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ちみっこ魔王は呵呵とは笑わない。  作者: おおまか良好
■■2章-ただ守りたいものを、守れるように-■■
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2章-初装備に浮かれるも、後に激しく撃沈

「次は、こちらとこちら、それからこれを着て見せて、ルイ」

「…はい」

「なあ、そろそろ違う店に行こうぜ。ルイもぐったりしてるじゃないか」

「何言ってるんですか?初めてこうやってルイと一緒に遊びに出られたんですよっ。

 来る日も来る日も訓練、訓練、また訓練。

 ようやく一緒に過ごせる休息日なんですよっお兄様!」

「いや、そうだけどよ。俺たちのために一生懸命頑張ってくれてるルイに、

 感謝をしようぜって事で、買い物にきたんだろ?だからな?」


死んだ魚の様な目をしてるルイに気づいてやれよ。と、最後の言葉を口に出来ない。

こうなったセリーヌは止まらない。

生まれた時から共にいるからこそ、ここは余計な事を言えば確実にへそを曲げる。

そうなったらなったで、手に負えない。

遠まわしになんとかルイを救いだそうと言葉を探す。


「そんなこと言って、お兄様は良いですよね。昨日もルイと何か男同士でこそこそと。

 私だけ除者(のけもの)ですか?私だってルイと仲良くしたって良いじゃないですかっ」

「待て、それは昨日の夜も説明しただろ?あれはルイとバイセルが喧嘩したままだと、

 良くないって思って、兄として仲直りさせようとだなっ」


半分本当で半分嘘。

バイセルと執事見習いの訓練をしていたルイは、楽しげだった。

だから、最後にあんな事で仲違いして欲しくなかった。

これも、間違いなく本心。

だけど、あの時ルイに向かって激情のままに、

セリーヌを助けてくれと。

自分を助けてくれと訴えた事など妹であるセリーヌに誰が言えよう。


「ちゃんと、お兄様の行きたがっていた武器屋にも行くんですからっ!

 少し大人しく待っていてくださいませっ!」

「いや、ちょっと待てよ。お前だって武器屋楽しみにしてるだろっ」

「当然ですっ!ええ、ルイを連れて武器を見るのも楽しみで仕方ありませんっ。

 だけど、今はルイに着せる服を見繕うのが、楽しいと言っているのですっ!

