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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第5章 蠱毒の王

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一難去って?




 日本の大手クランによる合同抗議文の提出。

 ダンジョン黎明期に制定されたまま宙に浮いたような扱いとなっていた〝探索者の義務〟という難題に切り込む形になったが、当時と今とでは時代が違うという点や、未来を見据え、今を変えるべきだという大手クランの声を支持するコメントは非常に多かった。


 正式に大手クランから提出された意見提案書を探索者協会は受理。

 探索者協会としても、つい最近大きくテコ入れされたばかりで民衆の目は未だ冷たいということも背景にはあった上に、テコ入れするに当たって関係のあった〝金銀花(カプリフォリオ)〟が相手の騒動だ。

 しっかりと動かねば、痛くもない腹を探られる結果を招きかねないため、大手クランの意見提案書に賛同を表明することになった。


 騒動の矛先は探索者たち、そして良識ある一般人たちから、一斉に国へと向けられた。


 こうなってしまっては、木場も無事では済まなかった。

 すでに他の議員らからも詰められ、正式に自衛隊からも、領土奪還作戦は中止するという旨の連絡が通達された。


 さらに、火中の栗を拾う気はないらしく、これまで木場に靡いていた企業や団体もあっという間にそっぽを向いてしまい、もう二度と政治の世界に戻ってくることはないだろう、とまで言われている。


 愚かで身勝手な行動が、政界全体にまで波及する騒動となってしまった以上、物理的な意味でも消される可能性が高くなったことを本人も自覚しているのか、引退を発表してさっさと引っ込んでしまった。


 世間は未だ騒がしく、しかしその一方、雅たちはどちらかと言えば平和な日常を取り戻しつつあった。



「――あー、るかちーはそっちかぁ」


「神奈川崩壊事件の被害者だからこそ、っていうのもあるんかなぁ」



 慌ただしい日々も落ち着き始めた、11月の後半。

 新事務所にて、奏星は流霞と共に大手クランの合同会見を見ていた際、流霞が口にした言葉を雅にも共有していた。


 平和とは言え引っ越しのための諸々であったり、その手続きの大半を紅音に頼んでいる一方で、新事務所のネットワーク構築の対応などに追われたり、相変わらず『明鏡止水』とのホットラインを残すための専用回線に繋ぐための機器設置だったりと、雅は忙しい日々を過ごしている。


 この日も雅は新事務所でパソコン周りの諸々の作業を進めていたのだが、その付き添いとしてやってきたのが奏星であった。


 配信こそできていないものの、ダンジョン探索は続けている。

 今日はそのオフであったため、手持ち無沙汰に雅とお喋りすると決め込んでいたようだ。



「まー、るかちーは感受性強めだから気持ちは分かるけどねー。だからって、ウチらが領土奪還に行くってのはナシだけどねー」


「お、雅はそう思うん?」



 雅から返ってきたのは、冷静な反応だった。

 雅ならば「やっちまおうぜ!」ぐらいのノリになったりしてもおかしくはない――そんな風にも思っていた奏星であったが、冷静な答えが返ってきたことに驚いていた。


 そんな奏星の反応も雅は予測していたのだろう。

 分かりやすくきょとんとした奏星の表情に苦笑して、雅が肩をすくめてみせた。



「領土奪還作戦は自衛隊の支援とか、拠点の構築とかが必要になるし、単独じゃできないってのもあるかんね。ま、それだけじゃなくて、今回の件はもうどう見てもウチらの手は離れてっからね。正式に領土奪還作戦はないって国も発表したし、レベル3、しかも未成年が入り込むようなことはまずないっしょ」


「まあ、それはそう」


「確かにあーしだって、るかちーが思ったみたいに振り回された人たちは可哀想だな、とは思うんよ。けど、それをすんのは本来国がやるべきことじゃん? ウチらが介入し過ぎる訳にもいかない。ま、〝金銀花(カプリフォリオ)〟がレベル7とかレベル8パーティみたいになって、そういうトコも余裕で踏破できるー、みたいになったならやってもいいかもだけどさ」


