第4話 家族バレ
最初は教室で話そうとしたけれど、たまに誰かがやって来てはじろじろと見てくるので、なかなか話に集中できない。
なので学校の外に行こうということになった。
とりあえず駅の方に向かって歩く。しかし駅に近づけば近づくほど人が増えてくる。
同じ制服を着た人、違う制服を着た人。いずれにしても、俺たちと同じくらいの年代の人が多くて、みんな古谷さんを見てくる。
ついでに、古谷さんの隣にいる俺のことも見てくる。
「隣にいるの誰?」
「わかんない、もしかして彼氏?」
「まさか! だってあの要塞姫に彼氏なんて。しかも、あんな普通の……全然釣り合ってないじゃん」
そんな会話を聞いたのは一回や二回じゃない。
古谷さんはこの近くの中学の出身らしいから、近くの高校には彼女を知っている人が大勢いるのだろう。
それにしたって、知名度があまりに高すぎる。
さすが、としか言いようがない。
「この分だとどこに行っても誰かに声をかけられそうだね」
「ごめんなさい……」
古谷さんは申し訳なさそうにうつむいた。
「謝ることじゃないよ。っていうか、すごいことだよ。でも、どうしようか……」
その辺のファストフードの店で話をするつもりだったのに。これじゃゆっくり話をするなんてムリそうだ。
「学校に戻りますか?」
「う~ん、それもなぁ……」
一度学校から出てから、もう一度入るというのはなにか気が乗らない。
一応、静かに話ができる場所なら、近くにあるにはあるんだけど。
そこに誘っていいものか……。
「ところで、小野寺さんの家はどのあたりなんですか?」
「俺の家? この近くだよ。あそこのマンション」
と、駅の反対側にあるマンションを指差す。
「あの……もし……もしダメでなかったら……おうちにお邪魔してもいいですか?」
「え?」
「いえ、失礼しました。いきなりおうちにお邪魔したいなんて失礼ですよね?」
「いやそんなことないけど……いいの?」
俺の家が近くにあるから、そこなら静かに話せるというのはさっき考えた。
しかし、彼女とはいえ、今日会ったばかりの女の子を家に誘っていいものか……。
俺の中の常識で考えると、さすがにそれはやりすぎな気がする。
というか、今日会ったばかりなのに恋人になっているのが、もう常識を超えている。
「い、行ってみたいです。小野寺さんの家に」
古谷さんがまた顔を赤くして言った。
え、これってどういう意味? なんでそんなに顔を赤くしているの?
よく顔を赤くするみたいだから、特に意味なんてないのかもしれないけど、こっちは健全な青少年。そんな表情されたら、つい妄想が広がってしまうのだが……。
いや、落ち着け。早まるな。
男女交際というものはよくわからないが、さすがに初日からそんな展開にはならないはずだ。
ただ家に招いて、お茶をするだけ。そう、ただそれだけのはず。
だからあんまり変な想像はするな。
気持ちを落ち着けるためにちょっと深呼吸して……すーはー……すーはー……よし、もう大丈夫 。
★★★
そこから自宅までは数分の距離だった。
駅の反対側は繁華街ではなく住宅地であるため、日中の人通りは多くない。
それでも、古谷さんは顔が広いようだから、どこに知り合いがいるかわからない。俺の家に入る姿を誰かに見られないかちょっとビクビクしながら移動した。
エレベーターに乗って八階へ。玄関のカギを開けて、
「どうぞ」
と招いてみたが、ほんの十日ぐらい前に引っ越してきたばかりで、まだ自分の家という感覚は薄い。
「お邪魔します」
古谷さんは恐る恐るという感じで靴を脱ぎ、廊下に上がった。
とりあえず、古谷さんをリビングに通す。
すると、そこに人影が。姉だ。
「お帰り冬馬……って、その子誰? めっちゃかわいい! え、彼女? 家に招くくらいだから彼女だよね? 彼女じゃなくてもすげぇわ、今日初日なのに」
姉がソファーから立ち上がり、古谷さんに近づいてきて、顔をジロジロと見る。
ああ、そうだ……姉貴がいたんだった。家で二人きりになれる、と期待した自分がバカだった。
ちなみに姉貴は高校三年生。俺とは違う学校に転校した。そっちの学校は明日から始まるらしいから、今日はずっと家にいたのだろう
うかつだったな……姉の存在を忘れていなければ、古谷さんを家に連れて来なかったのに。
古谷さんを見て、姉が質問攻めにしてこないはずがない。
学校で繰り返されたことが、ここでもまた繰り返されるはずだ。
はぁ……やっと二人きりで話ができると思ったのに。家でも邪魔されるなんて。
「こんなにちは、お嬢さん。お名前は?」
「古谷恋湖愛です」
「あらかわいい名前。うちの弟とはもうどこまで行った?」
「ど、どこまでって……今日会ったばかりですし」
「顔真っ赤にしちゃって。ウブなんだから。でもそっか、まだ始まったばかりってことは、今からどこまでか進むわけね?」
学校の方がまだマシだった。
どうやらうちの姉には、最低限のデリカシーすらないらしい。
こいつがいる限り、安心して古谷さんと話をすることはできなさそうだ。
ならいっそのこと……。
俺は姉の首根っこを掴み、玄関に引っ張って行った。
ドアから追い出して、ガチャンと鍵を閉める。
「ちょっとなにするのさ、冬馬! あたしカギ持ってないんだけど」
それはちょうどいい。このまましばらく帰って来ないでもらいたい。
「カギは渡せないけど、これは渡すから勘弁して」
チェーンをかけた状態でドアを開けて、隙間から姉の財布とスマホを渡す。
「少し話したら入れてやるから。それまで適当にどっかで時間つぶしてきて」
「後で覚えてろよ」
捨て台詞を残し、姫の足音はエレベーターの方へと向かって行った。
よし、これで二人になれた。
ほっとしたのも一瞬。また緊張が戻って来た。
そう、二人きりになったのだ。
古谷さんと二人きりに……。
しかも今度は、他に誰もいない家の中で。




