【配信】〝魔女の饗宴〟 Ⅱ
ダンジョンから与えられる因子、それにスキル。
出現から半世紀ほどは経過しているが、それでもなお不明な点は多い。
何せ、人類が培ってきた技術が通用しないような法則が働いているということもある上に、答え合わせ自体が難しいのだからそれもそうだろう。
さらにスキルの中にある拡張という代物に至っては、そもそも存在すら表向きには知られてこなかった。
その原因は単純で、そもそもスキルが拡張される程の理解、追究が進んでおらず、誰もがそこで完結しているものだと思い込んでしまっているせいでもある。
よしんば拡張スキルに手が届いたとしても、それが拡張による能力なのかどうかを確認できないために、その存在が一般的に広まらなかったとも言えるだろう。
さらにそこにきて、一言で拡張スキルと呼んではいるが、その種類は多岐に亘る。
たとえば流霞は『反転』、奏星は『特化』。
そこにきて、まだ当人らは解析していないため名称までは把握していないだろうが、莉緒菜は『接続』であり、そして瑛里華は『変換』となっていた。
瑛里華の【雷纏】はその言葉の通り、雷を纏い、打撃にそれらを流し込むことに特化していたが、これが『変換』されることによって、瑛里華の周囲で雷撃がバチバチと音を立て、激しく光り輝きながら踊る。
放電した青白い帯が、瑛里華の周囲のあちこちに、不規則に撫で付け焼いていく。
「はっはーっ! こらえぇわ!」
スキルを新たに覚えた時と同じような、感覚的に何ができるか理解するという不思議な現象。瑛里華もその状態を味わい、ハイになって声をあげながら、縦横無尽に暴れ回る雷撃を集めるように両手を寄せ、手のひらと手のひらを向け合った。
ジジジジジ、と音を立てながら両手の手のひらの間で凝縮される雷の塊とでもいうような代物が、今にも爆発しそうな程に膨張と収縮を凄まじい速度で繰り返す。
――これやったら、《《いける》》!
そんな確信に瑛里華が楽しげで獰猛な笑みを浮かべた。
「菜桜! デカいのいくで! 合図したら射線大きく空けぇ!」
「ん!」
「3カウント! 3、2――!」
最前線で〝マンドラ〟の注意を引いていた菜桜が、瑛里華の声の声を聞いて、動きのリズムを変えるように膝を落とし、飛び出した。
「――1――!」
一瞬でトップスピードに引き上げ、放たれた矢のように真っ直ぐ〝マンドラ〟の脚の一本に深い斬撃を見舞うと、巨大な胴を足場にして再び即座に離れる。
同時に、カウントがゼロに到達。
バランスが崩れてぐらりと傾いだ〝マンドラ〟の顔の先では、両手の間に収縮させた雷撃を放つように突き出した瑛里華の手。
刹那、雷鳴のようなけたたましい音を奏でて放たれた雷撃が、〝マンドラ〟の身体を突き抜け、火花を散らして貫いた。
『ぶっ放した!?』
『すげえええ!』
『かっけええええ!』
『雷はやべえだろ!!!!』
『クソ強そう』
『貫いたあああ!』
コメントが流れる中、〝マンドラ〟の身体から時折放電現象を引き起こしながら、ゆっくりと崩れ落ちていく。
先程まで、決め手に欠ける厳しい戦いを強いられていたというのに、たった一撃で決着がついた。
圧倒的な火力を持たなかった瑛里華が、スキル拡張によって強烈な武器を手に入れたことを素直に喜び、称賛するような気持ちで聖奈が瑛里華に視線を向けると、瑛里華がそのまま力が抜けて倒れていく姿が見えた。
「っ、瑛里華……!?」
「エリちゃん!」
思わずといった様子で莉緒菜と聖奈が声をあげる。
二人が動くよりも早く瑛里華の目の前にやってきた菜桜が、瑛里華の顔の近くに顔を寄せてふんふんと頷くと、無表情のまま聖奈と莉緒菜へと顔を向けた。
「瑛里華、魔力切れたって」
「え?」
「今の一発、ほぼ全部の魔力持ってった、だって」
「……あぁ、なるほど~……」
『何が起きたのかと思えばw』
『もうちょい調節してもろてww』
