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ちみっこ魔王は呵呵とは笑わない。  作者: おおまか良好
■■2章-ただ守りたいものを、守れるように-■■
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2章-決してしてはいけない話題


「確かに、承りました。ルイ様、ご武運を」


「ルイ様は止めて下さいよ……、執事としても人としても大先輩なんですから…」


「ふふ、ではルイ殿と」


最後には、眉根を顰めて渋々了承したルイの姿に、ザフラマは小さく笑った。




ザフラマについては、粗方拘束を終えたシュナイゼルから、事情と経緯を聞き、

手荒な真似はしないと約束した上で、対応は、ルイに委ねてもらった。


気付け薬を用いて目覚めさせたザフラマと、ルイは幾つかの言葉を交わしたが、

ザフラマが口にした言葉、態度、対応からは、悪意も矛盾も感じる事はなかった。


また、ルイに対しても誠実な姿勢を取り続けていたの姿勢も、ルイに好感を与える。


その返礼と言う訳ではないが、ルイも彼には誠実であろうと思い至り、

元奴隷の執事と言う偽りの身分ではなく、自身が何者で、

何者たちの弟子であるのか、彼に正直に全てを伝えた。


師達の名にこそ、初めは驚きを示したものの、

ここまでの経緯を考え、納得する部分も多かったのか、すぐに理解を示す。


その上で、ルイは、自身が考えている作戦概要、行動予定を伝え、

可能であれば、協力してくれないかと打診。


ザフラマは、それを快諾した。


その後、イジートを含めた、他の拘束した兵たちの元へと移動。

いつでも自由に動けるよう、緩い拘束を施し、別れ際の挨拶を交わした。



ルイがザフラマの対応をしている間。


シュナイゼルは、先の閃光や騒動の音で、セリーヌや貴族の子女が、

余計な不安を募らせていてはいけないと、セリーヌ達の下へと、

説明に先行しておくからと自ら買って出た。


ルイは、そんなシュナイゼルの向かった檻へと視線を一度向け、

妖人族(スペクトル)の男、シュテンが囚われた檻へと駆け寄った。



「お待たせシュテン。先に、邪魔な檻をどうにかしちゃうから、もう少し待ってて」



軽い口調で、依然と吊られたままの角男こと、シュテンへ言葉を投げかけるルイ。


再会の挨拶もそこそこに、ルイは、隷属する影(シャドウ・スレイブ)に意識を集中して操作し始める。


脱出の準備も並行して行う算段なのだろう、

ルイの足元で蠢く影が、暗闇に乗じてぐんぐんと領域を拡大して行く。


天幕内のほぼ全域に拡大したのを確かめつつ、"細工が必要な箇所"に取りかかった。


「……あははっ、はははははっ」


突然、シュテンが大声で笑い始めたので、ルイは何事かと顔をあげシュテンを見やる。


「こんな檻なんざ目じゃねえんだろうな。簡単にどうにかするときたもんだ。

 ルイの旦那は、実はとんでもない化け物なんじゃねえかなって、

 考えたらな、怖いんだか心強いんだか、良く分かんなくて笑えちまった」


「はははっ、何それ。良く分からなくなったからって、いちいち笑ってたら、

 毎日、何かに笑ってなきゃいけないじゃないか。シュテンって変なやつだな。

 ほら、もう檻が消えるから、転ばないように足元を見てなよ?」


「檻が消えるって、またどういう意味……っ、うおっ!どうなってやがんだ?!」


言葉の真意を訪ねる前に、言葉通り檻が急に消失した。


吊られていたシュテンは、慌てた声をあげはしたものの、

ルイが予め断わりを入れた事もあって、きちんと地に足を付けた。


急に消えた檻の行方を探しているのか、じゃらりと拘束に使用されていた鎖を鳴らし、

檻の痕跡を探ろうとうろうろしては、首を傾げている。


そんなシュテンの様子を窺っていたルイもまた、首を傾げる。


想定し望んでいた結果は、檻だけではなく、檻と繋がっていた鎖や枷も、

隷属する影(シャドウ・スレイブ)内部へと収納できると踏んでいた。


だが、結果は檻だけが消え枷も鎖も消えてはいない。


「……檻を消すってイメージが強すぎて、百舌に伝わってないのかな。

