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容赦無く青春  作者: 宮河 辿
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第4話「部活巡り」

第4話「部活巡り」


放課後になると新入生たちは一様に部活巡りを行っていた。体験入部というやつで一週間の内に色々な部活を巡り、何回かの見学や体験の中で三年間を費やすに値するものを選び抜かなければならない。この学校では部活への所属は義務で、皆どこかに属するという決まりがある。

新入生は友人どうし何の部活にするかの話で盛り上がり「初日はこの部活を見学し、二日目はこのクラブを見よう、気になっているあの部活には二日間使おう」などと計画を立ててイベントのように楽しんでいる生徒たちもいる。だがそんな中でも松本史はというと相変わらずの個人行動で、一人で目ぼしい部活を廻る気でいた。活動時間が少なく、人との関わりが無く、楽な部活を手っ取り早く探し出し、一日でも早く一週間という期間が設けられたこのイベントを終わらせたかった。本当は体験入部などせずとも適当に部の名前を書いて提出し、あとは行かない。そんなことも頭の中で考えていたぐらいだった。

(人とそんなに関わり合いがなくて楽な部活ってなんだ?…美術部とか将棋部あたりかな…まあ適当でいいや…そもそも学校に続けてくるかどうかもすらわかんねーし)

史は体育館やグラウンドではなく文化系の部活の活動場所が多く集まる北校舎へと来ると、うろうろとそれぞれの部の物色を始めた。(体験入部って最初どうすればいいんだ?廊下で勧誘してる人に近づいていったり、教室に入って行けば声かけてくれんのかな…)そんな挙動不審の様子を見て生徒の一人がニヤニヤと近づいてきた。

「松本くんも茶道部に興味あるん!?」

また大阪人の長浜兼だ。長浜は茶道部を第一希望に置き、真っ先にここに向かってきたようだ。

「…いや興味ないけど」

(あるわけねーじゃん、茶道に興味がある中学生の男子なんてそうはいねーだろ…)

「何言うねん松本くん、茶道は日本の心やで。そんなんやったら将来グローバルな人間にはなられへんよ」

関西弁を直そうともしない男が何を言うか。史はそう思ったが口に出すのは止めておき、とりあえず当たり障りのない言葉を返した。というか長浜が欲していそうなのでそれを聞いてやることにした。

「長浜くんは茶道部にするの?」

「そやねん!茶道部!ええやろ?だって放課後お茶立てようなんて人に悪いやつなんかおるわけないやん!だから惹かれとるんよ〜!」長浜は相槌も返ってこないのにどんどん喋る「だって俺の周りって凶暴なやつばっかりなんやもん!昔から!だから俺に合う物静かな友達が欲しくてさ〜!…それにさ、茶道部ってかわいい女の子がいそうじゃん?」

鼻につく標準語を無視し、史がその場を立ち去ろうとすると長浜はすかさず二の腕にすがりつき「じょ、じょーだんやん!ほんまに友達欲しくてさ!松本くんはぼくの物静かな友達の第一号やろ?ここで会ったのも何かの縁!一緒に見学付き合ってや〜!?」そう言うと半ば強引に廊下の奥にある一室の前まで史をグイグイ引っ張っていった。教室の扉には格子がついていて磨りガラスで中の様子は伺えない。他の教室とは全く違った造りになっているのは予想ができる。「やっぱりやめねえ?」史は長浜に正気に戻るよう諭そうと振り返ったが、長浜の表情はもう可憐な女生徒との出会いに期待を膨らまし顔の筋肉が元に戻らなくなっているようだ。ここまできたらもう嘘をつく必要もない、そういう表情にも見える。ムカつく…史は渋々手をその重い扉に手をかけ、開いた。

「松本くん!やっぱり男やなあ!初めてやん!その積極性!ええんよええんよ…先譲ったる」史は振り返り長浜を睨んだが、もうどうでもよくなり長浜をおいてどんどん部屋の中に入って行った。とにかく早く終わらせて帰ろう。これが終われば今日はもう帰ってやる。体験入部なんかやってられるか。扉の先にある襖を開けた瞬間、史は部屋中に広がっている副流煙を吸い込み激しく咳き込んだ。

部屋の中には可愛い子はおろか女子など一人もおらず、十数人の二・三年の不良たちが茶道室を溜まり場とし、タバコを吸っていたのだ。不良たちは入ってきた史に視線を集中させている。「なんだ今度は男かよ、男も茶道なんかやんのかね」「可愛い顔しちゃって!ウフフッ!」茶化しに上級生たちは沸き、史をますます硬直させていく。上級生からの口ぶりからすればすでに何人かの新入生たちも同様にこの光景に面をくらい、茶道部入部を断念したのだろう。その中には長浜の期待どおり可愛い女の子もいたかもしれない。

