「刻む時間、希望の鐘」第六節
アンドロイド対策警察部隊、解散式当日になった。
楓は主治医の許可を得て、式に出席をした。中に入って感じたのはホッとした安堵の表所をしている班の者もいる。桐原班の説得を受けて、納得し楓を受け入れた者もいた。
それでも、納得がいかなかった他の班から交わされて会話が聞こえてきた。退席をしていく者が出てくるのは仕方がない。
全部を聞き流して席に着いた。まだ、名前は呼ばれていないらしい。全てを焼き付けるために真剣な瞳で真っ直ぐ前を見ていた。
「桐原――いや、沢田楓」
一瞬、誰が呼ばれたのか分からなかった。それほど、桐原姓に馴染んでいる自分がいた。今は自然に受け入れられた。
「過去」から「未来」へと切り替えられた。それが、できた証拠でもある。
――沢田性を使うなんて。
小さく息を飲んだ。
どこまで、優しくて――気持ちに敏感な人たちなのだろうか。
心が広く海みたいな人たちである。
「桐原隊長、長谷副班長。これは?」
「皆で話し合って決めたのよ」
「再スタートには必要だと思ったからな」
「迷惑だったかな?」
「迷惑なんかじゃない。嬉しいです」
敬礼をして手帳とナイフを上司に返却した。
「君には負担をかけてしまったな――申し訳ない」
「謝罪の必要はありません。呼んでくれて感謝をしています」
「ブラッディ・ルージュはどうした?」
「姉とともに役割を終えました」
「あれは君の形見だったはずだろう?」
「胸の中に刻まれているから大丈夫です」
「最後に聞いていいか? 君は今、幸せか?」
「幸せです」
会場には温かい空気が流れている。不器用ながらも真っ直ぐな楓の性格をほとんどが知っていた。だからこそ、「沢田」姓で呼ぶ許可が出たのである。この先「沢田楓」とは呼ばれない。「桐原楓」として生きていくと決めていた。
新しい生活をしていく。
決して「沢田楓」の名前を捨てるわけではない。心の中に記憶しておこうと思ったからだ。
亡き両親と弥生のためにも覚えていく。戦って命を散らしていった部隊の者たちのためでもある。戦争の悲惨さを次世代に伝えていく。教えていくために必要と思ったからだった。
最後の一人が返却をすると自然を拍手が起こった。
これからは、平和が訪れると信じて。
信じ続けて。
誰もがこの日を待っていた。
待ちわびていた。
「これまで、よく一緒に戦ってくれた。本当にありがとう。本日付でアンドロイド対策警察部隊を解散する。以上、解散!」
二十三五年、二月一日である。アンドロイド対策警察部隊の正式な解散でもあった。
「また会おう」
「やっと帰れる」
再会の約束をして立ち去る人もいれば、別れを惜しみ言葉を変わる人もいた。式典が終われば人それぞれである。今後、対策本部の入り口が開かれることは二度とない。
人が集まる光景はなくなる。
避難シェルターの解放も始まっていた。ニュースで映像が流れている場面を、楓たちは見ていた。外に出た時の市民たちの笑顔がとても印象的だった。
心に残っている。
止まっていた時間が動き出す。
戦争は幕を閉じた。
多くの人に深い傷跡を残して。
それでも、この道を進んでいくしかない。
命が続く限り。
ある限り。
例え困難があっても乗り越えていける。絶望しかなかった暮らしの中に、新しい芽吹きを期待して僕たちの再出発が始まろうとしていた。




