公開処刑の罠
公開処刑――その場で命を奪われなかっただけまだ良かったと、理屈ではそう判断することもできる。
だが、胸の奥は少しも軽くならない。
まさか、あのリリィが群衆の視線に曝され、処刑される光景など、俺は想像すらしたくない。
「力を誇示するためでしょう。つまり、亥人の皆さんへの見せしめ……」
メリーは両手を胸の上で組んだ。
「それと同時に、儂らを引き寄せる餌かもしれんな」
エルマの言う通り、これが罠である可能性は高い。
丑人たちは、こちらが動くことを前提に準備を整えているはずだ。
「さて、リバティ、どうする?」
エルマの問い。もちろん答えは一つしかない。
「助ける」
俺たちが行かなければ、二人は確実に処刑される。
それなら、罠であろうと、行くしかないだろう。
◇ ◇ ◇
俺たちはメリーの案内で、鉱山近くの処刑場へ向かった。
そこは岩盤を削り出した広場で、視界は開けていた。こっそり近づこうとしても、隠れる遮蔽物はほとんどない。
大勢の丑人たちがその場を守っている。
そしてその中央に――魔王モレク。
遺跡で対峙したはずの巨体が、静かに立っていた。
そして磔台には、金属製の十字架に、太い鎖で拘束された二つの影。
黒と金の髪を風に揺らすリリィ。
その隣、傷だらけの巨躯グリン。
処刑の準備は、すでに整っているように見えた。
二人ともぐったりと力を失い、頭を垂れている。
「メリー、あの二人は大丈夫か?」
「あらあら、おそらく気絶しているだけです。まだ生きていますよ」
遠目に観察する。確かに呼吸はありそうだ。
しかしさらによく見ると、リリィは普段の幸せそうな寝顔をしているようにも見える。
「……リリィ、寝ているだけに見えなくもないな」
「あらあら。もし本当に寝ているなら、とんでもない胆力と言えますわね」
冗談ぽくも聞こえるが、笑える状況ではない。
「さて、どうする? 正面から踏み込むのは自殺行為だ」
「うむ。あれだけ数を並べられてはの。飛んで火に入る虫けらの仲間にはなりたくない」
「あら、それでしたら――このような作戦は、いかがでしょう?」
メリーが静かに一歩、前へ出た。白い毛並みが風に揺れる。
「まず、わたしが注意を引きましょう。その瞬間にエルマさんが転送魔法を使って磔台の直下へ移動し、十字架を切断。拘束者を回収し、即時再転送というものです」
メリーの即興の作戦なのだろうか。確かに悪くない。俺たちの能力をよく理解した作戦だ。
俺の強化済み魔法サーキュラーソーなら、あの金属柱も断てるだろう。
「うむ、二度の転送か。儂なら三秒で終えられる」
エルマがわずかに目を細め、俺と視線が交差する。
そこでエルマが俺に小さく耳打ちをした。
「分かった、師匠」
作戦を正しく共有した俺たちは覚悟を決める。
「では、五秒後に始めますわよ」
メリーは静かに数え始めた。
五、四、三、二、一……
次の瞬間、メリーは丑人たちの前へ躍り出て、大きな声で叫んだ。
「あらあら――私ったら、もう絶体絶命ェェェ!」
丑人たちの視線が一斉に注がれる。
その刹那、エルマが転送魔法を発動。
磔台の直下に、二つの人影が出現した。
このタイミングなら、誰も気づかないはず……
ところが、それを見計らったかのように、磔台を中心に、幾何学的な紋様が展開される。
これは、大勢の術者による強力な結界……これでは、転送経路が遮断され、鳥籠の中に閉じ込められたことになる。
つまり……俺たちの動きは今回も全て読まれていた。
間髪入れずモレクが跳躍し、巨大な斧が振り下ろされる。
回避不能。俺たちの身体は粉砕され、原形を失った。
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