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両一目惚れから始まる超楽勝ラブコメ  作者: 宵月しらせ


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第5話 おうちデート

 いきなり古谷さんと二人きりになって、これからどうすればいいのか。

 正直、めちゃくちゃビビっているけど、何もしないわけにはいかない。まずはリビングに戻って。いや、その前にキッチンに行ってお茶を用意しよう。


「コーヒーでいいかな?」


「あ、はい、大丈夫です」


 コーヒーで大丈夫って意味だよな? お茶はいらないって意味じゃないよな?

 訊き返せばいいんだけど、それもなんか気が引けるので、コーヒーでOK。ってことにして、ささっと入れてしまう。

 別にこだわったコーヒーではない。ただのインスタントコーヒーだ。


「ありがとうございます」


 古谷さんは丁寧にお礼を言って、古谷さんは丁寧にコーヒーを一口飲む。ふーふーと吹く姿がとてもかわいらしい。


 それだけでなく、コーヒーカップを持つ姿がなんか絵になる。背筋がまっすぐ伸びていてビシッと決まっているっていうか。

 猫背にならないように俺も背筋を伸ばしてコーヒーを飲む。


「………………」


「………………」


 そのまま無言でコーヒーを飲み続け、気が付けばどちらも飲み干してしまった。

 あれ、おかしいな。コーヒーで口の動きを滑らかにして会話が弾むはずだったのに。

 このままじゃつまらない男と思われてしまって、フラれてしまうぞ。


 なにかおもしろい話をしないと。

 女子が好きそうな話、女子が好きそうな話……。


 ダメだ。全然思いつかない。

 姉貴だったら適当に食い物の話でもしておけば勝手に盛り上がってくれるが、古谷さんはあんな女とは全然違うだろう。

 古谷さんのイメージに合うエレガントな話題なんて、俺の引き出しには入っていない。


「あ、あの……引っ越してきたばかりって言ってましたよね。前は隣の県にいたんでしたっけ?」


 俺がパニックになっているのを察せられてしまったのか、古谷さんの方から話を振ってくれた。

 少し情けないが、ありがたく乗せてもらう。


「そうだよ。中学は男子校で」


「男子校? 女子が一人もいないってことですか?」


「まぁ、そうだね」


「全然想像できない環境です。私だったら絶対耐えられない。女子校なら大丈夫でしょうけど」


 それはそうだろう。男子校に女子一人、しかもそんなかわいい子……相当大変なはずだ。

 いや、逆にお姫様扱いで、逆ハーレムを堪能できる可能性も?


「あのですね、実は私、男子と話すのがあまり得意ではなくて」


「え、本当に?」


「本当ですよ」


「でも、噂だとすごくモテるって」


「まぁモテはしますね。モテないと言うとウソになってしまうので……でも誰かとお付き合いしたことはないんです」


「難攻不落の要塞姫」


「あ、そのあだ名知っていましたか。ええ、そうですね。今まで誰にも……小野寺さん以外のどんな男性を見てもときめいたことはありませんでした。あなたが初めてです」


 そう言ってもらえることほど嬉しいことは、きっとこの世にないのではないだろうか?


