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第3章 ルーキー(2)後編

 その会合の後、私は自身の部屋へ戻るべく王都の町中を歩いていた。


 私の部屋は、北門からすぐのところにある、道具屋の2階である。ここの主人は早くに夫を亡くし、今は娘と2人で道具屋を営んでいる。娘は18歳というから、私と同い年ということになる。


 年頃の娘がいるというのに、私を2階に住まわせてくれているのには、理由があるのだ。


 実は、この女主人、ルシアスと同郷という事らしい。ルシアスとは若かりし頃から付き合いがあるらしく、数か月前に私を連れて王都へ来た際、ここの2階の部屋を私に使わせてやってほしいとじかに依頼した。


 女主人メルデは、なんともおおらかな人柄で、二つ返事で了承してくれた。娘のヘラも、母親に似て気立てのよい感じで、警戒すらせず、むしろ、弟ができたと、自分で部屋を案内するほどに歓迎してくれた。


 同い年なので、「弟」というのはやや抵抗があったが、彼女からしてみれば、いわゆる「男」という見方はない、という事なのだろう。その理由は後でわかることなのだが、今は置いておく。



 ルシアスの邸宅から部屋までは、一旦北西門から王都内に入り、中心区へ向かう街路を少し歩いたのち、いくつかの商店が立ち並ぶ商店路地へ左折れする。この商店路地は軽く右へ弧を描いて北門から中心区へと向かう街路にぶつかる。メルデ道具店はその交差点のすぐ手前だ。


 商店路地へ入るためその角を左折れしたとき「そいつ」は現れた。


 時間はもう真夜中になりかけているころだ。こんな時間にこの路地に人がいることはほぼない。昼間はメルデの店のほかにも数件の商店があるため、買い物客が数人はいてもおかしくないところであるが、それも店が閉まるまでの間のことだ。


 店が閉まった後、この路地に用のあるものはいなくなる。産業が発展しつつあるとはいえ、王都であっても、酒場も夜が更けきる前には店を閉じる。みな、自分の家や部屋に戻って灯りを落とし寝入るころだ。



 私が路地に入るとすぐに、背後から声がした。


「あんちゃん、冒険者だろ? 悪いことは言わないから、有り金全部おいていきな……」

 そいつは、低い声で脅しを効かせたつもりだった。



 が、声色は言葉とは裏腹に、やや高い音域で響いてくる。


 女だな、と私は即座に感じ取った。それも、結構若い。というよりむしろ……。


 私は向きなおろうと後ろを振り返ろうとしたが、即座にその声が制止する。


「おっと! こちらを向くのはやめた方がいいぜ。後悔することにな……」

そいつが言い終わるより早く、振り向きざま剣を抜き放ちながら、回れ右をして振り返る。抜き放った剣は正確な軌道を描き、振り返りながら確認したそいつの首筋でぴたりと止まる。




「ひぃ!」


 そいつはこちらの無駄のない動きに反応できず硬直して声を上げた。



「残念だったな。相手が悪すぎる」

言いつつ、私は、そいつを見る。


 背丈は150センほど、小柄でフード付きのローブ、下は、短い皮の短パン、素足に皮の編み上げ靴……、手には小型のナイフを一応握っていた。


 が、悲鳴を上げた瞬間、そのナイフをそいつは恐怖のあまり放してしまった。カラン、と音を立てて今は地面の上だ。


「ったく、追いはぎするつもりで相手に背後から声をかけておいて、相手が振り返るのに対応できず、なおのこと、驚いて武器を落とすって……。おまえ、本気で襲う気あったのか?」


 動くなよ? 動いたら首が落ちるぞ、と脅し文句をかけておいて、剣の先でそいつのフードを頭からはがす。


 やはり……。


 思った通り、子供だ。年のころは12、3歳というところか。栗色の短髪、頬は少し汚れているが、女の子に違いない。


「はぁ。もういい。俺は、もう眠いんだ。お前もとっとと帰って寝ろ。追いはぎなんてもうするんじゃないぞ。そんな腕じゃ、次は俺じゃなくても首が落ちるぞ? お前今回が初めてだろ?」

じゃあな、と言いながら剣を鞘に納めて、踵を返し、部屋へ向かって歩き始めた。


 そいつは、しばらく固まっていたようだが、そのうち気配も消えた。


 


 メルデ道具店の表扉は当然鍵がかかっている。私は、裏口から入るために、店の脇の細い路地へ入る。裏口の鍵は預かっているので、それで開錠し、中へ入る。入ると正面に2階へ上がる階段、階段の右手に奥へ続く通路と壁、その壁には店内へ通じる扉がある。


 階段へ向かって2階へ上がろうとしたその時、通路奥の扉が勢いよく開け放たれ、一人の女性が姿を現す。


「アル! いつまでほっつき歩いてんのよ! 王都に帰ってきたらまず、報告しなさいよね!」

ヘラだった。


 言葉はいささか乱暴な感じがするが、その表情は柔らかい。言い終わるが早いかどうか、その勢いで彼女は駆け寄ってきて、思いっきり抱きついてくる。いつもこれだ。


 こうなるから、黙って帰ってきたというのに、この人は、どうしてこんな時間まで起きてるんだろう。


 まったく、不思議な人だ。この人には、昔からの想い人がいるというのに、同い年の男に平気で抱きつくとは。

 彼女は私のことを本当に弟だと思っているのだろうか。さすがに、それはないとしても、出会った時からそうだったが、私を男とは思っていない節がある。


 私の方はと言えば、残念ながら、この人に対していわゆる男女のそういった感情はいだいていない。こちらとしても、その方がいろいろと都合がいいのだ。


 だってそうだろう?

 もし、そういう感情を持っている男女が同じ家に住んでいたら……、結果は言うまでもない。


 だが私には、今はそういうある意味「拘束」は必要ない、というか、邪魔になるだけだ。私にとって今は、ルシアスと行動を共にし、学び、修練し、「奴ら」を排除できる力をつけることこそが第一なのである。


 そういう意味では、彼女のこの行動も、気持ちも、気兼ねなく接することができるという意味で、とても助かっている。

 


「やぁ、ヘラ。まだ起きていたの? さっきまでルシアスたちと一緒だったんだ。次の依頼が決まった。明日の昼前にはまた発つ」

そう返して、彼女を押しやる。


 えー!? もう、すぐ出ちゃうの? せっかく、明日あたりルシアスのとこへ焼き菓子でも持っていこうと思っていたのにぃ……。などと、口をとがらせるヘラをかわして、2階へ上がろうとする。


 ヘラは、上がりかけの私に向かって、ねぇ、私も明日あなたと一緒にルシアスのとこまで見送りに行くわね、と念を押した。



 これには、断る理由も、勇気も持ち合わせていない。

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