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容赦無く青春  作者: 宮河 辿
27/28

第27話「なんでこんな綺麗な星にあんなろくでもねー奴が存在するのか」

勝也を一発で気絶させ、隆則たちの制止も振り切りって妹の久美を学校から無理やり連れ出した井岡涼成だったが、その後の通報によって駆け付けた警官数人と教師数人に取り押さえられ、結局は捕まってしまった。

涼成は少年院から出てきたばかりの身。久美の入っている養護施設には「事件の原因となった妹と引き離す必要がある」という理由から入ることが出来なかった。さらにその行動は保護観察官の指示を受け、涼成の生活態度を見張っている保護司の監視下にあり、今回の一件で警察署まで涼成を迎えに来たのもこの保護司の向井であった。向井は涼成を連れ、警察署の玄関から出てくると、振り向き、改めて頭を署内に向かって下げ、涼成の頭も強引に下げさせた。

「あんたねー、いい加減にしなさいよ。また少年院に戻りたいの?」

「うっせークソババア…オメーには何の関係もねーだろうが」

向井は涼成の言う「ババア」という表現は、まあ外れてはいない。保護司は国から認定は受けてはいるものの収入の取れないボランティアである。勿論他の仕事と保護司の仕事を掛け持ってはいるが、生活は楽ではなく、自らを着飾ることも出来ずに年相応、もしくはそれ以上に見えた。

二人は警察署を出て、街(あたる)から抜けるとこ高い丘を登り、頂上にある五棟ばかりある団地まで来ると、すっかり息が上がっていた。向井はこの団地で一人暮らしをしている。

「おい、ババア…!こんな距離歩かせやがってバスぐらい使えよ…!毎回毎回よ!」

「またババアって…!誰に向かって言ってんのよ、全く…私はあんたをタダで住まわせてあげてんのよ?」

「…んなこと別に頼んだねーだろ。こんなクソ遠いボロ団地、誰が住みたいって言ったよ!?」

「まったく、文句ばっかり…」

向井には涼成がこの団地を嫌がる本当の理由をその距離やボロさとは別にあること知っていた。

「確かに久美ちゃんの施設からは遠いけどさ、久美ちゃんはもう大丈夫だよ、心配しなくても。お父さんからはもう離れたところに住んでるんだし。」

“お父さん”その言葉を聞いて、涼成の雰囲気はさっきまでのものとは一変した。突如向井の胸ぐらを掴み上げたのだ。

「その名前出すなっていってんだろ!何度も言わせんじゃねー!いいか?あいつは、あのクソヤローは父親なんかじゃねーからな!」

そういうと涼成は踵を返し、もと来た道を駆け下っていった。

「ゴホッゴホッ…!ちょっと…!涼成!待ちなさい!」

息を整え涼成の後を追おうと顔を上げるがその姿はもう向井の場所からは見えなくなってしまった。

団地の丘から下りてきた涼成は怒りが収まらない様子で廃工場の一画に入っていく。工場の奥へと進み、シートで隠してあった棚から取り出したのはシンナーの缶だった。

建物の(あたる)に人影はなく、窓からの差し込む光が涼成のギラギラした目をいっそう光らせる。ギラついた目の少年はシンナーを近くの工場から盗み出し、ここへ隠してあったのだ。そのシンナーを吸いながら少年はろれつが回らない様子でブツブツと独り言を漏らし始める。

「何が安心だ…!待ってろ久美…うぃちゃんがおっからあすけ出してやっからな…!」



「おい!いい加減にしろ!勝也!さっきからずっと叩きっぱなしじゃねーか!」

ジムに吊るされているサンドバックで一番重いものを闇雲に叩き続ける勝也に忠告する隆則の横で、(あたる)、史の三人もその姿を心配そうに見つめている。それも無理もない。勝也がサンドバックを叩き始めて、かれこれ、もう一時間が経とうとしているのだ。

一向にやめない勝也に今度は(あたる)が忠告する。

「あいつのことは忘れろ!そもそも俺らが首を突っこむ理由がねーだろ!」

「…うるせー…!こっちはのされたんだ!…他にこんな大事な理由があるか!」

切れ切れにやっと返事を返す勝也にそれからはもう誰も何も言わなかった。隆則と(あたる)は練習を始め、史はというとベンチに座り、黙って練習が終わるのを待つ事にした。



「勝也、あいつ一人で帰っちゃったね…」

「もう知らねーあんなやつ。人がせっかく心配してやってんのに」

帰る時間も帰る道も変わりはしないが、今日は勝也の姿がない。いつもは大半の道を押している自転車も今日は史と(あたる)の二人なので大概の道を二人乗りで乗り切れる。自転車は二人乗り、だが会話上ではいつものように三人を乗せて自転車は走る。

「まさか、あいつ…またあの涼成って人のトコ行ってないよね?」

「わかんねーけど…」

前に乗る史が後ろの(あたる)に大きな声で問いかけるとつぶやくような声で返事が返ってくる。互い違いの二人の会話は勝也中心の内容になったが、どの内容も本人がいないため答えが出ない。上り坂に差し掛かり二人は自転車を降りた。

