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ちみっこ魔王は呵呵とは笑わない。  作者: おおまか良好
■■2章-ただ守りたいものを、守れるように-■■
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2章-武具店の店主、2人の殿下と変わった従者

「レオンのお勧めの店ってどんな店だろうなっ!」


「お勧めって言っても直接は知らないそうですよ。

 ベテラン冒険者から良く聞く名だって言ってましたから」


ルイ達が向かっている"ベルイド武具店"は、

工業区、別名鍛治場街を抜け、やや閑静な通りに構えているとレオンは言った。


ルイがシュナイゼルに言った通り、レオン自体には面識がない。

だが、そこで購入したと言う武器や防具を、

ハンニバル支部に持ち込み調整依頼や修理依頼は多い。


「店主は自ら槌を握る事はないらしいが、

 目利きは確かだ。俺が見た範囲だが逸品と言って良い物が多い。

 せっかく武器屋を覗くのなら、そこへ行ってみると良いだろう」


子供たちでは相手にされないかもしれないと、

レオンはわざわざ挨拶状をしたため、用意してくれた。


「稀代名工と名高いレオン様が、それほど高い評価をされているんですもの。

 期待するなと言う方が無理ですっ。楽しみで仕方ありませんっ」


ルイはそんな、セリーヌの様子に少し驚いた。

シュナイゼルはともかく、

セリーヌがこれほど興奮するとは思ってもいなかったからだ。


そんなルイの考えは顔に出ていたようで、セリーヌは口元を抑えて笑う。


「うふふ、私だって王家の末席に身を置くものですよ?多少の心得はあります」


「ははっ、多少ね。ルイは聞いた事ないか?王立魔操騎士学院。」


「師匠たちが行ってた学院ですよね?」


「そうそう、俺たち去年から通ってんだけどな。入学早々、全学院生総合序列九位。

 それがセリーヌ、んで俺も入学からずっと七位」


毎年300人ほどの入学者が存在し、6年間過ごすと聞いている。

在校生はおおよそ1,800人。

シュナイゼルとセリーヌの好成績にルイは口を開けて固まる。


「この野郎…、確かにお前より弱いし頭も良くないのは認めるけど」


「そんな驚かれると心外ですっ」


若干、険呑な雰囲気になる2人にルイは素直に頭を下げて謝罪した。


「疑ってないですって、一桁って"シングルス"って呼ばれるんですよね?

 それを入学してからすぐにって、凄いことですよね」


戦闘能力だけでなく、魔法への造詣の深さ、研究結果、もちろん成績も。

それらを加味して順位が決められるとリズィクルから聞いている。


「入学してすぐ"一桁番号(シングルナンバー)"に入ったけどさ。それ以来順位は変わってない。

 上にゃ上がいるって訳だ。ルイが学院にいりゃもっと楽しいのにな」


「ルイならすぐ主席ですっ」


「"不動の一位(ジ・ワン)"にだって、簡単に勝っちまいそうだしなっ」


「不動の一位(ジ・ワン)ですか?」


「俺らと同期のヤツなんだけどな、入学からずっと学院で一位。

 ライルって、化物がいるんだよ」


「すごい槍の名手なんですよ、私もお兄様も時折、模擬戦など相手して頂くんですけど、

 まったく敵わなくて」


「悔しいけど、今のところは絶対君臨者って感じだ」


「でも、偉ぶったり鼻にかけることもない素敵な方ですわよ」


「お会いしてみたいですね」


2人とは簡単な訓練を共にする機会もあった。

10歳にしては身体も大きく、筋肉質のシュナイゼルは格闘術が得意。

セリーヌは、ルイも驚くほどに剣の扱いが巧みで刺突剣を操る。


ルイが苦手な受け流しの訓練も兼ねての模擬戦。

1人1人でも時々、ひやりとする瞬間もあるのだが、

さすが双子というところか、2人同時に相手する時は、ルイにも余裕が消える。


当然、ルイが反撃しても良いという条件になれば、話は違う。

2人は何も出来ずにルイに翻弄されて終わるだろう。


それでも、ルイの想像より遥かに高い戦闘技術を持つ2人が、

"まるで敵わない"と言う実力者。

それも師匠(エドガー)と同じ槍の使い手、ルイが興味を抱くのも無理はない。


「ルイも学院は入ってくんだろ?」


「そうですっ、早くいらしたらいいのにっ」


「あの…お2人は、僕の年齢お忘れですか?」


「「あっ、そっか」」


王立魔操騎士学院の入学資格は、最低でも満8歳とされている。

そのためルイが行きたいと願ったところで、不可能だ。


「入学した時はお世話になります先輩」


そう笑顔で口にしたルイに、

"先輩"と言う響きが、琴線でも刺激したのだろうか。

2人は、揃って目を瞬き、たいそう興奮してみせた。


工業区の鍛治場街を超え、そろそろ目的地かとルイは建物に目を走らせる。

目的の店らしき建物を見つける。

"ベルイド武具店"

