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両一目惚れから始まる超楽勝ラブコメ  作者: 宵月しらせ


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第7話 伝説のデートスポット

 高校生活が始まって二週間が過ぎた。

 それはつまり、俺と古谷さんが付き合い始めて二週間が過ぎたということだ。


 その間、なにか特別なことがあったというわけではない。

 最初こそものすごいハイペースで進んだが、その後は帳尻を合わせるようにゆっくりと、少しずつ距離を縮める日々。


 キスどころか、手を繋いでさえいない。

 休日に一緒に出かけたこともなく、本当にこれって付き合ってるのか? と言いたくなるような二週間だった。


 それもこれも、学校にいる時、二人で過ごす時間があまり取れないからだ。

 要塞姫の存在は上級生にも知れ渡っているらしく、落とした男がどんなやつか見に来る人が毎日少なからずいる。


 放っておけばそのうちいなくなるのだろうが、今のところ行脚は続いている。


 そうして二週間……さすがにこのままはまずい。

 そう思った俺は、校内でも二人になれる場所を探した。

 その結果、裏庭の端っこにあるベンチを見つけた。


 校舎から遠く、人気がなく、道路からも見えない。

 二人きりになるのは完璧な立地だった。


 カップル御用達にするには最高の条件だが、なぜか他の人たちがいないのも気に入った。

 隠れ家的な場所にあるから、知名度が低いのだろうか?


 他のカップルたちに見つかる前に、ここを俺たちの場所にしてしまおう。

 ということで、古谷さんにその話をしてみた。


「いいですね。では明日は、そこでお昼を食べましょう。お弁当を作ってきますね」


 古谷さんの手料理……明日が楽しみだ。


★★★


 そして翌日。

 午前中最後の授業が終わると、俺たちは一緒に教室を出た。

 普段は教室で食べるので、どこに行くのかと窺うクラスメイトたちの視線に見送られながら、足早に移動する。

 靴を履き替え外に出て裏庭へ。


 春の穏やかな陽気が心地いい午後で、こんな日に一緒に外でランチ。

 ああ、素晴らしきかな、俺の高校生活。


 事前の調査通り、ベンチ周辺には誰もいなかった。

 冬の間はきっと誰も使っていなかったはずだから、もう長いことほったらかしかもしれない。

 それなのに、春休みにペンキを塗り替えたみたいにキレイで、ずいぶんと大事にされている感じがするベンチだ。


 実は曰くつきのベンチだったりするんだろうか?

 このベンチでなくなった生徒の供養のために、誰も使わないようにしているが、毎年ペンキを塗っている――みたいな。

 …………ないな。


「ここに座って」


 持って来ていたレジャーシートをベンチの上に敷いて、古谷さんが座りやすいようにした。

 いくらキレイに見えるとはいえ、やっぱり野ざらしのベンチはキレイじゃないからな。


「ありがとうございます。気が利きますね」

「いやぁ、そんな」


 ちょっと褒められただけでにやけてしまうのは、我ながらチョロいと思う。


「作ってみたんですけど、うまくできているかどうか。お口に合えばいいのですけど」


 古谷さんは中学時代まではまったく料理をしなかったらしい。

 するようになったのはごく最近、俺と付き合うようになってから。

 つまり、俺に食べてもらうために始めたってことだ。

 

 そんなの絶対にうまいに決まってる。

 万が一そうじゃなかったら……俺の口が、古谷さんの料理に合わせるべきだ。


 古谷さんはちょっと大きめの弁当箱の蓋を開けた。

 中には、サンドイッチ、唐揚げ、玉子焼き、ブロッコリー等が入っている。

 玉子焼きはちょっと形が崩れているが、だからこそ慣れない中で一生懸命作ってくれたという感じがしてぐっとくる。


「で、では……」


 古谷さんは箸を手にしてから、少し固まった。

 なんか手が震えてるけど……。


「どうしたの、大丈夫?」

「あ、はい、大丈夫です。大丈夫……あ、これ、小野寺さんの分のお箸です」


 古谷さんが慌てて箸をもう一膳取り出し、渡してきた。

 それを受け取り、ふと考える。


 どうやら弁当箱はこれだけのようで、二人でシェアする計画のようだ……違う、そうじゃない。

 もしかして、今古谷さんが固まっていたのは、“あ~ん”をしようとしたけど、直前になってビビってしまったから……ではないのか?


 絶対そうだ。

 何もしてないのに古谷さんの目が泳いでる。

 古谷さんにフラれた人たちは、彼女をぶっきらぼうな人間だというけれど、俺から見たら動揺がものすごく表情に出る人だ。


 どうしよう……古谷さんの意図に気付いてしまったのに、何もしないわけにはいかない、よな?

 なら、いっそ逆に俺があ~んしてやろうか。

 そうしたら古谷さんの緊張もほぐれて、俺にしてくれやすくなるかもしれない。


 ……そうだ。

 告白をしてきたのは、古谷さんから。

 俺はなにもしていない。だから、今度は俺の方から一歩踏み出すべきじゃないか?