「じゃあもしかして、今って結構緊張してる?」


「してます。ものすごく緊張してます。すみません、さっきからほとんど話さなくて。つまんない女って思ってしまいましたよね?」


「いや、話さないのは俺も同じだから……家族以外の女の人と話すことってほとんどなくて、どうしたらいいのかわからないんだ」


 こんなことを言うのは恥ずかしかったけれど、でも隠していたってしょうがない。

 こういうことはちゃんと言わないと。無口な男とか、スカしてる男とか思われたくはない。


「ふふっ、そうなんですか。ちょっとかわいいですね」


 恥ずかしかったけれど、ちゃんと本音を言ってよかった。

 古谷さんがすごくかわいい顔で笑ってくれたから。


「じゃあお互いに異性と話すのが苦手なもの同士、気負わずに行こうか」


「そうですね。途中で会話に詰まっちゃっても仕方ないって思いましょう。つまらないから会話が途切れるんじゃない。慣れてないから途切れちゃうだけ」


「そういう風に確認しておくと少し気楽になるね」


 無理に笑顔を作ったり、なんとかして話を盛り上げようとする必要はない。つまづいてもいいし、それで変な空気になるかもしれない。

 それをあらかじめ許しておく。


 そういう話を今したことで、プレッシャーを感じなくなった。 

 俺も恋愛初心者だけど、古谷さんも初心者。だから、完璧にやろうとしなくていいんだ。


「じゃあ一度気持ちをリセットして何か話をしよう」


「そうですね。では……」


 と改まって、お互いに目を合わせた。

 すると古谷さんの顔がまたしても真っ赤に染まった。たぶん俺の顔も。

 これはまずいな。見つめ合うとあまりに照れくさくて口が動かなくなる。

 できれば顔を見ないでおしゃべりできたらいいんだけど。でもそんな方法って……。


「そうだ、古谷さんはゲームとかってやる人?」


「やらないですね。小野寺さんは?」


「俺は結構やるんだけど、一人用のやつの他にも、さっきの姉と一緒に対戦ゲームとかも。よかったらやってみない?」


「小野寺さんの好きなことに興味あります」


 よし、ゲームをする流れになったぞ。

 ゲーム中は画面の方を向いているから、見つめ合う必要はない。流れの中で会話の糸口を探していこう。


 テレビの下からゲーム機を取り出して起動する。

 古谷さんは初心者ということなので、まずは王道から行こう。言わずと知れた大人気キャラクターのレースゲーム。


「こういうのを持つにも初めてです。ちょっと緊張します」


 コントローラーさえ触ったことがないらしい。いったいどんな箱入りのお嬢様なんだろう。

 基本操作を教えて、あとは実践で覚えてもらう。


 もちろん最初から上手いわけはなく、ぐねぐね曲がったり、あちこちぶつかったり、逆走したり。

 せっかくいいアイテムを取っても使うタイミングが悪くて結果に結びつかなかったり。


 見ていてハラハラするようなレース展開だった。

 大丈夫かな? 楽しんでくれてるかな? つまんない思いをさせていないだろうか?


「思ったより難しいですね。次はもっと上手くやれるようにがんばります」


 でも古谷さんは前向きな言葉を口にする。

 ムリに言っているという感じではない。目に力が宿っている。

 それから何回かレースをやるとだんだん上達してきて、最下位にはならないようになった。


「負ないようになるとおもしろくなってきますね。そっか、これがゲームなんですね」


 そう言って、古谷さんは俺の方を向いて目を細める。

 完全に不意打ちだった。


 さっきまでずっと画面に釘付けだったから、目を合わせることがなく、うまくリラックスしていたのに。

 いきなり笑顔を向けてくるなんて反則だ。かわいすぎて死ぬかと思った。


「どうしましたか?」


「こんなにかわいい子が俺に向かって笑いかけてくれるなんて、今朝までは想像もしていなくて。信じられなさ過ぎてて天国に行きそうになってた」


「そ、そうですか? そんなに言っていただけると嬉しいですけど……でも微笑むくらいしますよ。だって私はあなたの彼女ですから」


 そう言ってから、すごく恥ずかしそうに顔を伏せた。

 ああ、この子、本当に俺のことが好きだなんだな――というのが伝わってくる。


 どうして俺のことを好きになったのか、まだよくわかっていないけれど、でも好きなのが事実なのは十分に理解できた。


「違うゲームもやってみる?」


「そうですね、どんなのがあるんですか?」


「これとかどうかな」


 ゲームを変えて、それも一から教えて。

 やっぱり最初は下手だけど、飲み込みが早くて、すぐに上達する。初心者なりに、という上達ぶりではあるが、それでもゲームのおもしろさを少しは理解してくれたみたいだ。


 ただ遊んでいたわけではない。ゲームをしながら、いろいろな雑談もした。

 中学校時代の話や、家族のこと、友達のこと。


 話しているうちにだんだんリラックスできるようになって、気が付けば結構盛り上がっていた。

 いつの間にか結構時間が経ってしまって、母さんが帰ってくる時間になっていた。

 そのことに俺が気づいたのは玄関が開く音を聞いた時。


 しまった。

 初日から女子を家に連れ込んだなんてことがバレたら、絶対何か言われる。

 からかわれることはないだろうが、だからって「よくやった」と言われるのもイヤだ。


 なんとかごまかさないと……と思ったけれど、どうやら手遅れのようだ。

 だって、後ろに姉貴がいた。


 そういえば姉貴に古谷さんのことを見られてたっけ。で、家から追い出したんだった。

 母さんが帰ってくるのをどこかで待って。合流して入ってきたってわけか。


 あー、結構怒ってるなぁ。

 ここから大逆転する方法は……ないよな?


「さて、冬馬。さっきの話の続きをしようか?」


 姉貴が左から詰め寄って来る。

 右からは母さんが詰め寄って来る。

 逃げ場を塞がれた。どうやら観念するしかなさそうだ。


「はじめまして。お名前は?」


 お母さんが古谷さんに問いかける。


古谷恋湖愛(ふるたにここあ)と申します」


「あら、かわいい名前。冬馬とはどういう関係?」


「えっと、お付き合いさせてもらっています」


「まぁ、詳しく聞かせてもらっていいかしら?」


 母さんは俺をソファーから追い出し、そこに座る。

 さらに姉貴も座る。

 うちの女どもに挟まれた古谷さんは、ちょっと困った顔をしながら質問に答えていくのだった。

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