史が入り口で立ち止まっていると、長浜が史を押しのける様に入ってきた。「なんや!?そない可愛い子おったんかい?俺にも見せてーや!」不良たちは漫画のような長浜のキャラクターに一瞬キョトンとし、それから一斉に吹き出した。「ぶわっはっはっは!なにおまえ!?下心丸出しすぎだろ!もうちょっと日本の心、持って入ってこいよ!」あまりにタイムリーな上級生の比喩に史は一緒だけ心を別の場所へ飛ばすことが出来たが、強張ってゆく長浜の表情を見てすぐに茶道室へ帰ってきた。「出よう」史がそう言いかけたとき、扉が再び開く音がした。振り返るとそこには難波と森谷、そして長浜専用のイジメっ子木下が立っていた。木下は教室で手首をねじ上げられて相当苛立っていたらしく長浜の顔を見るなり思い切り蹴りをいれてきた。蹴られた勢いで長浜は史に向かって倒れこむ様になり、二人共そのまま上級生の待つ畳になだれ込んだ「おい〜長浜あぁぁ、おめー何やってんだよ!」「史〜おまえも何やってんだよ?ここが龍新會の事務所だって知ってた?おまえ?」木下に続くように今度は難波が史にいきり立ってきた「しらねーよそんなこと。事務所ってなんだよ?」「あぁっ⁈」問いにぶっきらぼうに答えた史に、難波よりも先に上級生が噛み付いてきた「そんなことだあ?このクソガキ…!」上級生の怒りに難波たちはすっかり大人しくなってしまい、茶道室は一気に静かになった。この張り詰めた空気どうすんだよ…難波や史たちがなすすべなく立ち尽くしていると、部屋の奥にいた卓男がゆっくり立ち上がった「どっちもだよね、おまえら。どっちも早くでていけよいいから」卓男の声のトーンは低く、威勢が良かった難波たちもなにも返せない。「出てけって言ってんだろーが!」少し卓男が声を荒げると難波の顔の筋肉の硬直はようやくとけたようで「ぼ、僕らもですか!?卓男さん!おれら、朝も言った様に龍新會に是非…だからその、こうしてお願いに…」この空気の中よくそんなオプションつけて返答できんな…史は難波の図太さに少し感心してしまった。「だから出てけってのが答えだよ。な?」念を押す卓男に難波もようやく空気を読んだようで、視線を落とし教室を後にしようとする。が、そんな難波たちの背中に今度は卓男の方から声をかけた。なにやらその声は笑いを堪えたような難波たちを小馬鹿にするような様子だ「オメーら要するに退屈なんだろ?だからこうして刺激求めてこんなとこくんだよな?でもこんなとここなくてもよ…そのうちおもしれーこと起きっから、今夜あたりよ…おめー達のお友達がメインキャストでよ…だからオメーたちもこれ以上言わすなよ、笑っちまうからよ」笑いを堪えながら喋る卓男にどこか不気味さを覚え森谷、木下、難波の三人はもう何も返すことが出来ず教室を出て行く。長浜も出て行くなら今と言わんばかりに小走りで外へ出ていってしまった。

(あの新と龍ってのは?いないな)残った史が先輩たちのメンツを確認しながら自分もこんな場所からは早く出ようと廊下に視線を移すと長浜はさっそく廊下で木下のイライラのはけ口にされサンドバッグ化している。そして史が廊下を出ると今度はサンドバッグが二つになった。殴ったり蹴ったり…でもあの教室の中に居続けるわけにもいかないし、史はしばらく黙って森谷、難波のサンドバックになってやった。そして殴られながら考えていた。

(森谷、難波、木下…)


(…そういえばまた藤森はべつか…)

(…おもしれーこと?オメー達のお友達?今夜あたり?…)


史は何かを思い立ったように難波と森谷を振り払い靴箱へ向かって廊下を勢い良く走っていく。

「お、おい!史てめえ!」難波の声に史は振り返らない。


校門を出るとさっきまで廊下の窓へ差し込んで来ていたオレンジの光は遠くの山の彼方へ沈みかけ、夜空はもうそこまで来ているようだった。


校門を出て暫く経ってから「そもそも何処を探すのか?近藤の家はどの辺りか?」そのことにやっと気がついた。考えていても仕方がない、史はとりあえずは自分の家へ向かって自転車を走らせた。自転車を走らせているともっと根本的なことに気がつく。自分には近藤を探す理由も藤森を止める理由も見つからないのだ。自転車のペースは一気に落ち、やがて通常運転になった。

(何をやってるんだ?一体何がしたいんだ?)