看板は見当たらないが、扉には「ベルイド」と焼き印の文字。

申し訳ない程度に、ぶら下げられた板には"OPEN"と書かれていた。


ルイが建物を指し、2人に目的のお店だと伝えると、

期待に胸を膨らませていた2人は、一気に駆け出し店の中に吸い込まれて行った。


「そんな急いでいかなくてもいいのに」


そう微かな笑みを浮かべたルイの表情は、すぐに曇る。


(ほんと、何処いったんだろ。何事も無ければ良いけど…)


今だリグナットの気配を感じない事で、ルイの不安は着実に増して行った。


―― チリンチリンッ


店の扉に取り付けた呼び鈴が鳴る。

来店の報せにベルイドは読みかけの本を置き、店舗を覗きこんだ。


「いらっしゃい・・・っと、これはこれは可愛らしいお客様。

 ようこそベルイド武具店へ」


「店主殿か、少々武具に興味があってな。我々のような子供でも、

 見て回っても構わないだろうか」


「お店に決してご迷惑はおかけしないので。お許し頂けませんか?」


(この物言いに、作りは地味さを装っているが衣服の素材は高級品。

どこぞの貴族の子女と言ったところかな)


貴族に難癖をつけられるのはご免だが、言動からは嫌な印象はない。


瞬時にそこまで考え、改めてベルイドは笑みを浮かべる。


「気になさらないで下さい。立場を楯に横暴な粗忽者(そこつもの)ならばともかく、

 お2人の様なお客様は歓迎しますよ。どうぞゆっくりしていってください」


貴族相手だからと特別に(へりくだ)りはしない。

お客様として敬意をしめす。

ベルイドはいつもの様にそう口にした。


「おお…稀に見る人間が出来た店主だな。礼を言う、さて見てまわるかっ」


「もう、その物言いではお兄様が礼儀知らずですよ」


「あ、そうか…すまん、悪気はないんだ。気分を害したか?」


「あははっ…失敬。いいえ、気にしませんので、そのままお好きにされて下さい。

 何かわからないことでもありましたら、お声がけください。


可愛らしい言い合いについ笑い声が漏れた。


恐らく双子なのだろう、男の子は溌剌とした印象を受ける。

きっと裏表無い性格なのだろう。言葉づかいも少し無理しているのがわかる。


その一方で、女の子は普段から周囲に気を配っているのだろう。

さりげない会話のひとつからも、その優しい心根が窺える。


なんとも、今日は素敵な客人が現れたもんだ。


―― チリンチリンッ


再び、店の扉が開いた。

普段であれば、この時間帯に来る者などいないのに。


「お2人とも、先に入らないで下さいよ」


「いらっしゃい、2人のお連れさんかな?」


銀髪で暗青の瞳、側仕えか何かだろうか。

2人より、やや幼い。それなのにどこか大人びた気配を感じる。


(そんなことは良いっ!この重たい気配はなんだっ、殺気?こんな子供がっ)