「ふ、古谷さん」


 俺は玉子焼きを箸で切り、一口サイズにしてから箸でつまんだ。

 震える手でなんとか持ち上げ、


「あ……」


 あ~ん、と言おうとしたが、そうじゃないトーンの声が出た。

 手が震えすぎて、玉子焼きが滑り落ちてしまったのだ。

 何年箸を使ってるんだよ……なんでここ一番で玉子焼きみたいな持ちやすい物を持てないんだ。

 

 ……もうダメだ。

 もう一度やり直せばいいだけなのだが、今の失敗で心が折れてしまった。

 今度は変な試みはせず、普通に自分の口に入れる……こういう時は完璧に動くのになぁ。


「あ、おいしい……」


「本当ですか⁉ よかったぁ。冷めてもおいしい玉子焼きの作り方をネットで調べて、昨日たくさん練習したんです。あんまりやりすぎて……玉子二パックも使っちゃいました」


「そ、そんなに?」


「さすがに食べきれなかったので、今日のお父さんのお弁当は、全部玉子焼きです」


「なんか申し訳ない……」


「お父さんから、小野寺さんに『よろしく』と伝えてくれと言われました」


 よろしく……どういう意味だろう。

 以前、一緒に焼肉に行ってあいさつしたし、悪い印象は持たれていないと思うけど……。

 たぶんそんな深い意味はないんだろうが、なんか怖いな。


「からあげも自信作です。粉に調味料を自分で混ぜたもので、うまくできたと思うんです。えっと、その……はい」


 古谷さんは箸を動かしかけたが、やっぱり途中で固まってあきらめてしまった。

 似てるなぁ、俺たち。考えてることが手に取るようにわかる。

 だから、俺があ~んをしても、きっと喜んでもらえるのだろうが……。


 結局その日は、一度もあ~んをすることができないまま食べ終わってしまった。

 まぁおいしかったからいいか。


 それから二人で話をしながら、昼休みの終わり近くまでそこで過ごした。

 たまにベンチの近くを通る人がいて、俺たちを見ると「あっ!」と声をあげて、見てはいけない物を見てしまったみたいにそそくさと離れることが何回かあったが……なんだろう?


 あ~んもできない俺たちが、見られてはいけないようなイチャイチャをしているはずもないのだが。


 っていうか、このベンチの近くって、実はそれなりに人が来るんだな。

 知られていないってわけじゃなさそうだ。

 ならどうして使われていないんだ?


★★★


 教室に戻った俺たちを、クラスの女子たちが待ち構えていた。

 周囲を囲まれ、自分の席にも行けない。


「ねぇ、二人であのベンチでご飯食べたって噂があるけど本当?」


 その程度の話がもう広まってるのか?

 っていうか、みんなそんなに話題に飢えていてヒマなのか?

 中学生だって、それくらいのことで騒がないんじゃないか?

 いや、中学は男子校で、校内カップルなんてどこにもいなかったから知らないけど。


「本当だけど……」


 と答えると、わぁっ! と女子たちが歓声を上げた。

 みんなそんなにウブなのか? 高校生の恋愛ってもっと進んでるイメージがあったが……じゃあ、あ~んができなかった俺たちも、そんなに恥ずかしがることはないな。


「あのベンチでランチなんてねぇ」


「やっぱり入学初日に告白するようなカップルは違うよ」


「そんなにラブラブな相手がいるなんて羨ましいなぁ」


 う~ん……なんか変だな。

 いくらなんでも、ちょっと持ち上げられすぎな気がする。

 二人きりで食事をするって次元の話を、彼女たちはしていない気がする。


「どっちから誘ったの?」


「俺からだけど」


「古谷さんはそれをすぐにOKしたの?」


「え? はい、しましたけど……どうして?」


「どうしてって、ヤダなぁ、とぼけないでよ。有名な話でしょ。裏庭のベンチで一緒にランチを食べたカップルは、卒業後すぐに結婚するって」


 ………………は?


「噂っていうか、ただの事実だよ。うちの兄貴の学年にもいたみたいだし」


「最初はただの噂だったみたいだけど、広まるにつれて、本当にベンチでプロポーズする人が出てきたらしくて。今では、あのベンチでの食事に誘う=プロポーズ、みたいな感じだってね」


「この辺じゃ有名だよね」


 いや、そんなの全然知らない。

 だって俺、先月まで別の県に住んでたし。

 古谷さんは知ってたのか?


「………………え? え?」


 あ、これ知らなかったな。

 顔を真っ赤にしてうろたえている。


 でも、クラスの人たちは違う意味で受け取ったらしくて、「おめでとう!」と拍手をしてきた。

 その拍手は教室にいた人たちだけでなく、廊下を通った人まで加わり、かなりの規模になった。

 今さら「知りませんでした」と言える雰囲気ではない。


「あ、ありがとう……」


「……ございます」


 声を裏返らせながら、俺たちはみんなにお礼を言って、拍手に送られながら自分たちの席に座った。

 ……まだ手も繋げてない、あ~んさえできなかった、なんて言っても誰も信じてくれないだろうなぁ。

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