 それとも、シュテンと物理的に繋がってるから? でも、それなら檻も……」


収納(アイテムボックス)にも言える事だが、ルイの隷属する影(シャドウ・スレイブ)は生きた物は収納出来ない。


例外をあげれば、能力保有者(オーナー)であるルイ自身を一時的に仕舞う事は可能だ。

だが、隷属する影(シャドウ・スレイブ)内に滞在出来るのは、最大でほんの数十秒。


共に検証したリズィクルは、隷属する影(シャドウ・スレイブ)内部の時間が、完全に停止しているため、

停止している空間に、停止していない存在が入り込む事で矛盾が生じ、

停止空間を維持出来なくなるため、排出されるのではないかと推測した。


色々とルイの脳裏に推測が飛び交うが、まずは試行だと考えを振り払う。


「シュテン、ちょっと手枷と足枷を良く見せて欲しいんだ。こっち来てくれる?」


「おうっ」


ルイの呼び掛けに軽く応じて、鎖を引き摺りながらルイの下へやってくる。


天幕内部が暗所なため、離れていた時は気付かなかったが、

ルイの近づくに連れ、足元で黒い影が生き物のように胎動している事に気付いた。


お?と小さく驚きの声をあげはしたが、特に警戒する事なく、興味に目を輝かせ、

ルイの隷属する影(シャドウ・スレイブ)を観察しはじめる。


「良くわかんねーけど、これで檻をどうにかしたのか? ルイの旦那は、すげーな」


「んー? 僕が凄いんじゃなくて、百舌(もず)が凄いんだよ、ねえ、百舌(もず)

 この人は、シュテンって言うんだ。百舌(もず)が凄いって褒めてくれたよ?」


ルイがそう慈しむように、声をかけると隷属する影(シャドウ・スレイブ)が喜びを伝えようと身を揺らす。


隷属する影(シャドウ・スレイブ)が意思を持っていると知った時、気付かないふりを通したが、

レオンが何か言いたそうにしていた事にルイは気付いていた。


そして、漠然とレオンが何を考え、それをルイに伝えなかったのかも察していた。


だが、ルイは純粋に、百舌と意思の疎通を図れる事が知れて、嬉しかった。


「これは、百舌の旦那が喜んでるって事か? どんな仕組みかはしらねーけど、

 あんたもルイの旦那も、すげーんだなっ!檻から出してくれて、ありがとよっ」


少しの抵抗も感じさせる事なく、ルイのなんらかの能力であろう影に、

意思があると言う事実を素直に受け入れ、隷属する影(シャドウ・スレイブ)に感謝を伝えたシュテン。


何処となく抗議をするようにルイの足元で、身を揺らすのを見てルイは苦笑した。


「多分、旦那なんて付けずに呼んで欲しいみたいだよ?」


「そうなのか? じゃあ、百舌さんだな。恩人だからな"さん付"は許してくれよな」


シュテンがそう言って、隷属する影(シャドウ・スレイブ)を撫でるように地面を撫でた。

そんな2人のやり取りに、ルイは目を細め笑みを浮かべる。


「百舌、シュテンの手足の枷と、枷に繋がってる鎖なんだけど、どうにか出来そう?」


ぶるりと震えて、隷属する影(シャドウ・スレイブ)はルイの言葉に応えると、

もぞもぞとシュテンの足に絡まり、ゆっくりと手首へとその身を伸ばして行く。


シュテンも、何をしようとしているのかを察して、

隷属する影(シャドウ・スレイブ)が、身をつたうのを助けようと大きな身体を屈める。


―― カシンッ、ジャララ…


硬質な音を響かせ、枷や鎖が地面に滑り落ちると、

シュテンの手足を包んでいた影は、黒い煤となり中空に霧散した。


「おおっ、すげーな百舌さんっ。あっという間だぜっ!」


煩わしかった枷が外れ、久しく味わえなかった解放感に喜びを露わにするシュテン。

シュテンに感謝された隷属する影(シャドウ・スレイブ)も、釣られたように、うねうねと身を揺らす。


「はいはい、はしゃぐのは後にして、さっさとこれ飲んで」


いつまでも見ていたいような気にさせる風景ではあるが、

ルイは、隷属する影(シャドウ・スレイブ)から回復薬を取り出して、シュテンに差し出した。


だが、シュテンはそれを受け取る事なく首を横に振る。


「さっきもらったのが、あるからよ」


手の中に、大切に握りしめていたルイがくれた小瓶を見せた。


「そんな少ない量で大丈夫?質が良いって言っても、効果そんなに無いでしょ?

