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魔王が勇者を拉致った結果  作者: デンダイアキヒロ
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いざ、清算の時 後編

「ようこそ懐かしのわが家へ……十九年前、この国の貴族の謀略によって存在を隠蔽された悲劇の王子────アルフォンス殿下」


 ニンマリと笑うヒルダが目の前にいる青年に視線を向ける。


 青年はそんなヒルダから視線を外すことなく、困惑しながらじっと見つめていた。

 訳が分からない、とでも言いたげに。


「お、おいヒルダ。どういうことだよ。アルフォンスは俺で……」

「そこが根本から間違ってるのよ。……まぁいいわ。全て説明してあげる」


 ヒルダはそう言うと、アルフォンスを見つめたまま語り出した。


「まず最初に、この国にはアルフォンスという人物は確かに存在した。この国の第一王子、次期国王よ」


 ヒルダの語りに、俺を含めるその場にいた全員が釘付けになる。


「んで、事件当日。王子は攫われた……いや、正確には『攫われたかのように見せかけられた』ね」

「だ、誰にだよ」


 俺は思わず口を挟む。

 するとヒルダはチラッとこちらを見てニヤリと笑って


「そりゃあ、この国の貴族に決まってるじゃない。だって、もしも王族に後継となる男がいなかったら王族は婿養子を向かえないといけないでしょう? となると、必然的に婿養子を出した家系は政治において絶大な影響力を持つことになる。そこの王サマと王妃サマがいい例よ。幼いころから日々聖属性の修行に明け暮れていた王妃サマに政治の才能なんてないわ」


 ……なるほどな。確かにその通りだ。

 キリやサリアが聖域でしていたことと同じようなことをお母様も当然やってきているだろう。つまり、この国の王族の女は政治の勉強をする暇なんてない。

 よって、必然的に政治方面は男の役割になる。


「だから、貴族は王子が邪魔だった。この子供がいるせいで自分たちの立場が弱まってしまうかもしれなったから。……そこで貴族たちが打った手立てが『王子様を死んでしまったことにしてしまおう』ってこと」

「……」

「そして、事件当日に貴族たちは共謀し作戦を決行。城に火をつけ、王子を攫い、近くの川に流した。……これは推測だけど、おそらく赤子である王子を殺すのは良心に呵責を生んだのでしょうね。だから殺さなかった」


 淡々と話すヒルダの言葉を聞きながら、俺はちらりと青年を見る。


 青年の顔は困惑の表情が薄れ、それにとって代わるように動揺が現れていた。

 おいおいマジかよ……。マジなのかよ……。


「でも、犯行に及んだ貴族にはもう一つの仕事である『言い訳作り』が残っていた。王子を消したのはいいものの、すぐに足がついたら意味がない。……ここがこの事件のミソなのよね」

「……どうゆうことだ?」

「簡単な話よ。当時の貴族は言い訳に私達魔族を使ったの。だってほら、『魔族が攫いましたー』って言ったら『おのれ魔族め!』ってなるじゃない? 疑いようがない。私達が『勇者のせい』って言われたら納得してしまう現象とほぼ同じよ」

「ま、まぁなるけどさ……」


 なんとも言えない気持ちになりながらも、一応納得する。

 うなずいてしまう自分が非常に歯がゆかった。


 ヒルダが俺を一瞥し、再び語り出す。


「そして、貴族にそそのかされた王サマと王妃サマはいもしない息子のために優秀な冒険者を雇い魔族大陸へ派遣した。……まぁ、本来はここで『何の成果もなかった』で終わるはずだったのよ。本来は」


 そこまで言って、ヒルダは俺を見る。


「けれど、ここが運命の奇妙さというかなんというか……偶然たまたま、魔族大陸に人間がいたのよ。しかも王族の特徴を持った灰色髪の男が、ね」

「……」

「それがグレイよ。この物語に登場するはずのなかったグレイという人物。終わるはずの物語が、グレイががいたことで余計に紡がれてしまったの。まさに『茶番』ね」


 え……何? 俺、この国にまったく関係のない人なの?

