第一章 エピローグ
「――……るかちの怪我をタダで治してくれて、護衛してくれただけ。しかも、あの三人組を連れて脱出。その後は、自己紹介と連絡先だけ交換して、近い内に会ってお話を、ってだけ告げて帰る、っていうね……」
「謎すぎ」
「マジでそれ」
明けて翌日。
雅、美佳里、雪乃の三人は〝がちけん〟の研究所として与えられているビルの地下にて、困惑したまま顔を突き合わせていた。
流霞と奏星の〝天秤トラップ〟攻略時に現れた謎の美少女。
本人曰くの〝アルカナホルダー〟という、タロットと関係していそうな表現に加えて、【悪魔】を冠するという地雷系ゴスロリ少女チックな彼女は、雅が改めて口にした通りにあっさりとあの場から退いてしまった。
恩を売るために近づいてきた、というのであれば分かりやすい。警戒しようもある。
だが、あの態度や物言い、言葉の端々からは、どうも敵意なんてものは感じられなかった。
いっそ流霞と奏星を推しているとまで発言したあの姿は、紛れもなく強火ファンの一人、と言われた方がしっくり来るし分かりやすい。
分かりやすい、のだが。
それはそれとして、彼女の正体が正体なだけに、雅はなんだか釈然としないものを感じていた。
「新進気鋭のパーティ、〝魔女の饗宴〟。デビューからたった2年でレベル4パーティになった、平均年齢18歳の女性パーティ。そのリーダーでありレベル3探索者、鷺宮 莉緒菜。どうして彼女が、るかちと奏星に接触してきたのか……」
雅はすでに正体を特定していた。
巨大なモニターに映し出されているのは、その〝魔女の饗宴〟のSNSの画像。
確かにそこに、流霞と奏星を助けた鷺宮 莉緒菜が憂いを帯びた顔をしている横顔の画像があった。
そんな画像をヘッダーにしていたり、配信に登場した際にも雅たちは思ったが、どうやら〝魔女の饗宴〟は演技派と言うべきか、個々のキャラクター性がかなり強いらしい。
彼女たちが公開している配信動画も、どこかいちいち仰々しいと言うか、演技くさい節があった。
そのせいか、実力や話題性に比べていまいちチャンネル登録者数は伸びていなかった。
そういうエンタメ性に対しての視聴者の目は厳しいらしく、どうにも伸び悩んでいるような、そんな空気を感じる配信になっているようだ。
――ますます目的があっても分からん。
雅のぶっちゃけた本音はそれである。
「もしかして、るかちーと奏星を引き抜くとか?」
「さすがにそれはなくない? 〝魔女の饗宴〟にはバックがいないし」
「バック?」
「そそ。るかちーと奏星を引き抜くなんて考えをするようなバック、つまりクランに所属してないんよ、あそこは。引き抜きの可能性は低いんじゃねーかなーって」
美佳里に対し、雪乃が淡々と告げる。
探索者界隈でのパーティの移籍は珍しい話ではない。
メンバーの怪我、引退を理由に維持が難しくなり、それぞれに他のパーティやクランに引き抜かれるなどもある業界だ。
しかし、〝金銀花〟は新進気鋭の話題沸騰中のパーティとなった。
そんな彼女たちを、背後にクランが控えているような、いわゆるビジネス的に拡大を狙うようなクランの傘下パーティが声をかけてきたのであれば、あるいは〝金銀花〟を手に入れたいと考えたクランの意向だと考えられたかもしれない。
だが、相手は純粋な探索者パーティだ。
引き抜いて流霞と奏星を入れるような器がない、とでも言うべきか。
二人を引き抜いて加えるメリットがないとも言えた。
袋小路に嵌った思考。
考えても材料がなければ判断できないのだと言いたげに、雪乃が一つ溜息を吐き出して肩をすくめた。
「ま、考えてもしょうがなくね? るかちーの怪我治してくれて、疲労困憊の状態で帰ってくる二人を手助けしてくれてんだし。少なくとも、紐付きじゃないだけマシじゃん?」
「……ん、そだね。そっちから変に交渉されて譲歩しなきゃいけなくなるよりはマシ、かな」
雪乃、そして美佳里の意見はシンプルだが、うだうだと考え込むよりは幾分かは建設的だ。
いずれにせよ、何か用事があれば奏星に連絡が来る予定になっているのだから、それを待てばいいだろう、という結論に落ち着いた。
何が起こるか分からないことは後回しでいい。