『締まらんなぁw』
『菜桜ちゃんがつんつん瑛里華突いてんのがじわるw』
『いや、でも魔力持ってかれてもあれだけの威力がある一撃は便利だろ』
『必殺技感あって好きw』
『ビームはやっぱ全ツッパのロマン砲なんよw』
何か反動が働いてダメージを負っているなどではないと知って安堵すると同時に、あれだけの威力の攻撃であるなら、そりゃあ消耗もするだろうな、とも莉緒菜と聖奈も思う。
特に瑛里華は、これまでのスキルの中に放出するようなものはなかったため、割と魔力の消耗という意味では抑えられていたタイプだ。
初めての大量消費に慣れていないため、なおさらに負担が大きくも感じるだろう。
なんとなく心配して損したような気分を味わいながら、莉緒菜は冷静に瑛里華の【雷纏】の拡張スキルの方向性を推測していた。
――従来の瑛里華の【雷纏】は、その名の通り内側というか、瑛里華にだけ影響があり、物理的に触れたものに対してのみ効果を及ぼしていた。けど、今回のは真逆。でも、るかちーの『反転』とも違う。言うなれば、これまでのものとは真逆の性質を持つものへと変化させた、といったところかしら。
その推測は『変換』という瑛里華の性質をしっかりと見抜いた推測だった。
同時に、自身の力についても考察を深める。
――私の拡張も、安直に考えれば『召喚』のようにも思えるけれど、スキル拡張の系統は、〝元となっているスキルが変わる方向性を指したもの〟と考えていいはず。るかちーの『反転』は、鏡花水月と【凶禍酔月】。静と動の反転。そしてカナっちは『特化』。炎という力を〝焼失〟という方向に絞って尖らせた。
身近な情報から、続いて『亡霊の庭園』との会話を思い出す。
――〝権能使い〟であり、〝概念を覆して結果を押し付ける者〟という表現。それはスキル拡張の一つの到達点でもあり、通過点でもある。私の力は、【悪魔】というイメージを召喚して使役しているけれど、悪魔の腕を出して振るったり、攻撃にも使える。つまり、一概に召喚と片付けると齟齬が出る。悪魔の腕も、召喚も、どちらも〝私と繋がって初めて発動される力〟、といったところかしら。
頭の中で情報を整理していけば、自分の力は〝繋がることで強くなる力〟だという結論に至る。
それが正に『接続』という拡張スキルの本質であった。
「……なるほど、ね」
「あら、何か思いついたことでもあるの~?」
「えぇ、面白いことが分かってきた、とでも言いましょうか。少し色々と実験してみないことにはなんとも言えないけれど、方向性だけは見えてきた、というところかしら。上手くいけば聖奈と菜桜にも恩恵が与えられそうよ」
『お?』
『なになに?』
『軽率に情報流してくれてもええんやで?』
『莉緒菜様も割と金銀花のJKたち並にぶっ飛んでんからなぁ』
『そもそもあの黒い軍勢とかヤバすぎだしなw』
呟きを拾った聖奈に答えれば、コメント欄が次々に流れていく。
そんな中、一つのコメントが投げ込まれていた。
『周郷徠人〆:その話、もしもあなたたちや金銀花の力に関することであるのなら、僕も一度聞かせていただきたいところですね』
一流探索者の嗅覚とでも言うべきだろうか。
莉緒菜の言葉から、なんとなくそういうものであると嗅ぎ取った周郷がコメントを打ったのだ。
もっとも――――
『さりげなく莉緒菜様に会おうとすんな、百合豚がよォ!』
『コイツ、莉緒菜様にあわよくば叱ってもらおうとしてるんじゃ……?』
『逃げて莉緒菜様、豚が来る!』
『↑豚がくるwwww』
『周郷くん、この前の大会以降視聴者界隈からは百合豚扱いだからw』
『そこに今日、マゾ豚が追加されましてww』
『つまり豚なんよなぁww』
――――視聴者たちにとってのイメージが完全に定着してしまっているため、他のコメントに散々叩かれ、聖奈が「ぶっふぉ」と噴き出すはめになったのだが。




