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魔道具エンジニアによる異世界革命〜魔改造済みにつき魔王はご主人様に逆らえません〜  作者: マシナマナブ
第五章 黄昏編

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白と黒

 悲鳴すら許されず、圧倒的な質量に叩き潰されたそれは、完全に地面に沈み込んでいた。


「あらあら……これではもう……絶対に、絶(メー)


 メリーは変わらぬ穏やかな笑みを湛えていたが、そこには影も落ちていた。


 丑人たちの視線は、彼女に集まっているが、誰も動こうとしない。


「最も欲しいと思えるものは、同時に、最も危険であるもの……」


 磔台から目を逸らさず、メリーは自らを納得させるように続けた。


「可能なら、あなたとの旅を、続けてもよかった。そうすれば、私ももう少し『自由』であると錯覚できる時間を過ごせるでしょうから。でも……これは仕方がないことなのです。これが、私の使(メー)


 メリーは胸の前で両手を組み、指を絡ませた。


「何がお前の使命なんだ?」


「何がって、それは、魔科学術師(トリックスター)さんを――」


 そこまで答えて、メリーの肩がわずかに跳ねた。

 彼女の動きが完全に固まる。

 そして、声のした方に、首だけをぎこちなく向けた。

 その視線の先に立っていたのは、俺とエルマだった。


「そ、そんな……どうして……だって、さっき、確かに……」


「モレクに潰されたあれか?」


 エルマが磔台の方を鼻で指し示す。


「あれは、儂の擬態の魔法で姿を似せた岩じゃ」


 よく見れば、磔台に血の痕跡などはない。

 メリーの呼吸が乱れた。


「さっきの丑人たちの反応……あまりに早すぎたと思わないか? まるで、転送の瞬間を、正確に知っていたような動きだった。そう考えると、メリー。お前のさっきの叫びは、注意を引くというより――転送開始の合図のようにも見えてこないか?」


 メリーの合図と共に、磔台を中心に展開された丑人たちの即応結界と、モレクの一撃。

 もうこれは、事前に計画されていたとしか思えない。


「そしてあの作戦は、お前の発案だ。この作戦を事前に共有できた者がいるとすれば――お前しかいない」


 遺跡での戦いも同じ。

 俺たちの動きは、完全に読まれていた。

 内部に裏切り者がいると考えれば、すべて繋がる。


 鉱山での壊滅も説明がつく。

 魔王一対三におまけにミーア。この圧倒的な戦力差では、いくらモレクが強いとしても、こちらの完全敗北はさすがに考えにくい。

 だが、仮に、その中の魔王一人が裏切っていたとしたら……

 魔王ニ対ニとミーア。

 戦力は一気に均衡する。


「やっぱり……お前が裏で糸を引いていたんだな」


 俺は断定した。

 メリーはすぐには答えず沈黙を続けていたが、やがて、観念したように、細く息を吐いた。


「あらあら……疑惑を検証するための芝居だった、というわけですか」


 その瞬間、メリーの目から柔らかな色が消えた。


「ですが、もし私が本当にあなた方の協力者だったなら……あなたは、冥府の女王(ヘルクイーン)さんと金色の豪鬼(ゴールデンオーガ)さんを救える唯一かもしれない機会を、自ら潰したことになりますよ? どこで、そこまで私を疑われたのです?」


「ああ、それはな」


 俺は迷わず答える。


「ミーアの説明の時だ。お前、『モレクとの力量差を悟って早々に離脱した』と言ったよな」


 そこでほんの一瞬、メリーは視線を外した。


「ミーアは、魔王が相手でも真っ先に逃げ出すような奴じゃない」


 俺はミーアのことをよく知っている。自己肯定感は低いが、決して臆病ではない。

 だからこそ、その一言だけは嘘だと感じた。

 だが、あれがメリーの嘘だとしたら、ミーアは今、どこで、何をしている……


「……そうですか」


 メリーは静かに目を閉じた。

 そして、再び開いたとき、そこにあったのは迷いを切り落としたような、澄んだ色だった。


「あなたは……思っていたよりずっと厄介でしたね。これまでは、あなたは魔王なのに善良で、人を疑うことなどしないと思っていました」


 俺は淡々と答える。


「それは買い被りだ。俺はバグを潰すためなら、何だって疑う。エンジニアだからな」

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