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第4章 邂逅(7)前編

13

「それで、それ以外の戦況はどうなっていた?」

つまり、竜族の生き残りはどのぐらいいるのかということだ、とルシアスが質問する。


「そもそも竜族は先の内紛で個体数が激減してしまった。その時で約80人だったから、今残っているのは30人足らずというところだろう。竜族は個体の寿命も長く、生命力も高い。そのうえ魔法力も高いため、おそらく、多重世界中最強の種族であることは間違いないといえよう。しかしそれが仇となることもある。個体の能力が高いため数を増やさなくていい、いや、増やすことができないと言った方が正しいか」

 

 つまり、それだけの戦闘力を維持するためには膨大な魔素が必要となり、増えすぎると個体数に対して魔素の供給が不足するのだという。しかるに、これまでで最大人数になったとしても300人あたりが限度であった。それ以上増えると魔素が枯渇しかねない。


「それで、内紛前までは250人以上は増えないようにと繁殖抑制措置がとられていたのだ。そもそも竜族は頻繁な繁殖は行わないため、それはそれほど難しい問題ではなかったのだが……」

ゼーデがそこまで言ったとき、ルシアスが割って入った。

「一度激減するとすぐには戻らない。そのタイミングでやつらが現れた。個体の戦闘力が高かったとしても、各個集中砲火を浴びればさすがに消耗する。そうして徐々に押し込まれた、というわけか」


「そのとおりだ、先の内紛がこのような形で尾を引くとは。つくづく愚かな行いであったと後悔してももう遅い」

ゼーデは悔しさで身震いしながら次の言葉を絞り出した。

「竜族の世界は、もう取り返せないだろう……。こうなってはせめて、『柱』だけでも守らなければならない」


 一同はしんと静まり返った。

 

 私には難しいことばかりであったが、その話の大筋は何となくつかめた。

 つまり、『世界の柱』なる宝珠が破壊されると、竜族の世界も人族の世界も、そしてほかにも存在するだろう未知の世界もすべて消えてなくなってしまう。

 その前に『柱』を手に入れて、人族の世界へと避難させることで急場はしのげる。

 やつらなる異形の軍勢がその『柱』を手中にするまでにもう1年程しか時間はない。

 

 ただ一つ、疑問が残る。


「ヴォイドアーク公、もし仮にやつらより早くその『柱』を手に入れて、こちらの世界へ避難させられたとして、そのあとやつらはどうするでしょうか? 私が思うに、そこであきらめるとは到底思えないのです。つまり、次はこの世界への侵略を開始することになるのではないかと……」

私は率直に疑問に思ったことを口にしてしまった。


「俺もよくわかんねぇが、アルの言う事はおおむね間違っていないと思うぜ」

レイノルドが同調する。


「ふ……、その通りだな。竜族の世界から『柱』の存在が人族の世界へ移ったとしたら、間違いなく次はこの人族の世界がターゲットになるだろうな」

ルシアスがきっぱりと言い切った。そのうえで、こう続けた。

「その兆しはすでに見え始めている。おそらく、竜族の世界にあらわれた異形の軍勢というのは、こちらの世界にも表れているやつらと同じ者たちだろう。すでに相手も手を打っているってことさ」


 話は全て理解した。こちらも人族世界の存亡をかけた戦いとなるだろう。王都に戻ってルトと話をする必要がある。ゼーデよ、そなたにも王都へ同行いただこう、もう体の方は大丈夫なのか? と最後にゼーデを気遣った。


 ゼーデは、是非もなし、そのためにここまで来たのだと答えた。


 話は一応まとまった。このあとはゼーデと共に王都へ戻ってガルシア王を交えて今後の策を練ることになるだろう。


 アリアーデはいつもの快活な様子は消え失せ、意気消沈してしまっている。それもそうだろう、帰るべき故郷を失ってしまったかもしれない上に、父君が危険にさらされているのだ。


「先ほど意見を述べた君、名前は何と言ったか、()()封印をかけられているようだな」

とゼーデは唐突に私に向かって言った。


 と、その言葉にこの広間にいる何人かがぴくりと反応した。

 アリアーデと私、アナスタシアとレイリア、そしてそのとなりでじっと先ほどから黙って聞いていた少女の5人だ。


「今、『()()』とおっしゃいましたか?」

私は再度聞き返した。


「ああ、そうだな。もう一人封印をかけられている人間がここにいるのでな」

そういって、聖堂巫女の中の一人の方を見やった。


「あ……、わたし、ケイティス・リファレントと申します。聖堂巫女見習統括……でした」

その少女は、やや気おくれするような声で自己紹介をした。

「わたしも、その、封印? をかけられているようでして……」

そこまで言って言葉に詰まってしまった。


「彼女はヴォイドアーク公と共に行くことになっております。この件はこの会談の内容とは別の話でございますが、彼女の命にかかわることですので、どうかご同行させて下さますようお願い申し上げます」

口を挟んだのは、レイリア副司祭だった。その表情はなんとしても、応と言っていただくという熱を帯びている。


 アナスタシアはルシアスの方を見て、軽く微笑んだ。


「ふ……、かまわんよ。ヴォイドアーク公の従者であるなら、同行を断ることはできまい。一緒に来るといいさ。それに、こっちのアルも、封印がかかっているということだからそのうち何とかしなければと思っているところだ。その件については、アリアーデの力を借りることで話はついている。ケイティス・リファレント、君も我々と共に行くか?」


「は、はい! 私、必ず生きてこの大聖堂に帰ってくると決めたんです。ですので、ヴォイドアーク公と共に行き、必ず封印に打ち勝って見せます!」

ケイティはすがすがしい声ではっきりと決意を述べた。


 アナスタシアは、こみ上げてくるものを抑えきれずに涙するレイリアを優しく支えた。


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