スクールカーストトップはギャル Ⅰ
――ふぐぅ、ま、まに、あった……。
東京第三区画探索高校――通称、〝サンコー〟。
探索高校とは名付けられているものの、ダンジョン探索に特化した学校であるという訳ではなく、第三ダンジョンの近くにある普通の高校に、多少の体力作りや訓練が取り込まれた学校である。
そんな高校の入学式も無事に終わって一ヶ月、流霞はぼっち街道を真っ直ぐ突き進んでいた。
しかし流霞はそこに焦りを感じてはいない。
たとえ二人一組になってと言われて孤立していようとも、たとえグループ課題で最後まで残ろうとも、流霞にはどうでも良かった。周りから笑われようとも気にしなかった。
――ふへへ……、推しグッズ、最高……。ダンジョン頑張って良かった。
流霞が今しがた机の上に置いた学校の鞄につけられた、とある缶バッジ。
流霞が気に入っている、否、ガッツリ推しているキャラクターグッズを見て、表情には出さないように内心でニマニマと流霞は笑う。
ダンジョンが現れてからというものの、世界的に人口は減少傾向にある。
都市部の機能を維持するためにも、平和な時代にはアルバイトやパートといった人員を使っていた、いわゆる〝誰でもできる仕事〟は、基本オートメーション化され、デジタル化によって大幅に省人化が進んで淘汰された。
そのため、学生アルバイトの多くはスポットのアルバイトなどのみに絞られている。
そんなご時世における代表的な一時収入として、今の時代に常套手段となっているのがダンジョンの浅層探索だ。
ダンジョンの最上層と呼ばれる第1階層から第3階層は魔物も弱く、殺傷能力の低い魔物が多い。
最上層の魔物が落とす極小魔石と呼ばれている宝石は、一つあたり200円程度になり、最上層で手に入る薬草も単価は安いがそれなりに手に入る。
朝から夕方までダンジョンで活動していれば、だいたい5千円程度には届く。運が良ければもう一つ上の桁にも届くこともある。
もっとも、意味の分からない因子、【月】の効果を確かめようと試行錯誤していたため、流霞の一日の稼ぎは3千円にも満たなかったが。
ともあれ、そうしたダンジョンでの稼ぎでゲットした推しグッズに心が満たされているのである。
結果としてぼっちではあるが、それはそれとして推しグッズがあれば気にならない、そんな少女であった。
改めて推しグッズを眺め、満足げに机に突っ伏してから、流霞は改めて思う。
――【月】とはなんぞや、と。
ダンジョンアタックを開始して以来、【月】の因子の使い方はさっぱり分かっていない。
ちょうど満月だったので、無駄にお月見をしてみたぐらいには迷走した。
ダンジョン因子は成長する。
いずれは何かに使えるかもしれないが、今のところ、まったく、これっぽっちも使い所がないのが【月】という代物、というのが流霞の行き着いた結論であった。
――はぁ……。〝魔装〟だけは使えてくれて良かった……。
ダンジョン因子とは別に手に入るのが、ダンジョンで戦うための力を補う魔法の装備――〝魔装〟だ。
何が手に入るのかは千差万別であり、分かりやすい武器である場合もあれば、あるいはアクセサリーなどで装着しているだけで能力をあげてくれるものなどもある。
流霞が手に入れた〝魔装〟は、幸い戦いには向いていた。
自分の身長――156センチメートル――よりもちょっと長い、何やら青白い蔦が絡みつくような意匠が先端部分に描かれている銀色の棒。
太さは太すぎるということもないが、細すぎるということもない。
ただし、自分以外にはやたらめったら重いようであった。
なんの気なしに壁に立てかけていたら、棒がずるりと滑るように転倒し、重量感のある音を立てて転倒し、アパートの床を容易く凹ませ、傷をつけたのだ。
なのに、自分が持つと軽い棒を手に持っているような感覚で持ち、振れる。それはもう、学校の備品にあるようなスカスカの箒なみに簡単に。
