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ちみっこ魔王は呵呵とは笑わない。  作者: おおまか良好
■■2章-ただ守りたいものを、守れるように-■■
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2章-野営地に潜む影、囚われの者たち

「んでよ、そいつが言ったんだよっ!」


「ぎゃはははは」


酒精の匂いを撒き散らし、なにがそんなに楽しいのか、

全く理解出来ない話で、盛り上がる者たち。


それらを忌々しげな視線を送り、静かに武具の手入れをする者たち。


仲間とも思っていないのだろうか、

そんな彼らに関心すら示さず、淡々と隊列を組み巡回する者たちもいた。


(……兵の質は、あんまり高くなさそうだ。仲も悪そうだし、連携なんて取れるのかな)


背景に溶け、気配は断っているとは言え、そんな兵らのすぐ傍らを、

悠々と歩くルイは、そんな事を考えながら野営地を進む。


進入当初こそ、物影や薄暗がりを選び、慎重に行動していたルイだったが、

微かな違和感すらも感じていない様子の兵たちを目にして、

だんだんと、律儀に隠れる事が馬鹿らしくなり、次第に大胆な行動を取り始めた。


そして、ついには物影や兵たちを気にする事なく、普通に歩きだすまでに至る。


想定していた以上に、察知能力の水準が、押し並べて低く。

300を超えるための慢心か、緊張感の無さが目立つ。


酒精を漂わせている者も、傭兵らしき粗野な言動の目立つ者たちだけでなく、

そこかしこで、酒を手にして歩く兵たちの姿も見て取れた。


しばらく野営地の内部を歩きまわり、武器庫代わりの天幕や、

馬車が止められている区画や、幾つか存在した、馬を管理している場所、

食料倉庫らしき天幕などを発見。


ルイは脳内で、それらの場所を忘れぬように、留め置き中心部の天幕へと向かった。


(この辺りは、流石に兵たちの質は高いか…)


野営地の中央付近の天幕は、豪奢な作りの物も多い。

それなりに力を持つ者や、兵を率いる貴族たちが滞在するための物なのだろう。


警備のために巡回している兵たちの動きも、押し並べて錬度が高い。

先程まで見て来た者達とは比べるまでもない、歩き方一つとっても、雲泥の差。


「ん?」


1人の兵が、足を止めて後ろを振り返り険しい表情を浮かべる。

ルイは、静かに腰を落とし、背面にベルトで固定された短剣の柄に触れた。


眼前にいる兵は2人。

声はおろか、音すら立てぬよう排除しなければならない。


ルイは、滑らかに歩を進め接近する。


「急に、どうした」


「いや……すまない。気にしないでくれ、少し過敏になっているようだ」


「ははっ、今晩が山場だ。気持ちは分かる、その調子で今夜を乗り切ろう」


いざ飛び掛からんとしたところで、違和感に気付いた兵が、

気のせいだと考えてくれたのか、声をかけてきたもう一人の兵に苦笑を見せた。


そのまま、軽い雑談をしながら、その場を後にした2人の兵の背を眺めつつ、

ルイは、額に浮かべていた冷や汗を拭った。


(……油断は駄目だって言われてたのに)


