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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第1章 〝金銀花〟結成!

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〝金銀花〟は止まらない Ⅰ




「――邪魔ッ!」



 疾駆しながら進行上にいる魔物を文字通りに鎧袖一触で殴り飛ばし、流霞はただただ響いてくる声を追いかける。


 微かに聞こえてくる声。

 流霞にはそれが確かに声であり、「助けて」と叫ぶ声であることを理解しているが、奏星や配信視聴者たちにまではそれは伝わっていないらしいことが窺えた。


 ならば奏星に、視聴者にも伝わるような場所まで進めばいい。

 そう考えて一直線に、声を辿ってただ走る。


 ――ッ、近いッ!

 声が近づいてきたところで、流霞がさらに加速するように駆け出す。

 しかし再び、そんな流霞を待ち構えていたかのように曲がり角の先からホブゴブリンたちが一斉に姿を現した。



「――るかちーッ!」



 聞き慣れた合図。

 何をしようとしているのかを一瞬で理解した流霞が滑り込み、俗に言うスライディングよろしく足を先に突き出しながら身体を倒す。

 滑る流霞の頭上を炎が走り、目の前のホブゴブリンたちが一瞬で燃やし尽くされた。



「ありがと、カナっち……――カナっち!?」



 立ち上がった流霞が振り返ると、魔装の炎を消した状態で地面に突き立て、その剣に寄り掛かるようにして荒い呼吸を繰り返しながら、汗を流して動きを止めた奏星と目が合った。

 咄嗟に奏星のもとへと戻ろうとした流霞だったが、奏星が左手を突き出すようにして流霞を制止して、乱れた呼吸を整え、叫ぶ。



「――すぐ追いつく! いいから先行って! あの時(・・・)みたいに!」



 先程から段々と声は明確に聞き取れるようになってきた。

 確かに男女数名の叫ぶような声のようなものが響いてきている。

 コメントでは、その探索者が配信しているのではないかと配信画面を探すような者たちも出てきている。


 疑いようもない危険な状況。

 ほぼフルスピード走り続けたが、新しい装備になって重量が増したこともあってか、奏星の体力は酷く削られてしまっていた。

 可能であるなら、数分ぐらいは休みたい、というのが本音であり、できるなら流霞にもそうしてほしいとも思う。


 けれど、助けを求める声が聞こえてくるから。

 奏星はあの時――流霞に救われたあの日を、今、強く思い出して、叫ぶ。



「るかちーは、あーしのヒーローだからッ! 誰かを守れる、最高のヒーローだし! だから、助けるために! 先に行ってッ!」


「……分かった! 先に行く! 落ち着くまで休憩してから来て!」



 それだけ言って、流霞は再び弾けるように駆け出す。

 その姿を見送って、奏星は再び荒い呼吸をしながら俯き、ダラダラと流れる自分の汗を見つめる。



「はぁ、はぁ……っ! な、っさけ、ねー……ッ! ちょと、装備が、重くなった、からって……ッ! クソ……ッ! 今度、こそ……! るかち、と、一緒に……! 戦うって、決めたっつーのに……ッ!」


『無理しないで!』

『そっか、これ前のカナっちとも似たような状況だ』

『あぁ、だから……』

『なんか俺ちょっと泣いてる』

『カナっち、今は悔やむよりちゃんと休んで!』

『なんつーか、アツいな、ホント』

『マジで推せる』

『カナっちもかっけーよ!』



 酸欠状態で無理に叫んだせいか、意識が遠のきそうだ。

 ぐらりと揺れる視界を見つめながら、吐き捨てる。

 流れるコメントに意識を向ける余裕なんて、今の奏星にはなかった。

 ただただ、奏星が胸の内に秘めてきた想いを吐露しながら、己の未熟さを思い知ったような気がして、悔しくて、つい、視界が滲む。


 流霞に助けられたあの日から、流霞と組めるようになったあの時から。

 奏星は密かに体力作りにひたすら励んでいたのだ。

 肩を並べて戦えるように。

 そして、もしも次に流霞が危険な状態に陥ったのなら、今度は自分が守れるように。


 だというのに、装備が変わって防御力が上がった代わりに、身体にかかる重さは凄まじい。

 数キロ単位の重りを身体につけて行動するというのは、想定以上に負荷がかかるのだということを、奏星は今更ながらに実感していた。



「はあ、はあ……! ごめん、配信。ちょい、あーし、少し休むから。だから、るかちーのトコへ、先に……」


『無理しないでね』



 視聴者のコメントと異なる場所に表示される、〝がちけん〟メンバーからのメッセージ。

 それを見てぐっと拳をカメラに向けてみせれば、ドローンが流霞の進んだ先へと進み始めた。




 一方で先んじて救出のために動いた流霞は、奏星と別れて曲がり角を曲がった先で動きを止めた。


 それなりの広さがある部屋の中、半透明状の光の膜で出入口が塞がれているその場所では、三人の若い男女が光の膜の向こう側で叩くように手を叩きつけて叫んでいた。



「――え?」



 てっきり魔物たちに囲まれていたり、もしくはイレギュラーのような強い魔物がいるとか、そういった状況を想定していたのだが、実際に流霞の目には、半透明の膜を叩き、中からの声が拡張されているのか、叫んで助けを求める声をあげている者たち。