もちろん、流霞の腕力、膂力が強化されたのかと言えばそういうわけでもない。
今のところ、魔物の討伐自体は問題なくできている。
だが、【月】の使い道は不明だ。
――ネットで調べた感じだと、〝ダンジョン因子〟は文字数が少ないというか、シンプルなものであるほど幅が広がる、って書いてあったのに……。
流霞がそんなことを思うのも無理はなかった。
そもそも〝ダンジョン因子〟とは、『文字数が少なくシンプルなものであるほど、応用が利く』というのが正しい。
世界的に名の知れている日本の特級探索者に【斬】という〝ダンジョン因子〟を持つ者もいる。その者に斬れないものはないとまで言われており、【炎】や【水】のように、それらを自在に生み出し、操り、独自の能力を操る者もいる。
ちなみに、【火属性魔法】や【水属性魔法】なども存在はしているのだが、そちらはテンプレート化した魔法がレベルアップによって段階的にスキルとして解放されるようなものでしかないため、そこまでの自由度はない。
もっとも、それだけでも充分に有用ではあるのだが。
「――痛っ」
「へ?」
流霞の机にぶつかったのは、同じクラスの男子生徒だ。仲間と会話しながら他所見をして、不注意で机にぶつかったというところだろう。
特に悪意があって、苛立っていたわけでもなければ、流霞を日頃からいじめるような真似をしているわけでもない。
――ただ、目についてしまった。
「ごめんごめん。って、あれ? なにこれ?」
「あ……っ」
それは流霞が鞄につけている、いわゆるアニメキャラの描かれた推しグッズ。
それを見て乱暴に鞄ごと手に取ってみせた男子は、描かれている男性キャラクターを見て、そうして次にからかうように鼻で笑った。
そこに大した悪意はないのだろう。
相手を貶めるような意図も、これを機にいじめてやろうという気持ちもない。
ただ、それでもそれは、あくまでもその行いをする側の主観でしかなかった。
「なにコレ。え、こういうの好きなの?」
言下に滲み出ている、どこか小馬鹿にしたような目と声色。
少しでも〝異質〟を見つければ容易くそれを理由に攻撃してくる、幼稚さ。
ぱっと見れば気弱そうな女子が相手。
さらにそんな女子がつけているのは、いわゆるオタクグッズとも、あるいは子供っぽい趣味とも言えるアニメグッズだ。
だから、その男子は大した悪気もなく、しかし悪気はないながらも自分が格上であるかのように、流霞へと声をかけた。
「え、あ、その……」
「三枝、どしたん?」
「おっす、三田。ほら、これ知ってる?」
「え、何それ? アニメかなんかのキャラ?」
「そ、その、手、離して……」
――あああぁぁぁ、私の推しキャラ缶バッジ!
限定で手に入ったのが嬉しくって思わず学校につけてきちゃった私の馬鹿ぁ!
っていうか親しくもない男子さわんな! 手垢つく!
そこまで胸の内で叫びつつも、しかし流霞のその本音は飛び出さなかった。
流霞という少女は、別段他人と喋るのが苦手ではあるが、無理というほどでもない。だが、口数が少なく、必要以上に喋らないという意味ではコミュニケーション能力に乏しい少女でもある。
そんな流霞であったが、推しグッズを勝手に、雑に触れられ、見せびらかされるという怒りと、普段からコミュニケーションを取っていない相手であることもあって、言葉をどう紡げばいいかが分からなかった。
そんな折、教室の扉が開いて、一人の女子が教室に入ってきた。
金色の長い髪、その先端をピンクに染めていて、耳には大量のピアスが光る、いわゆるギャルであり、見た目の良さと堂々とした佇まいから、人気のある女子――姫屋 奏星であった。
「おっす、姫屋! なあ、これ知ってる!? こんなのつけてんだぜ、八咫島」