シュナイゼルとセリーヌが、野営地へ運び込まれる前に、

遭遇戦などに発展して騒ぎにでもなれば、目も当てられない。


そんな騒ぎの渦中に、シュナイゼルを連れた一団が到着などすれば、

2人はおろか、子女たちの身も危険に晒される。

それどころか、野営地を避け何処かへ離脱されでもしたら取り返しがつかない。


最悪の事態こそ、どうにか避けられたが、敵の本拠地のど真ん中で、

多少とは言えども、気を緩め要らぬ危険を招きかねた自分に、ルイは怒りすら覚えた。


「……気が緩むなんて、あり得ないだろ。集中しろ」


小さく声で、自分自身を叱責して、ぐっと力を込めて目を閉じる。


やるべき事、それを成すための手順を、改めて頭の中に思い浮かべた。


それをひとつひとつ的確に、そして細心の注意を払い丁寧に、

少しも見誤る事なく、ただただ実行するだけだと、ルイは強く言い聞かせる。


「ふぅ…」


最後に、脳裏にシュナイゼルとセリーヌの笑顔を思い浮かべ、

頬二度叩き、息を大きく吐き出して、気配察知(サーチ)をこの野営地に合わせて展開させる。


感じる300を超える気配、そのひとつ、ひとつを、脳裏に刻み込んで行く。


静かに目を開け、ルイはまだ確認の出来ていない、

警備が強固な天幕群へと足を踏み入れた。



より慎重に行動するようになったため、忍び込むのにやや時間は取られるものの、

警備たちに違和感すら与える事なく、順調に天幕内部の調査が進む。


その多くは、やはりルイの睨んだ通り貴族や、兵の長たちが私室に使っているようで、

天幕の中は、資金力や収集品などを、周囲に見せつける思惑があるからか、

共通して無駄な物が多い印象を受ける。


棚や机、大きな装飾箱などから、目に付いた書類などに目を落とし回収するが、

これと言って新しい発見や、今回の件についての指示書などは発見出来なかった。


金貨や悪趣味な装飾品の類は、回収すると嫌がらせにもなると、

ルーファスから、聞かされていたルイ。


書類の類のように、いちいち確認する事はせずに、

部屋の内部の品々を、影で覆いその全てを併呑し、回収していった。


あらかた天幕の捜索を終え、十を軽く越える数の天幕の内部を収納してみせた影。


それでも、まだ許容量を越えていないと感覚で感じる事に少し驚愕しつつ、

ルイは、残すところあと二つとなった確認を終えていない、天幕を見つめる。


どちらの天幕からも、多くの気配を内部から感じたために、

調査が容易そうな天幕を優先し、骨が折れそうな、

この2か所をルイは後回しにしていた。


そんな天幕の一つに、ルイは改めて視線を向ける。


どの天幕よりも豪奢な作りで、野営地のほぼ中央に張られた巨大な天幕。


篝火の明かりを身に受け、

ゆらゆらと風に泳いでいる軍旗は、侯爵であるパブタスの家紋。


ルイ自身、それほど沢山の種類の天幕を見た事がある訳ではないが、

貴族たちの私室代わりの天幕、それらの優に3倍程はある巨大な天幕が、

普通ではない事は、充分すぎるほど理解できる。


今見つめている先でも、複数の兵達が激しく出入りを繰り返している事から、

ルイは、ここが野営地の本部だと確信する。


それを裏付けるように、この天幕からあのイジートの気配も感じられた。



そして、もう一方の天幕へとルイは視線をやる。


大きさも質の良さも、先ほどの本部と比べると、些か劣るも立派な天幕だ。


出入り口を固める兵の数こそ、本部と遜色のない頑強さを感じさせるが、

中から、兵が出て来る事も、兵が入って行く様子は見られない。


天幕の内部からは、しっかりと20程の気配の反応が確認出来るが、

何度かこの天幕に意識をむけた時と変わらず、不自然なまでに動きは感じられない。


始めは、兵たちが負傷した際に、治療を受ける施設かともルイは考えたが、

それらしい天幕は、外周の天幕群にも、中央の天幕群からも、幾つも見受けられた。


中央に、これ程の規模で治療用の施設を存在させる事自体は、不自然さを感じない。

だが、治療するための天幕に、この豪奢さの必要性は一切ないだろう。


なんとか、他の理由を考えるも、ルイには何も浮かんではこない。


(絶対に嫌だと思う予感こそ当たるって、師匠(エドガー)も言ってたもんな)


恐らくこれだろうと確信めいた予想はついていたルイだが、

どうにか現実逃避を繰り返せば、予想がはずれるのではと足掻いていた。


その予想が正しいとなると、今後の救出劇の難易度が跳ね上がる上に、

()()()()()()()()()()()事になる。


こちらの天幕を後回しにして、本拠地に忍び込む事も頭をかすめるが、

後回しにするとなると、それはそれで要らない後顧の憂いを残す事になる。


最後に嘆息を吐き、覚悟を決めたルイは、重い足取りで天幕内部へと足を踏み入れた。


人気の無かった貴族達の私室代わりと同様に、

沢山の気配があると言うのに、薄暗い天幕の中。


目を細め暗がりの中にある気配へと目を向ける。


(……ああ、やっぱりだ)