 やせ我慢して後で、泣き言なんか言っても、面倒見切れないんだけど」


その気持ち自体は、ルイも嬉しいが、状況的に今は効率が優先される。

少し剣呑な気配を纏い、窘めるように強い語気でシュテンに言葉をぶつけた。


「俺は鬼人種だからな。怪我の治りが早い(はえー)のと、頑丈だけが取り柄なんだよ」


そう言って、小瓶の蓋を優しく開けて嚥下する。


「先に飲ませてくれただけでも、世辞抜きで俺には十分、効果あったんだぜ?」


軽く身体の怪我具合を確かめ、ルイにも大事はないと無防備に手を広げて見せた。


シュテンの言葉を疑う訳ではないが、ルイはその大きな赤銅色の身体を、

隅々見てまわり、怪我が不調の兆しを探すも、確かにそれらしい物は見当たらない。


「なっ?ばっちり絶好調」


そんなルイに、鮫歯を剥き出しに豪快な笑みを見せた。


あれだけ酷かった顔の腫れも引き、切れ長の瞳は人好きする柔和さがあった。


(へえ、考えてみたらシュテンの顔って、初めてちゃんと見た)


しげしげとシュテンの容姿を見て取り、ルイは胸の内でそう零す。


瞳と頭髪は、ルイの銀髪よりもずっと黒みがかった灰色。

赤銅色の巨躯は、間近で見ると、なかなかの大迫力。

当初感じた通り、やはりレオンのそれと比べても遜色がない。


それでいて獰猛そうな鮫歯を有しているため、やや威圧感が在るが、

見た目と違い、若干かすれた高音域の声と、人懐こさが滲みでる言動は、

どことなく無邪気さと幼さを感じさせ、外見の圧力を和らげていた。


ルイが自分の姿を今更になって確かめているのが、可笑しいのかシュテンは笑った。


「改めて見たら、こいつ凶悪な見た目してやがんなってびびったか?」


「背も大きくて、立派な筋肉もあって、なんかムカつくなとは思ったけど、

 怖いとは思わないかな…なんていうか、幼い? でっかい子供みたいだし」


「いや、でかいのは種族的なもんだから、そんな事でムッとされても困んだけど…。

 でも、幼いって言うのは酷いぜ。これでも、()()()()


「えっ! 12っ?!」


全く予想していなかった事実に、流石のルイも思わず大きな声をあげた。


幼い雰囲気と言っても、この巨躯だ。

20前後ではと想像していたが、シュナイゼル達とまさか2歳しか違わないとは。


驚きはしたが、ルイの理想とするレオンに匹敵する体躯を持つシュテン。


憎からず思ってはいても、ルイの心に嫉妬心がふつふつと沸き上がる。


「そんな驚くなよっ!ルイの旦那だって、まだ子供だろ?

 あ…悪い事言ったか?! もしかして、そういう小柄な種族なのか?」


ルイの驚き方が、心外だった事もあって、つい声をあげ抗議したが、

自分を見つめるルイの目から不穏な気配を感じ、

ルイの種族が見た目とは違うかも知れないと思い至り、バツの悪さに顔を顰める。


人種(ヒューマン)だよ、6歳の」


「まんまじゃねーかよっ!」


憮然とそう口にしたルイへ、紛らわしいと抗議の声をあげた。


だが、声をあげてすぐに異変に気付く。

微かな怒気、そして微かだが確かな殺気を纏うルイに、思わず身を固める。


「ああ、まんまで悪かったよ。どうせ小さいからね。

 シュテンみたいに体格が良い人には、僕の気持ちなんて分からないよ。

 ああ、こんな無駄な事してる暇なんて無いんだ。

 さっさと行くよ。ついて来ないなら、置いてくからね」


―― にたり


そんな在りもしない音が聞こえるかの様な、無機質な作り物めいた笑み。

瞳からは輝きは完全に消え失せ、そこからは温もりも感情を感じられない。


身も心も凍りつき、ただ茫然と立ち尽くすシュテン。


ややあって踵を返したルイが歩き出す。


そこで漸く、人心地ついたシュテンは、その背中を追いながら、

体型を指す話題は、2度とルイには口にすまいと堅く決心した。




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