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魔王が勇者を拉致った結果  作者: デンダイアキヒロ
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魔王の天敵、再び

「魔王! 今こそお前を倒す! パワーアップした俺達の力! 篤と味わえ!」

「フハハハハ! よくきたな! 貴様らのつけ焼き刃など簡単にへし折ってくれるわ!」


 これはひそかに食べかけのパンを玉座の隙間に隠しながら言う魔王の台詞だ。

 ついに始まってしまった。覚醒勇者ラッシュである。


「ミルダ、今の状況は?」

「ハイお兄様。現在城の兵士達が順調に足止めを行っています。特にゴースト系統が奮戦しているようです」


 ミルダが魔眼を用いて報告する。

 魔王一族を筆頭とする魔族は魔眼を持っているのだ。

 いーなー、俺も遠くの景色を見てみたい。


 そんなことを思いつつ、戦況に目を向ける。


「よし。ゴーストたちには成仏しないように立ち回りながら妨害するよう言ってくれ」

「分かりました」

「んと……レヴィ! 今!」

「了解! 『パワー』!」


 その瞬間、覚醒勇者はヒルダの攻撃を受けて見るも無惨に爆散した。

 っしゃ!


「な!?」

「フフフ、すまない。長く楽しもうと思っていたが、つい本気を出してしまった」


 ヒルダが残忍な笑みでリーダーを失った勇者パーティーを睨み付ける。


 嘘つけ。今一番ビックリしているのは自分だろうに。

 手を何回もニギニギしているのは分かっている。


 しかし、あとは雑魚のみ。

 怯える取り巻きをサクッと殺して、ヒルダは身を投げだし玉座についた。


「それにしてもすごいわねー。なんで前からこうしなかったのかしら?」

「レヴィ。よくやった」

「役に立ってる! 私役に立ってる!」

「姉様、違和感などはありませんか?」

「特にないわね。強いて言えばちょっと魔法を使うのにはもったいないように思えたわ」


 まずは軽く一勝。

 時間もかからず幸先のいいスタートだ。


「第二形態も安定してるとは言いにくいし、できるだけ奥の手は温存しておきたいところね」

「消費魔力が激しいですからね。身体的疲労もなるべく避けたいものです」


 二人の第二形態は最後の切り札だ。

 最後の覚醒勇者に使うならまだしも前半戦に使うのは愚策と言える。


「ミルダ。次の勇者の動向は?」

「次の覚醒勇者ですが、今はゴーレム階層で足止めをくらってますね。お兄様が召喚したあの変態なキラーがとても役に立ってます」

「大丈夫かな? アイツ、決まったルーティーンしかしないから勇者に見破られそうなんだけど」

「いや、意外と頑張ってますよ。進んで勇者を間引いてます。そこらへんでくたばった普通の女冒険者の手を集めるのが気持ち悪いですが、それが勇者の恐怖心を煽ってくれているようですね」

