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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第4章 新人探索者パーティ対抗戦

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快進撃 Ⅴ




 ハイオークの集団を打ち破り、それでも止まらずに一行は12階層入口手前、景色が歪みながら淡い光を放っている階層移動用ポータルの前でお昼休憩をしてから、12階層へと足を踏み入れていた。


 12階層で11階層のハイオーク集団に追加して現れた魔物は、ヒュージワームという地中から地面を食い破ってくる巨大なワームだった。

 人をすっぽりと呑み込める程ではないものの、ギザギザとした不揃いな歯を持ち、土や石すらも溶解させる強力な毒持ちの魔物。

 そんな厄介な魔物が、斜面や足元から地面を穿って襲いかかってくることになる。


 端的に言っても攻略難易度は跳ね上がる。

 何せ上から弓矢、前方から龍砲に加えて、足元や横の斜面から飛び出るヒュージワームの奇襲が加わるのだから。



「――るかちー、斜面から出てくるー。あと2歩下がってー、おけ。カウントー3、2、1」



 美佳里の淡々とした声を聞いて、流霞が大鎌を構えて振りかぶる。

 カウントとほぼ同時に斜面を突き破って出てきたヒュージワームが、ほぼ同時に振り下ろされた流霞の大鎌の刃に容易く切断された。



『グロミミズさんさようなら』

『相手が悪すぎる……w』

『ミカミカが全部予測しててデカワームかわいそ』

『なんで予測できんの?w』

『わからんけどすげええw』

『いや、ホント意味わからんくて好きw』



 配信のコメントが盛り上がるのも無理はなかった。

 12階層に入ってから、美佳里がヒュージワームがどこから出てくるのかを逐一言い当てているのである。


 というのも、美佳里の魔装である眼鏡がヒュージワームをことごとく映し出しているため、どこから出てこようとしているのかが見えてしまうのである。


 正直に言えば、これは美佳里にとっても予想していない出来事ですらあった。

 まさか中層12階層に入った途端に、突然美佳里の眼鏡に突如として『システムアップデートを開始します……【解放:魔眼鏡(まがんきょう)機能β】へのアップデートを完了しました』という文字が表示されるとは思ってもいなかったのだ。


 それはかつて『指定ダンジョン』へと赴いた際にトラップが見えるようになったあの時以来の、新たな魔装の成長であった。


 今回のアップデートによって美佳里の眼鏡には、〝魔物透視〟という機能が追加された。

 魔物が壁の向こうにいようが遮蔽物に隠れていようが、美佳里の眼鏡越しには赤いシルエットが浮かび上がって見えるようになったのだ。


 有効距離はおよそ前方30メートル程度。

 これがもしも距離が延びるようなことになれば、スナイパーライフル型の魔法銃とこの機能で遠距離から一方的に索敵、狙撃が可能になるのではないだろうか、と表情を引き攣らせたばかりである。


 ――あーしの眼鏡、ヤバすぎん?


 自分が活躍しているとも言えるのだが、どうにも眼鏡に全てを持っていかれている気がしてならないという、なんだか複雑な気分を味わいながらも、一行は順調に13階層入口へと向かって順調に移動していた。



『スコアバグってる?』

『11階層の中盤できひ子ちゃんがきひり始めた頃からそうなりつつあったw』

『追いつかないんでしょw』

『冗談だろう? 彼女たちはどうしてあの厄介なモンスターを予測できるんだい?』

『一瞬で十数頭とか屠ってんからなw』

『カウント係にボーナスあげてww』

『ミカミカは女神さ! 眼鏡が煌めいているよ!』

『なお、他のパーティは分かりやすいし平和』

『同時視聴者数比べてみろ、トブぞ』

『一番多いと思われる〝十字星〟、9千ちょい。こっち61万ww』

『ひぇ』



 さすがに流霞の奇行にも慣れたようで、コメント欄は比較的安定して盛り上がっており、AIで自動翻訳されたような独特な言い回しのコメントも見受けられる。

 海外でも〝金銀花(カプリフォリオ)〟の活躍は話題になっているようであり、そのおかげで視聴者数は順調に増えていた。


 そうした中、11階層のきひ子ちゃんショック、周郷徠人キヒリスト事件から一時的に他のパーティの実況に戻りつつも、ワイプで〝金銀花(カプリフォリオ)〟を映し続けるという、意地でも視聴者を手放したくない公式チャンネルの映像もまた〝金銀花(カプリフォリオ)〟の画面をメイン表示に戻していた。



《――さあ画面は〝金銀花(カプリフォリオ)〟に戻ってまいりましたが、なんとすでに12階層を突破し、13階層に進もうとしているところのようですね。猿島さん、ここまで如何でしょうか?》


《いえ、もう驚きの連続ですね。私はトップ層の探索を観る機会も多いのですが、彼女たちはレベル5パーティ、いえ、もしかしたらレベル6パーティと同じぐらいの余裕とスピードで進んでいると言ってもいいでしょう》


《えぇ、私も同様です。彼女たちを見ていると、全国新人探索者パーティ対抗戦なのにどうしてトップ探索者パーティが参加しているのかと錯覚してしまいそうになる、それぐらいの順調さで彼女たちは進んでおります。周郷さん、レベル6のトップ探索者の視点から見ていかがでしょうか?》


