【配信】上層攻略中 Ⅰ
「はい、っつーわけでおひさー」
『おひさ!』
『たまに雑談とかしてくれてたけどダンジョンはホント久々』
『待ってた!』
『上層スタートナイス』
『あれ?』
『ダンジョン装備!?』
『え、『&D』のセットじゃん!?』
『は?? すき』
『カナっちマジ似合ってる!』
『それだけで200万近くいくんじゃ……?』
「お、良さげ? そそ、さすが。詳しい人は知ってるっぽいね。これ、『&D』が出してるヤツ。動きやすさとファッション、それにしっかりとした防御力をってことで作ってる、『戦乙女シリーズ』だよー」
奏星が着ているのは、赤とオレンジを基調にしたドレスアーマーのような装備だ。
とは言え、魔法装備よろしく素肌であっても身体が守られるなんていう、ファンタジーお約束とも言えるような魔法効果はないため、肌の露出をとことん減らした防刃性の高い肌着の上から纏うようなタイプである。
胸当てと肩から肘、手のひらから手首といったところには、【鍛冶】系の因子持ちが作った防御能力の高い防具がついており、下はミニのプリーツスカートだが、膝上まできっちりとグリーブに守られており、黒い防刃肌着もあるため、スカートが翻ったとしても何も見えず、色気は少々足りていない。
とは言え、こうした肌を見せない装いは、これまでの一般的なダンジョン装備として推奨されているのものであった。
「いや、ウチら実はクラン所属してさ。で、そこのクランから、装備はいいものをってことで支給されたんだ。マジ感謝」
『え、クラン入ったの!?』
『げー、マジか。ウチに入れたかったのに』
『いやいやいやいや』
『普通、クランの支給装備ってもっと格落ちしたものだからw』
『そこまでのものを支給装備にするのは聞いたことないわ』
『いや、まあカナっちときひ子ちゃんなら、将来性もあるしワンチャン……?』
『どこのクラン?』
『チャンネル登録名、『カナっち/金銀花』しか書いてないけど?』
『それでいいんだよ。クラン名の公開は自由だし』
「もうちょいしたら公言すんよ。ちょっと今はまだダメって言われてっから。……てか、るかちー、何してんの?」
「え……。あの、その、私みたいなクソ雑魚ナメクジ陰キャがこんな綺麗な装備着ていいのかなっていう葛藤と、それを表に出すことでそ、装備のブランドイメージが損なわれたりとかしないかなっていう――」
「――ほい、ドローンあっち。ほら、あれがるかちーの新装備ねー」
「にゃあああああぁぁぁ!?」
『お、きひ子ちゃんおった』
『色違いだけどカナっちよりだいぶ装甲薄め?』
『あっ、こっちは素早さ特化で人気の女性探索者向けシリーズ、『雪月華』だっけ』
『こっちは銀と青か。月と太陽モチーフっぽくてよき』
『きひ子ちゃん攻撃避けるしなw』
『かわいいw』
『きひってない時なんでこんな雑魚オタクちゃんなの?ww』
『いい声で鳴かせたくなる』
『でもさすがにああいうの着てるとオタクというか根暗っぽくは見えないけどねw』
『フリルっぽさとか裾とかないぴっちり寄りなのがいい』
葛藤もへったくれもないと言わんばかりにドローンに映し出された流霞を見て、コメント欄も素早く流れていく。
視聴者に詳しい人がいたようだが、奏星は『&D』の『戦乙女シリーズ』と呼ばれるものに対し、流霞の装備は少々趣が異なる『雪月華』だ。
身体にフィットする防刃性の黒い肌着はこちらも共通だが、その上からホットパンツサイズの短いズボン。
上着も比較的ぴっちりとした服を着て、その上から胸当てと肩から肘にかけての防具がついているが、奏星のような手先から手首までを覆う軽鎧のようなものはついておらず、薄い生地の手袋などがついているだけである。
「あーしはむしろ、るかちーには『現代くノ一』シリーズとか着てほしかった」
「カナっち!?」
「だって似合いそうだし、違和感なさそうかなって」