「それはそれでどうかと思う」


 まあ、役に立ってくれているなら問題はない。

 一週間契約なのでこき使わないと損だ。


「他の被害状況は? 特にあのテイマー勇者は来た?」

「被害はそこまで深刻ではありません。報告では勇者カムリと思われる勇者はまだ城には来ていないようです」

「ふーん。最後の大トリって感じかしら」


 この勇者カムリの存在が俺達の一番の懸念点だ。全てが謎なのだ。

 それに俺はどうしてもあの勇者のことが引っ掛かる。

 そんなことを思っていると


「……?」

「ん?どうしたミルダ。首をかしげて」

「いえ、お兄様。ちょっと魔眼に反応が……ふぁ!?」

「どうしたの急に……ふぁっ!?」


 姉妹揃って何なんだ。俺は魔眼を持ってないから分からないんだよ。

 ヒルダは魔眼に映る光景をみて顔をおおう。


「最……悪……」

「お兄様! 謎の存在が! というか謎過ぎます! 半裸の集団が急速に城の頂上に向かって来てま」

「フハハハハ! 久しぶりだな筋肉達! 正義の使者モンゴリアンが遊びにきたぞ!」

『マッスール!!』


 ミルダがなにか言いかけた時、ドアがバーンと開いて勢いよく壁にぶつかる。

 覚醒勇者よりヤベーヤツがきた。

 それもお供をつれて帰ってきた。

 キメぇポーズしながらやってきた。

 これには俺も頭をかかえる。


「……相棒。一体誰なんだコイツらは」


 ドン引きした様子でレヴィがモンゴリアンを指差す。

 そういえばミルダとレヴィは会ったことがなかったな。


「彼の名前はモンゴリアン。説明不要の存在だ」

「今紹介に与ったモンゴリアンだ! 勇者だが平和を愛する正義と筋肉の使者だ! 今日は弟子達と共に遊びにきたぞ!」

『見よ! この腹筋!』


 モンゴリアンとその弟子達の登場により体から魂が抜けるミルダとレヴィ。


「姉様。本当に彼は勇者なのですか?」

「疑わしいのは分かるけど正真正銘の勇者よ。信じたくはないけれど」

「なあモンゴリアン。お前の弟子少し増えてないか?あと弟子の滑舌がよくなってる」

「よくぞ気がついてくれた! あの一件のあと一旦鍛えた弟子達とバタフライで王国に戻ってな!」

「「「「バタフライて」」」」


 悲報、単独で海を渡る猛者現る。

 人類に船なんて必要なかったんや……。


「筋肉の素晴らしさを伝えるために向こうで布教活動をしていたのだ。そしたらこんなにも同志があつまってくれた!」

「なかなか人間側も大変ね。同情するわ」

「そんな仲間達と共に日々体を鍛えていたのだがある日飽く無き探求心を持つ仲間の一人がこんなことを言い始めてな。『魔族の筋肉は素晴らしい。生まれつきしなやかな筋肉と丈夫な体を持つ。一体どのような生活をすればあの筋肉は出来ているのか。知りたい』とな。だから私は言ったのだ。『そんなことなら知り合いに魔王がいるぞ。おそらく彼女が一番鍛えられた魔族だろう。彼女ならその秘密を知っているかもしれない』とな。故にこうやって総出で出向いたと言うわけだ」

「ヒッ!?」


 とんでもない理由で狙われたヒルダはまたも俺の後ろに隠れる。

 お前もさんざんだな、命狙われたり筋肉狙われたり。


「だから魔王よ。その素晴らしき肉体美を私たちに見せてはくれないか?」

「いやよ変態! セクハラで訴えるわよ!?」


 断固拒否の構え。

 魔王様、爪が俺の肩に食い込んでいます。かなり痛いです。


「うーむ。そういう気持ちで言った訳じゃないのだがな……。私達はただ純粋に興味が」

「もう発言からして変態なのよ!」


 更に爪を食い込ませるヒルダ。

 まあヒルダにとって気分のいいことではないだろう。

 実を言うと、ヒルダは腹筋は割れていない。

 ただ体が戦闘用に改造されて筋肉がしなやかなのは確かだ。

 美しいと言えば美しい。よくわからんが。


「わ、私よりもミルダの方が鍛えられてるわよ? ほら、スタイルいいし」

「その言葉はお返しいたしますわ。姉に勝る妹なんていませんから。オホホホ」


 筋肉集団のターゲットを擦り付け合う姉妹。

 お互い目が笑っていない。


 このままだと地上最強の姉妹喧嘩が始まってしまいそうなのでモンゴリアンにはお帰り願いたいのだが……おいレヴィ、なにモンゴリアンをガン見している。


「い、いやーすごい筋肉だなって」

「……興味あるのか?」

「そ、そんなことはないんだけどな! なんと言うか感化されるものがあるんだ! うん! 私も百年間暇をもて余していて体を動かしていた時期があったからな。そこそこの知識があるんだ」

「おお!そうかそうか! 君も筋肉に興味があるのか! 名前はなんと言うのか!?」

「え、えーっと、レヴィです。……うわっ!」

「レヴィ君!君も私たちと一緒に新しい道を切り開」

「はーい失礼しますよー、レヴィにはやることがあるんですからねー」


 モンゴリアンがレヴィの両手をつかんできたので何とかレヴィからモンゴリアンを引き剥がす。

 身内に筋肉だるまがいてたまるか。

 俺は三人の間にはいって説明する。


「まぁとにかくだ、モンゴリアン。ヒルダの筋肉だが実を言うとモンゴリアンが求めているような筋肉じゃない。ヒルダの筋肉はなんと言うか……しなやかではあるんだが硬くはないんだ。例えるなら猫のような感じ」

「猫とな……それは私たちにはない発想だ。つまり筋肉に伸縮性を持たせてより実用的な筋肉にしているわけだな」

「うーん? よくわかんないんだけどただただ鍛えたゴリ押すための筋肉ではないことは確かだ。ヒルダは体勢の立て直しが上手いからね。バランスのいい筋肉の賜物だと思う」

「しなやかさとバランス……フハッフハハハ!わかった! わかったぞ! 弟子達よ! 私たちはより筋肉の高みに至れるらしいぞ!」


 何がどうなったかは見当がつかないがモンゴリアン達は新たな筋肉を手に入れるつもりらしい。

 これ以上鍛えてどうすんの……。


「ありがとう! おかげで私たちは更に筋肉を愛せそうだ! 礼を言う!」

「そ、そうか。それはよかったな」

「早く帰りなさいよ。シッシッ」

「わかった! 思いたったが吉日! 皆、急いで本国に帰るぞ! 目指すはしなやかな筋肉だ!」

『マッスール!!』


 そういって高笑いしたモンゴリアンと愉快な筋肉達は帰っていった。

 それを見届けたヒルダは緊張がほどけたのかその場で寝転ぶ。


「あーづがれだもー。覚醒勇者よりも厄介な奴が来てるじゃない」


 それをみた俺達もその場で安堵のため息。


「それは災難でしたね、姉様」

「ホントそれよ。あーもう動きたくなーい」

「いや動けよ。まだ仕事終わってねえから」


 疲労度からは信じられないがまだまだ覚醒勇者ラッシュは始まったばかりだ。

 気を抜いていいときなんてあるわけがない。


「そんなことは分かってるわよ。よいしょっと」


 ヒルダは重い腰を上げて玉座にあがる。

 そう、まだ一組目しか終わっていないのだ。気を抜いてはいけない。


「姉様、また来ましたよ」

「フフン、かかってきなさい。イラついてるから適度にサンドバッグにしてあげるわ」

「あっ、それフラグじゃ……」


 大事なことだから三回言う。()()()()()()いけない。

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