 大学生ぐらいの年齢であろう彼らは、困惑している流霞と目が合うなり、口々に声をあげた。



「っ、頼む! この光の中に手を入れて助けてくれッ!」


「こっちからじゃ出られないんだ! だから早くッ!」


「お願い、助けて!」


「頼むよ! なあ!」


「時間がないんだ! このままじゃ俺らは殺されちまう!」


「……えぇ……。わ、分かりました」



 ダンジョンについては色々勉強してきた流霞は、基本的なことならば理解はしている。

 しかし、目の前のこれは聞いたこともない仕掛けだな、と思いつつ、流霞は声をあげる三人に歩み寄っていった。


 部屋の中にいる三人は相変わらず光の膜に手を触れているものの、やはりこちらに手を出すことはできないようで、流霞が伸ばした手を待っているようだ。

 光の膜に触れた場所から光の波紋が広がって、衝撃を吸収しているようにも見える。


 そうして流霞が近付き、光の膜に触れようとした、その時。

 ようやく奏星を映していたドローンが流霞のいる通りへとやってきて、流霞が手を伸ばそうとしている瞬間を映し出した。



『光の膜?』

『何あれ?』

『なんだあいつら?』

『きひ子ちゃん! その中に手を入れちゃだめ!』

『そいつらに触っちゃダメ!』

『あれ、もしかして……』

『あれって確か、天秤トラップ……?』



 次々と流れるコメント。

 しかし、流霞はそれらを確認する術を持たず、止まることもない。


 違和感を覚えながらコメントを見ていた奏星が、〝天秤トラップ〟というコメントを見つけて慌てて顔をあげる。



『奏星! るかちーが危ない!』


「――ッ!」



 僅かな休憩時間であったものの、呼吸を軽く整えるには充分な時間があった。

 地面を蹴り、慌てて曲がり角を曲がって流霞を追いかけ――そして。



「――るかちー、ダメ!」


「え――わっ、わわわっ!?」



 慌てて奏星が叫んだその時には、流霞の手は光の膜を突き抜けて内側へと入り込んでいた。その腕が中にいた三人組の一人の男に掴まれて、光の膜の向こう側へと一気に引っ張られた。


 転ぶように尻もちをつきながら部屋の中へと入る流霞を尻目に、三人組が我先にとばかりに光の膜へと向かって足を踏み出し、流霞が来た奏星のいる通路へと飛び出した。


 ――え、なんで通れるの? てか、なんで私引っ張られたの?


 状況が理解できない流霞を他所に、三人組が口を開いた。



「は、ははは……っ! やった! 助かった!」


「よかった……! ああ、生きてる! ははははっ!」


「あ、あぁ……。たす、かった……。ありがとう、ごめん、ごめんなさ、い……! ごめん、ごめんね……!」



 男二人が歓喜の声をあげて、女性がその場にべしゃりと力なく崩れるように座り込んで、懺悔するように謝罪の言葉を口にする。

 流霞にはその意味は分からなかったが、尻もちをついた身体を起こすと、通れるようになった光の膜を再び通り抜け――ようとして、弾かれた。



「ん? んん? あれ、通れない?」


「……あぁ、ホントにごめんな」


「え?」



 何が起こったのかと目を丸くする流霞が光の膜をつんつんしていると、入れ替わるようにして出ていった三人組の一人が引き攣ったような笑みを浮かべながら、流霞へと告げた。



「――その部屋、トラップルームなんだ……」


「とらっぷるーむ、ですか?」


「あぁ……。探索者の一つのパーティしか入れず、他の人間は入れない部屋。そこから抜け出すには、中の人間を助けようとして外から手を伸ばし、中にいるパーティと入れ替わるしかない。一度誰かが入ったら、もう止まらない。死ぬか、その部屋の中に出てくる大量の魔物を倒しきらなきゃいけない部屋。ほら、見えるだろ? 向こうの壁際にある砂時計が、さ……」



