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両一目惚れから始まる超楽勝ラブコメ  作者: 宵月しらせ


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3/6

第3話 要塞姫

 俺が隣の人の告白にOKを出すと、教室内はシーンと静まり返った。

 俺から一番遠い人の髪の毛が揺れる音さえ聞こえるのではないかと思うほどの静寂。


 うん、まぁ、冷静に考えたらそうだろう。高校初日に教室でいきなり告白というかプロポーズが行われたのだから。

 どんな反応をしたらいいかわからないのが普通だろう。


 その沈黙は五分ほど続いた……いや、それは体感の話。実際はどんなに長くても十秒くらい。

 でも、永遠かと思うほど長く感じた。

 その沈黙に終わりを告げたのは、何人かの男女のこんな声だった。


「え、マジで? 要塞姫から告白したの?」


「あの要塞姫が?」


 その人たちの声のトーンからして、彼らは俺に告白した彼女のことを知っているのだろう。同じ中学だったのかもしれない。


 ところで、要塞姫ってなんだ? あだ名にしては少し変わっているな。

 そのあだ名に対する説明は特になく、教壇の先生がおずおずという感じで話し始めた。


「えっと、なんか突然のことが起きてみんな驚いてると思うけど、とにかくホームルームを始めていいかな?」


 二十代前半の女教師。痩せ型だが身長は高く、クラスの男子の誰よりも大きい。教壇にいるせいでさらに頭の位置が高くなっていて、まるで天井から見られているようだ。


「じゃあまずは私の自己紹介から。今年が初めての担任なのに、いきなり想定外のことが起きてびっくりしています、担任の大貫柑奈、二十四才です。科目は英語――」


 という感じで先生の自己紹介があって、それから生徒たちが番になった。


「どういう順番で自己紹介してもらおうかな? 出席番号順じゃ面白くないよね。せっかくだから、今話題のお二人からスタートしましょうか。みんなもこの二人について、早く知りたいよね?」


 大貫先生がこっちを見ながらそう言うと、クラス中から拍手が起きた。

 先生含めてずいぶんとノリのいい方々で……。

 俺は立ち上がり、クラスのみんなに向かってお辞儀をした。


「小野寺冬馬と言います。中学までは隣の県に住んでいて、最近引っ越してきたばかりです。誰も知っている人がいなくてさみしいので、仲良くしてくれたら嬉しいです」


 可もなく不可もなく、無難にまとめてみた。

 自己紹介しろと言われて、ペラペラとアピールできるような人間ではないのだ。


「質問いいですか?」

「あ、はい、なんですか?」


 座ろうと思ったのに、質問が来ちゃった。


「古谷さんとはどういう関係ですか?」


「古谷さんって?」


「いや、だからさっき告白されてた……まさか名前も知らない?」


「そのまさかです……」


「なんで名前も知らないような相手に…………」


 それは俺の方が訊きたい。なぜ名前も知らない人に告白されてしまったのか。

 いや、名前も知らない人からの告白をOKしたのも、やっぱり質問に値する疑問か。


 質問者はまったく釈然としない顔をしていたが、これ以上質問をしてもムダと思ったのか、「以上です」と切り上げてくれた。

 なので俺も席に座る。

 入れ違いで、古谷さんが立ち上がった。


古谷恋湖愛(ふるたにここあ)です。出身は西中で――」


「なぜ小野寺くんに告白したんですか?」


 俺に質問した人が再び挙手し、古谷さんにも質問をぶつける。


「なぜと訊かれても……一目惚れとしか言えません」


「たいした理由はないということですか?」


「理由ということならそうですね。ですが、あれは私の心からの気持ちです。まだ出会ったばかりでなにも知りませんが、私は小野寺さんのことが大好きになってしまいました」


「信じられない……」


「信じてもらえないのなら、もう一度言います。小野寺冬馬さん、好きです。私と付き合ってください」


 古谷さんが俺に向かって頭を下げる。

 さっきと同じ衆人環視の中で、顔を赤らめながらも、丁寧におねがいされる。


 女子とほとんど話したことがない俺でもわかる。

 古谷さんは本気だ。ウソでも冗談でもドッキリでもなく、本気で俺に告白してきている。

 だから俺もさっきみたいななんとなくでもなく、本気で返事をする。


「よろしくおねがいします」


 と。

 すると、クラスのどこかから拍手が起きた。

 最初は一人か二人だったが、どんどん広がっていき、クラス全体に広がった。


 なぜか先生まで拍手をしている。

 これは……クラス全体から認めてもらえたということでいいんだろうか?