《やはり、要所要所でメンバーの強みを活かしきれているというのが、彼女たちの凄さでしょうね》


《おっと、正気に戻っていらしたようで何よりです。それで、強みとは?》



 本多が流れるように毒を吐き、公式チャンネルでは草が生い茂っている。

 イケメンぶりで絵になるのに中身は自称キヒリストとか言い出してしまう変人という奇妙な存在に、本多もいよいよ遠慮がなくなってしまったらしい。


 だが、そんな本多の本音をまるっと無視するように、周郷はその程度ではいちいち止まったり反応したりもせず、真剣な表情を浮かべたまま映像を見つめていた。



《この階層で光ったのは、やはりミカミカちゃんですね。彼女がヒュージワームの出現ポイントとタイミングを全て看破してみせました。上層でもそうでしたが、彼女は一見すると活躍していないようにも見えますが、トラップを撃ち抜いたり、サポートが上手いです》


《えぇと、ミカミカちゃんとは川邊選手、ですね?》


《続いてカナっちですね》


《姫屋奏星選手です、周郷さん》


《カナっちは圧倒的な火力持ちのアタッカーですが、遊撃を得意とするタイプです。ガッツリと前衛で暴れ回るタイプではないのですが、しっかりと隙を見て魔物を確実に仕留めるという視野の広さと冷静さ。そして、信頼し合っていることが窺えます》


《コメント内容は素晴らしいですが、できればちゃんと選手名を呼んでいただきたいところです、周郷さん》


《そして――そう、我らがきひ子ちゃんです》


《溜めんな。というかあんたもう開き直ってんな??》


『本多さんwwww』

『徠人様も止まらないww』

『なんだこの公式w』

『腹痛いww』

『本多さんちょっとイラッとしてるやんww』

『本多さんの声よww』



 まったく修正する気も隠すつもりもないらしい周郷の物言いに、本多のキレッキレのツッコミが炸裂し、コメント欄がやたらと草で埋まっていく。



《きひ子ちゃんの圧倒的な戦闘センスは、初回の放送、そしてカナっちを助けた際のジャージ戦闘時の時点で凄かったことは、皆様ご存知かと思います。えぇ、僕も当時から見ていましたからね。ですが――》


《おっと、ついに古参アピールまで挟んできましたよ、猿島さん》


《ゲストなので落ち着きましょう、本多さん。しかしすごいですね、ガン無視されてます》


《――今のきひ子ちゃんは、あの正体不明の赤い霧と、敵の攻撃を止めてしまうという結界めいた防御までもが存在しています。もはやハイオークぐらいではきひ子ちゃんを止めることはできませんね。この調子であれば15階層どころか、最深部の20階層にまで届いてしまってもおかしくはない、と言いたいところですが……さすがにまだ厳しそうですね》


《おっと、流れが変わりましたね》


『全肯定周郷くんかと思ってたらw』

『全肯定周郷くんやめてねwwww』

『こんだけ強けりゃ行けんじゃね、知らんけど』

『トップパーティの15階層以降の配信観れば分かるよ』

『行けそうだけどなぁ』

『分かってなさそうなのに分かってる風コメント湧いて草』

『どういうこと?』



 未だに周郷の軽いノリの余韻が残るようにコメント欄が騒がしくなる中、しかし周郷は本当に真剣な表情を浮かべたまま続けた。



《『魔物氾濫(スタンピード)』とは、ダンジョンから魔物が減らなくなり、飽和して発生することはご存知かと思います》


《えぇ、もちろんです》


《では、質問です。下層までもが見つかっているダンジョン。その奥の方の魔物は討伐されていないのが実状です。それはつまり、常に飽和している、という話になると思いませんか?》


《っ、それは……》



 周郷に言われ、本多と猿島の二人が息を呑み、事ここに至っては真剣な話をしていると実感したのか、コメントもまた動きが鈍くなる。


 そんな中、周郷は続けた。



《中層13階層から先のダンジョン内の魔物は、争っていることもあるんです》


《そ、それは魔物同士で、ということでしょうか?》


《はい。魔物の種族同士の争い、時には同種族内での争いも有り得ます。逆に、両者が共生関係にあるかのように数を増やしていて、協力してくるということもありますね》


《……っ、まさか、中層の奥深くにいる魔物たちは、そういった争いを行っているからこそ、数が減っている、と……?》


《その通りです。一般的に中層の10階層よりも深い層に挑戦するのは、レベル4以上のパーティですし、レベル4パーティの中でも上澄みのパーティでなければなりません。そして、15階層以上に挑むのであれば、レベル5パーティの上澄みでなければ命を落とす。そういう場所である理由の多くは、そうして生き残り、力をつけ、知恵を身に着けた魔物たちを踏み越えなくてはならないからです》



 それは高レベルの探索者ならば誰もが知っていて、しかし表立って大きな声では伝えていない、暗黙の了解にも近い常識ですらあった。


 しかし、周郷はこの場を利用して、ハッキリとその真実を突き付けた。


 それは〝金銀花(カプリフォリオ)〟という、新たな時代の幕開けをその目で見て、感じ取ったからというのもある。

 彼女たちの強さの一端にでも触れることができれば、それをモノにできたのであれば、新たな時代がやってくるだろうという確信もあった。


 だから周郷は、周郷徠人は――『神風(かみかぜ)』の若きエースであり、レベル6の探索者は宣言する。



《――ようこそ、桁違いの化物の巣窟へ。僕はキミたちの先輩として、キミたちのような新しい風を歓迎しよう》



 〝金銀花(カプリフォリオ)〟が13階層へのポータルを潜る姿を見つめながら、周郷はそんな言葉を口にした。


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