MOFUTI-4 ~勝ちたくば強みを学べ~
「相棒、アンデッドっていつもどこにるの?」
「ん?」
場所は相棒の部屋。
相棒の流し目が、欠伸まじりのとぼけた声と共に向けられる。
相棒は磨いていた勇者の遺品コレクションを棚に置いて気だるげに口を開いた。
「何だよ唐突に。それを知ってどうなるんだ」
「いや……私、思えばこの城の人たちにまともに挨拶したことがないかららさ。差し入れでも持っていこうかと」
「ふーん」
かなり無理やりな理由だが、勿論私の理由はそれじゃない。
前回、カーラに自分の持っている武器を自覚しなさいと忠告を受けた私はモフちぃの武器である『ネクロマンサー』というものを把握するためにアンデッド達のことを観察しようと思ったのだ。
私が企んでいることを顔に出さないように言うと、相棒は
「アンデッドなら基本この城の毒沼階層にいるよ。アイツらは毒が聞かないから、毒で弱った勇者を狩る仕事をしているんだ。……まぁ、スケさんやカクさんなどの古参勢は他の部署で働いているからな」
「へぇ」
「あと、食べ物系は持っていくなよ。空腹とは無縁の体をしているから嫌味と受け取られるかもしれないぞ」
「ほんと? ……しまったなぁ。マドレーヌ作っちゃったよ」
思わず、城の冷蔵庫に保存してある大量のマドレーヌを想像しため息をついてしまう。
良かれと思って作ったのに……。
仕方ない。私一人で食べきれるはずもないので、ベヒーモスのごはんにしてしまおう。
「相棒、ありがとう。じゃあ今から何か差し入れになりそうなものを他に見繕ってくるよ」
「……まぁ待て」
相棒が何やら企んでいる顔をして私に向き直る。
その目は明らかにくすんでおり、欲にまみれていた。
「な、何だい相棒? 私を見つめたって何も出ないよ?」
「いや、分かってるさレヴィ。ただ、相棒として毒沼階層という危険な地帯に一人で行かせるのもまずいと思ってな」
「……」
なんか相棒がわざとらしく気ぶり始めた。
普通ならここで「行ってらー」と、軽く手を振るはずなのに。
発現だけは立派に勇者なのだが、気持ち悪い。
いきなり勇者の自覚を持ち始めた相棒は咳払いをして言う。
「俺も行ってやるよ」
「え? なんで?」
「レヴィが世話になっているんだ。お前の相棒として、アンデットにお礼の言葉の一つぐらいかけてやらないとなって思ってさ」
「まぁ……相棒がそう思うなら勝手について来ればいいと思うんだけど……」
何を言っているんだ相棒……。なんかおかしいよ……。
「さぁ、行くぞ。アンデッドも暇じゃねぇ」
思い立ったが吉日とばかりに相棒が私の先を歩く。
その足取りはなぜか軽い。
私は相棒の異常な行動に首を傾げつつ、相棒の後を追おうと足を踏み出し────たと同時に、相棒はおもむろに立ち止まった。
そして前を向いたまま、これまたわざとらしく腰に手を当てて口を開く。
「んでさ……レヴィ」
「ん?」
私がそう答えると、相棒は振り向いてにこりと笑った。
「そのマドレーヌの取り扱い、困ってたり……する?」
「ここが毒沼階層だ。瘴気が漂っているから気をつけろよ」
「じゃあ何で相棒はあんなに私のマドレーヌを食べたのさ……」
お腹を膨らませた相棒にため息が出る。
まったく、食べたいなら食べたいと言ってくれればよかったのに……。
「吐いても知らないよ?」
「吐かないさ。お前、俺をなめてるだろ」
「普通は吐くと思……いや、そうだね。相棒は勇者の血にまみれていてもなんとも思わないからね。吐くと思った私がバカだったよ」
そこには謎の信頼があった。相棒として悲しい。
ある意味強靭……否、狂人な精神力を持つ相棒はさっきまで使っていたつまようじを毒沼に落として手を払う。
つまようじは毒沼に落ちた瞬間、煙を出しながら底に沈んでいった。
この下には、一体どのくらいの勇者のしゃれこうべが沈んでいるのだろうか。
「あ……グレイの兄ちゃんじゃねえか。久しぶりじゃのぉ」
「おう。今日も気張ってるかぁ?」
毒沼のわずかな足場を飛びながら進んでいると、奥から一人の巨大なゾンビが現れる。
顔の大部分がただれ、体には死後硬直が見て取れた。
「相棒、誰?」