 あんなに悩んだ時間も、なるべく城の雰囲気に溶け込もうと努力したのも、モンゴリアンに吐いた本心も……全部無駄だったのか?


「じゃあ、俺は一体なんのために……」

「ただの巻き込まれ損、全部無駄。グレイは、ただ勝手に妹でも何でもない他人にカッコつけて体張って、この国で勘違いお兄様を演じていただけの哀れな道化。……ぷぷっ、ごめんなさい。笑いたくはないけど……今までのグレイ、とっても滑稽だったわよ。……ふっ」


 ヒルダが口を半開きにする俺の顔を見て目線をそらし震える。


 じゃ、じゃあ俺は…………。

 人間大陸行きの船で帽子男に会った時からキリとサリアを抱きしめた時までの走馬灯が頭の中を駆け巡る。


 ……そして、同時に俺がこれまで口にした一言一句が鮮明に蘇った時────────俺の羞恥心メーターが振り切れた。


「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」


 俺は悶え絶叫しながらその場に倒れ伏し、広間中を全力で転がり続ける。

 もう嫌だ! 死にたい!! 恥ずかしすぎて余裕で五回くらい死ねる!!! 誰か俺を殺してくれぇえええええ!!!!


「お兄様……」

「じゃ、ないのですのよねぇ……」

「うわあああああああああああ!!!!!」


 キリとサリアの残念そうな声が聞こえ、俺の羞恥心が加速。天元突破したと言っても過言ではない。

 見るな! 俺を見るな! 俺をそんな目で見るなぁあああああ!!!

 耳を塞いでうずくまり、目の奥に焼き付いてしまった光景を消すために何度も床に頭をたたきつける。


「まぁ、これがこの事件の全貌ね。余談として話すけど、結局アルフォンスは川の下流で農民に拾われて農民として育てられていて無事だった。それが私たちの目の前にいる男の正体よ。抵抗されると思ったから、こっそり転移宝珠に登録して無理やり連れてきたの。……さて、事件もはっきりしたことだし、あとはハッピーエンドに向けて突き進むだけなんだけど……まぁ、それは人間側が対処することね。私とグレイは関係ないから」

「おい……前から気になっていたんだが、なんでそんなことをヒルダが知っているんだ……?」

「だって、リンゼッタと交渉して調べてもらったんだもの。最初はグレイの所在だけを調べてもらうだけだったんだけど面白いことがどんどん出てくるもんだから……ね?」

「リゼも知ってんのかぁあああああああああああ!!!」


 俺はまたもや絶叫した。

 仮にもリゼは帝国の姫で人間きっての情報通。よってヒルダの話すことに嘘はないと考えていい。

 なんてこった……。よりにもよって陰湿なリゼに……!


「死なせてくれ……死なせてくれぇ……!」

「無駄よ、グレイはこの罪を一生背負い続けるの。何かがあった時は真っ先に言ってやるから覚悟しなさい」

「やだぁ……」


 しくしくと泣く俺の頭をヒルダが問答無用で掴み、天井に空いた穴へと浮かんでいく。


「というわけで人間共、ウチのグレイがお世話になりました。もうハッピーエンドへの線路は敷いてあるので、勝手に解決して勝手に幸せに暮らしてください。どうもありがとうございましたッ」

「ちょ、ちょっと待ってください!? お兄様をどこへ……」

「だからお兄様はアッチって言っているでしょうがッ! グレイとあんたは赤の他人ッ! グレイのことは金輪際忘れなさい!」


 そう言い捨てると、ヒルダはスピードを上げて空高く舞い上がった。


 ……あぁ、終わったのか?  俺の人生、そしてこの国での思い出。

 何もかもが無に帰した気がする。


「……さようなら、人間大陸。二度と来るかバカタレ」


 豆粒のようになっていく城を見ながら最後に小さく呟くと、俺は目を閉じて現実逃避に走った。

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