「なにそれつえー。……ま、でもそうなんよなー。だって、あのクソデカゴリラみてーのいっぱいいるんっしょ? さすがにムリ過ぎるなー」



 奏星の脳裏に浮かんだのはプリマトゥスとケイヴタイラントの群れだ。

 中層13階層の蠱毒と化した場にいた、異常進化個体。

 あれ以上の化物たちが大量にいるとなると、さすがに今の自分たちでは心許ない。



「それなー。あのプリマトゥスってのさぁ、お父さんが言うにはレベル5パーティでも上澄みか、レベル6探索者がいるようなパーティじゃないとキツいだろうってさ」


「……ガチ?」


「ガチ。奏星たちはスキル拡張があるから倒せたけど、普通に戦ったらもっと長期戦になっていただろうし、もっと苦戦していたはずだ、ってさ」


「ひゅー、ウチらすげーじゃん」


「それはホントそう」



 プリマトゥスの強さは傑も確認した。


 傑の正直な感想を言えば、自分ならば斬れただろうな、とは思う。

 だがそれは、スキル拡張について学び始め、その片鱗に触れたことで強化した腕前を手に入れている今だからこそ言えることでしかない。


 もしもその前の自分――レベル6ではあるものの、独自魔法もスキル拡張もなかった頃の自分であったならば、あの障壁と回復能力に時間がかかっていたに違いない。

 面倒ではあるが勝てる相手、という評価に落ち着くといったところだろうと傑は冷静に評価していたのだ。

 同時に、レベル3程度ではまず勝てるような相手ではないだろう、とも。


 改めて、〝金銀花(カプリフォリオ)〟という集団が今までの常識を打ち破っていることを傑は改めて実感したと言う。



「ともかくさ。領土奪還っていうのは、やっぱ探索者がっていうより国の領分なんよね。それか、その場所の出身者とかがいずれビッグになってやったらぁ、みたいな。今回の騒動で〝金銀花(カプリフォリオ)〟が巻き込まれたからって、るかちーが気にすることじゃないんよ」


「んー、やっぱそっかー」


「奏星はやりたいん?」


「んにゃ、全然。今のウチらの強さじゃ、やっぱ厳しいだろーし。あと、やるんだったらやっぱちゃんと報酬ほしーじゃん? いや、誰かの為にやってやろうって気持ちを否定する訳じゃないけどさー。ハッキリ言って今回の件はウチらに関係ねーし」


「うん、まあそういう話になるねー」


「だっしょー? だからさー、やっぱウチら、もっと強くなんなきゃだわ」



 脈絡もなく奏星がそんなことを言い切ってみせたものだから、思わず雅は目を丸くした。

 どういう意味だと問い返すよりも早く、奏星が「にししっ」と得意げな笑みを浮かべてみせた。



「るかちーとミカミカは、神奈川出身じゃん? いつか神奈川に挑むってなったら、そん時ゃあーしもやっちまえるよーになっとかなきゃーってさ」


「……あー、ね」


「ま、あの二人は思うとことかあんまなさそーだけどねー。でもさー、故郷が見たいって思うかもしんねーし。そーなった時によわよわじゃ話にならんっしょ」


「……うん、そだね。あーしもそれまでに〝がちけん〟もっとすげートコにして、バッチリ支援できるようにするわ」


「おー、頼むぜーぃ」



 軽い物言いで、もしも他の者が見れば夢物語を語り合うようにも見えたかもしれない。

 しかし、奏星はもちろん、雅もまたその目の奥にある火は確かなものであった。


 お互いに気持ちを新たに一段落した、ちょうどその時だった。

 雅のスマホが鳴動し、かけていたARグラスに名前が表示される。



「おわっ!?」


「どしたん? ジャンプスケア喰らった?」


「いやいやいや、さすがにそれは……あれ? ある意味そーかも」


「え、どゆこと?」


「〝椿〟さんから連絡きた」


「は? マ?」



 雅から告げられたその名前は、奏星も忘れるはずはなかった。


 夏休み、『指定ダンジョン』で出会った二人の探索者。

 おそらくは〝不法探索者(アビューザー)〟と思われる二人のその実力は尋常ではなく、あまりにも強すぎる力を持ち、かつ、流霞を救ってくれた恩人ですらある。


 その片割れであり、袴姿で髪を縛り、左目に眼帯をつけ、一人称が〝此方〟という、なんだか非常に珍しいタイプの剣士――〝椿〟。


 あの時、流霞たちを助けてもらった御礼も含めて『魔導防具(マギア・ギア)』を作ると雪乃が約束し、雅が連絡先を伝えてはいたものの、なかなか連絡が来ないままだった相手から、突如としてメッセージが届いたのである。



「で、で? 内容は?」


「んっと、『魔導防具(マギア・ギア)』について細かい話を聞かせてもらいたい、っていうのと、最近ウチらが巻き込まれた領土奪還作戦についても、ちょっと話がしたい、だって。ついては、余人の目に移りにくい場所を指定してほしい、だって」


「よじん?」


「他人に見られたくない、ってことじゃん?」


「なる。んー……、あれ。それならここで良くね?」


「……いや、さすがに相手は〝不法探索者(アビューザー)〟だかんね。いきなりここに呼ぶってのはちょい抵抗あるわ」



 たとえ〝虎〟や〝椿〟が恩人とは言っても、一般人のそれとは異なる者たちである。

 あの二人が今更自分たちに何かをするとは思えないが、その背後や出自も明らかではない相手である以上、あの二人の知り合い、あるいは仲間が良からぬことを考える可能性も否定できない。


 加えて、そんな存在が〝がちけん〟や〝金銀花(カプリフォリオ)〟、〝魔女の饗宴〟などと繋がりがあるとどこかから漏れる可能性もあることを考えれば、簡単に呼び出してしまうのもリスクがある。



「んー、だったら向こうに場所指定してもらった方がいいかも?」


「あー……、そう返してみるわ」



 なんだか怪しい取引に応じるような、そんなちょっとしたドキドキ感を味わいつつ、雅は早速とばかりに〝椿〟への返信を作成し、送信した。


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