「ああ。こちら、この階層のボスにして補修部隊棟梁のバリュー親方だ。親方、こちら俺の相棒のレヴィ。ちょくちょくスケさんやカクさんから聞いていると思うが、まともに顔合わせするのは初めてだよな」
「れ、レヴィです。よろしく」
「おう、よろしくな。姉ちゃん」
バリューが黄ばんだ鋭い歯を見せる。
……なんというか、思ったよりも嫌悪感がしない。でも神域にいた頃の私だったら即座に叫んでいる自身がある。
「あ、あとな親方。レヴィが差し入れだってさ。ほら」
相棒が私に作れと言ったものを取り出す。
……本当にこれでよかったのかな。
「お手製のアップリケだ。ぜひ使ってくれ」
「おお! 恩に着る! 最近体の穴あきがひどいのじゃ……」
私が趣味で作った大量のアップリケを嬉々として受け取るコワモテのゾンビ。ギャップがひどすぎて世界線が狂ったように思える。
ゾンビは絆創膏の代わりにアップリケを使うのが伝統らしい。
取り返しのつかないことをしてしまったと冷や汗を出しつつ、私はバリューに本題を問う。
「その……バリューさん。バリューさんはいつも何をしていらっしゃるんですか?」
「いつも? そうじゃなぁ……普通に勇者を殺しとるだけじゃが? あとは前世が大工だった経験を生かして勇者が壊した壁の修理などを他のアンデッド共とやっとるな」
「その勇者を殺すのはどんな風に?」
「そんなに気になるのなら実際に儂らの仕事を見ればいいじゃろ。儂は人に何かを説明するのが苦手なんじゃ。なにせ大工時代も背中で語った身じゃし、なによりただでさえ破れかけている声帯をさらに酷使するからな! ガハハ!」
「ハハハ……」
まったく笑えないアンデッドジョークに愛想笑いをする。
どういう笑い?
「まぁ見ちょれ。丁度何匹かネズミがこの階層に入り込んどるようじゃしの。グレイの兄ちゃん、相棒さんを守っときな」
「あいよ。レヴィ、こっちだ」
「わわっ!」
相棒がいきなり私を引き寄せる。
すると壁が回転し、私と相棒は壁の中に入った。
「ここは?」
「隠し通路……と言っても脱出用とかじゃない、奇襲用のやつだがな。この城にはそういう通路がいくつかある。各階層はもちろん、中庭や城の塀にもな」
「へぇ……」
「んで、ここの隙間から外の様子が見れるようになってる。ほら、覗いてみろ」
「わ、わかった。覗いてみる」
相棒に言われ、恐る恐る外をのぞき込む。
私たちがさっきまでいた外の光景、それは────
「うっ……」
「おいおい……」
思わず、顔をそむけてしまいそうになる惨劇だった。
おびただしい数のアンデッドが勇者パーティー群がる。
攻撃で体が吹き飛ぼうが関係ない。魔法で顔が吹き飛ぼうが関係ない。
肉を切らせて骨を断つ……いや、それよりもひどい。
肉も切らせて、骨も断たせて、命を喰らう。
新鮮な臓物と腐った臓物が入り交じり、まさに生き地獄とも呼べるような代物だった。
その場でしゃがんだ私の背中を相棒がトントンと叩く。
「終わったぞ」
「う、うん……」
おぞましいものを見た。
胃が全てのものを拒絶する体制に入ったのを必死に耐えながら、私はなんとか身を起こす。
「いやー、素晴らしい戦いぶりだったな。親方」
「ハハハ、レヴィの姉ちゃんから貰ったアップリケがあったから少し張り切ってしまったわい」
臓物を踏み散らしながら、相棒とバリューが歓談ずる。
他のゾンビたちも笑顔で自身の損傷部分に私のアップリケを体に縫っていく。
そんなカオスな状況を見ながら、アンデッドにも負けないくらい死んだ目になった私はぼそりと呟いた。
「決めた。もっとかわいいアップリケを差し入れして、この殺伐とした階層を変革しよう」
今回の収穫レポート。
アンデッドはそのタフさを生かした人海戦術が得意。ただしその場が惨状となるので直視は避けることを推奨する。
追記:次回の差し入れはハートのアップリケ。胸部に穴が開いても可愛くできるように。
読んでいただきありがとうございます!
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ついでに投稿モチベも上がり、作品がより良いものになるかも知れません。作者は素直な子なのです。
気が向いたらでいいです。ぜひ評価の方を




