ヨトゥンヘイム
新たな古代魔法を求め、俺たちは東の大陸――ヨトゥンヘイムへ足を踏み入れていた。
アースガルドのある偉大なる大地から海を隔てた、巨人の大地だ。
かつてこの地を踏んだことのあるエルマの転送魔法を頼りに、ヨトゥンヘイムへ侵入した俺たちはすぐに悟った。
ここは、想像をはるかに超えた場所だ。
ずしん!
頭上から落ちてきたのは、俺の胴体ほどもある松ぼっくりだった。
地面に叩きつけられた衝撃が、鈍く足元を揺らす。
見渡せば、樹木のすべてが規格外の大きさだ。
幹は天にそびえる塔のようで、見上げても全体像が掴めない。
「さすが巨人の大地というだけあって、スケールが違うにゃん。矮小なご主人様には、刺激が強すぎるかもしれんにゃんね」
リリィがなぜか上から目線だ。まあ、俺が圧倒されているのは確かだが。
「原始の自然って感じだな……恐竜が出てきても不思議はないな」
「竜もおるぞ。ほれ」
エルマが空を指さした。
雲の切れ目を縫うように、翼を広げた巨大な影が流れていく。
「風竜と地竜は、この大陸では珍しくはないぞ」
風竜は、空を制圧する翼竜。絶対的な捕食者だ。
地竜は、地を踏み鳴らす巨大な爬虫類。こちらはまさに恐竜のイメージに近い。
「わわわ……あの大きさ……食べられたらどうしましょう……私なんて、『大して栄養にもならないおやつ』みたいなものです……」
ミーアが両手で頭を抱え、ポリポリ食べられているところを想像して震えている。
「確かに竜も厄介じゃが、この厳しい土地を生き抜いておる、亥人も丑人も、侮れん。油断するでないぞ」
エルマの言葉に、自然と背筋が正された。
ヨトゥンヘイムに暮らす巨人たち。
オークとも呼ばれる、猪の頭部を持つ亥人。
ミノタウロスとも呼ばれる、牛の頭部を持つ丑人。
その体躯は、この大地の環境に適応した結果なのだろう。
「あらあら、到着早々、手荒い洗礼ですわね。油断への戒め、というところかしら」
成り行きで同行することになったメリーが、穏やかにまとめた。
俺たちの最初の目的地は、古代魔法の一つ――創造魔法が眠る、『アナンタ古代遺跡』。
「アナンタの遺跡は、亥人どもの縄張りじゃ。できれば、事を荒立てずに済ませたいところじゃな」
俺たちが遺跡にたどり着くと、エルマの懸念は的中。遺跡は亥人たちによって守られていた。
厚い毛皮に覆われた巨体を揺らし、槍や斧を軽々と携えて周囲を巡回している。彼らにとってもここは大切な場所なのかもしれない。
揉め事を避けるため、俺たちはエルマの迷彩魔法に身を包み、その警戒をすり抜けて、静かにアナンタ古代遺跡へ忍び込んだ。
遺跡内部は薄暗いが、これまで踏破してきた古代遺跡と同じような、薄く光を放つ壁で構成されている。
内部に亥人の姿はないようだが、守護者は、ここにも待ち構えていた。
俺たちの姿を認めるや否や、侵入者を排除する力が、容赦なく振るわれる。
斥力と引力の念動魔法、あらゆるものを焼き切る熱線。
もっとも、今の俺たちにとって、守護者は大きな障害ではない。
問題は――音だった。
熱線が炸裂する衝撃音が反響し、静寂を破った。
案の定、外を守っていた亥人たちが、こちらの動きに気づいたらしい。
ざわめきと共に、足音が遺跡内へなだれ込んでくる。
「まずいな……」
だが、立ち止まる選択肢はない。
俺たちは次々に出現する守護者を手早く蹴散らし、そのまま足を進めた。
目指すは、『古代の叡智』が眠る、遺跡の最深部。
やがて、行く手に巨大な扉が姿を現す。
扉一面に刻まれていたのは、巨大な蛇の彫刻だった。太い胴体が幾重にも折り重なり、扉全体を覆っている。
おそらくこの奥に、目的のものがある。
――その瞬間。
ずどん、と空気を叩き潰すような衝撃。
目の前に、巨大な影が落下した。
見覚えのある逆立つ金色の鬣。
筋骨隆々の巨体から放たれる圧は、まるで地獄の門番を思わせる。
薄暗い中でも俺には分かった。
彼こそ『金色の豪鬼』の異名を持つ、亥人の魔王――グリン・ブルスティだった。
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