説得
ユキは俺の言葉に、丸くて大きい目を驚いたように見開いて言った。
「嫌よ」と。
ユキの気持ちも分かるが、それでも俺は言わなければならない。
“生きてくれと”
檻の順番から、ユキの命がいつ終わってもおかしくないことを言っても、ユキの考えは変わらない。
「もう、裏切られるのは嫌」
「ここから逃げ出すのは不可能だ。裏切らない主も居るかも知れない」
「アキラ。私に前の生活に戻れと言うの?」
「それしか生きる道はない」
残酷だけど、本当にそれしかない。
ユキは少し黙ったあと、もう一度言った。
「嫌よ」と。
「俺と一緒に生きてくれ」
「アキラ……あなた、おじけづいたの?」
俺の言い分は、ユキの言う通り、おじけづいたとしか受け取れないだろう。
だが俺は、おじけづいてなんかいない。
どんなに虐待されようとも、自由に生きて行く望みを捨てたわけじゃない。
もしも俺一人が掴まっていたなら、さっきの柵なんか飛び越えて、のうのうと逃げ遂せただろうし、そもそも奴らに捕まるようなへまはしない。
「言っておくけど、一緒には生きられないよ」
俺が黙っている間に、ユキはユキなりに妥協点を探してくれていた。
「一緒には生きられないって?」




