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実習 1



 目が覚めて、窓から空を確認するとすっきりと晴れていた。悪天候だと、実習の条件も悪くなる。晴天を確認した私はホッと胸をなでおろす。

 身支度をして、学園に向かう。教室に入ると、今日もギディングス様がいた。


「おはようございます! ギディングス様!」

「おはよう、ティナ」


 何だか、眩しい。いつもより彼が更に格好良く見えるし、何なら周りに光が飛んでいる。


(すごい。これが、恋の力……!)


 私の好きな人は元々ハイスペックの超絶素敵な人なのだが、もはや魅力が天元突破している。

 ぽけっと見ていると、ギディングス様はおかしそうに目を細めた。


「どうしたの。ぼーっとして」

「あ、すみません! 素敵だなと思って!」

「俺が?」

「はい!」


 私が力強く頷くと、彼は目を丸くした。


「何だか良く分からないけど、ありがとう」


 ギディングス様がくしゃりと笑った。その笑顔は更に輝いていて、私はまた目を奪われた。




 実習の場所は、王都から少し離れた場所にある。生徒が馬車数台に分かれて乗り込んだ。しばらく馬車に揺られると到着するという。

 ギディングス様が自分と同じ馬車に乗るように私を誘ってくれたが、フロレンシア様が頑として譲らなかったので私は女子だけの馬車に乗ることになった。


「本当にあの男は、空気が読めないのかしら」

「セレスティナ様と片時も離れたくないのですね」


 ロミルダ様がしたり顔で言う。そんな理由なら嬉しいけれど、きっとギディングス様は昨日の約束のために近くにいようとしてくれたのだ。でも、さすがに移動中に助けて貰うような事態は起こらないだろう。


「ギディングス様のお誘いも有り難かったですが、女の子だけで過ごせるのも楽しいです!」


 私がそう言うと、ロミルダ様は不満そうな表情を作る。


「でもきっと、今日はギディングス様と実習に望まれるのでしょう?」

「は……はい、それは、そうです。昨日ギディングス様と約束しましたので」


「昨日?」


 フロレンシア様がつぶやいた。昨日は彼女も一緒にいたので、疑問に思うのは当然だろう。四人でいたときにはそんな話はなかったのだし。この場で魔石で通信して約束したとは言えず、ただこくりと頷く。


「やっぱり、休日も一緒に過ごしておられるのね!」

「本当に思い合ってらっしゃるのね。でも寂しいわ。私たちとも休日お出かけしてくださいな」

「もちろんです!楽しそうです!」


 王都の女子会には興味がある。恋愛小説に良く出てくるし、ローマイア家にいた時から憧れがあった。女の子達と休日を過ごすのも、とても楽しそうだ。

 皆で美味しいカフェや、芝居の話で盛り上がる。私が読むような小説の舞台もあるらしい。それは是非行きたい。私は胸を躍らせた。


「ふふ。私たちだって、もっとセレスティナ様と一緒に過ごしたいですわ」

「そうですわ! いつもギディングス様にとられてしまいますものねぇ」

「そ、そうですか……?」


 そんなに彼とばかり過ごしている自覚はなかった。しかし彼女たちは「そうよ!」と声をそろえる。


「まぁ、明らかにセレスティナにばかり構ってるわよね。でもセレスティナ。あなたも、今日はいつもに増してずっとあの男を見てるわね」


 フロレンシア様から指摘されて、私は頬を染める。そんなに分かりやすいのだろうか。


「勝手に、目がギディングス様を追ってしまうのです……」

「まぁっ」


 馬車の中はわっと盛り上がる。


「ついに自覚されたのですね!」

「可愛いですわ!」


 彼女たちは嬉しそうに私をもみくちゃにする。

 たとえ将来がないと分かっていても、私は初めての恋に少々浮かれ気味だった。

 だからこそ、フロレンシア様がそんな私を複雑な思いで見ていることに、まるで気が付かなかった。





 馬車が到着したのは、うっそうとした山のふもとだった。森のようになっているこの場所が、実習をおこなうエリアだという。

 今日実習をおこなうのはAクラスだけだ。馬車から降りた生徒たちは、どこかそわそわとした空気で集まった。


「いいか、エリアの境界の木に黄色いリボンを結んである。そこを越えると生息する魔物の種類が変わる。絶対にエリアから出るんじゃないぞ」


 アイマー先生は生徒全員に小さい筒状の道具を配った。ポケットに入る程度の大きさだ。


「何かあればこれに魔力を流せ。助けに行くから」


 どうやらこの筒は緊急時用の魔道具らしい。先生に位置を知らせるようだ。


「魔石を取ったらここに帰ってこい。持ち帰る魔石の量は何個でも構わん。だが何度も言うが、1個でもあれば合格だ。大きさは関係ない。そして、さっき渡した筒の色が変わってきて、黒くなればそれで時間切れ。不合格。追試だ」


 筒は時計のような役割も果たすらしい。まじまじと観察するが、今は真っ白で黒いところなど全くない。


(ひぇぇ……追試は嫌だな)


 何としてでも今日合格したいところだ。


「一人一個魔石があればいいから、複数人で協力しあっても問題ない。分かったか。絶対に無茶なことはするな! 魔力は使いすぎるな!」


 アイマー先生の注意喚起が終わり、次は森に入る準備だ。飲み物、軽食、先ほど配られた筒などを確認する。


「ティナ」

「ひゃっ!!」


 急に後ろから話しかけられて飛び上がりそうになった。ギディングス様はそんな私を見て笑い出す。


「はは。ごめんね。驚かせた?行こう」

「は、はいっ!」


 彼に促されて歩き出すと、フロレンシア様が私を呼び止めた。


「セレスティナ! やっぱり今日は私と行きましょう」

「フ、フロレンシア様?」


 今日私はギディングス様と実習にのぞむことは馬車の中でも話していたはずだ。私が困惑している中、ギディングス様が不快そうに眉を寄せた。


「急に何?」

「あなた、いい加減にしなさいよ。今の状況を分かってる?」


 フロレンシア様は何かを見透かすようにじっとギディングス様を見つめた。


「……ちゃんと考えてる」


 ギディングス様とフロレンシア様の関係は本当に不思議だ。一見嫌い合っているように見えるし甘い空気も皆無なのだが、信頼し合った仲間のような感じもするのだ。

 フロレンシア様はため息をついた。


「分かったわ」

「君はカイと行けばいいじゃないか」

「ほんっとに余計なお世話よ!」


 フロレンシア様が少し顔を赤くして踵を返し、立ち止まった。


「セレスティナ。実習が終わったら時間をくれる?ちょっとあなたと話がしたいの」

「はいっ。分かりました」


 フロレンシア様は私の返事を聞いて口端を上げると、去っていった。


「ティナ、行こう」


 ギディングス様に促され、今度こそ私たちは森へ入った。




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