その射る様な瞳と死の気配に呑み込まれ、息を呑む。


「その店主殿は、子供相手でもきちんとされた方だ。警戒しなくて良いぞ、ルイっ」


「そうです、その方の視線からは害意や悪意はなかったですよ。

 さあ、はやくルイもこちらに、目移りするくらい色々ありますよっ!」


双子の声が響く。

同時にベルイドにのしかかっていた気配も霧散した。


「もう…そんなにはしゃいで。商品に傷とかつけないでくださいよっ」


幻でも見ていたのだろうか。

ふと不思議な気持ちになる。


遅れてやってきた少年は、ベルイドに一礼し2人の下へとに向かっていった。


「ああ、幻なんかじゃないな」


数多の鍛治師の下を巡り、鍛え抜かれたベルイドの目利き。

その目に写るルイの姿は、熟練の暗殺者の動きそのものだった。


「…今日は店仕舞いかな」


店の扉を開け、ぶら下げてある板を"CLOSE"に返す。

視線を感じる、恐らくあの少年だろう。

その場で何度か扉を開閉させて、その場を離れた。


ふと目があうと申し訳なさそうに頭を下げてくれた。

"鍵はしてないよ"と伝わった様だ。

笑顔のまま、首を振りそれに応えた。


2人の警護のためとは言え、ルイが失礼な態度をとった事には変わらない。

その上で、邪魔が入らないように店を閉めてくれた店主に、

再度、深く頭を下げた。

そんなルイに、店主は肩を軽くあげて"気にするな"と告げてくれた。


改めて店内を見渡す、確かに2人が興奮するのも無理はない。

レオンの鍛治仕事をたまに見学する事もあり、

拙いなりに目利きが出来るルイの目から見てもどれもとても良い品だ。


シュナイゼルたちに目を向けると、さっそく気に入った物があったのか、

手にしてお互い何か話している。


「お兄様、虎が好きなのは結構ですけど武器を見た目で選ぶのはどうかと」

「そういうお前だって、そっちの方は蛇腹剣だろ?それ使いこなせんのかよっ」


シュナイゼルが手にしているのは、拳甲(ナックル)手甲(ガントレット)を組み合わせた物の様だ。

虎の頭部を模した形状のためか、やけに長い牙の様な物がついてるが、

いまいち用途がわからない。


一方で、セリーヌが手にしているのは2っ、中心から放射状に刃がたち、

奇麗なアスタリスクを形取っている刺突剣。

シュナイゼルが言ったように、良く見ると蛇腹剣なのがわかる。

こちらは刺突剣ではなく細身の直剣のようだ。


「言いたい事はどちらにもあるんですが、どちらからにします?」


すかさず2人とも手をあげ、互いに睨みあいを開始した。

興味があるのか店主も楽しげに覗きこんでいる。


「こんなことで喧嘩しないで下さい。まずは女性からと言う事で、

 リーヌ姉様、そもそも蛇腹剣なんて扱った事あるんですか?」

「ふふっ、ルイに教わります」


待ってましたと言わんばかりにそう口にしたセリーヌは笑みを浮かべる。

他力本願過ぎると言いたいところを、ぐっと堪えてルイは言葉を飲み込んだ


「…ゼル兄様、拳甲(ナックル)手甲(ガントレット)の組み合わせたものですが。

 その選択自体には文句ないですが、その虎の牙絶対邪魔ですよね」

「残念だったなルイっ、鍛治好きのツレにここを短剣にだな…」

「却下です」

「なんでだよっ」

「内側にむき出しの短剣なんて、邪魔な上に危ないです。

 それならナックルガードがついた短剣でも逆手に持って下さい」


素気無く棄却したルイに、一度は反発したシュナイゼル。

だが、続けざまにルイから浴びせられた正論にあえなく沈没した。


「はあ…同型の物で、もっと機能的にも優れた物や効果がある物を探して下さい。

 選んだ物にお好きな虎の意匠を施してもらえばいいじゃないですか」

「お前天才かっ?よし、それでいこうっ」


ルイの提案に何か思う事があったのか、すぐに快諾し改めて武器を見てまわる。


「お嬢さんのは君に見てもらうって言ってたけど、使えるのかい?」

「鎖術を扱う方が合うので、最近は触ったことなかったんですが。

 これって魔力式ですか?」

「そうだよ、試すなら店の奥に広いスペースがあるからどうぞ」

「お、それは俺も見たい」


奥へ案内にされ、広さを確認する。

魔力を込めるとしゃらりと刀身を解放。

魔力を注ぐのを止めると刺突剣の形状へと戻った。


「反応が良いですね」

「その魔力操作の巧さに俺は驚いてるけどね」


ベルイドの言葉に、シュナイゼルとセリーヌが何度も頷く。


「少し離れてて下さいね」


そう口にするとルイは、ゆったりと動き出す。

