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魔王が勇者を拉致った結果  作者: デンダイアキヒロ
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ハッピーorライフ

 いつも通りのぐうたらで怠惰な生活を送っていると、母さんが変にニコニコした様子で俺を呼びに来た。


「グレイ、お客さんよ」

「あ? 俺に?」

「あなたの判決が出たそうよ。天使さんが家の前にいるわ」

「あー」


 すっかり忘れていた。もうこのままの天国にいていいんじゃないかなと思っていたところだ。

 ……はい、冗談です。そんなことはまったく思っておりません。


 俺は玄関に向かうと、すでに父さんとユウキは表に出ており、家を中心として大きな人だかりができてる。


 そして、玄関の前には仮面をかぶって白く長い装束を着た人物が立っていた。

 特徴のない出で立ちだが、純白で構成された装いからそれなりに高位の天使だと推測できる。


「こんにちは、グレイ様。私は神の命により、貴方を迎えに参りました」

「迎えに?」


 天使はコクリとうなずく。


 おかしいな。ただの勇者一人の判決を言うためだけに神が直接会わなければならないことなんてあるのだろうが。

 それに、俺が生き返れるという話ならわざわざ天使を派遣する必要もないはずだ。

 何か裏があるな。


「どうしたのよグレイ、緊張しているのかしら?」

「あ、ああ。ちょっと心配だ」

「大丈夫よ! 私とバロンの子供が悪人であるはずがないわ。胸を張って行きなさい!」


 父さんの肩をバシバシ叩く母さんを横目で見つつ、俺は改めて天使を見る。

 なんというか、少し怪しい。俺の勘的にはあんまりいい結果じゃないような気がするのだが……。


 そんな不安が頭をよぎるが、俺にはどうすることもできない。


「わかった。じゃあ父さん、母さん。行ってくるよ」

「ああ、行ってこい」

「頑張ってくるのよ、グレイ。帰って来たら……って、帰ってこない方がいいのよね。寂しいわね、全く」


 父さんと母さんは本当に悲しそうな表情を浮かべている。

 しかし、俺に悲しさを悟られないように必死に取り繕っていることもまた事実だった。

 両親なりの最後の親心というものだろうか。

 それを見て、俺は思わず涙腺が緩みそうになるがグッと堪える。ここで泣いてしまったらせっかく両親が作ってくれた雰囲気が台無しになってしまうからだ。


 大丈夫だ、いつかは帰ってこれる。絶対に。

 人間は誰だって死ぬのだから。


「それじゃ、行ってきます」

「「いってらっしゃい」」


 おそらく最後になるだろう実の親からの「いってらっしゃい」。

 それを噛みしめるように受け止めると、俺は両親の前を離れ、天使と共に神の元へと向かった。


 **********

 ******

 ***

 天使に連れられてやってきた場所は天界にある神殿のような場所だった。

 大理石でできた床や柱、天井にはな彫刻が施されている。

 どこか聖教国の大聖堂に似ている用の気もするが、気のせいだろうか。


「ではこちらへ」


 門番の間を抜け、天使の後に続く形で神殿内に入る。

 中に入ると、巨大な扉が一つだけあり、侵入者を拒絶するようにそびえたっている。


 この先に神がいるのだろう。いよいよ判決の時が来たようだ。


「準備はよろしいですか?」

「ああ、早くやってくれ」


 天使は小さくうなずくと、扉の表面を優しくなでる。すると、扉はひとりでに開き始め、その奥に玉座のようなものが見える。

 俺は天使と共にゆっくりと歩みを進めると、空の玉座の手前まで来て止まった。


「神の前です、くれぐれも無礼の無きよう」

「わかってるさ」


 天使が跪いて礼をしたあと、黙って俺の隣を離れる。


「よくぞ参った、選ばれし勇者グレイよ」


 神の声が響くと同時に玉座が眩い光を放つ。


 現れたのは俺を中心とした議事堂。

 議員席が扇状に並べられており、天使たちが俺を見定めるように視線を送る。まるで骨董品のツボを鑑定している鑑定士ような冷たい眼だ。