そんな結論ではあるが、しかしそうなるのも無理はなかった。
そんな風に落ち着いたところで、ニヤリと、雪乃が笑う。
「――ま、昨日も含めて、今日まであんだけ二人に驚かされたけどさ。今度はウチらの番っつーことでよさげ?」
その一言に、雅と美佳里の表情が変わる。
つい今しがたまで見せていた、真剣に不安定要素に対して懸念を抱いている様子から一転して、雪乃と同じようにニヤリと口角をあげた。
「そりゃそーよ。たまには驚かされる側になってもらわなきゃ」
「それな。ウチらアーティファクトゲットからこっち、おんぶに抱っこみたくなってっし。けど、それも今日までっしょ」
「……んふっ、ちょい反応楽しみかも」
「わかる」
「ふっふっふーん、今回はウチらの成果でビビらせちまうぜー?」
雅が、美佳里が、そして雪乃が笑うのも無理はない。
流霞と奏星の二人が活躍し、ダンジョンでアーティファクトを拾った。
そのアーティファクトを雅が上手く交渉材料にすることで、『明鏡止水』という大手クランがバックについて資金面が一気に改善され、3人は以前よりも優れた環境で、様々な素材を用いた実験に取り組むことができたのだ。
美佳里や雪乃にとってみれば、これは〝貰いすぎ〟というものだった。
そしてその感覚は、あくまでも家族を頼ったに過ぎない雅にとっても同様だ。
自分たちはまだ何も出来ていない。何も返せていない。
ただただ、流霞と奏星の、〝金銀花〟のおこぼれに与っているだけのような、そんな気分になるばかりだ。
そんな形になるために〝がちけん〟を起ち上げた訳でも、入った訳でもない。
彼女たちにも意地があった。
そのせいでこの研究所に休みの日は泊まりっぱなしで実験に明け暮れている程ではあるのだが。
思うところがない訳ではなかった。
いっそ流霞と奏星の快進撃を目の当たりにしているからこそ、焦っていたと言っても良いだろう。
そうして、彼女らは成し遂げたのだ。
「――やぽやぽー、おまたー」
入口の扉から甲高い効果音が流れ、扉が開かれて入ってきた奏星と、そんな奏星についてきているというのに、まだこの環境の凄まじさに慣れずに小動物のように肩を縮こまらせてついてくる流霞。
そんな二人の登場に気が付いて、雅と美佳里、雪乃の3人は頷き合うと、即座に立ち上がり、にっこりと笑顔を浮かべて机を自分たちの身体で隠すような位置に移動した。
「るかちー、奏星。検査結果はこっちにも届いてたけど、無事で良かったよ」
「うんうん」
「ホントそれ。無事で良かったよ」
にこにこ、というよりも、どこかニヤニヤとした笑みを浮かべてそんなことを言い出す雅たちに、奏星と流霞が思わず固まり、顔を見合わせ、小首を傾げた。
どう見ても何か隠しているというか、怪しすぎるのだ。
「あー、うん。あんがと。てか、何事? なんでそんな出迎えモード?」
「え? なんか変?」
「そんなことないっしょ」
「そーそー、いつも通り、みたいな」
「ふーん……?」
奏星の質問をどうにか誤魔化そうとしている3人の反応は、いかにも白々しい。
そんな状態で何もないと言われても違和感しかないため、奏星が疑わしげな視線を向けて声を漏らす中、雅たちが目を合わせ、頷き合う。
そうしてついに、口を開こうとした――その瞬間。
今の今まで黙っていた流霞が口を開いた。
「あっ、そうだ! えっと、昨日の宝箱で手に入れたの、またアーティファクトだったかも!」
「――……は?」
初手、流霞の爆弾発言。
哀れ3人の思惑は、この空気読めない系女子こと流霞によって木っ端微塵に粉砕された。
謎はまだ残っているものの、それでも彼女たちは止まらない。
こうして〝金銀花〟と〝がちけん〟の彼女たちの日々は、新たなステージへと踏み出すことになる――――。
第一章 〈了〉
ここまでお読みくださりありがとうございます。
第1章はここまでとなります。
(本日投稿文は第1章の閑話まで、あと1話20時に投げます)
先行投稿しているカクヨムにある程度は追いつけるよう、この数日を同じようなペースでキリのいいところまでを1時間毎に1話ずつ投稿していく予定です。
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