 言われるままに流霞が振り返れば、その先には残り僅かになりながらも砂が落ち続けているらしい、巨大な砂時計のようなものが置かれていた。



「あれが落ちきったら、大量の魔物が出てくるんだ。も、もし、俺らだけだったら……絶対死んでた。無理、なんだよ……。俺らはまだ、無理してこの階層に来ただけで……」



 そこまで男が言った、その瞬間。

 男の胸ぐらが掴まれて、近くの壁に叩きつけられた。

 怒りの形相を浮かべた奏星によるものだ。



「――フザけんなッ! アンタたち、自分らが助かるためにるかちを呼び寄せて入れ替わったのかよ!」


「……ごめん」


「し、仕方ないだろっ!? 俺らだって死にたくねぇんだよ! 俺らはまだレベル2になったばっかで……!」


「だからって! るかちを騙して引き入れて助かろうなんて!」



 叩きつけられた男を助けるようにもう一人の男が声をあげるが、奏星から怒りの形相を向けられたせいか口を噤む。

 そんな奏星の怒気はもちろんだが、その一方、すでにコメント欄では一部始終が理解できたようで、かなりの荒れ具合を発揮していた。



『こいつら、きひ子ちゃんを生贄にしたのかよ……』

『晒せ』

『レベル2でレベル1を生贄にした畜生共』

『マジでクソ野郎共じゃん』

『いや、ホント最悪』

『このトラップそんなやべーの?』

『天秤トラップ。モンスターの大量発生と、さらに最後にはその階層より深い階層の魔物が出てくるケースもあるって話』

『は?』

『最悪』

『拡散した』

『きひ子ちゃんだいじょぶか?』

『カナっちどうするんだろ……』



 コメントはコメントで罵詈雑言からトラップの恐ろしさ、そして安否を気遣うような声が次々と寄せられている。

 もはや収拾はつかないだろうな、とコメントを一瞥して落ち着きを取り戻し、はっと我に返った奏星が慌てて流霞を見やる。



「――きひっ」



 魔装を手に取り、くるくると回し、ゆらりと身体を揺らして喉を鳴らす。

 その特徴的な笑い声は、配信のマイクにも拾われていたようで、コメントも段々と落ち着きを取り戻していった。

 そこで、遠隔でドローンを操作していた〝がちけん〟メンバーの雪乃が、敢えて流霞の表情を配信に乗せる。


 流霞は、爛々とした目で口角をあげ、とんとん、とステップを踏むようにその場で軽い調子で跳ねながら、奏星に顔を向けた。



「ねえ、カナっち。大量だって」


「……るかち……?」


「それを全部倒したら、私たち、レベルアップするかな? きひ……っ、きひひひっ」



 騙されて放り込まれて、魔物の群れがやってくると知ってなお、そんなことを言いながら楽しげに笑ってみせる相棒の姿に、奏星は「毒気を抜かれるってのはこーゆー感じか」と妙な納得をしつつ、ガリガリと頭を掻いた。



「~~っ、はあ……。あーっ、もうっ! きひっちゃったじゃん、あーしの相棒がさぁ」



 奏星が流霞のもとへと真っ直ぐ歩み寄り、光の膜へと近づいていく。



『え』

『は?』

『挑むのか……?』

『マジか……』

『いや、でもこの二人ならまだワンチャン……?』

『レベル1じゃさすがにキツいんじゃ……』

『でも、さすがにペアじゃ手数足りないだろ』

『頑張れ……マジで生き残って……!』



 普通ならば、三人組を糾弾して流霞をその場所から救い出すために入れ替わるよう告げたって、誰も奏星を責めたりはしないだろう場面。

 だというのに、堂々と歩み寄り、光の膜を潜って中へと進む。


 そうして、爛々とした目を輝かせる流霞と並んで立ってみせた奏星に、コメントの勢いが一気に衰えた。


 流霞と一緒に戦いたい。

 今度こそ、流霞と一緒に戦うと決めたのに。


 そう先程嘆いていた奏星だからこそ、その選択をしたのだと視聴者たちも気が付いたのだろう。


 ――この娘たちは、やる気だ。


 誰もがその姿を見て、何か熱いものを胸の内に感じながら成り行きを見守る中、奏星が光の膜の向こうから、三人組へと顔を向けた。



「アンタたち、マジで許さねーから。……でもま、ウチらがこのトラップ踏み潰した後にちゃーんと謝罪するってんなら、許してやんよ」



 唖然とする三人組に向かって、奏星はにいっと笑ってみせた。



「逃げんじゃねーぞ。この部屋踏み潰したら、ちゃーんと謝ってもらうから」



 それは、〝金銀花(カプリフォリオ)〟の名を世界に知らしめる配信の始まりだったと、後に誰もが語る。


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