 このお兄様のわからず屋っ!だいたい、普段から少し煩いんですっ」

「普段、小煩いのはセリーヌだろっ!」


色々、思う事があってルイへの気遣いから端を発した言い合いだったが、

段々とエスカレートしていき、ついにシュナイゼルは当初の目論見を忘れて、

声を荒げて始める。


ルイは、そんな口論を始めた2人を一瞥し、嘆息しつつ、すっと試着室の扉を閉めた。

何着目かになるセリーヌの眼鏡にかなった衣類を脱ぎ、

何着目かになる衣類に袖を通す。


今自分が言われるがまま服を着ることで、セリーヌの留飲が下がるのなら。

扉の向こうでは何度目かになる口論は続く。

そんな3人の中では一番幼いルイ。

鏡に映った自分の姿を見て、何度目か分からないため息を彼は零した。


何故、ルイがこんな目にあっているのか。

それは、先ほど王都へと向かい出立したマサルたちとの朝食を済ませた後に遡る。


朝食を済ませ、シュナイゼルの言葉を受け止めたルイは、

昨日のバイセルにとった、自身の態度を詫びた。

バイセルは、その謝罪は必要ないとした上で、ルイへ改めて昨日の事を謝罪する。

その上で、今後も時間があれば執事としての振舞いを学びたいと思うのなら、

いつでも時間を作ると口にしたバイセルに、

それならば早速と執事見習いとして師事を願い出る。


「では、着替えて参ります」

「話の腰を折るようで、心苦しいのだが。ルイ、少し待ってもらえるだろうか」


着替えに向かおうと席を立ったルイを、そう言ってレオンが止めた。


「執事の訓練を始める前に、俺が用意した物がある。

 一度袖を通してもらいたいのだ。確認して修正する必要もあるからな」

「おっ、早かったっすね!」

「おお、それは楽しみだっ!」


"用意した物"と言う言葉に、反応を見せたルーファス、マサルの両名が身を乗り出す。

バイセルもそれが何か察し、笑みを湛えて一歩身を引いた。

シュナイゼルとセリーヌは、ルイに"何の話だ?"と2人で問うも、

当の本人であるルイも心当たりが無いため首を傾げて見せる。


「今日、出立するマサルとルーファスだけが見れないのも、

 同じ師として、俺も思うところがあってな。

 細かい修正が必要な代物を偉そうに見せるのもと、思ったのだが」

「なぁに言ってんすか。さすがっす、むしろ最高っすよ、レオっち!」

「ああ、本当に素晴らしい気遣いだ。ありがとう」

「それほど、喜んでもらえたのなら無理した甲斐がある。

 では、バイゼル殿、申し訳ないが隣の部屋を使わせてもらってもいいだろうか」

「ええ、当然でございます。こちらへ、ご案内させて頂きます」


やや困惑顔のルイを、同じく事情を知らないシュナイゼル達は手を振り送りだす。

良くわからないが、マサルとルーファスの喜ぶ姿を見て良い物が見られる。

それならば、事情を知るよりも早くこの目で見たいとの好奇心が勝った。


バイゼルの案内で、通された一室に入るとすぐにレオンが収納(アイテムボックス)を操作し、

真新しい防具を並べはじめた。


「ルイ、済まないが下着以外は全部脱いでくれ」

「あ…はい。もしかして、それって僕の?」

「ああ、お前の装備だ。流石に短剣一本で、臨ませる訳にもいかんからな」


その言葉に、目を見開き僅かに硬直したと思えば、

頬を赤く染め、興奮した様子で影を操作する。


すっぽりと頭部はそのままに、黒い球体に包まれたルイは、

はしゃぐように「はやくはやく」と影を急かせる。


そんな珍しくはしゃぐルイの姿に、レオンは嘆息しつつも、口元に笑みを覗かせた。


「そんな慌てんでも、逃げて消える事はない。さて、まずはこれを着てくれ。

 着るとある程度、ルイの身体にあわせて調整してくれるはずだ。

 …魔力回路が気になるのは分かるが取りあえず早く着ろ」

「あ…」


手に取った防護服(インナー)に組み込まれた魔力回路に目を奪われていると、

すかさず、レオンから釘を刺され慌ててルイは袖を通す。

魔力回路が慌ただしく発光し、ルイの身体に密着する様に収縮した。


「おお…すごい。なんにも着てないみたい。」

「苦しいところは無さそうだな。次はこの鎖帷子(チェインメイル)だ。

 それを身につけたら、戦闘服。ああ、靴はこれだ」


どんなの素材かまではもちろんルイにはわからないが、

初めて手にした鎖帷子(チェインメイル)は、想像したよりずっと軽く。

これまで目にした事があった物より目が細かかった。


次いで渡された、光沢を感じる濃紺色の太ももまで届くボタンダウンの上着、

濃灰白を基調に、白く細いストライプがさり気無く入ったタイトなパンツ。

黒にも見えるオリーブカラ―のブーツには、爪先と踵が黒色の金属で補強されていた。


「少し動いてみろ。ああ、自分の姿は気になるだろう。

 気付かなくて悪かった。今、鏡を出してやるから待て」


再び、そう言うと収納(アイテムボックス)操作し大きな姿見を取り出す。

鏡に映る自分をまじまじ見つめるルイは、小さく拳を握る。


「くくくっ、大層、喜んでもらっているところ悪いが、少し動いて見てくれ」


レオンが笑いながら、そう口にすると顔を赤く染めたルイがぎこちなく動き始める。

気持ちはわかるが、それでは確認作業にならないとレオンが動きの指示を出す。


重量はどうだ。

動きは阻害されるか。

こうして欲しい箇所や修正して欲しい点はあるか。


初めて自分のために用意された装備に嬉しいものの戸惑うルイには、

それらの当然されるべき質問は答えようはない。


(気になるところを直したら、エドにも協力してもらうか)