突きから払い、切り上げ、切り下げ。

そして、魔力を込めはじめた。


ルイを中心に円を描く、刃の群れ。

時には鋭く伸び、手元に戻し刺突。

刺突剣の形状で払い、解放。

一気に伸びた剣線は、大きな弧を描き、風を切る音が響いた。


「ふう、まずはどれくらい魔力を込めればどの長さになるか把握して下さい。

 もちろん戻す速度も。それが感覚で出来るようになってから型に無理なく…。

 って聞いてますか?リーヌ姉様っ」


シュナイゼルとセリーヌは口を開けて硬直。

すぐさま顔を見合わせ大きく頷いた。


「剣もっと見たいっ!あと槍っ!」

「他には何が使えるのですっ?」


短剣を扱う姿しか見せていなかったため、

結局2人が満足するまでひと通り披露するはめになり、

満足した2人が友人たちのお土産を見繕うと店内に戻る頃には、


ルイは額に汗を浮かべ、ぐったりとしていた。


「お疲れさん。君は災難だったかもしれないけど、僕もいいもの見せてもらったよ。」


ベルイドはそう言って、ルイにコップを差し出した。


「すいません、頂きます・・・はあ」


火照った身体に、よく冷えた水が沁みわたっていく。

わざわざ冷却(コールド)の魔法でも使ってくれたのだろう。

少し魔力の残滓を感じた。


「水しかなくて悪いね」


「とんでもない、冷たくて美味しかった。助かりました」


「それは良かった。それで、あの2人は良いの?

 物凄い勢いで色々選んでるけど・・・」


ベルイドの視線の先では、2人が何か相談しながら手に取り、

納得が行くと、カウンターへと置いてまた戻って行く。


すでに、カウンターには所狭しと物が積まれている状態だ。


「ご友人へのお土産選びのようですから、よろしいのでは無いでしょうか」


「持って帰れるの大変そうだけど…それに結構な値段になっちゃうよ?」


よく見ると、カウンターの端に白金貨が積んであるのが見える。

20枚…いや30枚はあるだろうか。


「あそこに積んでるの見ますか?あの白金貨で足りないようでしたら…」


「店の権利書ごと買う気?」


ルイに指された先に見せた白金貨に、呆れたようにベルイドはそう口にした。


「ルイ君って言ったっけ?疲れてるとこ悪いんだけど、これ見てもらって良いかい?」


少し真剣な表情で渡されたのは一本の蛮刀(バーバリアンソード)


拳鍔(ナックルガード)と刀身が一体になっている変わった作りではあるが、

その意匠は流麗的なシンプルなものだ。


一度、ベルイドの視線をやると"どうぞ"と告げられたので、

遠慮することなく鞘から抜き放った。


「おぉ」


まず目を引いたのが、美しい暗藍色刀身。

黒みががった橙色の鈍い光を放つ刃。


小剣(ショートソード)より長く、(ソード)よりは短いくらいだろう。

だが剣幅が広いためか、重さは剣とさほど変わらない。


「ははっ、聞かなくても評価は高さそうだね」


「…蛮刀(バーバリアンソード)なんですよね?こんな奇麗なの見た事ないです。

 それに剣幅がひろくて厚いのに…振りやすい。全くブレない」


ルイの総評を聞き、嬉しそうに頷くベルイド。


店の中で見たどの商品よりも、良品。

自慢の一品を見せてくれたのだろう。

良い物を見せてもらったと鞘に納めて返そうとすると首を横に振られる。


そんな訳にはいかないと、ルイは声をあげたが、

ベルイドは聞く耳を持たない。にこやかに"もう君の物だ"と繰り返す。


そんな問答がしばし続き。


「まあ、さっきの見物料と2人の様な上客を連れてきてくれた紹介料だと思って。

 それとルイ君は、あの2人の護衛だろ?僕も彼らを気に入った。

 もちろん君もね。だからそれで守ってあげてよ」


その言葉が決定打となり、ルイは姿勢を正して礼をした。


刹那、ルイの表情が硬くなる。


「ベルイドさん少しの間、2人をお願いしますっ!ゼル兄様、リーヌ姉様っ

 絶対お店から出ないで下さいっ!絶対ですよっ!」


突然のことに声を失くすベルイドは辛うじて首を縦に振ってそれに応える。

鬼気迫るルイの声にシュナイゼルとセリーヌも、表情を引き締め頷いた。


弾け出る様に、一気に店の入り口からルイは外に飛び出す。


目的地までやや距離がある。

建物の上へ駆けあがり、一気に空を駆ける。


視線の先には、リグナットと思われる影と対峙する複数の影があった。

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