ペースは落ちた。だが、周りを見ましながら少年は自転車を走らせた。


家までの距離は決して短くはない、しかし家の近くになっても近藤の姿はなかった。

(やっぱりこっちじゃないのか?でもこの辺以外は無理だ、そもそも自分には探す理由がないのだから。そもそもその現場を目撃してどうする?藤森を止める?それはそうか…でもなんて言って?やめろっ!とか?なんで俺が?向こうだってなんでお前が?ってなるだろ…明日長浜に色々聞かれたときは適当にごまかすしかないな…そうだ、そもそも明日学校行かなきゃいいじゃないか。そうか、それでいいんだ。これまでとこれから、なにも変わらない、それでいいんだ)

史の家まではもう残り100メートル程だった。空にオレンジ色はもう無い。

(家に帰って、部屋に入って、明日も、そうだ、明後日も。これだけ続けて通ったんだ、しばらく休もう)


「ぉぉお!」

家が見えてきた時、差し掛かろうとしている小さなガード下から怒号が聞こえた。声には聞き憶えがある…藤森の声だった。ガード下からは怒号だけではなく合間に鈍い音がしている。

史の足は動かなかった。これを探していたのに、これを止めたかったのに。自分で自分がわからず、どうしたいかわからず、いや、わかっているのかも…でも足はとにかく出なかった。

そんな間に鈍い音は止み、ガード下のオレンジの蛍光灯の下から人影がひとつでてきた、それはこっちに気づいたらしく、慌てて暗闇へと消えていった。手にはバットを持っていたことがシルエットでわかった。顔は距離もあってよく見えなかった。

その人影を完全に見送ったあとやっと足は動いた。足はガード下へとそろそろと向かう。足が動くと「何もできなかった、しなかった」罪悪感が一気に押し寄せてきた。何が起きたか、この眼でまだなにも見ていないというのにどうしようもなく情けなく、涙を必死で堪えていた。

全長25メートルほどだろうか。ガード下のトンネルの長さはそれぐらいで、人影が、人影が丁度半分あたりの距離のところでうずくまっている。史は何故かそれを確認すると少し冷静になれた。少し動いているのだ。史はうずくまる近藤に駆けていき、うなだれるその姿を、息を、確認すると、家に急いで戻り、電話で救急車をよんだ。

普段、史は家の電話など使わない。電話にもでない。その息子が救急車を呼ぶ事に当然母は何事?と思い質問したが息子は答えず、ガード下へ再び走っていき、倒れこんだ近藤の傍で救急車を待った。

不思議な感覚だった。近藤の顔をじっと見ていると史の心はどんどん落ち着いて行った。頭からは血が流れ、只事ではない状況なのに。心配になった史の母も息子の後を追いかけ家の外へ飛び出してきたが、息子が同年代の青年を見守る姿に「いつもとどこか違う息子」を感じたらしく冷静さを取り戻した。「友達?大丈夫なの?」とだけ聞き、史がうなづくのを確認すると、少し離れたところで息子が到着した救急車に乗り込むところをみていた。


病院につくと、待合室の椅子の上で史は暫く質問攻めとなった。


この子の名前は?連絡先は?

学校は?

何があった?

君は友達?


史は学校のこと、自分のこと、自分が近藤に紐づくところを答えていった。紐付いている知っていることなんて「同じ学校の同級生であることと名前」以外はないので、病院側は学校へ連絡を取り、そこから親に連絡を取ってもらうことにした。

搬送後の処置の間、史は待合室で近藤の両親を待った。両親が来たら帰ろう。夜ももう遅い…


しかし、待てども近藤の両親は現れなかった。とうとう勝也の処置も無事終わり、史は病院側から時間が遅いことからもう帰るよう促され「家は?家の人は?迎えを呼べないのか?」等の質問責めにあったが、史は徒歩一時間ほどの道のりを歩いて帰る選択をした。理由はなんて電話したらいいのかわからなかったからと、説明の順序立てを考えることの方が、一時間ほどの道のりよりはるかに面倒に感じたのだ。それと少し歩きたかった。


制服を準備が出来ず、小学校の制服で登校してきたこと。転校の理由。そして、親が病院に現れなかったこと。察するところはあっても今日は確かめ様がなく、己の頭の中を整理することの為の一時間だった。そして「自分は明日は学校に行くかどうか」この結論は1時間の道のりでは決断できず明日の朝までの先送りとした。

家に帰り、玄関の扉をあけると父の靴は無い。まだ帰ってない事に安堵し、顔を上げると母の声がリビングから聞こえた

「おかえり」

朝と同じ、ただいまは無い。

母は何も聞こうとはしなかった。ご飯が出来ている事、お風呂も沸いていることを伝えるとご近所さんの話題を一人、喋り続けた。この時の時間は夜の9時半近く。史はご飯を済ませ、早々に風呂に入ると二階に上がった。暫くすると、玄関のドアの開閉音が聞こえ、その少し後に、父と母の怒鳴り声が史の部屋の中まで聞こえた。寝床についてもその日はなかなか眠れなかった。それは一階が騒がしかったからではない。それは夜な夜なのこと。今日の理由は明日からの学校の動向が気になってのことだった。


藤森は明日学校へくるのか?

近藤の休みの理由は何と伝えられる?


そして…


近藤の両親はあの後病院に行ったのだろうか。

もし来ていなかったら?

明日か?明日は来るか?


明日の答えを何度も問い続け、夜は更けていく。自分以外がその対象となったのは今までに無かった事だった。

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