ある程度、レオンから見て気になった部分をルイに確認しながら、

次の装備を装着させて行く。


ルイの戦闘スタイルを考慮し、全身金属鎧(フルプレート)はもちろん、

金属が多く使用される物は除外した。

そのため、黒色を中心に暗色系で揃えた皮鎧。

それも胸部、腹部に特化した物を用意する事にし、

全身は同素材を使用したロングコートの形状をした物を(しつら)えた。


またルイは、近接時格闘戦闘を多様する事もあるため、

艶消しした黒で統一された金属制の手甲(ガントレット)脚甲(グリーブ)も別途用意した。


「自分で作っておいてなんだが、なかなかいいじゃないかルイ」

「すっごい気に入りましたっ!

 でも、ちょっとこれ着て戦うの嫌になってきました…汚したくない」

「あははっ、だが、それでは困る。それらはルイを守るための防具なんだ。

 壊しても良い、傷つけても良いんだ。お前が無事ならそれで良い。

 そう言う気持ちもこもってる、全力で使ってくれ」


その言葉にルイが頷いたところで、

レオンは最後だと告げ、濃灰色の外套と一振りの短剣をルイに渡す。


「外套は、暗がりの中で行動する時のために作った。

 だから、あまり普段は身につけるな。あくまでも今回の様な時のための物だ。

 多様して、色んな者の目につくと厄介な事も怒りうる。」

「はい、気をつけます。それで…こっちは?」


鞘に収まった短剣を手にルイは少し困った顔をして見せた。


「安心しろ、ルーファスからのもらい物の相棒だと思えば良い。

 お前、2本使い得意だったろ」

「師匠に非力の癖に、片手で持つなって」

「ああ、言いそうだな。だが、今回エドの課題は"受けるな、かわせ"だろ?