「あいつなんであんなに本気になるっていうか、向かって行くんだろ?俺にも、(あたる)くんに対してもだけどさ」

「…」

「俺、気絶させられたことなんかが本当の理由じゃない気がするんだ」

「ああ、そうだな」

(あたる)くんもそう思うよね!?あいつ涼成って人にも俺たちと同じようにさ…」

真剣に話す史に(あたる)は答えを持ち合わせてはいなかった。ただ「気絶させられた事が本当の理由ではないと思う」その事だけは史と同じく確信を持っていた。

「明日、また聞いてみよう」

このときの(あたる)のその答えに、史はどうして「明日じゃなく、これからすぐにでも勝也の事を探しに行こう」と、どうしてそのときそう言えなかったんだろうとそれから時が経ち、何年経ってもその事を後悔をした。同じく(あたる)もどうしてあのとき「これから勝也の事を探しに行こう」そう言わなかったのか、どうして「明日にしよう」と言ってしまったのか。それから激しく何度も後悔をした。それはもし二人がこのとき「今日会って勝也と話す」そう決断していたら、勝也を見つける事が出来ていたらこれから訪れる未来とは全く違った未来が訪れていただろうからだ。だが運命が変わってしまうほどの選択は人生の中で突然訪れる。少年たちにとってもそれは例外ではない。


一方勝也は帰り道から外れた公園でベンチに横になり、一人沈みゆく夕日を眺めていた。

(こんな景色があるとこなのに、何でこんなにろくでもねー奴がいるんだろうな)

そんな事を考えながら横になっていると、喧嘩の疲れかサンドバックを叩きすぎたせいか、勝也はそのままベンチで眠ってしまった。

夕日は刻一刻と沈みゆく。あたりに落ちる影が伸びきった頃、勝也の体に二つの人影が掛かる。

「なんでこいつがこんなとこにいるんだ?」

「まーちょうどいいじゃん」

「馬鹿が…こんなとこで寝てるよ」

「ちょうどいいな、今日やっちまうか。例のやつ」

「いいね、急いで集合かけよう」

「とりあえず、一番気に入らねーこいつからだ」



「あ、久美ちゃん?…うん俺だけど…うんそうそう…でさちょっとお願いがあるんだけどさ…明日のテスト範囲のノートさ…うん、取り忘れちゃって…貸してくれないかな?…うん、ごめん…本当?じゃあ、今から行くから出てきてくれない?…うん、じゃあ十八時に西公園でどう?」

久美のクラスメイトの高岸が顔を腫らして公衆電話から久美の養護施設まで電話をかけている。そんな高岸を囲っているのは龍、新を始めとする龍新會の面々だ。

「これで、いいですか…?もう帰っていいですか…!?」

「お前、本当に最低な奴だな?いいぜ、でもこの事は喋んなよ?わかってると思うけどもし言ったら…」

ケラケラと笑いながら新はそういうと、走り去ろうとする高岸の尻を蹴り上げた。

「わかってます!言いません!絶対に言いません!」

半べそを掻きながら高岸も公園を後にする。この様子では新の言いつけをしっかり守る男だろう。


一刻ほど過ぎた頃、ノートを片手に持った久美が公園に入ってきた。

「高岸くん…まだ来てないのかな?」

背後から近づく影は久美がその気配に気づき、振り向くと、容赦なくみぞおちに一発入れ、久美はそのまま気絶してしまった。

不気味な影たちはゆっくりと気絶した久美にその影を落としていく。


「じゃあ、お楽しみ会始めようか。場所帰るぞ」



翌朝、ジムに史が顔を出すとそこには勝也の姿はなく。朝練に励む姿は(あたる)一人であった。

「おはよう(あたる)くん。あれ?勝也は?」

「あーあいつなら今日朝練きてねーよ。サボりやがってよ、クソッ」

「まあ、まだ六時過ぎだし。あいつこれから来るかもよ」

「そー願うよ。でももう遅刻は遅刻だけどな」

庇う史を他所に7時になっても勝也は来ない。そして練習を終える七時半になった。一人で練習していた(あたる)は練習を切り上げる。

「おい史。ここで待っててもしょうがねーしよ。学校行こうーぜ」

「うん」



学校へ向かう道すがらでも(あたる)の勝也に対するイライラは止まらない。

「あいつ、学校来てたら許さねーからな。人がせっかく朝練誘ってやってんのに…」

「まあまあ、体調崩してるかもよ…?」

「あんなバカ、体壊すわけねーじゃん。しかもそれならそれで電話ぐらいして来いっての」

「確かに…」

「あ、(あたる)くん…あれ…」

史が気づいたのは通学路で必死に何かを探す勝也の姿だった。

「あ、あいつ何やってんだあんなとこで」

「何か、探してんのかな…?おい!勝也ァ!」

振り向き、こちらに気づいた勝也はゆっくりと史と(あたる)に近づいてくる。その短い道すがらの間でもあたりをキョロキョロと探している。そしてらしくない真面目な顔で(あたる)と史に訴えた。

「シューズ袋がよ、あいつから借りたシューズがねえんだ」

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