『きひるくノ一はちょっと……』
『きひ子ちゃんが忍ぶなんてそんな』
『まあ、奇襲はかけそうだけど』
『同説5千人超えとるww』
『この前の魔装強化効果のお披露目も兼ねてっつってたしなw』
『〝ECHO〟で言ってたじゃん、他の人の強化はできなかったって』
『それがなかったら今頃この配信数万とかの視聴者だったと思うが』
「あー、それなー。あーしもるかちーも装備用意してたからダンジョン籠もれなかったし。だから攻略配信はあの魔装の強化事件以来だかんね。でも、るかちーとはちょっと上層うろついたりしたんよ」
「あ、うん」
『そういうの配信してもろてw』
『見たい』
『動画公開まだー?』
『待ってるー』
『ジャージで上層うろつくなってのw』
『きひ子ちゃんいるし、カナっちの魔法剣もあるから大丈夫だろw』
「ま、とりあえず始めよー」
わらわらと盛り上がっていくコメント欄だが、アーティファクトを発見したということは公にするつもりはない。
それだけではなく、そもそもアーティファクトを手に入れる以前に、奏星は配信以外でのダンジョンアタック時の録画映像についてはアップするつもりはない。
というのも、基本的な剣術の練習などを意識してダンジョンアタックをする日などはそちらに意識を集中させたいため、無言で黙々とやる、というのが奏星のスタンスでもあった。
もっとも、流霞と組むようになってからは話しながらひたすら戦い、実戦の中で腕を磨くようになったため、配信するのも構わないと言えば構わないのだが、あまり乗り気ではないのである。特訓時はメイクを薄くしたりもするので。
ともかく、コメント欄の要望を見つつも反応することはなく、奏星は動画の投稿については言及せずに進行を開始することにした。
「上層3層からはレッドハウンドと武装ゴブじゃん? ウチらもここ最近は上層3階層から4階層あたりをうろうろして、連携確認だったり戦い慣れる練習してたんよね」
「カナっち」
「うい」
『お、魔物』
『武装ゴブ!』
『げ、弓いるじゃん』
『言うて二人なら弓矢とか当たらなそう』
『弓矢っておまえらが思ってるよりよっぽど速いぞ』
『レベル1の常人と同じ身体能力だと、あれだけで死ねる戦力』
『単純に人殺しに躊躇しない連中が5人向かってくると思え』
『ひぇ』
『剣、剣、斧、槍、弓』
『いちいち弓守ってんのうぜええええぇぇぇ!』
流れるコメント。
それらを奏星がちらりと視界の隅で確認していると、流霞が魔装である銀のロッドを手に持ってくるくると回し、身構えた。
「カナっち、行こ」
「あー、まだな感じね、りょ」
『ん?』
『なんだ?』
『ってちょっと待ってww』
『カナっちの武器、めっちゃ格好良くなってますやんww』
『何その剣カッコイイつよそう』
『オシャレ過ぎてコスプレしたくなってきた』
『さすがにカッコ良すぎだろw』
今回の武装ゴブリンとの戦いで、流霞のスキルである【朧帳】は使わない。
流霞が声をかけてきたというのは、つまりはそういうことだ。
そうであるのなら、道を切り拓くのは自分の仕事だと奏星は細剣を鞘から抜き出し――そして、〝スキルを発動させずに炎を纏わせた〟。
『は?』
『え、何それ?』
『噂の魔法剣?』
『いや、前はスキル使った瞬間だけだったはず』
『待ってちょっと待てwwww』
『なんでこの配信、いっつも度肝抜いてくんだよww』
『どういうこと!?!?』
『魔法覚えた、とか?』
『いや、魔法もあんな風に待機状態で発動なんてことはできないはず』
一瞬の制止から、直後に流れ始めたコメントの数々。
けれど武装ゴブリンたちは徐々に近づいてきていて、今はそちらに構っていちいち話していられるような余裕はなく、炎を纏った細剣を構える。
「――始めよう、るかちー」
「うん」
倒れるように上体を前へ落とし、同時に、奏星と流霞が武装ゴブリンたちへと肉薄した。