 それに、この件はあいつにも許可を得てる。安心しろ」

「っ!抜いて見ていいですかっ?」

「ふっ、抜くだけで無く少し振ってもらえんと感想も聞けんだろ?」


エドガーからの横槍の心配は無いと聞くと、

ルイの表情は一気に明るさを取り戻した。


そして、柄を優しく握り、鞘から恐る恐る抜き放つ。

姿を見せたその刀身に、小さな歓声をあげ、ルイの表情は更に色めきだつ。


「白い、それに凄く奇麗ですっ!」

「長さと重さ、それと重心が今までのとは少し違うはずだ」


その感触を確かめる様に、振るう。

時折、左右で持ち手を変え、更に振るう。


先ほどまで浮かべていた、玩具を手にした子供の様な無邪気さは消え、

その目、そしてその動きは鋭さを増して行く。


「長さはそれほど変わらない…でも、今までのよりずっと重い?」

「ああ。刀身に厚みを持たせた分、重くなっているはずだ」

「…受けた時のため?」


ルイの言葉に、レオンは満足気に頷く。


「その通りだ。攻撃面でも重さが増した分、

 威力はあがるがお前にとっては気休め程度だろう。

 だが、かわし切れず打ち合いになった場合。

 今までの物よりも対処しやすいはずだ」


なるほどと零し、ルイは影から黒い短剣を取り出す。

じっと、二つの短剣を見つめ。

再び振る。

しばし、それを繰り返しルイは首を傾げる。

更に振る。


「目がちかちかする」

「お、気付いたか」

「?」

「なに、白色は目に付きやすい。黒は目立たない。だが同時に何度も目にすると、

 白が見辛く感じ、黒の存在感が増す様にも感じる。

 これはルーファスが好んで使う組み合わせでな。

 まあ小細工の範囲だとヤツは笑うが、存外馬鹿にしたものではない」

「ははっ、先輩なら言いそう。でも、面白い」

「さて、そろそろあいつらも退屈している頃だろう。

 ルイにも喜んでもらえたわけだし、マサルたちにお披露目だ」


新しい装備を身にまとい、皆が待つ部屋へと戻る。


「きたね」

「おっ」

「「おお」」


マサル達からあがる、質疑応答はレオンが担当し、お披露目は無事終了。


その間、終始シュナイゼルとセリーヌは大興奮、そして大絶賛。

マサルとルーファスも、良く似合うとルイに声をかけ、レオンに労いの言葉をかけた。


そんな中、レオンが不意にこぼした一言。


「本当ならば、もう少し明るい色にしてやりたかったんだが。

 護衛だけならばともかく、そうもいかないからな」

「それは仕方ないさ、レオが気に病む事じゃないさ」

「僕、凄く気に入ってますよ?それに、普段も暗い色の服のが落ち着くし」

「ほら、後輩ちゃんも喜んでるっす。普段から暗い色は着なくて良いっすけど。

 明るい服なんてわざわざレオっちが用意しなくても、

 その辺でいくらでも買ってやれば良いっす。…なんで嫌そうにするっすか。」


明るい服など別に必要ないと思っているルイが、

ルーファスは口にした言葉に、ルイは微妙な顔で反応示した。


それを耳聡く聞いていたシュナイゼルとセリーヌが、同時に口元に笑みを浮かべる。


「俺たちを守るために、ルイは頑張ってくれてんだよなセリーヌ」

「そうよ、お兄様。来る日も来る日も訓練続きでへとへとになってましたわ」

「何か妙な事言いだしたね」

「妙とは心外ですわっ、陛下」

「そうだぜ、陛下。王家の者として信賞必罰は大事なんだろ?」

「当然の義務ですわっ、これはルイを連れて買い物に行かねばなりませんねっ!」

「おっ、流石は俺の自慢の妹だっ!名案じゃないかっ!武器屋だなっ!」

「武器屋っ!いいですわっ!それと服も買いましょう。

 レオン様が、あんな悲しげに明るい色を着せてやりたかったと申してましたものっ!

 私たちで叶えてさしあげないとっ!」

「これ、言い出すタイミングをずっと探してたっすね」


いつから練っていたかは定かではないが、

ルイと遊びに出かけるために色々と打ち合わせしていたのだろう。

突然はじまった小芝居に、大人たちは生温かい視線を送る。


ルイも当然棄却されるだろうと、

仕方ない兄、そして姉だなと微笑ましい気持ちで見守っていた。


「あはははっ、確かに信賞必罰は王族としては大切にしなきゃね」

「えっ」

「何を驚くことがあるんだいルイ君。だいたい6歳なのに、訓練訓練…。

 ああ、2人の言う通りだよ。そういう時間も必要だ」

「ちょ、ちょっと待って下さい先生っ。いつ相手が動くかわからないのに」


想定外にマサルが賛成しだした事で、ルイは動揺した。

少なくともこの先どんな苦行が待ち受けてるか知らないルイに、

2人と遊びに出掛ける事に否はない。


だが、無為に危険な行動は避けるべきではとルイは口にした。


「いいのではないか?」

「レオンさんまでっ」

「いやいや、落ち着くっす後輩ちゃん。陛下は別に楽観してる訳じゃないっすよ。

 ぶっちゃけ王都へ今日出立する事は隠蔽してないんすよ」


レオンに続き、ルーファスまでシュナイゼルたちの追い風になる発言を始める。

ルイは視線でバイゼルに助けを求めるが、笑顔のまま見つめ返されるだけ。


「いかにも高い地位にいる貴族の子息にしか見えない格好を控える。

 なに、ルイも予行練習だと思えば良い。どうせ釣り出すのに外出は必要だ」

「リグナットに、少し離れたところから追わせれば良いっす。

 戦力になるかは知らないっすけど、玉避けくらいにはなるっす」


姿は見えないが、ルイの脳裏には膝をつき嘆く兄弟子の姿が浮かんだ。

その後、バイセルが2人を着替えさせるまで、とんとん拍子で事が運ぶ。


マサルとルーファスの乗る馬車を見送り、

その足で、シュナイゼル、セリーヌ。そしてルイはハンニバルの街へ繰り出した。


当初、戸惑いはあるもののルイと出掛ける事を心から喜ぶ2人の姿に、

こういう時間もたまには良いかもしれないと心弾んだルイだが、

一刻も経たぬうちに、その考えは覆ることになった。


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