、いまだ見えぬ」


 数で劣っている上に、相手は俺たちの対策を他にも仕込んでいるに違いない。

 正面から踏み込めば、遺跡のときよりも不利になる。

 だが、磔台に括られたリリィの命がかかっている以上、退くという選択肢もない。

 ならば、どうやって、この包囲を崩す――。


「お兄ちゃんっ……すみません……お待たせしました……!」


 まさにその時だった。

 張り詰めた戦場に希望を灯す、その声が飛び込んだ。


 ミーアだ。


 肩で息をしながらも、その瞳は冴えている。

 そして、彼女の背後に広がるのは、武装した亥人の群れ。

 怒りと覚悟の滲む幾百の視線が丑人へと向けられている。


「ミーア、無事だったのか!」


「はいっ」


 ミーアは胸に手を当て、乱れた呼吸を押し込んだ。


「先の戦いで、仲間の皆さんは次々と眠ってしまって、私もあと少しで沈みかけました。でも……このままでは終われないと思って、自分の尻尾で自分を弾き飛ばして……逃げました……すみません、すみません」


 よく見れば、ミーアは傷まみれだった。自分の痛みなど顧みず、戻ってきてくれたのだ。


「それで……グリンさんが捕らえられたって……皆さんに伝えました! そしたら、亥人の皆さん、来てくれたんです!」


 助かった。

 これだけの亥人がいれば、丑人の群れは抑えられる。ミーアの戦力も無視できない。


「それにしても……あの眠りの力が、メリーさんだったなんて……」


 動揺を押し殺しながらも、ミーアの瞳が怪しく閃く。メリーに向け、石化邪眼が走る。

 メリーはふわりと身を翻し、石化の光が空を掠めた。

 すかさずメリーも魔夢邪眼で応戦する。亥人たちが、一人また一人と眠りに堕ちていく。

 眠りと石化の視線が空中で交差する。


 この状況で俺たちが切り崩すべきは――本丸。モレク。

 俺たちが意識を向けた、その瞬間だった。

 モレクが踏み出す。

 岩盤が沈み、足元に放射状に亀裂が走った。

 次の瞬間、視界から消えていた。

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