 そして、目の前には玉座に座る一人の巨大な老人の姿があった。

 髪は白く染まっており、纏っているオーラからして只者ではないことがわかる。


 他の誰でもない。神だ。


「お初にお目にかかります、神様」

「……ふん」


 皮肉たっぷりにあいさつすると、神は不機嫌そうに鼻を鳴らす。

 やはり神様、俺が神を嫌っていることまでお見通しのようだ。


「貴様を呼んだ理由は他でもない。貴様の判決について話があるのだ」


 神は鋭い眼差しで俺を見る。


「まずは以前勇者蘇生課で貴様の業を計った時、天秤が壊れた理由に説明をつけねばなるまい」

「ああ、そうだな。大体予想がついているが一応聞かせてくれないか?」

「簡単なことだ。貴様が世界に影響を与えすぎたからこそ起きた現象である。貴様の経歴は善の部分と負の部分の乖離が大きすぎるのだよ」


 だよな、そんなことだろうと思っていた。


 俺がした善行はコキュートスの無力化と邪神の封印、万雷鯨の解放とそれなりにある。そして、どれもこれもが世界の存続に関わるほどのものだ。

 逆に悪行の方も数えきれないほどある。軽犯罪から重犯罪まで、性犯罪以外は何でもこなした前科百般勇者だ。


 だから俺の行動を天秤欠けた際、普通ならどっちかに傾くはずの秤が重さに耐えきれず崩壊してしまったということだろう。


「まったく、こんな勇者は初めてだ。過去最高の勇者であり過去最悪の勇者と言わざる負えん」

「そりゃどうも。俺は融通が利かない勇者なんでね、文句を言うなら俺を作ったどこかの誰かさんに言ってください」


 俺の返答を聞いて、神は大きくため息をつく。


「まったく……貴様は選ばれし勇者なのだぞ。勇者の中の勇者であり、世界を平和へと導く救世主だという自覚はないのか?」

「自覚? ええ、十分にありますよ。勝手に運命づけられ、使命を与えられ、その挙句に魔王と戦うことを望まれる」

「分かっているではないか」

「分かっていますとも。でもね、そんなことは俺には関係ないんですよ。俺の人生は俺のものであって他の奴に決められるものじゃない。……俺はお前たちの道具じゃねぇんだよ」


 俺の言葉に天使たちはざわつく。

 無礼者だと俺を非難する者、愚か者だと俺をあざ笑う者、不遇者だと哀れむ者と反応は様々だが、俺を擁護する声は一つもなかった。


 まぁ、暖かい言葉を貰おうとは微塵も思っていない。ここにいる神や天使は全て俺を作り、俺の人生を狂わせた元凶だ。

 本来は自分たちで片付けないといけないことを俺に押し付け、あまつさえ世界を救うという責任を背負わせておきながら、俺が使命を全うすることがあたかも当然だと言わんばかりの態度をとる。


 使命ってなんだよ。それに何の価値があるんだよ。

 俺はただ平穏に生きたかっただけなのに。


「で、判決はどうなんですか」

「もちろんだ。貴様に下す判決を言い渡す」


 神は静かに口を開いた。


「選ばれし勇者グレイ。貴殿を下界に蘇生させる」


 その言葉に、俺は内心でほっとする。

 よかった、これで俺はまた生き返ることができる。流石にエリクサーを使って蘇生ができないということはなかったらしい。


 ……しかし、神は続けてこう言った。


「ただし」


 神は続ける。


「貴様の悪行はあまりにも多すぎる。選ばれし勇者とはいえ、このままでは貴様は間違いなく地獄行きとなるであろう」

「…………」

「そこで、貴様には蘇生させる代わりに我々の要求を飲んでもらう。それと引き換えに蘇生することを許そう」

「……なんだよ、その条件ってのはよ」


 めんどくさいことを言われ、つい苛立ってしまう。

 どれだけ待たされたと思っているんだ。早くしてくれよ。


 はやる気持ちを抑え、俺はその時を待つ。


 ────が、神に告げられた条件はあまりにも残酷で、当然のものだった。


「生き返ったら使命に従い魔王を討伐しろ。それが条件だ」


 足掻いたツケが今、二十年の時を超えて清算されようとしていた。

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