 いや、どんな儀式だよ。


★★★


 このルームが終わると、古谷さんのまわりにまた人が集まってきた。

 さっきと違うのは、男子ではなく女子が集まって来た点だ。

 一方、さっき古谷さんを囲んでいた男子たちは、今度は俺の取り囲んだ。


「小野寺だっけ? まさか今日会ったばかりのやつがあの古谷さんを落とすなんてなぁ。世の中、何があるのかわからないもんだ」


 ある男子が、俺の肩を抱いてそう言ってきた。

 距離感の近さに戸惑いながら、相槌を打つ。


「……うん、俺もなにが起きたのかいまだによくわかってない部分はあるんだけど、“あの古谷さん”ってどういうこと?」


「オレは古谷さんと同じ中学だったから知ってるんだが、あの人はとにかくモテてたんだよ。中学時代、何十人もの男に告白され、そのすべてをぶっきらぼうに一刀両断で断ってきた。誰も落とせない鉄壁の要塞、ってことでついたあだ名が要塞姫」


「何十人?」


「どのクラスにも最低でも二人か三人はフラれたやつがいるってレベルだったな。ちなみに一学年五クラスだった」


 ってことは少なくとも三十人。多ければ四十人から五十人いてもおかしくない計算だ。

 とんでもないモテ方だ。

 だが、たしかに、あの容姿ならわからなくもない。


「かく言う俺も、要塞姫にフラれた一人だ」


「ああ、うん……それはなんと言うか……」


「まぁダメ元で告白したんだけどな。そういうやつは多いぜ。宝くじ買うみたいな感じで告白するんだよ。どうせダメだけど、うまくいったら儲けもの」


 そんなんだからフラれたんじゃないだろうか?


「とりあえず祝福するぜ」


「うん、ありがとう……でも、要塞姫なんて呼ばれるくらいの人と付き合うことになって、嫉妬されたりとかないのかな? 少し心配なんだけど?」


「じゃあ今からでもお断りするか?」


「それはない。嫉妬で逆恨みされた時のための防御を固めることはするけど、古谷さんからの告白を断ることは絶対にない!」


「はっはっは、そこまで覚悟があるなら、なにがあっても大丈夫じゃないか? まぁそれに、うちの中学出身者に限れば、嫉妬するほどのやつはとっくに玉砕済みだから安心しろ。他の中学出身のやつは、古谷さんの存在を知った時にはすでに彼氏いたってことになるから、そこまでの嫉妬はそもそもしないだろ」


 それが本当なら安心できそうだが……どうだろう?

 それでもなお嫉妬されて、イヤがらせを受けたりしないだろか?


 休み時間にトイレに行くと、見知らぬ男子たちが俺に絡んできた。


「君が小野寺くん?」


 他のクラスの男子らしい。

 古谷さんから告白されたというのが、すでに他クラスにまで広がっているらしい。

 彼らも古谷さんと同じ中学なのだろうか? いきなり告白されたことについて、なにか言われるのか……。

 身構えていると、


「古谷さんから告白されたっていうから、どんなイケメンかと思ったら……う~ん、わかんねぇなぁ」


 というようなことを言ったが、別にしつこく絡んでくることもなく、すぐにいなくなった。

 別の休み時間には、一年生だけでなく、二年生や三年生の男子も俺を見に来た。


 古谷さんと同じ中学の人もいれば、違う中学の人もいたようだ。

 しかし、目的は同じ。

 「クラスメイトの前でいきなりプロポーズして、それを受けたやつがいるらしい。面白そうだから見に行ってみよう」という軽いノリで来た野次馬ばかりだった。


 とりあえず、実害というようなものはなかった。

 しかし、落ち着きはなかった。どこに行っても、まるで動物園のゾウかキリンにでもなったような気分で、まったく落ち着かなかった。

 そうしているうちに、高校生活初日が終わった。


★★★


 ふぅ、これで帰って休める……ってわけにはいかない。

 休み時間の度に誰かに話しかけられ、古谷さんと話をする時間がまったくなかった。

 全然実感は湧かないが、付き合うことになったのだ。このまま帰るわけにはいかない。


 教室から人がいなくなるのを、自分の席に座って待つ。

 隣では、古谷さんも同じように席に座り、じっと待っている。たぶん、俺が話しかけてくるのを待ってくれているのだろう。


 クラスメイトたちはしばらくは俺たちの様子を窺っているようだったが、やがてみんな出て行った。もしかしたら、気を遣わせてしまったのかもしれない。

 とにかくこれで二人きりになれた。満を持して、古谷さんに話しかけられる。


 あれ……でも、女子に話しかけるってどうすればいいんだ?

 最後に自分から女子に話しかけたのは小学校の……何年生の時だ? ずっと昔過ぎて記憶にない。

 ヤバい、急に緊張してきた。でも、ずっと黙っているわけにはいかない。勇気を振り絞って声を出す。


「ァの、古谷さん」


 あ、声が裏返った……。みっともないが、このまま続けるしかない。


「この後時間あります? もしよければ、どこかでお話しでもしませんか?」


 古谷さんは顔を真っ赤にしながら、コクンと頷いた。

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