想像通りの物と者たちを、暗がりの中で見つけ、ルイは暗欝とした気分になる。



何度目かの嘆息を吐いた、ルイの眼前には、強固で頑強な作りの大きな檻が3つ。


特殊な金属で作られているのか、それともルイの知らない術式でも組まれているのか、

内部からは当然だが、外部から中に入るのも難しいと、ひと目で分かる。


そのひとつには、鎖が繋がれた枷を手足にはめられ、自由を奪われた複数の者たち。


別のひとつには、宙づりで力なく揺れる人影が一つ。


最後のひとつは、前のふたつと違い、場違いな豪奢な家具が並べられ、

複数のソファや、テーブル、ティーカップなども揃えられている。


だが、そこには、人の姿も気配も無い。

おそらく、これからここへ来る誰かのために誂えられたのだろう。

そんな悪趣味で、滑稽な檻から視線をはずしルイは気配の多い檻へと近づく。



獣人族(ビースト)をはじめ、魔族(アスモディアン)耳長族(エルフ)短身族(ドワーフ)巨人族(ジャイアント)らしき者たちのようだ。


その他にも、ルイの知識にない特徴を持つ種族や、

人種(ヒューマン)とはまた違った、独特な特徴が見られる混血(ミックス)らしき者たちも見受けられる。


だが、何故か、人種(ヒューマン)だとひと目でそれと分かる者の姿はそこにはない。


そして、この集団は全てが女性だと言う事がわかった。


囚われた女性たちには、汚れや饐えたような臭いはあるものの、

これと言って痛めつけられた様子は見当たらない。


だが、大半の者が浮かべているのは絶望と恐怖。


(…あの人は怯えてないな)


ルイは、只一人魔族(アスモディアン)の女性が毅然とした様子で佇んでいるのを目に止めた。


師であるリズィクル同様に黒曜石のような巻き角が生えている。

髪はマサル同様に黒かと、初めは見えたが、よく観察すると黒により近い蒼。


囚われの身となってどれ程の時間が経過しているかは分からないが、

ぼさぼさとした痛んだ印象を受ける。


だが、手入れをすれば綺麗な夜色が揺れるのだろうなと、ルイは漠然と思った。

金色輝く瞳は、穏やかさを感じさせる大きな瞳だが、

そこには、柔和さの中に確かな意思の強さを感じる。


彼女以外の者たちも、美しい容姿だったり、可愛らしい容姿の者が多い。


ルイは、少しだけ後ろ髪を引かれる思いを感じながら、もう一つの檻へと近づく。


釣られた男は、まだ息があるようで微かな呼吸音をたて胸を上下させていた。


その男の額にも2っ角が生えていた。


だが、彼が魔族(アスモディアン)ではない事は、すぐにルイにも分かった。


肌の色がそれとは異なり、赤銅色をしていたからだ。


釣られた男は、レオンと並びたっても遜色ない程の筋肉の持ち、

呼吸が辛いのか、開け放たれた口からは鮫歯の姿が見える。


余程、激しい拷問でも受けたのだろう。

身体の至るところに、裂傷や打撲痕が見受けられ、今も出血している傷すらあった。


相当痛みつけられたのが想像つくほどに、瞼や頬、額なども腫れあがっていて、

赤胴色の皮膚が、蒼く濁っている部分も1か所や2か所などでは到底済まない。


あの檻にいた女性たちが、怯えと絶望に顔を染めていた原因は()()だ。


抵抗を見せた故か、それとも別に理由があったかは分からないが、

恐らく、この男を見せしめに使い、彼女たちに恭順するように迫ったのだろう。


男からも距離を取り、ルイは他に何か見落としは無いかと見て回ったが、

得られる物も、他に関心を引くような物は見当たらなかった。


再度、3っの檻を順に視線を走らせて、頭を抱えてしゃがみ込んだ。


(…はあ、想定していた中で、1、2を争う程の嫌な事態だよ。ちっ、糞師匠(エドガー)め……)


別にエドガー自身が何をした訳でもないが、

嫌だと思うことほど現実になるなど、頼んでもいないのに、

不吉な教えを口にしたエドガーに、胸中で苛立たしげに、悪態をつき舌打ちするルイ。


エドガー「油断してんじゃねーよ、はやく俺だせよ

ルイ「出て来なくていいですよ、ルビが多い台詞のキャラは特になっ


エドガー「な、なんだってー



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